最強バトルの人 / 第22話

第14話 宗師、ウーミン

地図にも載らない山の奥深く。 かつて、古い大戦のために建てられ、今は廃墟と化した旧軍事施設。 窓のない、黒く塗られた分厚いコンクリートの壁。人の出入りは見られない。 その建物に入ると、不釣り合いな広い武館があった。看板には。 ――黒龍式拳法総本山。 その最奥――。 宗師の間。 * 「――宗師。火急のご報告にございます」 糸目の男はかしずき、かしこまった口調で報告した。 その眼前には。 腰の曲がった老人が、後ろ手を組んで立っていた。 束ねた長い白髪。白髭。金糸の龍が這う、漆黒の長衣。 龍の如く、見開かれた眼。 老いた身体から、異様な威圧感を放っている。 黒龍拳宗師――ウーミン。その者であった。   [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1790417670688-082f92b5-9eba-483c-8023-73c8cceb0858.jpg]] 「……手短にせい」 地を這うような声。 男は、かしこまった口調で続ける。 「は。黒龍四天王のうち、神雷火、暴風火が破れました。相手は、“喧法の火鍋”、“千手八脚拳のドウ”、“シャオ・ロンパオ”でございます」 ウーミンは動じない。 「……強者《つよきもの》か」 男はわずかに口角を吊り上げた。 「“喧法の火鍋”なる男――。相当な手練れにございます。“千手八脚拳のドウ”、“シャオ・ロンパオ”に至っては、まだ未熟なれどいずれ使える駒となる見込みがあります」 「――なら、黒龍の意思に従え。強者は支配し、黒龍に染めろ」 男は、口元に薄い笑みを貼り付けた。 「――もし、従わぬときは」 ウーミンの眼だけが、ぎょろりと動いた。 「殺せ」 「――――承知しました。四天王を向かわせます」 「待て」 ウーミンは、しばし男を見据えた。 「――失敗は許さん。『呪殺火《ジョウシャーフオ》』を向かわせろ」 「――――!」 「――抜かるなよ。妖燕火《ヨウエンフオ》」 妖燕火は、静かに一礼した。 妖燕火「は。仰せのままに」     * ――カッ カッ カッ 男の名は、妖燕火。 背の高い、細身の男だった。 長い黒髪を首元でひとつに束ね、肩から前へ垂らしている。 糸のように細い眼。口元には、薄い笑み。 その黒龍拳の道着には、四天王とはまた違う特別な白い龍のマーク。 『王手《おうて》の妖燕火《ヨウエンフオ》』 黒龍拳宗師、ウーミン直属の参謀である。     ――神雷火、暴風火は、四天王のなかでも最弱――。 ――しかし、それにしても『呪殺火《ジョウシャーフオ》』とは――。     ――火鍋という男。惜しい奴だ。 なかなか面白い無頼漢であったが。 ――また、千手八脚拳のドウ。まだ技は未熟なれど、ああいうタイプは、いずれ伸びる。 ――わからないのは、シャオ・ロンパオ。報告では、かなりの手練れとのこと。 しかしあの場では怖気付いたのか、動く気配が見られなかった。見込み違いであったか? ――それとも。あの日たまたま、ベストコンディションではなかったか。 怪我、風邪、はたまた――。 ――あの時、腹を押さえていた。 まさか、空腹。それも、極限の飢餓状態にあった――?     ――考えても、全て無駄なことだ。 もし奴らが、通称、『鏖《みなごろし》の呪殺火《ジョウシャーフオ》』と会ったら――。     * 処刑場。かつて、罪を犯した軍人を始末した部屋。 血塗られた過去を持つこの部屋で。呪殺火はいつも――。 「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。」ザクザクザクザクザク ――殺人を娯楽としている。 四天王で最狂の男。呪殺火。 奴にあるのは、黒龍の意思などではない。 ――ただの、快楽殺人鬼だ。 妖燕火「……呪殺火さま。宗師から、『喧法の火鍋』への命が下されました」 呪殺火は、ブルブルと震えながら、飛び出た舌。焦点の合わない目で応えた。 呪殺火「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。コロシテ。コロシテイーノ? ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。」ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク 妖燕火「……『黒龍の意思に従え』。宗師のお言葉だ」 呪殺火「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ‼︎‼︎! モチロン‼︎‼︎ モチロン‼︎‼︎ ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ‼︎‼︎ ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ‼︎‼︎」ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク ――無論、こいつはわかっていない。 これまでも、黒龍に勧誘したことなどない。 「相手が抵抗した」「命の危機を感じ、必死に戦った」 ――強者の前では外面を取り繕い、虚偽の申告をする。 呪殺火「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ‼︎‼︎‼︎」ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク     ――情報では。火鍋はあの後、病院へ行き、入院した。また、ドウとシャオも看病中だと聞いている。 ――火鍋と共に――――。         ――――――全員、死ぬ。

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