最強バトルの人 / 第154話

第65話 ひとりアル

  とぽ。とぽ。とぽ。 ――――――? ――私、は……? ヨウエン「――?」 気を、失っていた。 宗師の拳をまともに食らって。 満月の位置は、まだ、そう動いていない。 死んでいてもおかしくない傷だった。 なのになぜ、こんなに早く目を――? 「キュウ! キュウ、キュウ!」とぽとぽ ヨウエン「――子パンダ」 子パンダが、私の体にお湯をかけている。 水筒には、やけに整った達筆な文字で――。 ヨウエン「――『異世界の、回復の湯』」 こんな綺麗な字は、おそらくドウのものだ。 子パンダが、心配そうな顔で、私にそのお湯をかけている。 ヨウエン「――ありがとうございます、子パンダさん」ナデナデ 子パンダ「キュウ?」 ――! シャオは、どうなった? 宗師は? 私は、月明かりを頼りに、二人を探した。 ヨウエン「――!」 宗師と、シャオが。 向かい合っている。 ……一触即発――? いや、シャオの様子がおかしい。 ぼーっとしていて、意識がないようだ。 さらに二人の周りには。 火鍋。ドウ。 ――完全に力尽きている。 子パンダが、こっそりと、水筒の水をかけに行こうとしている。 ヨウエン(――でかしました! 子パンダさん!) 私は、大きい声をシャオに届かせる。 ヨウエン「――シャオーー!! 目を覚まして!! ウーミンが、目の前にいます!」 宗師の眼が、こちらを向く。 シャオは――。 シャオ「――――――ウー、ミン……?」 * * *   「こいつが、お前の兄弟子となるドウ・ナットンジャだ!」 「よろしく! シャオ!」 「……よろしく、アル」 「仲良くしろよ。ドウには、素質がある! 何より、頭の形が良い!」ワシャワシャ 「老師! ありがたき幸せ!」 「……爸々《ぱーぱ》! わたしのほうが先なんだから、わたしがおねえちゃん弟子じゃ、ないアル?」 「こいつの方が二歳も年上だ。細かいことは気にするな!」 「むー」 「シャオ! さっそく、手合わせしよう! 俺の拳法を、見せてやる!」 |--- 「……負けたー!」 「やっぱり、わたしのほうが強いアル。爸々! わたしがあね弟子アル!」 「はーっはっは! ドウ。こいつは、頭も良い! 拳法だけでなく、勉強も教えるぞ!」 「むー」 |--- 「おーいシャオ! この赤ちゃんパンダは、なんだ? 飼っているのか?」 「……なんかわたしになついてるアル。ささをあげるとたべるアルよ」 「キュウ」もしゃもしゃ 「かわいいな! 俺もエサをあげていいか?」 「いいアルよ。はいどーぞ」 |--- 「シャオ! 今日も勝負だ!」 「またわたしが勝つアル。なんどもなんどもなんどもなんども、本当にこりないやつアル」 |--- 「また負けたー!」 「もう、何年もたつアル。ドウには、ぜったい負けない気がするアル」 「くそー! 覚えてろー!」 「……しつこいやつアル」 |--- 「ふんふふーん♪ やっぱり肉まんはうまいアル! ドウにもひとくちわけてやるアル! あれ、爸々《ぱーぱ》、ドウは?」 「ああ。ドウなら、旅に出させたぞ。あいつが、もっと強くなりたいって言うんでな。火鍋という奴にだけは近づくなと、さっき見送った」 「え」 「なんだアイツ。シャオに別れの挨拶もなしか。本当に目の前のことに一直線なやつだ」 「――ほんとアル。へんなやつアル!」 |--- 「爸々《ぱーぱ》? なんかすごい音したアルけど、どうしたアル?」 「…………シャオ。こっちに、くるな。」 「――爸々《ぱーぱ》! 血が、血が……!!」 ざっ。ざっ。ざっ。 「――――ウーミンが、来た。お前は、戸棚に隠れていろ。子パンダも、そこにいる。二人で声を抑えていなさい」 「で、でも……」 「急ぎなさい!!! 早く!!!」 「――……ぱ、ぱーぱ!」ダッ |--- 「……………………。」 「……キュウ」 「…………みんな、いなくなっちゃったアル」 「……キュウ」 「…………ひとりアル」   「キュウ……。」 「……子パンダちゃんの親も、いなくなっちゃったアル?」 「キュウ……」 「――……みんな、ウーミンのせいアル」 「キュウ?」 「…………行くアル、子パンダちゃん」 「キュウ!」 * * * ヨウエン「――シャオーー! 目を覚ましてーーー!!」 ウーミンの金の眼が、こちらを見る。 シャオのあの状態は、なんだ――? ついに“覚醒”したのか? 全身が透明になって、シャオに、見られている。 さっきまでは、それは恐怖だった。 心臓の音、血の流れ、脳のシナプス。 全てがシャオに掴まれている。 自分という人間の隅から隅まで、暴かれるような。 そんな気持ちだった。 今は、違う。 恐怖はない。 私の体は、透明なままだ。 全てが筒抜けのまま。 ――しかし。   シャオに全てを委ねていること。 それが、ごく自然なことのように、思えていた。     シャオ「――――ヨウエン」 シャオの口が、開く。 遠くに見えているのに、耳元で話しかけられたように、感じた。 シャオ「――借りるアル」
読み込み中…