最強バトルの人 / 第71話

第32話 ラオの実力

老厨中華飯店の裏手にある広場。 十分な広さがあり、組み手をするのにちょうどいい。 辺りは、田園風景。 初秋の風が、青さの残る稲穂を揺らしている。 シャオとドウの前には、ラオ。 シャオ(――これが、世界最強のばぁちゃん) ラオは、後ろに手を回し、背筋をピンと張っている。 これが、構え? 驚くほど自然体だ。 ラオ「いつまで固まってるんだい。いいから来な」 ドウが、いつもの調子で飛び掛かる。 ドウ「参ります! 千手八脚拳《せんじゅはっきゃくけん》ーーー!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!! ――拳のキレが、違う。 ハゲは、火鍋との修行でだいぶ変わった。 腕立て一万回や、神雷火《シェンレイフオ》との試合で、以前のドウとは見違えるほど強くなった。 まあ、私からすれば、まだまだだが。 ドウ(――!) 俺は今、ラオ老師に向かって何発も拳を放っていた。なのに――。 ラオ「こっちだよ」 ――! ラオ老師がいたのは、まさか。 “シャオ”の、後ろだった。 シャオ(! いつの間に……!) 急いで振り返ろうとすると――。 ラオ「ほら、いっておいで」 ラオがシャオの背中をとん、と叩く。 すると、凄いスピードで押し出され、シャオは宙を舞った。 シャオ「――わあああアル!」 ドウ「ぶげっ!!」ドシーン 高速で飛ぶシャオが、ドウに衝突した。 体勢を立て直したシャオは、珍しくムキになっている。 ラオに向かって飛び出し――。 シャオ「とにかくいっぱいやってみるアル拳ーーー!!」 拳。蹴り。突き。当て身。 シャオの分析力を用いた、めちゃくちゃなようで、相手の隙を的確に狙う発勁《はっけい》の連続攻撃。 でも、ラオにはひとつも当たらない。 シャオ(――煙と戦ってるみたいアル!) 打つ前までは、隙に見えている。 打ち切った後、そこには何もない。 煙ならまだいい。しかし、ラオは――攻撃もしてくる! ラオと目が合う。 ラオ「はい、デコピン」 ッピンッッッ!! シャオ「っ!――――」 シャオのおでこに、強烈なデコピン。 まるで銃弾のような威力に、シャオは大きくのけぞった。 ドウ「千手八脚拳ーー!」 ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!! ドウが飛び出した。 正確さはないが、勢いのある拳の連打。 ドウ(これだけ殴れば、いつかは当たる――!) ラオはすいすい、と体をひねる。 それだけで、ドウの拳は当たらない。 そのまま、ドウの猛攻を止めようともせず、逃げようともせず、かわし続ける。 ドウ(――――!!) ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! かわす。かわす。かわす。かわす。かわす。 ドウ(――――――はぁっ!) ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――。 ドウの拳が止まる。 一秒間に5発。腕の疲労だ。 ドウは、後ろに飛んで距離をとる。 ラオ「おや、もう終わりかい? 千発もないじゃないか」 ドウ「――それは、言葉のあやです!」 今度は、八脚。 人体の急所を下から上に蹴り上げる。 それも、すべてかわされる。 ドウ(! あたらない!) 神雷火には、当たった。 シャオには当たらない。それでも、受け流され、いなされ、拳は触れた。 ラオ老師には、触れることすらできない。 ラオ「ほう! 急所狙いかい。怖いねえ」 ラオはまた、人差し指をドウの額に近づける。 ラオ「はい、デコピ――」 シャオ「そこアルっ!」 ギャウッ! シャオの延髄斬り。 しかし、ラオは首を下に曲げ、かわす。 ラオの首があった場所を、脚が通過した。 シャオ(――これもかわすアルか!) 今の延髄斬りは、完璧なタイミングだった。 ハゲを囮にして、隙をうかがっていたのだが。 ラオ「おっと、そろそろ夜営業だ。おしまいにするよ」 シャオ「きゃあアル!」 ドウ「うおっ!」 ラオは、シャオとドウの服のすそを掴み、ふたりを振り回す。 ラオ「――無為《むい》・流転拳《るてんけん》!」 ラオの頭上でもみくちゃになり、ボールのようにまとめて――。 ラオ「ほい。と」 バレーボールのスパイクのように、平手ではたき、投げ飛ばした。 どっしゃぁぁぁん。 ふたりは、地面と熱く抱擁《ほうよう》した。 ラオ「ああ、いい運動になった。さあ! またお客が来るよ。張り切って、営業! 営業! かっかっかっ!」パンパン ラオは手を払いながら、すたすたと店内に戻る。 ふたりは、その小さくもピンと張った背中を目で追いながら。 シャオ「……ばぁちゃん、強すぎアル」ばたんきゅー ドウ「……うーん、俺はまだ弱い……」バタンキュー 地面の上、しばらく倒れていた。 * じゃーーーー。 シャオ(――なんで私の拳が、ばぁちゃんにあたらなかったアル?――) シャオは皿洗いをしながら、さっきの組み手を振り返る。 シャオ(ばぁちゃんの体は、私の目から見ても、そこまで強いわけではないアル) シャオの優れた分析・洞察・観察力。 相手を見れば、力量がわかる。 しかし、わかるのは肉体の運動性、技、次の動きなど、表面的なものに限る。 心理によって影響される、火鍋の『意地』のような精神論は、明確にはわからない。 シャオから見たラオ老師の力量は、12。 ハゲとふたりがかりなら十分戦える。 そう思っていたのだが……。 シャオ(拳法は、奥が深いアルな) 考えている間も、皿洗いの手は止まらない。 シャオ(ハゲは、ウーミンの姿について教えてくれたアル。腰の曲がった60代くらいの老人――) ――ハゲ曰く。 「ウーミンは、想像を絶するほど強かった」。 「今の私たちじゃ束になっても敵わない」。 シャオ(――ウーミンを倒すって言ったら、ばぁちゃんは手伝ってくれるアルか?) シャオ(ばぁちゃんとウーミンは、どういう関係アル? 昔、戦ったらしいアルが、どんな戦いだったアル?) シャオ(――私は本当に、強くなれているアル?) シャオ(もし、また、ウーミンに誰かが殺されたら――) ウーミンらしき老人の影が、私の頭をよぎった。 そのとき。 パリーン! シャオ「――! ご、ごめんなさいアルっ!」 お皿を一枚割ってしまった。 厨房で炒め物をしていたラオが、ちらっとこっちをみる。 そして、ふんっと笑った。 ラオ「頭の横にある紙を見てみな」 私は言われたとおり、壁に貼ってあった紙をみる。 ――1日で割った皿の枚数ランキング―― 御皿《おさら》 割太郎《わりたろう》 176 火鍋 32 ロンパオ 13 子パンダ 1 ―――――――――――― シャオ(……!? 御皿 割太郎……!! いったい何者アル……!?) 頭にあったウーミンの影はすっかりなくなっていた。 ラオ「気になるかい? 奴の皿洗いは、そりゃあ凄かったよ。工事現場かってくらい、うるさくってね。奴こそ、伝説の男さ」 シャオ(――御皿 割太郎……!! いったいどうやったら、そんなに皿を割ることができるアル……!?) シャオの頭の中は、もうそのことでいっぱいだった。 ウーミンのことなど、今は考えていられなかった。 シャオ「――ていうか、子パンダちゃんも働いてたアル?」ジャブジャブ 子パンダ「キュウ」ジャブジャブ

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