最強バトルの人 / 第30話

第22話 乗り越える

――翌日。     ドンッッ ドウ、火鍋、シャオ、子パンダ。     ドンッッ 神雷火、暴風火。       朝。夏の日差しが差し込む。 まだ朝だからか、気温は低めで、風が心地良い。     ――ここは、この町のシンボルである「月の見える丘」。 夜には月が綺麗にみえると評判であり、今も近所の親子連れがそばで遊んでいる。     ヒュゥゥゥゥ―― 火鍋「ドウ」 ドウ「はい」 火鍋が目で二人を見る。 火鍋「神雷火か暴風火。どっちか選べ」 ドウ「!」     ここでドウは、この最終試験の内容に気づく。 ドウ「……しかし、老師。逃げ出したり、そばの子らを人質にする可能性もあるのでは」 火鍋「そうだな」 ドウ「なら……せめて、河川敷で――」 火鍋「テメーが止めりゃいい」 ドウ「!」     そうだ。 これから老師は、黒龍拳四天王ふたり、どちらかを縛る縄を切る。 この者たちは、いくら距離が近くなったとはいえ、本来敵同士。 黒龍の思想のもと動く、ウーミンの駒だ。 逃げ出し、黒龍拳に報告しに行くかもしれない。 子どもらに危害を加えるかもしれない。 ――それを、俺が止める。 以前は、手も足も出なかったこの俺が。 俺は拳法家として腹をくくった。 そして、目の前の男を見た。     ドウ「神雷火」 火鍋「おう」 老師は、子パンダに縄を外すよう合図をした。 しかし――。     ドウ「まて!」 神雷火「! ほう。ここに来て怖気付いたと見える」 ドウ「いや……」 その場で紙を手に取り、筆で書く。 そして、それを、神雷火の目の前に叩きつける。 ――請求書。 火鍋の家の戸の修理代  五万圓 四天王ふたりの食事代  拾八万圓 シャオのホテル代    弐拾壱万圓 今後の旅費       参拾万圓 ――――――――計   七拾四万圓也。 神雷火「……ほう」 ドウ「貴様らによって俺が被《こうむ》った金額と、これからの旅費。俺が勝ったら、すべて払ってもらう。暴風火、お前もだ」 神雷火は暴風火の方を見る。暴風火は黙って頷いた。 神雷火「……妥当だ。貴様も拳法家として少しは出来てきたようだな」 ドウ「ああ」 神雷火と暴風火は、子パンダにやってもらい、拇印《ぼいん》を押す。 そして、神雷火の縄をほどいた。     ヒュゥゥウウ――……     合図はない。 両者とも構えている。 先に動いたのは、神雷火だった。 「……雷帝突っ!!」 ドウは眼前に迫るそれをすんででかわし、槍のような前蹴りを放った。 ドボォッ 「……ぅぐぅ!」 その隙を逃さず、上げたままの脚で――。 「――八脚《はっきゃく》っっ!!」 ドウの蹴りが、八発。 脛。 膝。 丹田。 脇腹。 鳩尾――。 「――!」 神雷火も身をよじり、身をかわす。 八発入らない。上げたままの脚を引っ込めなければ――と考えていると。 「――稲妻烈脚《いなずまれっきゃく》!」 ガンッ 神雷火のひざ蹴りが、あごに当たる。 とっさに頭を後ろに振り、威力を抑えた。 その反動で、後方へ回転飛びし、距離を取った。 あごへのダメージで脳がぐわんぐわんする。しかし、構え直す。神雷火も、構え直した。     「「――お兄ちゃんたち、すごいっ!」」 周りから子ども達やその親が集まってきた。 見物人だ。この国では、拳法勝負の観戦は娯楽。野良で行われるこういった試合は、よほど楽しいことだろう。 ドウ「――神雷」 神雷火「――ああ、わかっている」 俺も武人のはしくれ。ドウには、この男が目でそう言っているのがわかった。 ――この者は、口数が少ない。 しかし、そういう卑劣なことまでする者ではない。 約一ヶ月にわたる共同生活は、そのことを十分に理解させた。 神雷火「――強くなったな」 ドウ「ああ。前よりな」 神雷火「それが、完成か」 ドウ「いや、まだ道の途中だ」 神雷火がふふ、と笑う。そして首をコキコキ鳴らした。 神雷火「……いいだろう。小細工はなしだ」 「――千手八脚拳でこい。」 ドウ「!」 神雷火「――貴様の非効率極まりない修行が、なんの役にも立たんということを、身を持って知らせてやろう」 ヒュゥゥゥゥ――…… 風が二人の間を横切る。 お互いの目を見つめ合う。 風に舞った葉が、シャオの鼻先で踊る。         シャオ「は……! は……!」 「はっくしょんっ!! アルっ!!」     ドウが飛び出した!! 神雷火も迎え撃つ。 そして――。 ドウ「――千手八脚拳っっっ!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! 神雷火「――雷槍蓮撃《らいそうれんげき》!!!」 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!! 凄まじい拳の応酬。 子どもたちの、おぉ。という歓声が聞こえる。 スピードはドウ。 パワーは神雷火。 両者一歩も譲らぬ攻防の末、上回ったのは――。 ガァンッ! ドウ「――っうぐっっっ!!」 神雷火であった。経験の差が。パワーの差が。 如実に現れる。 しかし……! ドウ「――うおぉーーーーーーーっっっ!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! 今のドウは止まらない。 神雷火「! くぅっ!」 神雷火の蓮撃は、徐々にスピードを落とした。 そして――。 ドウ「千手・八脚拳ーーーーーーーっっっ!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! ドウの拳が。当たる。当たる。当たる。当たる。当たる。 圧倒的な物量差に、神雷火が押される。 神雷火「――! 雷帝突――っ!!」 神雷火の突きが、ドウの顔面に当たる。しかし――! ドウ「うおおおおおおおおおおおお!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!! 止まらない。 神雷火「――ぐぅぅぉぉおおお!!!」 とどめに。 ドドドドドン!!! 神雷火のあごに、五発の連打。 振り切った腕が、神雷火の体を空に押し上げる。 空中に浮き上がった体が、落ちて――。 どしゃあっ!! 暴風火「――神雷っ!!」 暴風火が声をかける。神雷火の意識はない。     火鍋「――決まったな」 暴風火「――ああ」 火鍋、シャオ、子パンダ。 全員が、右腕を上げる。 暴風火も。黙って頷いた。       火鍋「――勝者っ!! ドウ・ナットンジャっ!!!!」 どわおおおおおおおん 子パンダがドラを鳴らす。 わああああああああ! パチパチパチパチパチパチパチ 観客たちから、惜しみない歓声と拍手を送られた。     * 火鍋の家。 ドウは、深く眠っている。 無理もない。10000回の腕立て伏せ、強敵との戦いを乗り越えたのだ。しばらく休ませてあげたい。 神雷火と暴風火は、もう縄に縛られていなかった。 神雷火「――旅立《た》つのか」 火鍋「ああ。テメー等ともお別れだ。俺も全快、ハゲもシャオも強い。もう襲ってくんじゃねーぞ」 神雷火「――ああ」 暴風火「貴様の弟子。見違えたな。見事であった!」 とさっ 暴風火は金74万円を、ドウの横に置いた。 火鍋「で、これからどうすんだ。黒龍に戻るのか」 暴風火「――いや、俺たちは黒龍に見つからぬ場所に身を隠す。もう会うことはない」 神雷火「ああ」 二人は靴を履き、戸を開けた。       暴風火「じゃーな、達者でな」     火鍋「おう!」       戸が閉まる。     バタンッ     ――     「……バオフォンよ。貴様は行く当てがあるか」 「はっはっは! ない! シェンレイ! 貴様もないのだろう」 「……ああ」 「なら共に行こう。何、どこの地でも変わらんだろう」 シェンレイはふふ、と笑った。 「……そうだな」       「しかし、バオフォン。貴様は振り込みすぎる。四天王の名が泣くぞ」 「――何ィ! 次こそはもらうぞ!」     そのままふたりは、どこかへ消えた。

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