最強バトルの人 / 第152話
第63話 最弱の意地
――シャオ。
眠ってやがる。
命の“流れ”が、止まりかけてんじゃねーか。
無理しすぎだ。今は、休め。
火鍋「このクソ野郎はよ」
ウーミンの肩を掴む手に、力が入る。
火鍋「この俺が、止めとくからよ」
ミシミシィ!
ウーミン「肩を離せ。痛いわ」
火鍋「知らねェ、よッ!!」
喧嘩パンチ。かわされる。
ウーミンは、火鍋と距離を置いた。
ウーミン(――手負いの獣は、厄介だと言うが)
指をこきこきと鳴らす。
ウーミン(此奴も、獣よの)
火鍋は、仁王立ちをかました。
【【火鍋「――『俺はァ!! シャオにィ!! 指一本、触れさせねェェエエ!!!』」】】
全身の気が、燃え上がる。
リーゼントを失い垂れていた髪が、逆立った。
ウーミン「――なんだ、それは」
火鍋「――『最弱の意地』だ。悔しいが、テメーの言う通り。俺がコイツらのなかで、一番弱ぇ。修行だってサボってる。だがよォ」
――そんなの、シャベぇじゃねえか。
火鍋「――意地張った俺は! 最強だぁ!!」
喧嘩パンチ。喧嘩パンチ。
ウーミン「――詭弁よ」
火鍋「――うる、せぇ!!」
頭突き。喧嘩キック。
すべて、かわされる。
ウーミン「――噴《ふん》っ!!」
ズボォォ!!
龍の爪が。
火鍋の腹筋を突き破る。
血が、垂れる。
ウーミン「――……?」
――抜けない。
龍の爪が。
火鍋の腹筋によって締め付けられ。
動かすことができない。
火鍋「効かねえよ。オラァァッッ!!」
喧嘩パンチ。
ウーミンの顔面を、捉え――!
ガシィ!!
余った方の腕で、止められる。
力比べだ。
ウーミン(――……!! 此奴!!)
火鍋の方が、押し込んでいる。
このままでは、殴り抜けられる。
ウーミンは、火鍋の体を両足で蹴り出し、龍の爪を抜き取った。
距離を取る。
火鍋「ちっくしょー! 惜しかったぜ」
ウーミン「……貴様。“流れ”を殺されても尚。なぜ動く」
火鍋「あァん? 知らねぇよ。『ド根性』だろ」
ウーミン「……ほざけ。小童《こわっぱ》が!」
ウーミンの連撃。
一撃、二撃。三撃。四撃。五撃!
火鍋は、全て、受け、耐える。
耐えながらも、右拳は力を溜めている――!
火鍋「『ド根性、ゲンコツ』!!」
ウーミン「――!」
距離を取られる。
当たらない。
火鍋の体は、ボロボロだ。
しかし、なぜか倒れない。
ウーミン(――此奴の拳は、危険だ)
ウーミンの拳が。鉤爪が。
さらに鋭く。
龍の爪が、黒龍の気に飲まれる。
ウーミン(――一撃で、仕留める)
――珠龍爪《ジュロンジャオ》。
ラオを屠《ほふ》った、究極の奥義。
心臓を鷲掴みにし、握りつぶす絶技。
黒く染まった拳。
拳に黒龍が宿る。
火鍋(――ちっ。シャオも。ヨウエンも。子パンダも。見てねェじゃねえか)
火鍋(シブい俺を誰かに見てもらえてたら、もっと力が出るのによ)
ウーミン「――行くぞ」
火鍋「あァ? いいから来い。ボケ老人がよ」
ウーミン「――珠龍爪《ジュロンジャオ》!!」
火鍋「――うおおォォオオ!! 『ド根性ゲンコツ』!!」
――ドッ。
ゲンコツは、ウーミンの顔の横を振り抜けた。
風圧で、モーターボートに乗ったときのように、ウーミンの髪がたなびく。
届いたのは――。
珠龍爪《ジュロンジャオ》。
火鍋の心臓を、龍の宝玉の如く、握りしめる。
火鍋(――クソッ! これは、ヤベえ!! 子パンダでもいい!! 誰か俺を、見ててくれぇぇ……!!)
火鍋の意識が、途切れかける。
頭が、上を向いた。
ウーミン(――終わりか。脅かしよって)
――。
――あー。
――なんだよ。
――ずっと、見てたんじゃねぇか。
火鍋の視界に。
満月。
【【火鍋「――二人もよぉ!! なあ、ばあさん!! ロンパオ!!」】】
ウーミン「――!!」
【【火鍋「『漢の、鉄拳《てっけん》ッッッ』!!!!」】】
――ッッゴッガアアアアアアアアン!!!!
全力で振り抜く除夜の鐘のように。
山々に打撃音が響き、やまびことなる。
ウーミンの顔面を。
火鍋の鋼鉄の拳が。
――振り抜いた!!
ウーミン「――っうぐおおおおおッッ!!!」
ウーミンは、50メートルほど吹っ飛び、瓦礫の壁に突っ込んだ。
火鍋「へへ。やっと叶ったぜ」
火鍋「――一発。ぶん殴るって、夢がよォ……」
どさっ。
火鍋が、力尽きる。
*
火鍋(へ、へへ……。ここまでだ。ド根性も、すっからかん。からっけつだ)
火鍋(まさか、俺がトドメを刺すとはよ……。シャオの野郎、怒るかもしんねぇーな)
火鍋(――そしたら、アイスクリームでも買ってやって。『火鍋はゲキシブアル』って。言ってもらわねーとな)
ざっ。
火鍋(――なんだよ)
ざっ。
ざっ。
火鍋(――なんで)
【【ざっ。】】
火鍋(――――なんで、アレを食らって、起き上がって来れんだよ)
金色の眼が、火鍋を見下ろす。
火鍋(――ウーミン……!!)ギリッ
ウーミン「――訂正する。貴様が最弱だと言ったことをな」
ウーミンの首が、変な方向に曲がっている。
ゴキィッ!
ウーミンは、自らの手で、元の位置に戻した。
火鍋(――コイツ、人間か?)
ウーミン「――痛すぎるわ。小童が」
――ドボォッ!!
火鍋「――ッッ!!」
倒れたままの火鍋に、蹴りを放つ。
床に落ちたボールを蹴り飛ばすように。
ウーミン「貴様は、黒龍に入れ。儂の右腕として、働いてもらうぞ」
ざっ。
ざっ。
ざっ。
ウーミン「――残るは、一人。小娘がまだ、死んでおらん」
ざっ。
ざっ。
ざっ。
ざ――。
ウーミンの歩みが、止まる。
ウーミン「――……?」
足首を掴まれている。
火鍋だ。
ウーミン「……離せ。貴様を殺すのは、惜しい」
火鍋「……へっ。テメーの右腕なんて、死んでもならねぇよ……。俺は、働きたく、ねーんだ……」
ぐ、ぐぐ……。
ウーミン「――ならば、死ねい」
ウーミンの拳が。
黒龍になる。
――珠龍爪《ジュロンジャオ》。
ウーミンは、振りかぶった手を――!!
――どっ。
何者かに、止められた。
火鍋「……――へっ」
火鍋「――遅えよ。一番弟子」
【【ドウ「千一手八脚拳ーーーーーーーー!!!!!!!!!!」】】
【【ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!!】】
ウーミン「――う、ぐ、ぐ、ぐおおおおっっっ!!!!」
ウーミンの体が、吹っ飛ぶ。
無数の、拳が。
ウーミンに、直撃する!!
――ドガシャァァアアン!!!
ウーミンの体は、瓦礫に埋もれた。
火鍋「――……おい。『シャオには、指一本、触れさせんじゃねぇぞ』……。……じゃねーと、俺が、シャベぇからな……」
どさっ。
火鍋は、そう言い残し、地面に崩れた。
ウーミンが、瓦礫のなかから、立ち上がってくる。
辺りの空気が、歪んでいる。
ざっ。
ざっ。
ざっ。
青年は、構えを取る。
空手にも似た、正々堂々とした。
真っ直ぐな、構え。
ドウ「――もちろんです」