最強バトルの人 / 第138話
第56話 沼男
先生おはよー!
はい、おはよう。
せんせー! 今日のきゅう食なにー?
献立表をみろ! だらしんぼうめ!
あははははははは!
よし、じゃあ出席とるぞー!
えー、赤井よしと!
はい、げんきです!
川村あかね!
はい元気です!
佐藤としみつ!
はい、おなかがいたいです!
トイレにいってこい! あ、いや。
トイレに、いっトイレ!
なんちゃって!
あはははははは! せんせーおもしろすぎ!
ははは。じゃあ、武田くにお!
せんせー! おなかがすいてます!
あははははは!
ははは、くいしんぼう!
しっかり食ってからこい!
あはははははは!!
――えー、じゃあ。
沼里《ぬまり》かずお。
――ハイ.
――おい。沼里。
――ハイ.ゲンキデス.
――おい!! 声が小さい!!! やり直し!
――ッハ,ハイ.
――「元気です」を忘れてるだろ!!
――ハ,ハイ.ゲ.ゲ.ゲ.ゲンキ,ゲゲゲゲゲ...!
――おい! みんな聞けよ!
「げげげげげ……!」だってよ!
ゲゲゲの鬼太郎かお前は!!
あっはははははははははははは!!!!
妖怪みたいだから、ぴったりだな!
あはははははははははは!!!!
あははははははははははは!!!!!
あははハハハハハははははは!!!!
アハハハハハハハハハハハハ!!!!
――ゲ.ゲゲ...。グスッ。
――。
――ぼくは。
ぼくは、こえが小さい。
あたまの中でれんしゅうしても。
こえに出すと、ことばが出てこない。
何回も、つまって。
わらわれる。
だから、もっとこえが小さくなる。
――わらわれる。
――しゃべりたくない。
――しゃべらないで、生きていきたい。
おい! ぬまお!
おまえもっとはっきりしゃべれよ!
――できたら、そうしてる。
おまえ、なに考えてるかわかんねーんだよ!
――……ほっといてよ。
みんな、気もちわるがってんだよ。
――……。
……。
行っちまった。あいつ、ほんとなに考えてるかわかんねーな。
おいお前ら! あいつに近よったらダメってことにしようぜ!
あははははは!!!
*
――キーンコーンカーンコーン。
*
リーリーリー
コロコロコロ
――。
――みんなが帰るのをまっていたら、おそくなっちゃった。
――おかあさん、しんぱいしてるかな。
……。
この時間って、こんなにくらかったっけ。
田んぼしかない道。
あかりもない。
――いそごう。こわくなってきた。
はやく帰らないと、まわりが見えなくなる。
――こわい。
――こわいよ。
――。
――。
ぐちゅ。
――うわっ。
ぐちゅ。ぐちゅ。
――さいあくだ。ドロ?
ぐちゅ。ぐちゅ。ぐちゅ。
――うわあ。気もちわるい。
くつしたが、ぬれちゃった。
お母さんにおこられちゃう。
――。
――。
――ぬけない。
――足が、ぬけない。
――ど、どうしよう。
――はやく帰らないといけないのに。
――っ!
ぐちゅ。
――あっ。
――力を入れたら、左足もはまっちゃった。
――。
――やだ。
――やだ。やだよ。
――どんどん、体がしずんでいく。
――このままだったら、どうなる?
――やだ。
しにたくない。
ぼくは、ひっしでうでをのばした。
なにか、つかむものはないか。
木のえだでも、なんでもいい。
ぐちゅ。
ぐちゅ。
――手も、ぬまにはまった。
――こしまで。
――どうしよう。
――たすけをよぼう。
――大人の人なら、たすけてくれる。
――どうやって?
――まわりには、だれもいない。なにもない。
――田んぼしか。
――……。
――大声を、出す?
――いやだ。
――声なんて、出したくない。
――……。
――いやだけど。
――やるしか、ない。
「オーイ」
――なんだ、これ。
――これが、ぼくの声?
「オーイ」
「タスケテ」
――だれも、いない。
――くらくなってきた。
――お母さん。
――お父さん。
――だれでもいい。
――だれか、このうでをつかんで――。
「ダレカ――」
ぽちゃん。
*
そうだ。
ぼくは、ひとりで。そこなしぬまに足をとられて。
おぼれて。水ぼつ死した。
7才だった。
――それから、どうして、こうなったんだろう?
気づいたら、こんな体になっていた。
ひとりでいるのが、さびしいから。
「シャハハハ」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ。」
「……ふふふ」
『ひとりでわらっている人のところに、近づいたんだ』。
――ともだち。……に、なれるかもって。
――キュウ?
――ううん、わすれて。
――キュウ?
――思い出したけど。
――キュウ?
――あんまり、言いたくないことだった。
――キュウ。
――あ! そうだ。
――キュウ?
――たぶんまだ、口の中に入ってるよ。
――キュウ。
――きみの、ともだち。
――キュウ!
――かえすから。
――……キュウ?
――ぼくは、もういいよ。
――キュウ?
――自分が何ものか、わかったから。
――キュウ?
――『沼男には、近づいてはいけない』んだよ。
――キュウ?
――じゃあね。
――キュウ……?
――さよなら。
――キュウ――!
ちゃぽん。
*
シャオ「子パンダちゃーーーん!!」
ドウ「子パンダーーーーー!!」
シャオとドウは、子パンダが沼に落ちた後、手で沼を、バシャバシャとかき分けていた。
すくっても、すくっても、沼はいっぱいに満ちていく。終わりのない作業をしていた。
シャオ「子パンダーーー! 手を伸ばすアルーーー!」
ドウ「うおおおおお!!」バシャバシャ
シャオが、手を伸ばす。
すると。
むぎゅ。
沼の中に、感触があった。
シャオ「! ドウ! 私を引っ張るアル!」
ドウ「! よし!」
ドウはシャオの腰に手を回し、大きなカブの要領で、力を込める。
シャオ「――――子パンダちゃーーーん!!」
すっぽんっ!!
沼から、シャオの手を取って、子パンダが。
子パンダが、帰ってきた!!
ドウ「子パンダーーー!!」
シャオ「子パンダちゃーーん!!」だきっ
シャオは、子パンダを抱きしめる。
心配したアル、無事でよかったアル。と、言いながら。
軍師火(――まさか! 沼男の中から、這い出す者がいるとは! このままでは……!)
軍師火「――沼男! 全員、引き摺り込み、溺れ殺せ!」
沼男は。
微動だにしない。
軍師火「――沼男! わしの言うことが聞けんのか! また、お前の中に毒を放り込まれたいようだな!」
沼男は、動かない。
軍師火「――沼男ーー!! この、役立たずの妖怪めがーー!! さらに毒をぶち込むぞーー!!」
子パンダ「……キュウ」
子パンダが、シャオの抱きつきから離れ、軍師火の方へ歩みだす。
子どもではあれど、クマ科の肉食動物。
のしのしとやってくる子パンダに、軍師火は恐怖で顔を引きつらせた。
子パンダ「キュウ」
軍師火「な……なんだ! やるのか!」
シャオ「子パンダちゃん!」
すると、動かなかった沼男が、ぶくぶくと泡を吐き出し。
沼を、蒸発させていく。
沼は煙のように、宙に紛れて消えていった。
軍師火「沼男! ああ。き、消えていく……」
そして、残されたように。
火鍋と、ヨウエンが姿を現した。
火鍋「う……うーん。何があった?」
ヨウエン「……ごほっ。ごほっ。……これは……?」
ドウ「老師! ヨウエン! 無事だったか!」
シャオ陣営。
シャオ・ロンパオ。
ドウ・ナットンジャ。
火鍋。
ヨウエン。
子パンダ。
全員、生還。
対する黒龍拳側は――。
軍師火《グンシーフオ》。ただひとり。
ドウ「おい」
軍師火「ひ……ひぃっ!」
ドウ「勝負あったな」
五対一。
長かった勝ち抜き戦も、終わりを迎えようとしていた。