最強バトルの人 / 第142話

第57話 五対0

まずい。まずいぞ。 相手は、五人。 こっちは――わし、ひとり。   まずいぞ。この、“詰み手の軍師火《グンシーフオ》”。こんなところで負けては、宗師に顔向けできん!わしの、キャリアが。成り上がりが。   子パンダ「キュウ」   ――この畜生め。 こんな人ほどの図体の獣に、このわしが勝てるわけ――。   ――ん?   *   軍師「ぐははははははー!!」 子パンダ「キュウ……」ジタバタ   軍師火は、子パンダのえり首を掴み、身の前にぶら下げた。   そうだった。忘れておったわい。 もともと、この軍師火。武道家として成り上がり、今の参謀というポストまで登り詰めた。 いわゆる叩き上げじゃわい。   こんな、パンダのガキごとき、簡単に始末できる!   シャオ「子パンダちゃーん!」   軍師火「これが見えぬか! 人質ならぬ、パンダ質! ぐははは。我ながらなんと知略に富んだ策よ!」   ヨウエン「――軍師火。あなたはどこまで外道に成り下がるのですか」   軍師火「うるさいわ! 勝てばよいのだ! このまま、ひとりずつ、わしの前に跪けい! その首、切り落としてくれるわ!」   さらにわしは、最大の策を隠しておる。   戦いが始まる前、およそ二時間前に一斉送信メールを送っておる。 あれで、黒龍拳軍総員五万人が、今、この施設に集まっている。 この勝ち抜き戦も、所詮は時間稼ぎよ!   ならば、後はこのパンダを人質に、五万人に号令をかければよい。 それで、“詰み”だ。   宗師も、わしの知略を認め、さらに美味しい汁をすすれる役職をくれるに違いない。   軍師火「――ぐははははー! 騙されおったなー! この勝ち抜き戦など、所詮は時間稼ぎよーーーーー!!!」   さあ。もう、来ているはずだ。 ここでわしが、号令をかければ。 こやつらは、命を落とす。   このわしの、わしの策の勝ちだ!   軍師火「さあ、皆のもの! 総勢五万人の我が部下よ! 入って参れー!!」           何も起こらない。   誰一人、この施設に加わる気配がない。   軍師火「――どうした。わしの命令が聞こえぬか! 早く、早く入って参れーーー!!」         しーーーん。       ヨウエン「――どうされました? 軍師火さん」   軍師火「わ、わしの部下が! 来ないのだ! ええい! 来いと言ったら、来いーーーーーー!!」         ヨウエンが、あの憎きヨウエンが、何やら笑いをこらえている。 片手で口を抑えつつも、笑みが漏れ出しているではないか。 なぜ。わしの策は? わしの五万人の部下は――。     ヨウエン「――ふ、ふふっ。先ほどあなた、黒龍拳のものたちに、一斉メールを送信しましたね?」   軍師火「そ、そうだ! 物量差による囲い込み! これこそが、“詰み手”だったのだが――!」     ヨウエン「送った文面を、もう一度よく確認されてみては?」     言われた通り、わしは携帯電話を取り出し、送ったメールの内容を確認した。   そこには――。   =====================   件名:【緊急招集】総員、集結せよ   黒龍拳軍門下、拳兵 各位   宗師ウーミン様の御名のもと、全拳兵に緊急招集を命ずる。   現在の任務を中断し、ただちに集合場所へ向かえ。   今こそ、黒龍の意思を示す時である。   ◾️集合場所  →→→黒龍式拳法第二修練場←←←  (海の見える崖上。間違えずに来い!)   ――詰み手の軍師火《グンシーフオ》   =====================   わしは、目をこすりながらメールの文面を読み返す。 ――黒龍式拳法“第二修練場”。 海の見える崖に建てられた、あの? 今、わしがいるのは、山の上に建てられた、黒龍式拳法“総本山”なのだが……?   ヨウエン「――く、くくっ」   こやつ、なにを笑っておる。   ヨウエン「――軍師火。黒龍拳内のネットワークセキュリティは、私なら簡単に突破できるのですよ」   軍師火「な、なんのことだ。ま、まさか――貴様!」   ヨウエン「ええ。ハッキングして、ちょっと集合場所を、修正させていただきました。やはりあなたは、“詰め”が甘い」ニコッ   *   ――その頃。   「おい。軍師火さま、ここに集まれって書いてたよな?」 「ああ。人が多すぎて、何故集められたのか、まだわからん」   ――ざざあ。   岩肌に波がぶつかる音が響く。 海の見える崖に建てられた黒龍式拳法第二修練場。 総本山から遠く離れたそこは、何をしに来たのかわからない門下兵たちで、ごった返していた。   「軍師火さまー! どこにおられるのですかー!」   *   軍師火「――ええい! 策は、ひとつではない! この人質……いや、パンダ質が見えんかーー!!」   子パンダ「キュウ〜」ジタバタ   シャオ「子パンダちゃん! ど、どうすればいいアル! ヨウエン!」   ヨウエン「……あれは、我々が一斉に飛びかかるしかありません」   火鍋「しょうがねえ。死んでねぇなら、俺の『ド根性張り手』で、多少は回復できる」   ドウ「軍師火が、一撃で必殺の技を持っていないことを、祈るしかない。と、言うことか……!」ギリリ   しかし、万が一にも子パンダが死んでしまったら――。 四人が攻めあぐねている様子を見て、軍師火は。   軍師火「ど、どうした! たかがパンダ一匹に! そんなにこの獣が大事か!」   ――此奴らが、この軍師火を襲うなら! わしの秘拳! 即撃・死滅殺拳で、この獣の首を跳ね飛ばしてやる!   軍師火「ぐははははー!」   ひとりで笑っている軍師火の足元を見て、シャオは何かに気づいた。   シャオ「! ……ハゲ、あれ……」ヒソヒソ   ドウ「――! ああ。静かにしていよう」ヒソヒソ   ヨウエン「――おや」   火鍋「あァ? なんでテメーが……」   軍師火「ぐははははー!!」   子パンダ「キュウー!」ジタバタ     ぐちゅ。       軍師火「ぐははは……。ん?」       ぐちゅ。ぐちゅ。   軍師火の足を、白い腕が掴んでいる。   足元には、沼が広がっていた。 白い腕は、軍師火の体を這うように、まとわりついている。 そして、軍師火にしか聞こえないほど小さな声で――。                       [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1792113085014-eca68bfb-88cb-42b0-b078-00866700d99c.jpg]]  沼男「ぼくの“ともだち”を、いじめるな」                   軍師火の体が。   軍師火「ぬおおおおおおおおおおおお!!! 貴様、寝返ったか――――」       ごくん。       沼に沈み、見えなくなった。     子パンダ「キュウ!」ぽてっ   捕まっていた子パンダが、床に落ちる。   シャオ「子パンダちゃん!」   皆が、子パンダの元へ駆け寄った。 怪我はない。 シャオが「心配したアルー」とふかふかの毛皮に顔を埋めて擦り付けていると。   火鍋「……帰っていくぜ」   沼が、建物の壁に染み込もうとしていた。 見えなくなる寸前、沼から、一本の白い腕が伸び。     沼男「」バイバイ   子パンダ「キュウ!」バイバイ   ふたり――。怪異ひとりと、子パンダ一匹は、腕を左右に振っている。       シャオ「――何が起きたアル?」   ドウ「わからんが――。きっと、良いことなんだろう」   ヨウエン「ええ。軍師火にしては、手こずらせました。つまり、この五対五の勝ち抜き戦――」   火鍋「俺たちの、『完全勝利』ってわけだ。なあ? 黒龍拳さんよぉ」   「ひ、ひぃっ!」ぴゅー   銅鑼を叩いていた下っぱが、逃げ出した。   修練場には、この五人しかいない。     シャオ。 ドウ。 火鍋。 ヨウエン。 子パンダ。   我らが主人公たちの、完全勝利だ。   ◆━━━ 最 強 バ ト ル ━━━◆   子パンダ vs 沼男   ――――――勝者 子パンダ & 沼男 ――――決まり手 友達になれた
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