最強バトルの人 / 第135話
第55話 見つけた
「――次! 大将、子パンダ対! 副将、沼男!」
どわおおおおおん!
子パンダ。
故郷が滅ぼされてから、十年間。
シャオと共に旅をしてきた相棒。
だが――!
ドウ「――シャオ! 子パンダは、戦えるのか!? 強いのか!?」
俺も、旅に加わってから、この子パンダをそばで見ていたが。
飯を食う以外は、シャオの荷物持ちをしているところしか見たことがない。
戦いのときは、いつも陰に隠れていた。
シャオ「――わからないアル」
ドウ「なにっ!? じゃあ、なぜ大将に!?」
シャオ「――火鍋と相談して、決めたアル。『俺の後には、絶対まわさねえ』。 ――そう言ってたからアル」
嘘だろ。
俺は、頭を抱えた。
ドウ「――つまり、子パンダは! 戦ったことが、一度もない――!」
シャオ「――大丈夫アル」
シャオ「私が乱入するアル。子パンダの命と、ばぁちゃんの店を天秤にかけるなら――。子パンダを、守るアル」
シャオが、沼男に向かって飛び出そうとした瞬間――。
もふもふとしたものが、シャオの前進を止めた。
シャオ「――子パンダちゃん?」
子パンダは、首を横に振っている。
子パンダ「キュウ」
シャオ「だって、子パンダちゃん……!」
子パンダ「キュウ」
シャオ「……わかったアル」
鳴き声だけだが、何か伝わったらしい。
シャオは、子パンダと目を合わせないように見送った。
子パンダが、沼男に向かって、四つ足でとことこ歩き出す。
ドウ「……なにか、言ってたのか?」
シャオ「わからないアル。けど――。きっと、『ぼくにまかせて』って、言ってた気がするアル」
ドウ「きっと、って……」
「始めぇぃ!」
どわおおおおおん!
――!
もう、始まるのか!
かくなる上は――!
ドウ(――子パンダが、なにかやってくれることを、祈るしかない……!)
勝ち抜き戦、最後の砦。
大将、子パンダ。11才。
はじめての戦いが、今始まる。
≫≫≫≫ 最 強 バ ト ル ≪≪≪≪
子パンダ vs 沼男
【名前】子パンダ
【属性】パンダ
【年齢】11
──────────────
【名前】沼男
【属性】都市伝説 / 怪異
【年齢】???
──────────────
修練場の真ん中。
子パンダ。
目の前に、沼。
この沼は、先ほど。
策略にかけては右に出る者がいない、ヨウエンと、意地でどんな困難にも打ち勝ってきた火鍋を、いとも簡単に飲み込んだ。
対する子パンダ。
これまで、戦ったことがない。
もふもふころころとした体。
旅の役目は荷物持ち。
いつも笹や竹を食って、眠くなっている。
こどもの、パンダ。
子パンダは、沼男のことをじっくりと見ている。
当然、沼男は、見た目上は動く沼。
顔なんてない。
それでも、子パンダは、じっくり沼男を見つめている。
やがて、動きがあった。
子パンダ「キュウ」
子パンダの、ひと鳴き。
なにも、起こらない。
子パンダ「キュウ」
……。
子パンダ「キュウ」
子パンダ「キュウ」
鳴くだけ。
なにも、起こるはずがない。
痺れを切らしたのか、沼の底から、白い腕が這い上がってくる。
一本、二本、三本、いっぱい。
細くとも、異常なまでに力強いその腕は、子パンダの首の後ろ。手。耳をつかんで、沼に。
引き摺り込んだ。
シャオ「――子パンダちゃん!」
十年来の相棒の姿が沼に消えた。
シャオの口から、悲痛な叫びが漏れる。
軍師火《グンシーフオ》「――ぐはははは! この勝ち抜き戦、我らが黒龍拳軍の勝ちだ! 貴様らにはもう、幾分も戦力が残っていない!! 我らの勝利だ! ぐはははははは!!」
軍師火の下品な笑い声が、頭の中をこだまする。
シャオとドウは、旅の仲間を三人も失った。
それもすべて、この沼に引き摺り込まれて――。
――玉砕覚悟だとしても。
私たちふたりで、軍師火を。ウーミンを、倒す。
そう、切り替えていた。
*
*
*
――。
暗い、暗い沼の底。
沼は濁りきっていて、目を凝らしても、何も見えない。
そこに、子パンダはいた。
子パンダ(キュウ……)ブクブク
泳ぎは得意だ。
かつて、シャオを追っかけて、中国から日本まで泳ぎ切った。
だから、少しは自由が効く。
なにより、体を掴む白く細い腕。
それを追っていけば、沼男の。
沼男の『本体』に、近づける。
子パンダは、腕が伸びている先へ、バタ足で泳いでいった。
ジャバジャバ――。
ジャバジャバ――。
ジャバジャバ――。
――キュウ。
沼男「」
[[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1792112968267-9050eb0f-d79b-4c71-9b80-d329764b4c70.jpg]]
子パンダは、沼の一番底で、『本体』を見つけた。
白くて丸い1メートルくらいの体。
そこに、たくさんの腕が生えている。
ウニみたい。
シャオが言っていたとおりだ。
暗い沼の底には、ウニみたいなものが、転がっていた。
――キュウ。
沼男「」
子パンダが鳴き声を上げるたび、口から泡が漏れていく。
子パンダは、息を温存することにした。
――キュウ。
沼男「」
――キュウ。
沼男「」
――キュウ?
沼男「 」
――キュウ。
沼男「 」
――キュウ。キュウ。
沼男「 」
――キュウ。
沼男「 .」
――キュウ!
沼男「 ...」
――キュウ。
沼男「 ......」
――キュウ。
沼男「 …………」
――キュウ。
沼男「 …………。」
――キュウ。
沼男「 …………なに」
――キュウ!
沼男「 ……なに?」
――キュウ。キュウ。
沼男「 ……ほっといてよ」
――キュウ。キュウ。キュウ。
沼男「 ……かんけいないでしょ」
――キュウ……。
沼男「……きみにはわからないよ」
――……キュウ?
沼男「……だって、きみ、パンダだもん」
――キュウ! キュウ!
沼男「……なに?」
――キュウ! キュウ!
沼男「……」
――キュウ! キュウ!
沼男「……」
――キュウ! キュウー!
沼男「……ふふっ」
――キュウ?
沼男「あっ、ちがうよ」
――キュウ? キュウ?
沼男「わらってないよ」
――キューーウ?
沼男「ほんとだって。せきしただけ」
――キュウ……?
沼男「だいじょうぶ」
――キュウ……? キュウ、キュウ?
沼男「だいじょうぶだって。せきはうそだよ」
――キュウ?
沼男「……だって、へんでしょ」
――キュウ?
沼男「こんなからだなのに、わらってたら」
――キュウ?
沼男「……へんなんだよ、ふつうだったら」
――キュウ?
沼男「……もういいよ」
――キュウ?
沼男「……しつこいな」
――キュウ……。
沼男「……」
――キュウ……。
沼男「……くるしく、ないの?」
――キュウ?
沼男「……いき、できるの?」
――キュウ。キュウ。キュウ。
沼男「……そーなんだ」
――。
沼男「……」
――キュウ?
沼男「べつに。しんぱいしたとかじゃないよ」
――キュウ?
沼男「……気になっただけ」
――キュウ。
沼男「……」
――キュウ?
沼男「……なんで? って……」
――キュウ?
沼男「……なんでだっけ」
――キュウ?
沼男「……なんで、こうなっちゃったんだっけ」
――キュウ?
沼男「……ちょっとまってて」
――キュウ。
沼男「……いま、おもいだしてるから……」
――キュウ。
沼男「…………あ」
――キュウ?
沼男「……おもいだしたかも」
――そうだ。ぼくは……。
こんなおばけみたいになる前があった。
そうだ、あれは、たしか……。