最強バトルの人 / 第108話

第42話 もっといっぱい喋ろう

  ――まだ、夜は続く。 ドウ「では、ヨウエン。ウーミンの使う黒龍拳とは、どういう拳法なんだ」モグモグ シャオ「ハゲも戦ったんじゃないかアル?」モグモグ ドウ「ああ。しかし、俺は……正直、何をされたのかもよくわからなかった。気付いたら、倒れていたのだ」ギリッ ヨウエン「――私も実は、全貌はわかりません。ただ、宗師――いや、ウーミンから、一度だけ聞いたことがあります」モグモグ 火鍋「別によぉ。宗師って呼んだっていいんじゃねぇか? テメーにとっちゃ、宗師なんだろ?」モグモグ ヨウエン「……そうですね。では、宗師が言っていたのは――。“流れ”を使う、とだけ」モグモグ その言葉に反応したのは、シャオ。 シャオ「“流れ”――。ばぁちゃんも、心の“流れ”を読むアル」モグモグ ドウ「ラオ老師は、過去にウーミンと戦ったことがある、とのこと。何か知っていますか?」モグモグ ラオ「ああ。あのバカとは、もう数え切れないくらい戦ってあげてたよ。ここ20年くらいは、会ってもないけどね」モグモグ ごっくん。 ラオは、新しい肉まんを手に取る。 ラオ「その間に、あのバカは。自分の見つけた拳法の極意を、黒龍拳と名付けたそうだ。だから、あのバカが今、どんな拳法に夢中なのか、あたしは知らないよ」ヒョイ モグモグ ドウ「……そ、そんな! かつては『数え切れないほど、ウーミンと戦っていた』!? それは、真ですか!?」ガタッ ラオ「ああ。ちなみにあたしは、負けたことないけどね」モグモグ シャオ「!」 ドウ「!」 ラオ「あたしのことを、因縁のライバルだとでも思ったんだろうね。どこに行っても、追いかけてきてたよ。まあそれも、50年前の中国最強トーナメントで知り合ってからだから、30年間くらいになるかねえ」モグモグ シャオ「……そうアルか」チラッ ドウ「では、ラオ老師がいれば、ウーミンなど恐るるに足らず! なんと心強いことか! はっはっは!」モグモグ シャオ「……」モグモグ ラオ「なに言ってるんだい。あたしは行かないよ」モグモグ シャオはいきなり立ち上がる。 シャオ「ええ!? ばぁちゃん行かないアル!?」ガタッ ラオ「当たり前だろ。あたしが行っちまったら、お客はどうなるんだい。店に穴を開ける気はないよ」モグモグ シャオ「……そうだったアル」ストン モグモグ ラオ「それにあたしは、あんなバカには別に会いたくないよ」モグモグ ドウ「話を戻しますが。“流れ”とは、なんなのでしょうか?」モグモグ ラオ「“流れ”? まあ、拳法家なら、いずれはたどり着く先――と言えばいいかねえ。ヨウエン、シャオ。お前らもそうだろ?」モグモグ ヨウエン「確かに私は、盤面の“流れ”を読みます」モグモグ ラオ(――この前は、なにか悪い“流れ”を読んでたけどね) シャオ「私も、力の“流れ”を読むアル。これも、同じ“流れ”アルか?」モグモグ ラオ「なに言ってるんだい。最近は、もっと大きな何かの“流れ”を読んでるじゃないか」モグモグ 火鍋「俺ぁ、命の“流れ”が読める。これまで危ねぇ橋を渡って、死にかけたことが何度もあるからな」モグモグ ドウ「……つまり、“流れ”が読めないのは、俺だけってことですか!?」ガタッ ラオ「心配かい? まあ、あんたもいずれは辿り着くだろ」 ドウ「ラオ老師……。ありがたいお言葉!」ストン ヨウエン「皆さんの話を聞いていて、少しわかってきました」モグモグ ヨウエンが、ドウの目を見る。 ヨウエン「ドウ。あなたは、宗師の手で一度葬られた。しかし、今は生きている。これがずっと不可解でした」 ヨウエンは、新しい肉まんを手に取る。 ヨウエン「おそらく、宗師は――。“流れ”を、“止める”。いや、“逆むける”。もしくは――」 肉まんを、ふたつに裂いた。 中から、肉が現れる。 断面から、白い湯気が浮かび上がった。 ヨウエン「“流れ”を――“殺す”」 ドウ「!」 シャオ「!」 火鍋「!」 ラオ「ほう。なるほどね」 ヨウエン「私なりの推理ですが――。ドウや、私の受けたダメージを見るに、妥当ではないでしょうか」モグモグ ドウ「十分にあり得るな」モグモグ 火鍋「ああ」モグモグ シャオ「……?? よくわからないアルが……」モグモグ ごっくん。 シャオ「私は、ウーミンをぶっ飛ばすだけアル!」 ドウ「ああ。そうだな」 ヨウエン「私も、宗師の野望を止めなければ。と、思います」 火鍋「俺は、一回あのクソ野郎を殴りてえ」 子パンダ「キュウ」 シャオ「子パンダちゃんもアルか?」 子パンダ「キュウ。キュウ。キュウ」 シャオ「ふふ。子パンダちゃんもいっぱい食べるアル」ナデナデ 子パンダ「キュウ!」 * ドウ「して、ヨウエン。四天王の神雷火《シェンレイフオ》と暴風火《バオフォンフオ》は、今どうしているか知っているのか?」モグモグ ヨウエン「いえ。黒龍拳には、たくさんの人材が育っています。今は新たな四天王が、その枠を埋めていることでしょう」モグモグ シャオ「どんなやつアル? 強いアルか?」モグモグ ヨウエン「ええ。ただ、候補の者は何人もおります。その時、最も適した四人が、四天王になるのです」 火鍋「ということはだ。参謀も、新しいヤローが穴埋めしてるってことだな」ゴクゴク プハー ヨウエン「きっとそうでしょう。私ひとりがいなくなっても、誰かがその席に座るだけです。まあ、私より優れた知将はいませんが……」モグモグ 火鍋(……こいつやっぱり、いけすかねえヤローだな) ドウ「では、神雷火に暴風火は、黒龍拳に報復などされていないということだな! それはよかった!」 子パンダ「キュウ!」 * シャオ「ばぁちゃん。私の爸爸《ぱーぱ》って、どんなだったアル?」モグモグ ラオ「ん? あいつは、火鍋と同じくらいの時期に働いていてね。火鍋とよーく似ていたやつだったよ」 シャオ「え゛」ポロッ 火鍋「おい。なんだそのリアクションは」 ラオ「あいつが、まさか親になるなんてね。あの頃のあいつからは、想像もつかないよ! かーっかっかっか!」 火鍋「あン野郎は、子供が産まれて変わっちまったんだよ! 急に、金だ、家だ、土地だ、権利書だ、裁判だって言い出してよ! まったくアイツも、いかすかねえヤローだぜ」ゴクゴク ドウ(それって――。親としては、すごく真っ当なのでは) ラオ「不服だろ? 火鍋に似てるなんてね」 火鍋「おい、ばあさん」 シャオ「――ふふっ。ううん。嬉しいアル」 シャオ「私の知らない爸爸《ぱーぱ》を知れて、嬉しいアル」ニッコリ ドウ「……ふっ。ああ、そうだな」 子パンダ「キュウ!」 * ラオ「じゃあ、あたしは寝るよ。あしたから、バイトがふたり休むんでね。じゃあおやすみ」フワァ 火鍋「俺も寝るわ。じゃーな」フワア シャオ「――そうだったアル! 私たちが旅に出たら、この店の皿洗いやホールが――!」ガタッ ドウ「シャオ。まずは、ウーミンを倒そう。その後、ここに戻ればいい」 シャオ「そうアルね」ストン モグモグ ヨウエン「……ふふ。あなたたち、面白いですね」 シャオ「そうアルか?」モグモグ ドウ「そうだ。ヨウエン。お前は、もともと俺たちを知っていたんだよな? いつからだ?」 ヨウエン「黒龍拳の部下たちを、あなたたちが片っ端から倒していた頃からです。強き者は勧誘せよ、ですので」 ドウ「俺たち以外にも、打倒ウーミンを掲げるやつはいるのか?」 ヨウエン「ええ。たくさんいましたよ。ただし、ほとんどは既に接触し、黒龍に取り入れるか―――殺すか、しています。残っているなかで、宗師に届きうる者は、あなたたちだけです」 ドウ「そうか! 俺たちはすでに、そこまで来ていたのか!」 ヨウエン「今の黒龍拳は、さらに規模を拡大し、現在五万人の部下がいます。これを使って、宗師は戦争を仕掛けようとしているのです」 ドウ「つまり、黒龍拳側は、俺たちを待ち構えているかもしれない。そういうことだな」 ヨウエン「その読みは正しい。彼らも馬鹿ではありません。だからこそ、出発は早い方がいい。出発は、明日の朝。それで行きましょう」 シャオ「――そうアルね」モグモグ ヨウエン「では。私も、お休みさせていただきます。肉まん、ごちそうさまでした。とても美味しかったです」 子パンダ「キュウ」フワァ トコトコ シャオ「子パンダちゃんも眠そうアルな。おやすみ、アル」モグモグ ヨウエンも、子パンダも、2階の部屋に上がっていく。 *   広いホールは、シャオとドウの二人きりになった。 丁寧に掃除された店。 もちろん、この二人が掃除した。 シャオ(…………) この卓も、あの卓も、拭いた。 あの窓も、この床も、磨いた。 シャオ(……) ごっくん。 最後の肉まんが、シャオの腹に消えた。 シャオの手元には、皿だけが残った。 シャオ「―――このお皿も、洗ったアル」 ドウ「? 皿が、どうかしたか?」 シャオは、皿を見つめている。 やがて、何かを思いついたように、視線を上げた。 シャオ「ドウ。立つアル」 ドウ「? ああ」スック シャオ「私の前に立つアル」スック ドウ「こうか?」 ホールの中心で。 シャオの前にドウが立つ。 二人は向かい合う。 そして、シャオは。 ドウの目を、じーーーっと見つめる。       じーーーーーーーーーーーっ。       時計の針の音が、浮き立つ。 この静寂の長さを、さらに長く感じさせた。       「―――? シャオ、どうかしたか?」       わからん。 わからんアル。 ばぁちゃんは、目を見たら心の“流れ”がわかるって言ってたアル。 私には、ぜんぜんわからんアル。       じーーーーーーーーっ。 ドウ「……?」 ぱちっ。 あ。 こいつ、今! まばたきしたアル! 「まばたきしたからもう一回アル」 「――? まばたきくらいするだろ」 「まばたきしちゃ駄目アル」 「なんだ、新たな修行か? よし! 付き合うぞ!」         じーーーーーーーーーーーーーっ。               シャオ(……目が乾くアル) ぱちっ。     あ。 私がまばたきしちゃったアル。 ドウ「ふふふ。今度は、俺の勝ちのようだな! はっはっはー!」 カチン。 これはそういうんじゃないアル。   でも。 シャオ「もう一回アル」     ハゲの勝ちというのは、気に食わない。 次こそは絶対、私が勝つアル。           じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ。         【【子パンダ「キュウ?」】】 シャオ&ドウ「うわあああ! びっくりした(アル)!」 気づかないうちに、隣に子パンダちゃんがいた。 ああ、びっくりしたアル。 ヨウエン「……何をやっているんでしょうか」ニコッ ヨウエンも。お前ら、いつの間に? ヨウエン「いや、寝る前にお皿洗いを、と。思いましてね。邪魔をして、すみませんでした」 シャオ「そうアル。今、このハゲの目を見てたアル」 ドウ「そうだ! 新たな修行だ!」 ヨウエン「…………あなたたち」 ヨウエンは、咳払いをひとつ。 ヨウエン「そういうのは、部屋でやってくださいね」ニコッ シャオ&ドウ「?」 子パンダ「キュウ」 ――ふわあ。 私も眠くなってきた。 ひとまず、寝ることにしよう。 おやすみアル。

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