最強バトルの人 / 第44話

第27話 内なる願い

――ジルハートの魔法陣の間。 あらゆる魔術書や水晶などのマジックアイテムが貯蔵され、普段は魔法の研究などに使われる。 宮廷魔導師のみに許される、特別な部屋。 中心には、魔力増幅の効果がある巨大な魔法陣が敷かれている。 そのすみっこに、シャオと火鍋と子パンダが体育座りをしている。 ドウは、魔法陣の真ん中で仰向けになっている。 「――それではこれより、救命の儀を始める。」 ドウを見下ろすジルハート。 その衣服は、先ほどまでの鎧ではない。 紫色の格調高きマジックローブ。 左手には水晶を持ち、右手には杖を握る。 「――❝目覚めよ❞!」 ドウの体には何も起こらない。 「――火鍋、あのじいちゃん。ハゲに何をしてるアルか?」 シャオは火鍋にひそひそ話しかける。 「言葉遣いには気をつけろよ。――俺も昔は、あの親父に世話になった。おかげで、大分まともになったがな」ヒソヒソ シャオ「どこがアル?」ヒソヒソ 火鍋「うるせえ」ポカッ アイヤー 「俺もこうみえて丸くなってんだよ」ヒソヒソ 「――あのガンコ親父のいう言葉は、魔力を持つ」 「まりょく、アルか?」 火鍋は続ける。 「ま、そういうモンがあるってこった。世界は広いぜ」 ジルハートは何度も試す。 「❝起き上がれ!❞」 「❝動きだせ!❞」 「❝治れ!❞」     シャオはまた、話しかける。 シャオ「――今は、何をしてるアル?」 火鍋「色々試してんだろ。魔法っつっても万能じゃあねえ。効くやつと効かねえやつがあるんだ」 シャオ「なにがちがうアル?」 火鍋「……あの魔法は、実は精神力があれば拒絶できる」 シャオ「!」 火鍋「簡単に言えば、『止まれ!』って言われても、『止まりたくない!』って思ってりゃ効かねえ。問題は、その精神力だ」 シャオ「……じゃあなんでハゲは起きないアル? 『起きたくない』って思ってるアル?」 火鍋はドウの背中に触れたときのことを思い出す。 「……ハゲの体は、ウーミンのクソ野郎によって、『死にたい』と思わされている」 「! ……どういう意味アル?」 「そのままの意味だ。ふつう、体ってのは『生きたい』と思ってる。だから怪我も治るし、風邪も治る」 シャオは、火鍋が入院していたときのことを思い出した。 火鍋は続ける。 「方法についてはわかんねえけどよ。とにかくそうなってる。だから、今のハゲは、体は死んでるが、精神力だけで生きてるってわけだ」 「精神力」 シャオが反復した。 火鍋がシャオの目を見る。 「詰まるところ、『意地』だ。体は死にたがってる。だが、ハゲ自身はまだ死にたくねえ。――何かひとつ、死んでも譲れねえことがあるんだろうよ」 シャオは聞く。 「……ハゲは今、何を考えているアル?」 火鍋は答えた。 「ハゲの考えることなんて俺にはわからねえよ。だからあの親父も、色々試してんだろ」 * 「❝死ぬな!❞」 「❝生きながらえよ!❞」 「❝生きろ!❞」     ――効かぬ。 この若者の肉体は、死へと向かわされておる。 高位の即死魔法にも似た死の力が、この若者を蝕んでおる。 ――まずい。 今、命を繋ぎ止めているのは、この者自身の精神力のみ。 それが一瞬でも途絶えれば――死ぬ。 前途ある若者が、邪悪な意思によって未来を奪われること。 ――それだけは、断じて、許さん。 この者を救う。それが、老いた者から若者へ贈る、最大の祝辞だ。 「❝歩き出せ!❞」 「❝邪悪に負けるな!❞」 「❝故郷を目指せ!❞」 玉のような汗が噴き出す。 魔力も無限ではない。 ジルハートは、マジックポーションを手に取り、一気に飲み干した。 ……気休めだ。あと、撃てる魔法の数は―― ――二十回。それを超えれば、我の魔力は尽きる。そうなればもう間に合わん――。 ジルハートが、勢いよく振り返る。 その額から、汗が滴り落ちた。 「火鍋!! 幼子よ!!」 すみっこで体育座りをしていたふたりの体が、びくりと強張る。 「この若者は、普段何を考えている!! 何を望み、何のために生きておる!! 時間がない! 迅速に申せ!」     ――シャオが、考える。 私は、ドウと再会してから何度も考えていた。 『ドウという人は、どういう人なのだろう。』 だが、共に旅をし、火鍋と出会い、四天王と戦い、修行に励んだ今では、確信している答えがある。 私は、ジルハートに向かって答えた。     「――『強くなりたいっ!』、私に、『シャオに勝ちたい』アルっ!」 「心得た!」 ジルハートが魔力を集中させる。 そして――。 「❝強くなれ!❞」 「❝シャオに勝て!❞」       ――――。       ――……何も、起きない。 火鍋がドウの顔を覗き込む。 火鍋「……違うじゃねえか」 火鍋「……おい、ハゲ! 何がしてえんだ! さっさと反応しやがれ!!」 パンッ! パンッ! 火鍋がドウの胸ぐらを掴み、頬を往復ビンタした。     ――。 ――あれ? 違うのか? 私に勝ちたいのではなかったのか? 度を超えた負けず嫌いだと思っていたが。     ジルハート「ん゛ん!!」ゴホゴホ 気を取り直し、咳払いをする。 そして、さらに魔力を集中させ――。 「❝使命を果たせい!❞」 「❝巨悪を討ち倒せい!❞」 「❝自分を信じろ!❞」 ――集中。 「❝歩みを止めるな!❞」 「❝前へ進めい!❞」 ぴく。 ! 若者の指が、わずかに動いた。 「ハゲ!」 シャオが立ち上がり、ドウのそばまで駆け寄った。 シャオ「ハゲ! 聞こえるアルか!?」 「❝歩みを進めよ!❞」 ぴく。 ドウの指が、再び動く。 「❝先へ進めい!❞」 ぴく。ぴく。 「❝前進せい!❞」 ぴく。ぴく。ぴく。 ――!! これだ。この若者が、最も強く願うこと。 「❝前進せい!❞」 びくん!! ドウの身体が、大きく跳ねた。 「ぐ……っ!!」 シャオ「ハゲがしゃべった!?」 初めて、ドウの口から声が漏れた。 しかし――。 がくん。 ドウの体から、再び力が抜ける。 シャオ「ハゲ!!」 ぱんっ! シャオがドウの頬をビンタする。 ジルハートは杖を握りしめた。 ――この若者に刻み込まれた、死が。 生へと引き戻されるほど、死の力もまた、この者を強く引き戻しておる。 「❝前進せい!❞」 ドウの体が光を放つ。 ドウ「ぐああああああああっ!!」 ドウが身を仰け反らせる。 シャオ「ハゲ!!」 シャオがドウの顔を覗き込む。 シャオ「起きるアル!!」 ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ! ドウの頬を往復ビンタする。 火鍋「聞こえてんだろうが、ハゲ!!」 火鍋が怒鳴る。 火鍋「ここまで来て死んだら、ハゲの風上にも置けねえぞテメエ!!」 「❝皆と、前進せい!❞」 ジルハートの声が、魔法陣の間に轟く。 ドウの身体が跳ねる。 ドウ「ぐ……っ!」 ――まだだ。 ジルハートの額から、大粒の汗が落ちる。 残る魔力を、水晶へ。杖へ。言葉へ。 全てを、一言へ。 「若者よ!! 皆と共に……!」 ジルハートが、全身全霊を込める。 「❝前進せい――――ッ!!!!❞」 カッ――!! 魔法陣が、眩い光を放った。 *     ――雨が降っている。 河川敷で、ウーミンと戦った。 そこから、記憶がない。 暗い夜の中。ひとりで歩く。 ――。 なんだ? 月明かりが、どんどん大きくなる。 あそこへ行ってみよう。 月明かりの中へ。 そうすれば―――― ――――ウーミン? 黒い靄《もや》が、ウーミンの形をかたどっている。 その虚像が、俺に、襲いかかる――。 「――うおおおおおおおっっ!!」 拳を突き上げる。ウーミンの姿の靄を突き破り、そのまま散っていった。 月明かりが大きくなる。 * ドウ「ぐ……うううう……!!」 ドウの右手が震える。 指が、一本ずつ曲がって拳となり―― ドウ「うおおおおおおおっ!!」 拳を突き上げた。 「――!!」 シャオがドウを見る。 シャオ「ハゲ!!」 ドウの身体から、力が抜けた。     ぱち。 ドウのまぶたが開いた。 ――シャオ。 その後ろに、老師。――謎の御年配? 遠くに子パンダ。 俺はたしか、ウーミンと――――。     シャオ「ハ……っ! ハ……っ!」       「ハゲが治ったアルーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 ばちこーーーーーーん!! 俺はなぜかシャオにビンタされ、体が宙を回転した

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