最強バトルの人 / 第92話

第37話 まあまあ

――ドッッガァァァァァァァン!!! シャオ「アイヤーーーーーーー!!!」 ラオ「こら! 鍋を爆発させるんじゃないよ!!」 ――一方こちらは老厨中華飯店・厨房。 時刻は、昼のピークが過ぎ、客足が減ってきたころ。 先日の組み手から、シャオは厨房に立たせてもらえるようになっていた。 ただし、まかないを作るためである。 シャオ「危ないアルーーー!!!」ヒョイ ヒョイ ヒョイ パク ヒョイ パク ヒョイ パク パク ラオ「こら! 飛んできたエビを避けながらたまに食べてるんじゃないよ!」パシーン シャオ「だってもったいないアル!」ヒョイ ヒョイ ヒョイ ヒョイ ヒョイ ラオ「確かにね! ならあたしも……」ヒョイ ヒョイ パク パク パク ヒョイ パク シャオ「むむ! 負けないアル!」ヒョイ パク パク パク パク パク」 ドウ「老師! シャオ! まずは火力を落としてください!!」 爆発の原因は、エビの水切り不足。 中華料理屋特有の絶大な火力で熱した油に、大量にエビを入れたためである。 シャオは、まるで生き返ったかのように跳ね上がるエビたちを救出し、酒、豆板醤、ケチャップ、塩、葱でちゃちゃっと炒め、仕上げにとろみをつける。 赤く染まったそれは――。 シャオ「おまちどうアル! エビチリの完成アル!」ジャジャーン ラオ「おや、なかなかうまそうじゃないか」 ラオは、目の前に置かれた琥珀色のとろみをまとったそれの香りを吸い上げる。 酸味、甘味、香ばしさ。そこに葱の引き締まる匂いが混ざり、食欲を刺激する。 ラオは左手に白米を用意し、箸を持つ。 ラオ「いただくよ」 エビチリを、口に入れた。 シャオは、期待半分、緊張半分の面持ちで、ラオの顔に注目する。 おいしい? おいしくない? まずい? 咀嚼するラオの顔は、そのどれもがあり得そうな顔をしている。 ラオ「……うん」 シャオ「おいしいアル?」 ラオ「……うん、うん」 シャオ「……おいしくないアル?」 ラオ「うん! うん! うん! うん!」 シャオ「待ちきれないアル!」バタバタ ごっくん ラオの喉元を、エビたちが通った。 ラオ「まあまあだね」 シャオ「まあまあアルかーー」ハァーーー ラオ「手際はいいけど、やっぱりエビに火が通り過ぎだね」パクパク シャオ「ほんとアル」パクパク ラオ「こら! あたしのまかないだよ! 自分のを作りな!」グイッ シャオ「だって見てたらお腹すいたアル!」グイッ ラオ「あたしのだ!」パクパクパクパク シャオ「ちょっとだけアル!」パクパクパクパクパクパクパクパクパクパク ドウ(なんか楽しそうだな) 少女が世界最強のおばあちゃんとたわむれているころ。 人気の少ない店内に、入店のツリーチャイムが鳴った。 チリンチリーン ドウ「いらっしゃいませ! 何名様で――」 火鍋「よう。ハゲ」 ジョアンナ「あら。おハゲさん、久しぶり」 厨房にいたシャオも、声に気づいて。 シャオ「あーーー! ジョアンナーー! よく来たアルーー!」ブンブンブン 満面の笑みで手を振った。 * ドウ「しかし、どうして火鍋老師とジョアンナが一緒に?」 コトッ ドウは、火鍋とジョアンナの卓上にお冷やを配膳する。 火鍋「おう! 俺が町で道行く奴らに片っ端からメンチ切ってたらよ、ジョアンナがたまたま通りがかってよ!」 ジョアンナ「ムカついたから睨み返してたら、あら、あなたシャオちゃんのストーカー疑惑のダメ親父じゃない! って気づいてね」 火鍋「初めて店で会った時は、本来のシブい俺が引っ込んでたからよぉ! 俺のゲキシブなメンチに、怯まねぇでメンチを返せるなんて、キップのいい姉ちゃんだ! って思ってダチになったってわけだ!」 ジョアンナ「アタシもこのダメ親父のこと、ちょいワル勘違い不審者だと思ってたけど、なかなか見どころあると思ってんのよ」 火鍋「ああ! こいつは、『女のクセに』なかなかやるぜ!」 プッツン ジョアンナ「あァ!?」 「…………てめェ、『今』。なんつったァ?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 「なにが、『女のクセに』だっつってんだよぉォォオォッッ!! このダボがァっ! オラァッ!」 バキィィィッッ! 火鍋「ウゲェェェエェエエエ――ッ!!」 ガシャァーァアンッ!!!! ドウ「まあまあまあまあまあ」 シャオ「ふたりともなにやってるアル」 ≫≫≫≫ 最 強 バ ト ル ≪≪≪≪ 火鍋 vs ジョアンナ・ジョプリン 【名前】火鍋 【属性】喧法家 【年齢】45 ────────────── 【名前】ジョアンナ・ジョプリン 【属性】セカンド使い 【年齢】19 【能力】 殴ったものを『ガラス』に変える。 ・破壊力 ―――― A ・スピード ――― A ・射程距離 ――― E ・持続力 ―――― C ・精密動作性 ―― E ・成長性 ―――― D ────────────── ◆━━━ 最 強 バ ト ル ━━━◆ 火鍋 vs ジョアンナ・ジョプリン ――――――勝者 ジョアンナ・ジョプリン ――――決まり手 ガラスにして粉々にした * カチャカチャカチャ。 ドウと子パンダが、ほうきを持って、粉々になった火鍋をちりとりで集めている。 ガラスの破片になった火鍋は、そこら中に散らばっていた。 子パンダがひとつの破片を拾い上げる。 子パンダ「キュウ?」 ドウ「いや、それは……お冷やのグラスだ」 ドウたちが掃除をする間、シャオがホールに回っていた。 シャオ「……ジョアンナ。やりすぎアル」 ジョアンナ「いいじゃない。くっつければ治せるんだから。おハゲさん、手先器用そうだし」 シャオは――この女、めちゃくちゃアル。 そう思った。 そこに、まかないを食べ終えたラオが話しかけに来た。 ラオ「おや、シャオの友達かい。こんにちは」 ジョアンナ「はい、こんにちは」 ラオ「厨房から聞いてたけど、あれは火鍋が悪いね。うちの元従業員が、悪かったね」 ジョアンナ「いいえ、おかまいなく! 粉々にしたら、スッキリして忘れるから!」 グ〜。 ジョアンナ「そんなことよりアタシ、お腹がすいたわ。こってりしたもの……。エビチリが食べたいわ」 ラオ「ほう」 ラオは、店内を見渡す。 お客はまばら。夜のピークまではまだ時間がある。 ラオ「シャオ。作ってあげなさい」 シャオ「ひゃい?」 思わずのことで、声が裏返った。 ラオ「せっかく来たんだ。美味しいエビチリを作ってやりな。火加減に気をつけるんだよ」 シャオ「……! はいっ! アル!」 ジョアンナ「シャオちゃん、料理できるの?」 シャオ「昔から、料理は好きアル! 爸爸《ぱーぱ》にもばぁちゃんにも、教わってるアル! 美味しいエビチリ作るアル!」タッタカター シャオは、厨房に消えていった。 ラオは、その後ろ姿を見送る。 ラオ「あの娘は、皿洗いしてる間も、ホールにいる間も、あたしの鍋を振る手をずっと見てた。あの娘はなんでも読むからね。成長が早いよ」 ジョアンナ「あたし、結構グルメよ。シャオちゃんでも、美味しくなかったらハッキリ言っちゃうわ」 ラオはジョアンナの方を見る。 ラオ「心配いらないよ。あの娘は、食べることも食べさせることも好きなのさ」 * 瓦礫の中。 血まみれで横たわる細身の男。 それを見下ろす老人の影。 その体は、返り血で赤く染まっている。 黒龍拳宗師、ウーミンであった。 「――この儂を、手こずらせおって。侮れん男よ」 妖燕火《ヨウエンフオ》の胸は、息をするたびに、大きく上下する。 「――はぁ、はぁ。――まだ――三手ほど、あったのですが――」 「もう良いわ。今死ぬか。最後に一仕事するか。選べい」 「――最後の、一仕事……?」 ウーミンの眼が、ギョロリと動いた。 「――あの婆《ばばあ》を、黒龍に連れて来い」

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