最強バトルの人 / 第143話
第58話 円陣
ドウ「ついに――。だな」
シャオ「そう、アルね」
正面突破を試みた黒龍拳軍総本山へのかち込み。
見張りの兵を倒し。新・四天王を倒し。軍師火も倒した。
まともに戦える兵は、もはや残されていない。
つまり、残すところ、あと――。
シャオ「ウーミンだけアル」
シャオの拳が、小刻みに震える。
ドウも、素振りや構えの確認を繰り返している。
はやる気持ちが抑えられないのだ。
火鍋「よし。――お前ら、集まれぇ!」
皆の視線が火鍋に集まった。
部活の顧問のような号令に、皆は素直に従った。
火鍋「円陣だ。丸くなれ」
火鍋はそういうと、ドウとシャオの間に立ち、肩を組んだ。
ドウの左隣にはヨウエン。
ヨウエンの左隣には子パンダ。
子パンダの左隣にはシャオ。
五人は、肩を組み、円陣を囲んだ。
火鍋「よし!! テメーらぁ!! 気合い入れていくぞぉおお!! 『ド根性肩組み』だぁぁああ!!!」
シャオ「な、なんか恥ずかしいアル」
ドウ「シャオ! 老師には考えがあるんだ!」
火鍋「テメーらぁ! 目をつぶれぇえ!」
言われた通りにしてみる。
火鍋(――ふむ。シャオは、元気だな)
シャオ「火鍋。もうちょっと肩を下げるアル」
――『ド根性肩組み』。
火鍋の編み出した『喧法』の奥義である。
円になって肩を組むことで、相手の疲労度、負傷度を診断する。
ド根性を分け与えるため、体力回復のおまけ付き。
火鍋(子パンダは――。ほとんど疲れてねえ)
子パンダ「キュウ?」
火鍋(ヨウエンは――。……おい。ウーミンにつけられた傷が、まだ治ってねぇじゃねぇか)
ヨウエン「ふふ。円陣を組むなど、初めてです」
火鍋(さて、ドウは――)
ドウ「老師! 俺は、ウーミンのやつには二度と負けません! 先陣を切るのは、俺に任せてください! 俺の千一手八脚拳で――」
――ちっ。こいつは、限界だ。真・四天王との三連戦で、体にガタが来てる。
足もおぼついてねえ。
今、こいつを動かしているのは、根性だけだ。
こいつには悪ぃが――。
火鍋「――テメーらぁ! 目を開けろ。ウーミンに勝ちたいかぁあ!!」
ドウ&ヨウエン「「――おうっ!」」
シャオ「お、おう! アル!」
火鍋「――どんなことでもするかぁあ!!」
ドウ&ヨウエン&シャオ「「「――おうっ! (アル!)」」
子パンダ「キュウ?」
火鍋「――よぉぉぉぉぉしっ!!! 行くぞテメーらぁあああ!!」
「「「「――おおう!!!! (アル!)(キュウ!)」」」」
五人は、円陣の中央に、足を踏み合わせた。
肩組みが外れ、皆が自由になった。
決戦前の号令。
皆の思いはひとつに――。
火鍋「おい、ドウ。どんなことでもするって言ったな?」
ドウ「? はい、老師! 俺は、ウーミンを倒すためなら――」
火鍋「――『ド根性頭突き』ぃぃいい!!!」
――ガッツゥゥゥゥゥゥーーーーン!!
ドウ「――ーーーあいたああああああ!!」
火鍋の頭突きが、ドウの頭にカチあった。
ドウは、体の制御権を完全に失い、どさっ、と倒れた。
シャオ「ハ、ハゲー! ひ、火鍋は何回ハゲを殺すアルー!」
シャオが近づき、ドウの安否を確認する。
つるつるの額に大きなたんこぶができて、まるで膨らんだ餅だ。
火鍋「死んでねぇよ。気絶してるだけだ」
ドウは、よく浸かったタクアンのように、床にべっちゃりと寝そべっている。
火鍋「俺の『ド根性』を分けたからな。痛みはねぇよ。こいつはここに置いていく。ウーミン戦には、連れて行けねぇ」
シャオ「でも――! ハゲと約束したアル! 『ウーミンを倒すのは、早い者勝ちだ』って! これじゃあハゲが、可哀想――」
火鍋「『死んだとしても』、か?」
シャオ「!」
火鍋「命より、無念を晴らす方が大事だっつうのか?」
シャオは、言い返せない。
ヨウエン「――シャオ。私の目から見ても、ドウは満身創痍でした。これ以上無理をするのは、危険です。彼の。火鍋の、優しさです」
火鍋「俺はただ、『弟子を死なせたら俺がシャベえ』。それだけだ」
シャオ「――わかったアル」
シャオは「お前の分まで頑張るアル」と念を込め、ドウの体に添えていた手を離した。
ヨウエン「――それより、皆さんに言っていなかったことがあります」
火鍋「なんだ。言ってみろ」
ヨウエンは、携帯電話を取り出し、掲《かか》げた。
ヨウエン「実はこの戦い。もう、私たちの勝ちなのです」
シャオ「ど、どういうことアル? まだ、ウーミンが――」
ヨウエン「警察や公安特警の部隊が、山の中に潜伏し、この施設への包囲網を張っています」
シャオ「――!」
ヨウエン「事前に、匿名で黒龍拳の内部情報をリークし、彼らを集めました。ウーミンは今ひとりだと伝えれば、彼らが動き出します。黒龍拳は、国家に反逆する特級犯罪組織。その首謀者となれば、死刑は免れないでしょう」
ヨウエンは「これで、“王手”です」と、携帯電話を耳に寄せた。
*
シャオ「――それじゃ、だめアル」
シャオは、言葉を絞り出す。
ヨウエン「――気持ちはわかりますよ。お父様の仇。ラオ老師の仇。自らの手で復讐したいと思うのは、当然です」
ヨウエンは、シャオを諭《さと》すように語る。
ヨウエン「しかし、宗師に確実に勝てる見込みがない現状、突撃するのは無策と言わざるを得ません。拳法は、弱者が強者に抗うためのもの。であれば、司法に任せるのも、拳法です」
シャオ「――そんなの……。だめアル」
シャオは、頭の中でぶつ切りになっている言葉たちを、くっつけ合わせる。
ヨウエン「――シャオ。わかってください。司法の前では、復讐も罪――」
シャオ「だって――」
シャオは、ヨウエンの目をまっすぐに見つめる。
シャオ「――ウーミンが。警察の人たちを殺さない保証が、どこにあるアル?」
ヨウエン「――!」
シャオ「警察の人がたくさん来るなら、ウーミンを捕まえられるかもしれないアル。でも、ウーミンは、きっと大勢の人を殺すアル」
ヨウエン「……はい。宗師なら、そうするでしょう」
――痛いところを、突かれました。
この娘は。考えていないようで、ときに鋭いことを言う。
シャオ「そのことを。人が死ぬのを一番嫌がってるのは、ヨウエン。お前じゃないかアル?」
ヨウエン「――ふふ、どうでしょう」
ヨウエンは、まっすぐな瞳に耐えられず、目を逸らした。
火鍋「俺だって、ウーミンの野郎をぶん殴ってやるためにここまで来たんだ。その策には乗れねぇな」
ヨウエン「気持ちは、わかりますよ」
シャオ「それに、警察が来たら。――ヨウエン。お前も捕まるアルよ」
ヨウエン「――ええ。それは、当然の報いです。罪は償うべきです。私も、宗師と共に地獄に堕ちます」
――当然、死刑。
なにせ、特級犯罪組織の中枢《ちゅうすう》を担っていた元・幹部だ。
ヨウエンの頭では、すでにその判決が下されていた。
火鍋「そりゃあダメだな。テメーにはやるべきことが残ってる」
火鍋が、ヨウエンの肩に手を置く。
ヨウエン「――この私に。何が、残ってると言うのでしょう」
火鍋「忘れたのか? ばあさんとの約束を。『仕込み、ゴミ出し、その他もろもろ』だ」
ヨウエン「……」
シャオ「ヨウエン。お前は、きっと誰よりも優しいやつアル。お前なら、誰一人死なない策を、思いつけるアル」
ヨウエン「――ははっ。そんな」
この私も、ずいぶんと買い被られたものだ。
ヨウエン「――そんな策は、ありませんよ。革命に、犠牲はつきものです」
火鍋「おい、テメー。思ったよりバカだったのか」
火鍋が、自らのこめかみを指で、とんとん。と弾いた。
火鍋「俺たちがウーミンの野郎を、ぶっ飛ばせばいい。誰一人死なずにな」
シャオ「そのとおりアル」
ヨウエン「――そっ、そんな――!」
――そんなの、策でもなんでもない――。
――いや。
ラオ老師のもとで、何を学んだのだ。
物事は、シンプルでいい。
ヨウエン「――わかりました。ただし、誰かが死にそうなら、すぐに警察に合図を出し、突入させます。それでいいですか?」
皆が頷く。
シャオ、火鍋、ヨウエン、子パンダは、右手を突き出す。
先ほどの円陣の形となり、その右手を中央で揃えた。
火鍋「――いいか。俺は、ウーミンの野郎を一発ぶん殴る!」
ヨウエン「私は、宗師の野望を止める!」
シャオ「私は、ウーミンを倒すアル!」
子パンダ「キュウ。キュウ、キュウ!」
シャオ「子パンダちゃんも?」
火鍋「こいつにも、ここまでついてきた目的があるんだろうよ」
ヨウエン「では、火鍋。お願いします」
火鍋は、大きく息を吸い込んだ。
火鍋「お前らぁぁあああ!!」
ひと呼吸。
火鍋「『絶対に、誰一人死ぬんじゃねえ』ぞぉおおおおお!!!!」
「「「「――おうっ(キュウ)!!!」」」」
――ついに。
ウーミンの待つ、『宗師の間』へ。
心構えは、すべて済んだ。