最強バトルの人 / 第8話

第6話 たったひとりの魔法大戦

≫≫≫≫ 最 強 バ ト ル ≪≪≪≪ 疾槍《しっそう》のシルフロック vs 強張《こわば》りのジルハート 【名前】疾槍のシルフロック 【年齢】22 【能力】風の魔導士 ────────────── 【名前】強張りのジルハート 【年齢】50代 【能力】言論の魔導士 ────────────── ――異世界―― 「――よって、この戦争では、貴公にマジックストーンの――」 「あー、はいはい! いつも通り、敵さんをいーっぱい殺せばいいんでしょー。まかせて!」 ニコッ。 青白い髪。長いまつ毛。 豪華絢爛な鎧を身にまとった美男子は、名を疾槍のシルフロックと言った。 魔法大戦における宮廷魔導士とは。 ひとりで一般兵士1000人を超える戦力を誇り、いるだけで敵国が萎縮する存在。 それが僕。 生まれつき魔法が使えた。国は僕を恐れ、奉《たてまつ》った。 気に入らない奴はいくら殺してもいい。 僕には、それだけの価値があるから。 「――あー、早く殺したいなー。別に、君でもいいんだけどねー」 「ひっ。も、申し訳ございません。しかし、今回、敵国では、強張りのジルハートが出陣すると――」 ビクッ! 近くを歩いていた兵士たちが、みんな一斉に立ち止まる。 「――? どうしたの? もしかしてその人。僕より怖い?」 「い、いえ。貴方様ほどでは。それでは、失礼します――」 使いの者が慌てて去っていく。 愉快だ。弱い者は惨めだ。 自分で何も決められないまま、生まれつきの強者の気まぐれで命を落とす。 「――さあ、いっぱい殺しに行こうかー」 魔法戦争《ひまつぶし》の、開始だ。     *     敵国の兵士は約3000人。 その中心にいるのは。 「……あれが、敵国の宮廷魔導士。強張りのジルハートです」 「ふーん。どんな人なのかなー」 珍しい。敵も魔導士を出すなんて。 僕が出陣するときには、滅多にない。 自分のところの魔導士を使い捨てにしたくないからだ。 「興味あるなー。ちょっと」 自らを風魔法で包む。そして、突風のスピードで飛び出した。 「おしゃべりしてくる!」 「シ、シルフロック様――……!」 ビュン――。 僕は凄い。 敵国の兵士なんてお構いなく。 敵の最高戦力に会いにいくこともできる。 スタッ。 敵兵たちのざわめく声が、辺りを包んだ。 「やあ。僕は疾槍のシルフロック。君は?」       「……強張りのジルハートだ。」 [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1790417537791-41c9b47e-0adf-466a-8fe2-9e1ca4defb25.jpg]] 低い声。筋骨隆々な身体。深く刻まれた顔のシワ。髪に混じった白髪。 「ふーん、けっこうおじさんなんだねー」 「…………。」 怖くて言い返せないか。 たぶん、真面目さが取り柄で口数の少ない不器用な武人タイプの魔導士。 僕みたいな天才の気持ちは、わからないよね。 あー、興味ないかも。 兵士くんたち、いっぱい。 ここで撃ったら気持ちいいだろーなー。 「おじさんには悪いけどさー。そっちの兵士くんたち」 「――いっぱい、殺しちゃうねー――」 風魔法を特大で放つ。 風を鋭い槍にして竜巻を起こす僕の技。 疾槍《しっそう》の異名の元だ。 「――切り刻め! サウザンド・レイン――!」 「―― ❝止まれい!!❞」 ドンッ!!! 魔導士の声が辺り一帯に響く。 うるさい。耳がキーンとする。 「止まれって言ったって……!?」 なんで? 体がいうことをきかない。 体が強張っている。震えが止まらない。 早く魔法詠唱を―― 「❝止まれ!❞と言っておる。若輩者が!」 ドドドンッ!!! 声が大きい。そして低い。威圧的だ。 腹の底まで震えるような、深い声。 耳の鼓膜で聞いているのか。 それとも脳内で鳴っているのか。 わからなくなる。 眼球だけを動かして辺りを見渡す。 ジルハート以外。 味方の兵士たちも。 敵の兵士たちも。 全員、動きが止まっていた。 「そこの魔導士。❝その場で跪《ひざまず》けい!❞」 「ぐっ!?……」 体が強制的に動かされる。 僕の意思とは逆に、片膝をつく格好にされた。 まさか、言語を介した強制支配魔法とは。 くそっ! 初見殺しじゃないか!  屈辱だ! 僕が動けるようになったら、こんなおじさん、すぐに殺してや――! ジルハート「貴様は、国境を飛び越え、相手国に攻め入ることの重大さが解っているのか。」 ……うるさい。 ジルハート「そもそも、今回の魔法大戦における主たる目的とは! 魔法石と杖の素材となる原木の貿易によってもたらされる互いの利益及び! それに付随して発生する両国間の交易上の不均衡について――!」     ……うるさいって。       ジルハート「――双方が納得できる妥協点について侃侃諤諤《かんかんがくがく》議論する為に必要な最低限の武力を提示することであり! その目的については既に両国間で一定の合意が図られた上での開戦というのは既知の事実であるからして! にも関わらず貴様が敵国兵士に対し必要性を著しく逸脱した攻撃を加えようとする行為については――!」     …………正論なんて、聞きたくない。       ジルハート「――謀反的行為を起こした国家級反逆者と捉えられても致し方ないものである一方! 貴様自身に国家転覆の意思が存在しないのであれば! その実態は自国の主要交易品及び国家間の利害関係について一切理解せぬまま戦地へ赴いたという極めて無責任な無知に起因するものであり――!」       …………耳が痛い。       ジルハート「無知であることそれ自体は万人において避け難きものであるが! 自己の無知を自覚せぬ無知! または自覚する機会を自ら放棄した結果として生ずる無知については! その責任の所在を環境及び他者へ転嫁することは到底認められるものではなく――!」         ……………………これ。         ジルハート「――魔道学園における社会の授業も碌に理解せず! また貴国と我が国の過去の歴史について興味もなく! 今後学ぼうとする意思さえ持たぬことを若輩者特有の無鉄砲さと称して肯定することは! 一見すると若者の自由意思を尊重する寛容な態度にも見えるが! その実は教育及び指導の責任を放棄した無責任極まりない態度に他ならず――!」       ……………………………え? うそでしょ?         ジルハート「――また貴様自身においても! 己が強者であるという一点のみを根拠として自らの判断の正当性までが無条件に担保されると考えるのであれば! それは能力と人格及び知性を混同した誤謬であり! 戦闘能力の高さが政治的判断能力や倫理的正当性を保証するものでは断じてないのであるからして――!」           …………………………………………………………………これ、終わるの?           ジルハート「そもそも!!」 ジルハート「先般の貴様による魔法大戦時の残虐なる虐殺行為についてもだ! 必要以上の殺傷行為が敵国民の感情に与える影響! 及びそれに起因する報復感情の増大! さらには次代における両国間の外交関係悪化について一切考慮していなかったとするならば! 貴様個人の問題として処理できる範囲を既に大幅に逸脱しており――!」         ――         ジルハート「仮に! 貴様が戦場において敵兵千人を殺害したことで自国に一時的な軍事的優位をもたらしたとしても! その千人にも家族がおり! 友人がおり! 知人がおり! それらの者が抱く憎悪が将来的な国家間対立の原因となる可能性を考慮すれば! 単純な殺害人数のみをもって戦果と断ずることは短絡的と言わざるを得ず――!」         ――――――         ジルハート「また!!」 ジルハート「貴様は己より力の劣る者を惨めであると考えているようだが! そもそも強弱とは比較対象及び評価基準によって相対的に変化する概念であり! 魔法戦闘能力という限定された一指標のみをもって人間の価値そのものに優劣を設定しようとする考えは! 貴様自身が不得手とする分野において同様の評価を受ける可能性についての想像力を著しく欠いており――!」         ――――――――! あぶない。気絶していた。さすがに終わったか?           ジルハート「例えるならば!!」 ジルハート「貴様が現在身につけているその鎧を製造した職人と貴様が! 鎧の製造技術について競った場合において! 貴様がその職人より劣っていたからといって貴様自身の存在価値が否定されるのか! 否! されぬであろう! ならば何故! 魔法戦闘能力についてのみ同様の論理が適用されると考えるのだ!」         ――――――――――。         ジルハート「そしてその鎧について言えば!!」 ――――――――――鎧?           ジルハート「国家から支給された宮廷魔導士用装備を私的な美的嗜好によって改造すること自体については! 規則上認められた範囲内であるならば直ちに非難されるべきものではないものの! その装飾に用いられている金属及び宝石類の原産地について貴様は把握しているのか! 仮にそれらが今回の交易対象国より輸入されたものである場合! 貴様は己が殺害しようとした者たちの国家によって産出された資源を身につけながらその国家そのものを軽視しているという甚だ矛盾した状態にあり――!」         ――――――――――――鎧の話?         ジルハート「そこから更に考えれば!!」 ジルハート「衣食住という人間生活における基礎的要素の大半は! 己一人の能力のみをもって成立しているものではない! 食料を生産する者! 衣服を仕立てる者! 住居を建築する者! 道路を整備する者! それらの者が存在するからこそ貴様の生活は成立しているのであり! その事実を理解せぬまま己一人の力のみで生きているかのような錯覚に陥ることは――!」         ――――――――――――――あ。         ジルハート「将来的に!!」 ジルハート「仮に貴様に子が生まれた場合においても! 最低限の倫理及び勤労意欲について己自身が学ぶことなく! それを次代へ伝える責務について考慮することさえないまま親となれば! 貴様自身が現在抱えている誤った強者観を何ら疑問なく次代へ継承する危険性があり! 子とは親の所有物ではなく独立した人格を有する一個人である以上! 親の価値観を無批判に押し付ける行為についても当然慎重であるべきだが! だからといって教育そのものを放棄することが自由の尊重になるわけでは断じてなく――!」         ――――――――――――――わかった。         ジルハート「そもそも!!」 ジルハート「親になる以前の問題として! 貴様は現在二十二歳の成人男性であり! 国家より宮廷魔導士という重大な職責を与えられている以上! 若さを理由として己の行動に伴う責任の一切を免除される立場には既になく! 若者であることと無責任であることを同義として扱う昨今の風潮についても私は常々疑問を抱いており――!」       ――――――――――――――これ。無限に、終わらない?         ジルハート「無論! 若者に対して年長者と同等の経験及び判断能力を要求することもまた不当である! 経験が不足しているからこそ失敗が生じるのであり! その失敗を理由として若者の可能性そのものを否定することは教育的観点から見ても適切ではない! 故に必要なのは失敗そのものを責め立てることではなく! 失敗の原因を分析し! 次回以降同様の過ちを繰り返さぬために――!」           ――――――――もういい。         ジルハート「その点で言えば!!」   ジルハート「貴様が先程私の年齢について『けっこうおじさん』と評したこと自体については事実認識として大きな誤りがあるとは言わぬ! しかし年齢を理由として相手の能力及び価値観を推測する行為は! 貴様自身が若年であることを理由として未熟者と断定されることを甘受するのと同義であり! 自己に適用された場合に不当と感じる評価基準を他者にのみ適用することは――!」         ――――――――もういいよ。         ジルハート「そもそも!!」 ジルハート「貴様のその成人男性らしからぬ邪魔ったらしい前髪は! 昨今、世間に蔓延している娯楽文化然とした軟派で軟弱なものと断ずる他なく! 国家を預かる魔導士としての自覚が足りぬ愚かなる美的判断であり! 仮に若者の特権によって認められる若気の至りとして一定の理解を示す余地があるとしても! 視界を遮るほどの前髪が戦闘時における索敵能力へ与える影響について一度でも考慮したことがあるのか! そもそも身だしなみとは己一人の満足によって完結するものではなく! 他者へ与える印象及び職責との整合性についても考慮されるべき社会的行為の一つであり! ただし個人の美的嗜好に国家が過度に介入することについては私自身も慎重であるべきと考えているものの! だからといって何をしてもよいという結論には当然至らぬのであって――」 【【シルフロック】】 【【「もういいよーーーーーーーー!!!!!!!!!」】】       あ。 声が出た。 体も少しなら動かせる。 ギロリ。 ジルハートが睨みつける。 ! いまだ! サウザンド・レイ――。 ジルハート「姿勢が悪いな。」 「❝身を正せい!!!!❞」 ドドドドドンンン!! 大気がビリビリと震える。 僕は直立して固まった。 もういやだ。 早く終わらせてくれ。 誰か早くこの魔法を解いてくれ。 ジルハート「まだ終わっておらぬ。」 ジルハート「まだ!!」 ジルハート「全体の一割にも達しておらぬわーーーーっ!!!!!!」 ドッカーーーーーン!! 僕は。 そのまま。 目の前が真っ暗になった――――。 * 夜。 ジルハート「クドクドクド――! クドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクド――!」 ジルハート「クドクドクドクドクドクド――!!! ……ということだ。わかったな。」 シルフロック「……はい。」 ジルハート「次会う時は全ての改善をしてくるように。では、❝退けい!❞」 魔法は解けた。 でも、体が動かない。 全身の疲労が限界だ。 「……だれか、お家に連れてって……」 「シルフロック様……。敵も味方も、皆、動けません――」 もういやだ。あのおじさんにあいたくない。 もうせんそうにはでたくない。ぼくはそうおもった。     ◆━━━ 最 強 バ ト ル ━━━◆ 疾槍のシルフロック vs 強張りのジルハート ――――――勝者 ジルハート ――――決まり手 説教

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