最強バトルの人 / 第20話

第12話 最強の意地

――黒龍拳『四天王』のひとりが、突然現れた。 体躯の良い男。獲物を刺すような瞳。長く伸びた黒髪の鋭い毛先が、肩まで伸びている。 「――よぉ。俺は神雷火《シェンレイフオ》。小娘。宗師を狙ってるってのは、お前だな」 ――この男、強い。 ウーミンに迫っているとは思っていたが、まさか、ここまでとは。 少女は、自らのおなかを撫でた。 シャオ(……腹五分目。ってとこアルか)     誰にも言ったことはない。ハゲにも、子パンダにも。 しかし、この私。――シャオには、ひとつだけ明確な弱点がある。それは。 シャオ(――おなかがすいたアル)グ- そう。空腹である。 今朝、ハゲと一緒にご馳走を食べたが。       ――本当は、あんなもんではぜんぜん足りない。 ハゲが昨日から、帳簿をつけていたり臨時収入に浮かれているのをみて、私なりに気を遣っていたのだ。 ケチハゲめ。あのモヤシ炒めも、美味しそうだった。 日本で久世を見た時から、モヤシ炒めの口だったのに。なんで。 ――こんなことなら、ハゲから分けてもらっておくべきだった。       これは冗談ではない。少女にとっては切実な悩みだった。 シャオ本来の実力は、腹十分目のときにしか発揮されない。     ――シャオがなぜ強いか。シャオは相手を“読む”からだ。 実力を読む。動きを読む。技を読む。 勝てないなら戦わない。勝てるなら戦う。 一見感覚派に見えるシャオだが、戦闘時においては頭が切れる。というより、感覚でわかるのだ。 そして、少女から見た神雷火《シェンレイフオ》と名乗る男の実力。 シャオ(――本来の私と、互角アル) しかし今は腹五分目。 ドウはまだ弱い。 子パンダは戦力ではない。 火鍋は。――さっき、何回聞いてもわからなかった。たぶん、仲間ではない。 ただの強いゴロツキだ。じーっと見ていたらわかる。『拳法家ですらない』。つまり、詰んでいる―― そう考えていた時、『四天王』のひとりの後ろから、もうひとりが現れた。 シャオ(――……! ……そりゃそうアルか) 互角な相手に、ひとりで挑むバカはいない。 もうひとりも、神雷火《シェンレイフオ》と同格だった。 「俺は暴風火《バオフォンフオ》。シャオ・ロンパオ。貴様に用がある」     ―――――― こんにちは、作者です。 シャオは今、強さの分析をしています。 でもそれは、シャオにしかわからない感覚的なものです。 だから、その内容を皆さん向けに変換しました。 ぜひ、計算してみてください。 Q.どうすれば勝てる? シャオ 7 × 50% ドウ  3 火鍋  6 神雷火 7 暴風火 7 A. ―――――― シャオ(……! 三人で戦うアル。それでも敵わないアルが、もしかしたら、もあるアル!) 少女はさらに思考を巡らせる。 シャオ(いや……、だめアル。この実力差だと、ハゲのやつは……) 少女が、結論を出した。その間、1秒。 シャオ(――私と火鍋が、協力して、ハゲだけは逃す。それしかないアル) *     神雷火「さあ、その娘をこちらに……」 ドウ「千手八脚拳ーーーーーっっ!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドド!!!! 私が戦闘分析をしている間、ドウはもう自らの拳法の極意を打っていた。 ああ、終わった。 おい! ハゲ! そいつお前の2倍以上アルよ!!! ツッコみたい気持ちを抑えながら、神雷火に向けてどんな技を打ち込めばいいか考えていると―― 暴風火「血の気の多いハゲだ。 っふん!!」 ゴンッ―― それより早くもうひとりの拳が、ハゲの脳天を揺らした。 ドウ「っっっっぐうッ!」 神雷火「焦らずとも、お前も対象だ。すでに配下のものを何人も倒しているだろう」 ドボォ! ハゲの腹に拳がめり込む。ハゲは吹き飛び、壁に激突した。 ガシャアアアアン 相手は強い。しかも、連携まで取れている。 シャオ「はいやーー!!」 私は、体を空に投げ出し、くるくると回転しながら蹴りを放った。 狙うは、四天王ふたりの頭の、ちょうど間。 蹴りは当たらない。 当てるためではない。距離を開かせるため。 床に降りた私は、相手の目を睨んだ シャオ「――待つアル! こいつは、ただのハゲアル。黒龍拳は、こんな弱いハゲにも二人がかりでないと怖くてしょうがないアルか?」 さっきの戦闘分析は、私が10年間かけて習得したものだ。 こいつらには、私が空腹で力を落とすことも。 今の私は本来の実力の半分程度だということも、知られていないはず。 私が、一対一に持ち込む。 時間を稼いでいる間、隙を狙って、ハゲには逃げてもらう。 ハゲを旅に連れてきたのは私だ。 ハゲが着いていきたいと言ったとき、私も固く断らなかった。 肉まんの行列に並ばせたり、荷物持ちをさせたり、旅の間、軽口を叩く相手としては悪くない。そう思ってしまったのだ。そして今では、ウーミンを倒すために必要な存在だった。 もちろん私も、隙があれば逃げる。だからまずは―― ドウ「千手八脚拳ーーーーーっっ!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!       ああ。もう。このハゲは。バカハゲは。 まっすぐ行っていっぱいぶん殴るしかないのか。 頼むから、今はやられたフリをしていてくれ。 暴風火「懲りないハゲだ。これでも喰らえ――」 暴風火の拳が振り下ろされそうになったとき、ハゲが、私も見たことのない構えをとった。片足をあげる蹴りの構えだ。 そして、相手より前に、放った! ドウ「――八脚《はっきゃく》っ!!」 ドウの蹴りが、八発。 脛。 膝。 丹田。 脇腹。 鳩尾。 喉。 顎。 こめかみ。     暴風火の体を、下から上へ蹴り上げる。 暴風火は苦しそうによろめいた。 シャオ(!) ドウ「医術書をも学び! 人体の急所を正確に蹴り抜く。それが! 千手八脚拳の秘技っ!! 八脚《はっきゃく》だっ!! もう一度食らえっ! 八きゃ――」 今度は、八発のうちの一発も打てず、ドウの足はもうひとりの神雷火によって捕まった。そして―― 神雷火「っっふん!!」 ドシャーーーアアン! ドウはぶん投げられ、壁にめり込んだ。 ドウ「――ぐうっ!!」 シャオ「ハゲ!!」 少女がドウをかばう。すると、今まで動かなかった大男が動き出した。 火鍋「おらぁっ!!」 バシャアアアアアン 神雷火「っぬうっ!!」 暴風火「っあっつぅ!!」 ゴロツキおじさんだ。さっきまでハゲが使っていたやかんを投げ、中の熱湯をぶちかけた。 さらに―― 火鍋「てめえら戸を壊すんじゃねぇ!!」 ちゃぶ台の足を両手でもち、フルスイング。 神雷火のこめかみに、ちゃぶ台の角がクリーンヒットした。 神雷火「っっっっっっつうっ!!」 効いている。そうだ。さっきの分析、間違っていた。 実力が足りないなら、武器を使えばいいのだ。 遅れて構えだす四天王ふたり。 暴風火「……貴様も、拳法使いか! 名を名乗れ!」 火鍋「悪ぃーがよぉ。俺は拳法家じゃねえ」 火鍋の全身から湯気が立ち上る。 体温が上昇している。 火鍋「俺のはなぁ。“拳法《けんぽう》”じゃなくて、“喧法《けんぽう》”ってんだ」 ゴウッ! さっきまでビショビショに濡れていた衣服が、みるみるうちに乾く。 火鍋は、黒い拳法着を長い学ランのように改造していた。   シャオたちにはわからぬが、まさに、昭和の硬派な不良《ツッパリ》がそのままおじさんになったかのような風貌だった。 たじろぐ四天王を相手に、威圧的に啖呵をきる。     火鍋「――テメエ等の目的は、わかってんだよ。まったく、うまく変装しやがって、シャバイ奴らだ……!」 火鍋が大きく息を吸い、大声を放った。       「……テメー等の正体はっ!! 借金取りだろぉ!??」               神雷火「違うぞ」 暴風火「違うな」 ハゲ「ちがいます」 シャオ「違うアル」 子パンダ「キュウ…」       火鍋「あれ?! 違うのぉ!?」     男ってやつは。なんでなんにも考えてないんだ。 シャオはため息をついた。 *     神雷火「つうぅぅぅ」 暴風火「大丈夫?」 さっきのちゃぶ台フルスイングが相当効いたのか、まだこめかみを抑えている。 ハゲは、また殴られ、部屋の隅で倒れている。 その間に、私はゴロツキ借金おじさんに耳打ちをする。 コソコソコソ 火鍋「……何ぃ!? 四天王だとぉ!?」 「ふつう、二人がかりで襲ってくるかぁ!??」 シャオ「ほんとアル」 私は、私が一対一でやるアル。巻き込んですまなかったアル。 そういった。 こんな打倒ウーミンとは無関係の、爸爸《ぱーぱ》とは似ても似つかないゴロツキ借金滞納おやじとは、会わないほうが良かった。ハゲでも間違えることはあるアルな。そう思っていると。   火鍋が、四天王ふたりの前に立ちふさがり、両ポケットに手を入れ、仁王立ちをした。   火鍋「おい。黒龍拳さんよぉ。俺も俺でテメー等には恨みがあるんだわ」   神雷火と暴風火が構える。 火鍋は怒ってる様子で、話をつづけた。     火鍋「……ウーミンのクソ野郎! 隣町のロンパオを殺しやがって……っつ!!」     怒りが上昇していく。     火鍋「……あン野郎は、昔からいけすかない野郎だったが……っ! 金だけは持っていた……っ!! それなのに!!」     火鍋「……テメー等のせいで!! 俺はもうロンパオから金を借りられなくなっちまったじゃねぇか!!!」                   火鍋「しかも今!! 俺は!! そのガキ共から、金をせびられている……!!!」               「絶対にっ!! ただで返すわけにはいかねぇーよなぁ!??」           沈黙ののち、敵が口を開いた。 神雷火「借金については、貴様の責任だとしかいう他ないが……。面白い!! 貴様も黒龍拳に盾突く者とみなそう」 火鍋「あァン!? 借金ってのはなぁ! 漢の甲斐性――」 暴風火「2対3でどうだ」 暴風火が指を立てる。 暴風火「我ら二人と貴様ら三人。それなら少しは楽しめるだろう」 シャオ「!」 よし! それだ。当初の目的であった2対3に持ち込める。ハゲに今のうちに作戦を伝えればいい。 シャオがそう考えていると、火鍋が割り込んだ。 火鍋「1対2だ」 神雷火「……ふん。少しお前を買いすぎていたようだ。まさか我ら1人に貴様と小娘のふたりがかりとは――」 火鍋「違えよ」 ゴオォォ!! 火鍋の体の熱がさらに上がる。 火鍋の濡れていた髪の毛が乾き、ピーーーーンと立った。 リーゼントだ。 昭和の不良がみな憧れたであろう、前髪が大きくせり上がった立派なリーゼントになった。   [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1790417635086-ab5ed7f4-0ab3-4ffc-ae33-47782abfa56d.jpg]] 火鍋「テメー等なんざ、俺一人で十分なんだよ」 シャオ「! 無茶アル!」     少し間をおいて、四天王たちが笑い出した。 暴風火「――はぁーはっはっは! 面白い冗談だ! 死にたいらしいな」 火鍋「おい!!!!」     火鍋の大声が、部屋中を満たす。 四天王に向けられた声ではない。 私たちだ。私と、ハゲに向けられたものだ。 火鍋「シャオとドウ。とかいったな。ガキんちょ共。俺の弟子にしてやる。だから俺の喧嘩をよぉーく見てな。絶対に手出しすんじゃねぇぞ。」 ゴォォォォと、火鍋の周りが陽炎のように揺れる。 熱気が止まらない。部屋中がサウナのように暑くなった。     シャオ「! なんでアルか!? だって、爸爸《ぱーぱ》とはともだちじゃないって――」 火鍋「漢ってのはな。いざというときに意地はって、ガキを守るもんなんだよ。だってよ――。」 火鍋が四天王ふたりにメンチを切る。       火鍋「漢が。」     「『ガキのふたりも守れねぇーで』怖気づいてちゃ、シャバイからな。」     ゴオオオオ!! 部屋の熱気がピークに達する。         火鍋「喧法の極意を教えてやる。『《《最強の意地》》』だ。来な。」     天下御免の喧嘩が。始まろうとしていた。

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