最強バトルの人 / 第106話

第40話 おしまい

――老厨中華飯店。 チリンチリーン 「あ、いらっしゃいませアルー」 「――《《你好| ニーハオ》》。」 「――? あ! お前。この前、山で会った、目が細い――」 「目が細くて何が悪いんですか。」 「す……、すまんアル」 「――全く、これだから主人公は。なにがアルですか」 「……?」 シャオ・ロンパオ。この物語の、主人公。 私の策を、何度も台無しにした女。 ――ですが。 それも、今日で終わりです。 部下に指示して、店中に爆弾をつけさせた。 後は、私がスイッチを押せば終わり。 この物語は、おしまいになる。 私が、みんな、殺す。 「――ふふふふふ。おしまいです。ふふふ」 「――? ……ばぁちゃん、ちょっとくるアル」 「なんだい」 「こいつ、変アル。なに言ってるか、わからないアル」 「どれ。――ん? この傷は――」 爆弾だ。 爆弾。 爆弾。 全部おしまい。 みんな死ぬ。   「……ちょっと待ってな」 ラオ・チュウが、厨房へ戻っていく。 ――今です。 スイッチを押せ。 押すんだ、妖燕火《ヨウエンフオ》。 スイッチを。 スイッチを――! 右手に、力を込める。 押すぞ。押す。 押してやる。   押して――。 「ハゲ、こいつアル。山の中で会った怪しいやつ」 「ああ。見たことがある。ウーミンの近くで、隠れていた男だ」 ――うるさい。 爆弾。 爆弾。 爆弾。 爆弾。 スイッチ。 スイッチ。 スイッチ。 スイッチ。 爆弾。 スイッチ。 爆弾。 スイッチ。 押せ。 爆弾。 スイッチ。 爆弾。 スイッチ。 押すんだ。 爆弾。 スイッチ――。           ことん。         「はい、おまちどう。あんた、腹空いてたろ?」 目の前に、どんぶりが置かれた。 拉麺《ラーメン》。 白い湯気が、ゆらゆらと上がっている。 ……拉麺。 そんなもの、知りません。 文字でお腹は膨れません。 私は、爆弾のスイッチを押すのです。 スイッチ。スイッチ。 爆弾。爆弾……。 目の前の拉麺から、湯気が上がっている。 違う。 こんなものは、ただの文字だ。 スイッチを押せば。 全部、終わる。 だから。 押せ。 押すんだ。 押せ。 押せ。 押せ――!           ラオが。   大きく息を膨らませる――。             【【ラオ「かーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっ!!!!!!!!」】】   !!!!!!!!!!   とてつもない大声。 耳鳴りで、頭の中で爆弾が破裂したかのようだ。 何も、考えられない。 ……爆弾? ……スイッチ?       …………私は。 …………私は、何を……。 ラオ「早く食いな。冷めたらもったいないよ」 「…………」 目の前を見る。 ――拉麺。 拉麺だ。 湯気が出ている。 そうだ。早く食べないと。   冷める前に。 ずずっ。 「…………」 ずずずっ。 ごくん。         ずずずずっ。 ずずずずっ。 ずずっ、ずずずずっ。     ――ごくん。       ずずずっ。 ずずずずずっ。       ――美味しい。         妖燕火「――美味しい、です」グスッ ヒック ヒック ラオ「そうかい。よっぽど怖い目にあったんだね。食べたら、2階で寝ていきな」     ――涙? ――私は。 何を考えていたんでしょう。 何か。とても怖いものを、見ていたような。 悪い夢を見ていたのかもしれません。 ずずずっ。 ドウ「……ラオ老師」 ラオ「なんだい」 ドウ「あの男、爆弾がどうとか……」 ラオ「そんなもの、ないよ。毎日掃除してるじゃないか」 シャオ「……あの男、泣いてるアル」   ラオ「ああ。きっと、何か悪いものの“流れ”でも、読んじまったんだろうね」 * ――。 「お前、目が細くて気持ち悪いんだよ!」 ボカッ。ボカッ。 ぎゃはははは! バキッ。ボコッ。 「……うぅ……強く……強くなるんだ……!」ヒック ヒック *   チュン、チュン、チュン。 ――朝。 ――。 ――ここは、どこでしょう。また、あの夢を見てしまいました。 ――私は。何をしていたのですか? ――……。 火鍋「おい」 ヨウエン「!! ひ、火鍋!? なぜここに……!」 火鍋「何言ってんだ。テメーが昨日来たんだろ」 ヨウエン「――わ、私が!?」 火鍋「で。黒龍の下っぱヤローが、ここに何のようだ? 殴り込みか?」ボキッ ボキッ ヨウエン「――い、いえ――」 ここは、老厨中華飯店? 狭い部屋だ。喧法の火鍋が、私を威嚇している。逃げ場はない。――策も、ない。 ヨウエン「――すみません、なぜ、私はここにいるのでしょう」 火鍋「あ゛ぁ!? テメーから来た癖に、訳のわからんヤローだ!」 ヨウエン「いえ! 私は、ただ――」 そうだ。 私は、昨日――。 拉麺を食べた。 ラオ・チュウの拉麺だ。 ヨウエン「――私は! ラオ・チュウの……!」 火鍋「あ゛ぁん!? テメーもしかして、ばあさん殺しに来たんだなぁ゛あ!?」 そうだ。いや――どうだったか。 ヨウエン「わ、私は――」 火鍋「『ド根性ゲンコツ!!!!!!!』」 ――ッガッッツゥゥゥゥゥン!!!!! ヨウエン「うっぎゃあああああああああ!!!!」 ――老厨中華飯店、一階では。 うっぎゃああああああ――。 シャオ「あ、起きたアルな」 ドウ「元気みたいだな」 子パンダ「キュウ」 * 2階から、伸びている妖燕火をかついだ火鍋が、のっしのっしと降りてきた。 さながら、獲物を仕留めた熊である。 火鍋「おう、ばあさん。こいつシメといたぞ」 ラオ「何やってんだい。あたしは、なんか危なっかしいから見てろって言っただけだよ」 火鍋「そうだったか!? がはははは!」 ドサッ。 妖燕火の身体を、厨房の床に置く。 火鍋「おい、シャオ! ドウ!」 ふたりが、振り向く。 火鍋「ウーミンの居場所を知ってるヤローが、のこのこやって来やがったぞ!」 シャオ「!」 ドウ「!」 火鍋「こいつは、たしか妖燕火! 黒龍拳の参謀だかをやってるヤローだ。ウーミンの一番近くにいるヤツだな」 シャオ「なんで火鍋が知ってるアル?」 火鍋「あぁん? 道行くヤツらに片っ端からメンチ切ってたって言ったろ? あれで黒龍拳の下っぱを捕まえて、吐かせただけだ。アイツら、ビビっちまって、シャベえったらねえぜ! がっはっは!」 ドウ「さすが老師! 勉強になります!」 ラオ「そうかい。なら、そろそろだね」 シャオ「?」 ドウ「?」 火鍋「テメーら、何、とぼけてんだ。カチコミにいくぞ。ウーミンのクソ野郎んとこになぁ!」 ――! 私が10年間探していた、ウーミンの居場所。 ひとりでは手がかりすら見つけられないでいた。 この――床で伸びてる、よくわからん男は。 ――ウーミンの居場所を、知っている。 爸爸《ぱーぱ》の仇を。 知っているのだ。 ついに。ついに、だ。 長かった旅が。 もうすぐ終わるのかもしれない。     ――ぶるっ。 体が震えた。 これは――武者震いだ。         ――きっと。

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