Tihoo / 第64話

第六十四話 「真夏の雪合戦(かっせん)」

真夏の太陽が照りつける中、突如として出現した銀世界。 俺の物理魔法によって雪景色と化した庭で、事態は予想外の方向へと転がり始めていた。 「ゆーきだー! つめたい! なげる!」 「きゃあっ! ミリム、いきなり雪玉をぶつけないでくださいまし! ……ふふん、やりましたわね? これでも食らいなさい! 王家直伝・光速スノーボール!」 「わっと。危ないわねぇ。……ねえボウヤ、せっかくだし『雪合戦』しましょ? チーム対抗で」 クロエの提案により、俺の平穏な休息は終わりを告げた。 ただの雪遊びではない。魔法の使用(殺傷能力のあるものを除く)が許可された、ガチの戦闘演習だ。 チーム分けは以下の通りとなった。 【ブラボーチーム(理系&物理重視)】 ・ヴィクトル(俺):司令塔兼エンジニア。物理演算による弾道計算を担当。 ・アリア:スナイパー。氷魔法による超遠距離精密射撃を担当。 ・レオンハルト(※庭師作業中に徴用):タンク。筋肉による肉壁&投擲兵。 【レッドチーム(感覚派&チート能力)】 ・クロエ:トリックスター。事象改変による撹乱を担当。 ・ミリム:アタッカー。圧倒的な身体能力による突撃担当。 ・シャルロット:グレネーダー(爆弾魔)。光魔法による広範囲爆撃を担当。 審判はエリス。戦場は障害物(庭木、岩、エリスが急遽設置した土嚢)が点在する広大な庭全体だ。 ――ブリーフィング開始。 「……いいか。これは遊びじゃない。物理法則(ルール)に基づいた戦争だ」 俺は土嚢の陰に身を隠し、アリアとレオンハルトにハンドサインを送った。脳内には、庭全体の3Dマップと、敵の位置予測がHUD(ヘッドアップディスプレイ)のように浮かび上がっている。 「目標は敵チームの殲滅。レオンハルト、お前は前線でミリムの注意を引きつけろ。奴の機動力は脅威だ」 「了解したであります師匠! 我が筋肉を盾とし、幼き竜の猛攻を食い止めてみせましょう!」 庭師作業で泥だらけの騎士が、雪玉を両手に持って敬礼する。 「アリア、お前は後方の高台(テラスの屋根)に陣取れ。狙うはシャルロットだ。奴の広範囲魔法は厄介すぎる。先に潰す」 「……了解。氷の弾丸(スノー・バレット)装填完了。風速補正、仰角調整……いつでもいけます」 アリアが眼鏡を光らせ、氷魔法で硬度を増した特製雪玉を構える。その姿は完全に歴戦のスナイパーだ。 「俺は遊撃しつつ、全体の弾道支援を行う。……作戦開始(ミッション・スタート)!」 エリスの開始ホイッスルが鳴り響いた瞬間。 ドォォォォン!! 前線で凄まじい爆音が轟いた。 『こちらタンク! 敵アタッカー(ミリム)と接敵! 速い! 雪玉が散弾銃のように飛んできます!』 無線(風魔法による通話)からレオンハルトの悲鳴が聞こえる。 視界の端で、雪煙を上げながらミリムがジグザグに突進し、レオンハルトが筋肉で生成した雪の壁でそれを防いでいるのが見えた。 「おーほほほ! わたくしの輝きにひれ伏しなさい! 【閃光雪玉(フラッシュ・スノー)】乱れ撃ちですわ!」 後方から、シャルロットが光魔法を付与した発光する雪玉をデタラメにばら撒いてくる。あれは雪合戦の投擲じゃない。クラスター爆弾だ。 「……チッ、視界が悪い。アリア、目標を捕捉できるか?」 『ネガティブ。敵グレネーダー(シャルロット)は岩陰に隠れています。……いえ、今顔を出しました! 距離300、風向き左から右へ微風。……排除します』 シュンッ。 アリアの指先から放たれた氷の雪玉が、一直線にシャルロットの眉間へと吸い込まれていく。完璧な狙撃だ。 だが。 ――パチン。 乾いた音が響き、アリアの雪玉がシャルロットの顔の直前で、突如として「直角に」軌道を変えて地面に落ちた。 『……!? 弾かれました! 物理障壁ではありません。弾道そのものが曲げられたようです!』 「……クロエか」 俺は舌打ちした。岩陰から、ニヤニヤと笑う銀髪の少女が姿を現した。 「キキッ、残念だったわね。私の『事象改変』の前じゃ、単純な直線攻撃なんて当たらないわよ?」 クロエが指を振ると、彼女の手元に握られていた雪玉が忽然と消え、次の瞬間、レオンハルトの真後ろの空中に再出現した。 「ぬぉっ!? 背後から!? ぐわぁぁぁぁ!!」 [KILL LOG] クロエ beat レオンハルト (headshot) レオンハルトが雪の中に沈んだ。タンクが落ちた。 「……厄介だな。物理法則を無視するチート野郎が相手か」 俺は残弾(手元の雪玉)を確認する。あと3つ。 「アリア、狙撃を続けろ。クロエの注意を引け。その隙に俺がシャルロットをやる」 『了解。……師匠の背中は、私が守ります』 アリアが次々と氷の雪玉を放ち、クロエがそれを事象改変で弾く。その攻防の隙を突き、俺は土嚢から飛び出した。 「見つけましたわヴィクトル! 覚悟ぉぉぉ!」 シャルロットが特大の光る雪玉を構える。 遅い。 俺は走りながら、手元の雪玉に複雑な演算式を組み込んだ。 ――【物理演算:三次元弾道計算・複合力場投擲】 俺が投げた三つの雪玉は、それぞれ異なる軌道を描いた。 一つ目は、マグヌス効果を極限まで利用した超カーブボール。シャルロットの防御魔法の死角である真横から回り込む。 二つ目は、空気抵抗をゼロにした超高速直球。これは囮だ。 そして三つ目は――上空高くへと投げ上げられた、遅延式の迫撃砲弾。 「えっ? きゃあっ、横から!? 防げませ――」 バシュッ! カーブボールがシャルロットの側頭部に直撃した。 [KILL LOG] ヴィクトル beat シャルロット 「残るは二人。……ミリムは?」 俺が周囲を警戒した、その時。 「ししょー! みーつけた!」 ズドォォォン!! 真横の雪山が爆発し、潜伏していたミリムが飛び出してきた。至近距離。回避不能。 「しまっ――」 「がおー! ミリムの勝ちー!」 ドスゥゥゥゥン!! ミリムが体当たりで俺に抱きつき、そのまま二人で雪の中をゴロゴロと転がった。物理的な雪玉ではないが、これは判定的にどうなるんだ? ピピーッ! エリスのホイッスルが鳴り響いた。 「試合終了です。……ヴィクトル様、ミリム様の『捕食攻撃(ハグ)』によりダウンと判定します。よって、勝者レッドチーム!」 「やったー! お肉食べるー!」 「あらあら、ボウヤったら。最後は竜に食べられちゃったわねぇ」 「くっ……師匠を守りきれなかった……私の不覚です……」 「あいたたた……筋肉が、凍傷で悲鳴を上げているであります……」 真夏の庭に、雪まみれになった全員の笑い声と、悔しがる声が響き渡った。 たかが雪合戦。されど、俺たちにとっては命がけ(?)の戦場だった。 俺は冷たい雪の上に大の字に寝転がり、青空を見上げた。 ……まあ、たまにはこんな騒がしい休日も悪くないか。
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