Tihoo / 第65話

第六十五話 「真夏の雪合戦の後はコタツ。机の下でホムンクルスが発情した」

庭でのガチすぎる雪合戦を終え、俺たちは身も心も――そして何より物理的に――冷え切っていた。 「……さむいですわ……わたくし、もう指先が動きませんの……」 暖炉の前で、シャルロットがガタガタと震えながら毛布に包まっている。 アリアも鼻の頭を赤くして、無言で両手に息を吹きかけていた。 「おいおい、お前らが雪玉を本気でぶつけ合ってたからだろ。……仕方ない、あれを出すか」 俺はリビングの中央に大きめのローテーブルを置き、その上に特大の分厚い布団を被せた。さらに、テーブルの裏側に【熱放射(サーマル・ラジエーション)】の術式を刻み込んだ魔石をセットする。 「……師匠、これは?」 「『コタツ』だ。俺の故郷(という設定の遠い異国)の冬のアーティファクトさ。中に入ってみろ。熱の対流と赤外線輻射が、布団という断熱材によって完璧な『熱平衡状態』を作り出すんだ」 「熱平衡……よくわかりませんが、入ります」 アリアがこたつ布団をめくり、すかさず俺の右隣のポジションを陣取った。 「あ……温かい……。師匠、これは素晴らしい魔法具ですね。魔力の消費も極めて少なく、それでいて体の芯から……ふぁ……」 数秒で、アリアの表情がとろけた。絶対零度のスナイパーが、ただのネコチャンになった瞬間である。 「わたくしも! わたくしも入りますわ!」 「ミリムもはいるー!」 シャルロットが俺の正面に、ミリムがその隣に潜り込む。 「あら、私もお邪魔しようかしら。……よいしょっと」 そして、最後にやってきたクロエが、アリアの反対側――つまり、俺の左隣にスルリと滑り込んできた。 これで、狭いコタツの中は四人の女子(と一匹の竜)の足で満員状態となった。 「エリス、ミカンと温かいお茶を頼む」 「かしこまりました。……皆様、コタツの魔力に当てられて堕落なさいませんよう」 エリスが山盛りのミカンをテーブルに置いていく。 外の雪景色を見ながら、ぬくぬくと温まる。最高のスローライフだ。 ……そう思っていた、最初の五分間までは。 ――スリッ。 「……ん?」 コタツの中で、何かが俺の右足のふくらはぎに触れた。 布越しではない。完全に素肌の感触だ。 チラリと左隣を見る。 クロエが、片手でミカンの皮を剥きながら、俺にだけ聞こえる微かな声で「キキッ」と笑った。 いつの間にか、彼女はコタツの中でタイツを脱ぎ捨てていたらしい。 ――スリスリ……。 クロエのひんやりとした素足の指先が、俺のズボンの裾を器用にめくり上げ、素肌のすねを撫で上げてくる。 「っ……!」 俺はビクリと体を震わせ、慌てて咳払いをした。 「し、師匠? どうかなさいましたか?」 右隣でミカンを食べていたアリアが、不思議そうにこちらを覗き込む。 「い、いや! なんでもない。ミカンが少し酸っぱくてな!」 「そうですか? 私のは甘いですよ。……あーん、しますか?」 アリアが少し頬を染めながら、剥いたミカンを差し出してくる。 「あ、ああ、もらう……」 俺がアリアの方へ顔を向けた、その一瞬の隙だった。 クロエの足が、俺の膝を越え、さらに『上(・)』へと侵入してきたのだ。 (おいバカ! お前、どこまで足を……!) 俺はテーブルの下でクロエの足を押し返そうと、手を入れた。 だが、それを待っていたかのように、クロエの足の指が俺の手首に絡みつく。そして、さらに奥――俺の太ももの内側へと、柔らかく生々しい感触を押し当ててきた。 「ふふっ。ボウヤ、顔が赤いわよ? コタツ、少し熱すぎたんじゃない?」 クロエが、意味深な視線を送ってくる。その顔は、右隣に座っているアリアと完全に瓜二つだ。 一番弟子に見つめられながら、同じ顔をした女に机の下で太ももをまさぐられる。背徳感と焦燥感で、俺の脳内のエントロピーが爆発しそうだった。 「わ、わたくしのミカン、種がありましたの! 不敬ですわ!」 正面でシャルロットが騒いでいるが、俺の耳にはほとんど入ってこない。 ――ツゥー……。 クロエの足の親指が、俺の太ももの内側、かなり際どいラインをゆっくりと這い上がる。 先日の『エルフの宿屋での夜』の記憶がフラッシュバックし、下腹部に熱が集まっていくのが分かった。 (やめろ……ッ! ここで反応したら、立ち上がれなくなる……!) 俺は必死に顔の筋肉を引きつらせて平静を装いながら、机の下でクロエの足を強めに抓(つね)った。 「んっ……♡」 クロエが、小さく、しかし酷く艶っぽい声で喘いだ。 「……ッ!?」 右隣のアリアが、ピクリと反応した。 「……クロエ? 今、変な声を出していませんでしたか?」 アリアの眼鏡の奥が、鷹のように鋭く光る。 「え? 気のせいじゃない? ミカンの筋を取るのに集中してただけよ」 クロエはしれっと嘘をつきながら、今度は『手』をコタツの中に潜り込ませた。 そして、俺の手をギュッと握り、自身の素肌の太ももへと強引に誘導する。 滑らかな肌の感触が、俺の掌に直接伝わってきた。 (このアマ、正気か!?) 「……師匠」 不意に、アリアの声が一段階低くなった。 「はいっ!?」 俺は裏返った声を出してしまった。 「……師匠の体温が、急激に上昇しています。心拍数も、平常時の2倍。おまけに、発汗量も尋常ではありません。……まるで、極度の緊張状態か、あるいは『興奮状態』にあるかのようです」 アリアの視線が、俺の顔から、コタツの布団へとゆっくりと下りていく。 「こ、これはコタツの輻射熱がだな! 赤外線の波長が俺の魔力波長と共鳴して……」 「言い訳は不要です」 アリアが、コタツ布団の端をガシッと掴んだ。 (終わった……! 物理的に死ぬ……!) バサァッ!! アリアが布団を勢いよくめくり上げた。 「……何も、ない?」 アリアが目を瞬かせる。 コタツの中では、俺とクロエはキッチリと行儀よく正座しており、お互いの手も足も全く触れ合っていなかった。 布団がめくられるコンマ一秒前。クロエが自身の得意魔法である【事象改変】を使い、一瞬で「ただ普通に座っている状態」へと空間をスキップさせたのだ。 「あら、アリア? いきなり布団をめくるなんて、お行儀が悪いわよ。寒気が逃げちゃうじゃない」 クロエが、何食わぬ顔でミカンを口に放り込む。 「……気のせい、でしたか。……失礼しました、師匠」 アリアは腑に落ちない顔をしながらも、布団を元に戻した。 「ほ、ほら、シャルロット! 新しいミカンだ! どんどん食え!」 俺は寿命が十年縮んだ思いで、震える手でミカンを配った。 しかし、ホッとしたのも束の間。 コタツ布団が下りた瞬間、再びクロエの冷たい足先が、今度は躊躇なく俺の『股間』にピタリと押し当てられた。 「……ッッッ!!」 俺は声にならない悲鳴を上げ、白目を剥きそうになった。 「キキッ。……夜まで待てないなら、今ここで続き、してあげてもいいのよ? ボ・ウ・ヤ♡」 耳元で、アリアと同じ顔をしたホムンクルスが、師匠と同じ口調で甘く囁く。 真冬の魔法具の中で、俺の下半身だけが制御不能のメルトダウンを起こしかけていた。 この屋敷に、本当の意味での平和なスローライフが訪れる日は、まだまだ遠そうだった。
「コタツの中エッッッ」「アリアにバレる寸前のヒリヒリ感たまらんw」 と思っていただけたら、 【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!

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