Tihoo / 第13話

第十三話 「魔術学院の落ちこぼれクラスに行ったら、生徒が全員イキっていたので絶望を与えてみた」

王立魔術学院。 そこは、国中のエリートたちが集い、将来の宮廷魔術師や騎士を育成する最高学府だ。 その一角にある、ボロボロの木造校舎。 通称『掃き溜め』――Fランククラスの教室の前で、俺は立ち止まっていた。 「……ここですか、師匠」 隣に立つアリアが、汚物を見るような目で校舎を見上げる。 「ああ。学院長に泣きつかれたんだ。『金貨500枚出すから、あの動物園をどうにかしてくれ』とな」 金貨500枚。 ポチの食費一ヶ月分だ。これだけの報酬が出るということは、よほど手に負えない連中なのだろう。 「合理的判断ですね。……ですが、中から殺気がします」 アリアが言う通り、教室の中からは怒号と何かが破壊される音が響いていた。 「行くぞ」 俺は躊躇なくドアノブに手をかけ――スライドさせた。 バシャァッ!! 頭上から、大量の水が降ってきた。 黒板消しトラップの進化版、水入りバケツだ。 ――【液体蒸発(エヴァポレート)】 俺は指一本動かさず、瞬時に魔法を発動。 俺とアリアにかかるはずだった水は、一瞬にして白い湯気となり、霧散した。 「……ほう」 教室の中が静まり返る。 中には、制服を着崩した不良、化粧に夢中な貴族令嬢、そして机の上で寝ている巨漢など、三十人ほどの生徒がいた。 全員が「なんだこいつら」という目で俺たちを見ている。 「あーあ、つまんねーの。直撃すると思ったのに」 教室の一番奥、教卓に足を乗せて座っていた赤髪の少年が、つまらなそうに欠伸をした。 このクラスのリーダー格、ライルだ。 魔力量は多いが、制御が下手すぎてFランクに落ちた問題児らしい。 「あんたが新しい担任? 見たところ、魔力も少なそうだし、貧弱そうじゃん」 ライルがニヤニヤと笑いながら立ち上がる。 手のひらにボッと炎を出し、火遊びを始めた。 「悪いけど、俺たちに指図すんのはSランク以上の実力者だけって決めてんだわ。怪我したくなきゃ、尻尾巻いて帰りな」 クラス中から嘲笑が起こる。 なるほど。実力至上主義か。分かりやすくていい。 「……師匠。不愉快です」 アリアが冷ややかな声を出す。 彼女の周囲温度が急激に下がり、床がピキピキと凍り始めた。 「分をわきまえない雑種は、間引きが必要ですね。全員、氷像にして展示品にしますか?」 「待てアリア。美術の授業じゃないんだ」 俺はアリアを制止し、教卓の前に進み出た。 ライルの足が邪魔だったので、指先でコンと叩く。 ――【筋力・ゼロ】 「うわっ!?」 ライルは突然足の力が抜け、バランスを崩して派手に椅子から転げ落ちた。 ドタンッ! 「い、いてぇ……なんだ今の? 足が……動かねぇ!?」 「席に着け。ホームルームを始める」 俺は黒板に向き直り、チョークで名前を書いた。 『ヴィクトル』 「今日からお前たちの担任になるヴィクトルだ。そしてこっちは副担任のアリア」 「……ゴミども、よろしく」 アリアが絶対零度の視線を送る。 生徒たちがゾッとして身を引いた。 「ふ、ふざけんな!」 床に転がったライルが、顔を真っ赤にして叫んだ。 なんとか立ち上がり、俺に杖を向ける。 「俺は侯爵家の次男だぞ! こんな不意打ち、認めねぇ! その顔、黒焦げにしてやる!」 ライルの杖の先に、巨大な火球が膨れ上がる。 威力だけなら中級魔法レベルだ。だが、狙いが甘いし、隙だらけだ。 「死ねぇぇぇっ! ファイア・ボール!」 火球が放たれる。 教室の中で爆発すれば、ただでは済まない。 生徒たちが悲鳴を上げた。 「……やれやれ。危ないな」 俺はため息をつき、飛んでくる火球に向かって指を弾いた。 ――【属性反転:火→水】【威力変換:1/1000】 ボシュッ。 凶悪な火球は、俺の目の前で突然「水風船」のような小さな水球に変わり――パシャリと弾けた。 俺の顔を少し濡らす程度の、ただの水しぶきだ。 「は……?」 ライルが口を開けて固まる。 他の生徒たちも、何が起きたか理解できない様子だ。 「火が……水になった……?」 「詠唱もなしに……?」 俺は濡れた顔をハンカチで拭き、静かに言った。 「威勢はいいが、基礎がなってない。魔力制御が雑すぎて、外部からの干渉を受け放題だ」 「な、なんだよそれ……わけわかんねぇよ! もう一発!」 ライルが再び魔法を撃とうとする。 だが。 「……許可しません」 ズォォォォォォォ……!! アリアが、一歩前に出た。 彼女から放たれたのは、魔法ではない。純粋な『殺気』だ。 ドラゴンすら恐怖させた、捕食者の威圧。 「ひっ……!?」 ライルを含む全員が、呼吸を忘れた。 生物としての本能が警鐘を鳴らす。目の前の銀髪の少女は、人間ではない。何か別の、もっと恐ろしいナニカだと。 「師匠に牙を剥くなら、その首、要りませんよね?」 アリアの手元に、鋭利な氷の刃が生成される。 冗談ではない。彼女は本気で首を狩る気だ。 「待てアリア。生徒が減ると給料が減る。合理的ではない」 「……チッ。命拾いしましたね、ゴミども」 アリアが舌打ちをして殺気を収めると、生徒たちは一斉にへたり込んだ。 失禁している者もいる。 恐怖による支配。教育としては三流だが、手っ取り早いのは確かだ。 「さて、状況は理解できたか?」 俺は青ざめるライルを見下ろした。 「俺は攻撃魔法は使えない。だが、お前たちを『無力化』することくらい、息をするより簡単だ」 俺は教卓に手をつき、クラス全員を見渡した。 「学院長からの依頼は、お前たちを『まともな魔術師』にすることだ。だが、今のままではただの的(マト)だな」 「ぐっ……」 ライルが悔しそうに拳を握るが、もう反抗する気力はないようだ。 「そこでだ。今日から特別カリキュラムを実施する」 俺は黒板に、デカデカと文字を書いた。 【全ステータス・ロック(オール1)】 「今から卒業まで、お前たち全員に俺のデバフをかける。筋力、魔力、体力、全て『1』に固定する」 「は、はぁ!? 1だって!?」 「そうだ。スライムにすら負ける虚弱体質だ。その状態で、迷宮(ダンジョン)の地下10階まで踏破してもらう」 「死ぬ! 絶対に死ぬって!」 「安心しろ。死にかけたらアリアが氷漬けにして仮死状態で保存してくれる。治療はその後だ」 「安心できねぇぇぇ!!」 教室中が阿鼻叫喚に包まれる。 「文句があるなら、俺のデバフを自力で解除してみろ。それができたら合格にしてやる」 俺はニヤリと笑った。 「ようこそ、ヴィクトル式『地獄の育成コース』へ。逃げ出せると思うなよ?」 こうして。 落ちこぼれFランククラスの、血と汗と涙(主に涙)の学園生活が幕を開けた。
学園編スタート。 いきなりのスパルタ指導です。 「ステータス1固定」でのダンジョン攻略とか、もはやただの縛りプレイですが、師匠にとっては「基礎訓練」です。 「生徒たちが不憫w」「アリア先生怖すぎ」 と思っていただけたら、 【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!

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