たぺっと!! / 第16話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜16話〜涙の先に〜

――地上では、なおも残党の魔族たちとの激戦が続いていた。 「吹き飛べぇぇぇ!! 『神颶輪廻(しんぐりんね)』!!」 風神・アルクレスが放った超巨大な嵐の輪が、群がる魔族たちを空高く打ち上げ、その莫大な風圧で一瞬にして消滅させていく。 「我が民を守る!! 『焔神葬華(えんしんそうか)』!!」 続いて炎神・こはるが両手を広げると、戦場一面に紅蓮の炎が咲き誇るように広がった。炎に包まれた魔族たちは、断末魔をあげる間もなく粒子レベルで焼き尽くされていく。 【てぺのレベルが 87 に上がった!】 「な……。魔族たちが次々と消滅していく……。てぺが……魔王を倒したのじゃな……!」 こはるが安堵の息を漏らした、まさにその時だった。 アルクレスが戦場の中心――てぺのいる上空を仰ぎ見ると、顔色を劇的に変えた。 「こはる!! てぺの魔力量が……! しかもこの雰囲気、魔力暴走だ! だが……前のあの透き通った綺麗な魔力じゃない……!」 「なにいっ!? ひとまず向かうのじゃ!!」 二人は即座に転移魔法を発動し、てぺの元へと駆けつけた。 魔王を倒し、ヒナとの別れを経験したてぺの身体は、莫大な魔力の消費と「絶望・哀しみ」という過度な感情の爆発により、完全に制御不能に陥っていた。 「うっ……!! あぁぁぁぁっ!!!」 愛する者を失った激しい喪失感と悲痛な感情をコントロールできなくなり、てぺの全身からドス黒い「黒炎」が溢れ出す。それはかつての澄んだオーラとは真逆の、全てを破壊し尽くす邪悪な魔力暴走だった。 「てぺ!!」 「感情のコントロールができなくなっている……! このままでは精神が焼き切れるぞ!」 駆けつけた二人を、正気を失いかけた血走った目で見つめるてぺ。彼が喉を絞り出すように発したのは、痛切な悲鳴だった。 「俺を……! 頼むから……俺を殺してくれ……!!」 ヒナのいない世界など、耐えられない。暴走する魔力と悲しみに耐えかねたてぺの黒炎が、容赦なくこはるとアルクレスへと襲いかかる! 「『絶天封嵐(ぜってんふうらん)』!! こはる、躊躇なく魔法を打ち続けててぺを拘束し続けるぞ!!! 命に代えても抑え込むんだ!」 アルクレスが荒れ狂う嵐を展開し、黒炎を押し戻そうとする。だが、隣に立つこはるは、溢れ出る涙を拭おうともせず、頑なに首を横に振った。 「駄目じゃ……!! 我は……我はてぺを傷つけたくなどないっ!!!」 「こはる!?」 アルクレスの制止を振り払い、こはるは荒れ狂う黒炎の嵐の中へと丸腰で飛び込んだ。黒炎がその小さな身体を焼き焦がすが、こはるは痛みに耐えながら、てぺの胸へと一直線に飛び込み、その身体を全力で抱きしめた。 「が、はっ……! てぺ……っ!!」 「……っ!? この……感じ……?」 肌を刺す熱さのはずなのに、その抱擁は、なぜか恐ろしいほど温かく、懐かしかった。 てぺの身体を支配していた禍々しい黒炎が、まるで愛おしい手で撫でられたかのように、急速に鎮まり、収まっていく。 涙で顔をグシャグシャにしたこはるが、抱きしめたまま顔を上げた。 「てぺ……。気づいたか……?」 ――てぺの脳裏に、失われたはずの「記憶」が、濁流のように流れ込んでくる。 (回想) 『私ね、魔力探知っていうのがすごく得意でね! 一度出会った人が命の危険にあった時、すぐに察知できるんだよ?』 そう言って、八重歯を見せて無邪気に笑う、魔族時代のヒナ。 『すごいじゃん! じゃあ、もしも俺が空から落ちてきても助けてくれる?』 『それはもちろんだよ! ……でも、ちょっと意地悪しちゃうかも? 木々が生い茂る上に落として、ゴブリンの上に着地させちゃうかもね! で、でも絶対助けるから!!』 てへっと笑うヒナ。そして、彼女はどこか遠くを見つめながら、ぽつりと呟いたのだった。 『あーあ。来世はもっと強くなって、てぺ君を守れるくらい強い「神様」になりたいな〜。炎神とか? 炎神って代替わりが激しいらしいから、なれるかな!』 『なれるよ〜。ヒナなら、絶対になれる!』 (回想終了) 「いつ気づくのか……ずっと待って居ったんじゃよ……!!」 抱きしめてくるこはるの姿が、てぺの涙で濡れた視界の中で、あの愛おしいヒナの笑顔と重なった。 「まさ……か……。こはるが……ヒナ……?」 あまりの真実に言葉を失くてぺの前に、空間がぐにゃりと歪み、一人の男が姿を現した。 「まったく……こはるさんも、最初から言えばよかったのに」 「な……ナレーションさん!? え!? どこから……!?」 突如現れた謎の男に、てぺが目を見開く。男はフッと温かい笑みを浮かべ、胸に手を当てて恭しく礼をした。 「大変遅くなりました、自己紹介が遅れましたね。私の名前は、これまでナレーションを務めさせていただいておりました、時空の神――ジャネシス。時の神です」 「時空の神……!?」 衝撃を受けるてぺの横で、こはるが申し訳なさそうに俯いた。 「黙っておってすまなかった……。我はあの時、神に願ったんじゃ。『悔いのない時間を、てぺと一緒にもっと過ごしたい』とな!」 ジャネシスが静かに言葉を継ぐ。 「そこで私が、魔族十血4位だったヒナの魂を、新たな『炎神』として選んだのです。そして、てぺさん……あなたが異世界へ転生してきたあの日、こはるさんと出会わせました」 「じゃあ……じゃあ、あの時消えてしまったヒナは……!?」 「ただし、あなたたちの運命を完全に書き換えることは世界の禁忌です。だから私は、炎神となった『こはる』の魂から、魔族として生きた頃の『ヒナ』の記憶と人格を、一時的に抽出しました」 ジャネシスの眼鏡の奥の瞳が、優しく輝く。 「あの時、てぺさんが街で出会った『ヒナ』は、まさに未来の『こはる』の魂の欠片であり、過去の運命とのズレを調整するための存在でした。役割を終え、彼女は……今まさにあなたの傍にいる『こはる』へと還っていったのです」 言葉の意味を理解した瞬間、傍らで話を聞いていたアルクレスが、顔を覆って大爆発した。 「う、うわあぁぁぁぁん!!! なんだその感動のストーリーはぁぁぁぁ!!! 最高かよぉぉぉ!!!」 豪快に号泣し始める風神。 ジャネシスは微笑みながら、夜空に揺れるオーロラを見上げた。 「世界の時間とは、決して同時に動いているわけではありません。多少のズレが生じ、運命ができ……そして人生とは、選択の連続なのです。……さあ、てぺさん。あなたの選択が紡いだ、最高の『今』ですよ」 てぺは、目の前で自分の胸に顔をうずめ、泣きじゃくっている小さな炎神――こはるを、今度は自分から力強く抱きしめ返した。 「ヒナ……ううん、こはる……! 側にいてくれて、ありがとう……!!」 「てぺぇぇぇ……! もう絶対に、離さんからな……!!」 頭上には、二人で見るはずだったオーロラが、祝福するように七色の光を輝かせていた。 過去と未来、そして奇跡の交差点で出逢った二人の絆は、もう誰にも切ることはできない。 涙の先に待っていたのは、世界で一番温かい、最高のハッピーエンドだった。

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