たぺっと!! / 第15話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜15話〜最終〜

暗黒の魔力を宿した魔王の掌が、てぺへと振り下ろされる。 死が迫るその瞬間、烈風の刃が二人の間に割り込んだ。 「――『天嵐龍(てんらんりゅう)』!!」 猛烈な竜巻が魔王の暗黒攻撃を力任せに弾き飛ばす。現れたのは風神・アルクレスだった。 そこへ、小さな影が怒鳴り込みながら飛び込んでくる。 「てぺ!! やっと見つけたわい!! ハーネスティアが襲撃を受けたぞ! しかも相手は魔族じゃ!! 今すぐ向かうぞ!! ……って、なんじゃこやつは!!? ま、魔王ーー!!?」 炎神・こはるが目を剥く。 「ここで戦うのは危険だ!! 街の被害を抑えるぞ、移動する!!」 アルクレスが叫ぶと同時に転移魔法が発動し、空間が歪む。 「逃がさぬぞ……!!」 魔王は冷酷な眼光を放ち、時空の狭間を打ち破って彼らを追撃する。 次元の歪みの中、てぺは膝をつき、茫然と呟いた。 「な……な……。まさか、ヒナは……魔族……?」 「しっかりせい、てぺ!!」 こはるがてぺの頬を平手打ちせんばかりに怒鳴りつけた。 「まずは魔王を倒すのが先じゃ!! 魔族の連中はわしらが何とかする!!」 「……! わかった……!!」 てぺは目を力強く見開き、立ち上がった。 転移した先は、すでに半壊したハーネスティアの広場だった。 地面に伏し、血を吐きながらも必死に耐えていたギルドマスター・ハーネスが、二人を見上げて弱々しく息を吐く。 「はっっ……は……。あと少し……あと少したえれば……」 「よく耐えたな……ゆっくり休め」 アルクレスが倒れ込むハーネスを優しく受け止め、静かに地に横たえる。 こはるが胸を張って言い放った。 「ハーネスよ、あとは我らに任せろ!!」 「たのんだぞ……!!」 死線を潜り抜けた冒険者たちの想いを背負い、てぺは跳躍した。 魔王が放つ凶悪な闇の弾幕を、紙一重ですべてかわし切り、ピタリと上空に留まる。 「ん……速いな……」 魔王が目を細める。 てぺは眼下の壊れかけた街、傷ついた人々、そして仲間たちを見下ろした。 「すべて……守る……!!」 『全域・完全回復魔法』『全域・身体強化魔法』『全域・神聖結界魔法』―― てぺが手を掲げた瞬間、ハーネスティア全域が眩い聖なる光に包まれた。倒れていた人々や冒険者たちの傷が一瞬で塞がり、街全体に絶対不可侵の障壁が展開される。 「くくくっ……お前が神と契約した人間だな!?」 「あぁ……そうだ。俺こそが――」 てぺは深く息を吐き出し、自ら魔力の制御を解き放った。 限界を超えた『魔力暴走』が巻き起こる。しかし、溢れ出る圧倒的な魔力は暴走に飲まれることなく、てぺの全身を「白く透明なオーラ」となって優しく、力強く包み込んでいく。 「ふぅぅ……」 「人間ごときが、私に立ちふさがるとは!! 面白い、消し飛び誤るがいい! 『極滅の刻旋砲(ごくめつのこくせんほう)』!!」 魔王の威圧とともに、空間を捩じ切るような破滅の光線が次々とてぺへ放たれた。直撃したかのように見えた爆炎の中、てぺの声が静かに響く。 「どれだけ強い魔術でも……当たらなければ空気同然。無害なんだよ」 てぺの前方に、十重に重なる『神聖防御結界』が瞬時に展開される。 衝撃で結界が次々と砕け散るが、てぺはその隙を逃さなかった。 「炎龍……!!」 片手に紅蓮の龍を纏わせると同時に防御魔法を解除。てぺの姿が消えた。 「速っ――!?」 魔王の頭上に瞬時に移動したてぺは、そのまま全力の拳を振り下ろす! ズガアァァァン!!! 魔王の巨体が地表へと叩きつけられ、クレーターができる。だが、魔王は不敵に笑いながら立ち上がった。 「早いな。だが所詮……神の偽りの力! 神と契約している人間など、神が居なければ無と同じことだ!! 『極滅の刻旋砲・無』!!」 不可視の速度で放たれた一撃を、てぺは結界で受けるが、完全には殺しきれず左腕に強烈な激痛が走る。 「くっ……! 俺の反射神経を上回る速度……!」 左腕が痺れ、動かない。 (くそ……いま自分に回復魔法を使ったら、街を維持している結界の魔力が途切れる……!) 「まず一撃、どうだ? やはり人間はこの程度か」 蔑む魔王を見下ろし、てぺは歯を食いしばった。 「魔族は生まれた瞬間から魔法が使える……当たり前だ。だからこそ、お前たちは魔法しか使えない。だが――俺たちは魔法だけじゃない!!」 てぺは身に纏っていた、こはるとアルクレスの神の魔力を一度そっと解き放った。 そして、己の足で、己の意志で大地を強く蹴る。 「契約した神様の力が通用しないなら、自らの力で戦ってやる……!! 人間は日々、いろんなことを進化させているんだ! それは、誰にも止められない!!」 身体を包む白く透明な魔力が、太陽のごとく爆発的な輝きを放つ。 「『覇空天界月影(はくうてんかいつきかげ)』――!!!」 瞬きする間すらない。一瞬のうちに、一千連を超える目にも留まらぬ斬撃が魔王の全身を切り刻んだ。 「ば……バカな!! 魔王であるこの私が、人ごときに……!?」 魔王が血を噴き出しながらたじろぐ。てぺが手にする名刀『蒼翠嵐』に、彼自身も知るはずのない、純粋なる神聖魔法の光が降り注いだ。 「我が意思に、応えよ……!!!」 一方、地上では――。 「フッ、神の力もこの程度かい?」 十血1位・ゾシューデが漆黒の爪を研ぐ。 「くっ……今の魔族も、なかなかやるのう……なぁアルクレス?」 「お前が名刀を奪われてなかったら、もっと楽だったかもな!!」 「そのことなんじゃけどな……やっと気づいたんじゃ! 代々、炎神の名刀は、炎神自身が自らの手で生み出すものだったのじゃ!!」 「なに!? まさか、儀式をしていなかったのか!?」 「これが終わったら、てぺにも報告じゃ! とりあえず今は――!!」 こはるが両手を掲げると、その掌から眩い神炎が噴き出し、一振りの刀の形を成した。 「一時的な名刀じゃ! ないよりマシじゃ、使え、アルクレス!!」 「サンキュ!!」 アルクレスがその炎の刀を手に取り、自らの風の魔力を極限まで注ぎ込む。炎と風が融合し、紅と緑の光を放つ混合名刀『紅颶(こうぐ)』が完成した。 「人々を傷つけたこと……後悔するがいい!! 『紅颶ノ天命連閃(こうぐのてんめいれんせん)』!!」 「なっ……『漆黒の滅壁』!!」 暴風と劇炎を纏ったアルクレスが突進し、ゾシューデの防御を打ち破って隙なく絶え間ない斬撃を浴びせる! 「ぬあああああ!!」 「……くっ、いつの日にか……この選択が間違っていることに……気づくだろう……っ!!」 光の微粒子となって消滅していくゾシューデ。 そして、上空。 白い魔力を纏ったてぺの手元で、名刀の刀身が白く、そして透明に染まり上がっていく。 「終わりだ」 詠唱すら省き、てぺの知識には存在しないはずの『神聖魔法』の全エネルギーを『蒼翠嵐』の刃へと集中させる。てぺは魔王の胸元へと潜り込み、その刃を天高く突き刺し上げた! 「やはり……こいつはただの人間ではない……!? この魔王が……負けるだと!? ありえない……ありえないぞぉぉぉ!!!」 「これで……!!!! 終わりだああああああ!!」 てぺは全身の力を込め、刃を振り抜いて天高く跳躍する。 「俺は……世界最強になる人間だあああーーーーっ!!!!」 一閃。 眩い光が世界を包み込み、魔王の禍々しい気配は、跡形もなく消滅した。 (……?) 魔王を倒した瞬間、本来ならば響くはずの「レベルアップ」のシステム音が響かない。だが、限界を迎えていたてぺも、周りの誰も、その異常に気づく余裕はなかった。 「は……はぁ……。おわ、った……」 息を荒らげ、全身の激痛と意識の朦朧に耐えながら、てぺが着地し、正面を見つめる。 そこには――。 「……ん……ヒナ……?」 「バァ! ビックリした? こら〜、そんな悲しい顔しないの〜。私まで悲しくなっちゃうよ?」 少し浮世離れした笑顔で立っていたのは、ヒナだった。 しかし……彼女の姿は薄く、少しずつ掠れていた。 「魔王を倒したら……君が消えちゃうこと……なんとなく分かってたよ。でも……それが本当とは思いたくなかった……」 てぺの瞳から、ポロポロと涙が零れ落ち、頬をつたっていく。 「うん……そうみたいだね。泣かないで……?」 ヒナの身体が、まるで夜空の星々へと溶け込んでいくように、透けていく。 「泣いてなんか……ないし……っ。って、見えてるのかよ……目、いいじゃんか……」 てぺは子供のように顔をクシャクシャにして、すすり泣いた。 その姿は、かつて濡れ衣を着せられ、誰にも信じてもらえずに一人で泣いていた幼い頃のヒナの姿と重なっていた。 ヒナはそっと手を伸ばし、てぺの身体を小さく抱きしめた。 「えへへ……泣かないでよ、私なんかのためにぃ……!」 我慢できなくなったヒナの目からも、ボロボロと大粒の涙が溢れ出す。二人で泣きながら、お互いの温もりを確かめ合う。 「ねぇ、てぺ君……。私ね……てぺ君のこと、好きだよ? だから……」 ヒナは涙を拭い、今までで一番眩しい笑顔を向けた。 「ん……。俺も……その、好き、だ……」 「ふふ、てぺ君の笑った顔も好きだよ。八重歯が見えるところとかね」 てぺが顔を上げた瞬間――ヒナの身体は完全に消えていた。 見上げた頭上には、広大な夜空が広がっており、はるか遠くの空に、静かに輝く「オーロラ」がゆらゆらと揺れていた。 「もっと、一緒に居たかったな……。あ……オーロラだ。二人で見たたかったな……。もっと思いを、素直に伝えればよかった……」 てぺは膝をつき、夜空に向かって叫んだ。 「本当は……本当はね、ヒナが魔族だったことなんて、最初からわかってたよ……! この世界には、優しい魔族だって居るって信じてたから……ヒナはそうだって、自然と思えたんだ……!」 その時、天から一筋の優しい光が降り注ぎ、てぺの頬を撫でた。 『私も……近くで見たかったな。君に会えて、良かったよ……。ばいばい……てぺ君』 頭の中に直接届いたような、ヒナの温かい声。 「っは!! ヒナ―――!!!」 てぺが手を伸ばして振り返ると、その温かい光は天高く、オーロラが揺れる夜空の向こうへと昇っていった。 ……こうして、異世界を揺るがした魔王軍との戦いは幕を閉じた。 数々の神々と契約し、大切な人を想い、限界を超えて戦い抜いた一人の少年。 彼が「世界最強」と呼ばれるようになるのは、もう少し先のお話――。

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