たぺっと!! / 第5話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜5話〜討伐祭〜

「はあああ!! 『フレイムショット』!!」 てぺの指先から放たれた初級の火球が、目の前のスライムを直撃した。 「ぷしゅ〜……」 間抜けた音を立ててスライムが溶けていく。その様子を宙に浮きながら眺めていたこはるが、満足そうに腕を組んで頷いた。 「大分我が力に慣れてきておるの〜。その調子じゃ! ……でも、なんで上級魔法じゃなくてそんな初級の技を使っておるのじゃ? マナの消費を抑えておるのか?」 「マナ? ……なにそれ」 「お主、マナを知らずに魔法を使っておるのか!!? それでよく今まで倒れずに戦えていたのう!!」 こはるの目玉が飛び出んばかりの驚きように、てぺは首を傾げた。 「マナって……あれでしょ? 走るために使う体力みたいな物?」 「例えが独特すぎるだろ!! 魔法を使うための精神エネルギーのことじゃ!」 「まぁいいや! よし、これでミッションのスライム討伐と素材集めは完了だな!」 パンパンと服の泥を払うてぺに、こはるが不敵に微笑む。 「じゃあ……いよいよ、我がダンジョンに行くか?」 「え、ここから転送とかできるの?」 「まー、ギルドから正式にいけない以上、特例じゃな」 「でも、俺みたいなFランクが勝手に入って大丈夫なの?」 「問題ない! 世界(システム)に通知されるのは『どこかの冒険者がダンジョンに入場した』ということだけじゃ! 侵入者のランクまでは通知されん仕様になっておるからのぅ」 「へえ、セキュリティの割にそこはザルなんだね。じゃあ……問題ないね!」 それを聞いたこはるが、小さな手を天に掲げ、神聖なオーラを放ち始める。 「それでは転送させるぞ!! 『転移魔術』――行く先は我がダンジョン! 特例許可とし、冒険者てぺを強制移送させる! テレポート!!」 カッ!!! 凄まじい閃光が走り、てぺの視界が真っ白に染まった。 =てぺがダンジョンの入り口に転移される 「うわっ、眩しっ……! おー、ここが……」 視界が開けると、そこは荘厳な石造りの古代遺跡のような場所だった。ひんやりとした空気が肌を刺す。 「……あれ? こはる? どこ行った? おーい、こーはーるー!!」 あたりを見回すが、どこにもあのちびっ子神様の姿がない。 「マジか……ここから一人旅!? ……上等だよ!!」 てぺは意を決して、勢いよくダンジョンの奥へと足を踏み入れた。 『てぺ、聞こえるか?』 「うおっ!? あ、なんだ、こはる。ダンジョンの中なら声が聞こえるのね。さっき転移した直後は聞こえなかったのに」 『すまぬすまぬ、言ってなかったな……。我が意識はお主の右目に宿っておる。とりあえず、名刀がある最深部まで一気に降りるぞ!』 『まー、そんなこんなで……一気に飛んで10階層……!』 突如差し込まれるナレーションの雑な解説通り、てぺは怒涛の勢いでダンジョンを突き進んでいた。 「『フェニックスフレア』!!」 「ぴぽぽぽお〜……っ」 中型のゴーレムがドロドロに溶けて崩れ落ちる。 「さらに、こっちもまとめて……『ヘルフレア』!!」 「ぎょおおお〜〜っ!?」 押し寄せるゴブリンの集団が、一瞬で黒焦げの塵と化した。 無双状態のてぺだったが、こはるの声が脳内で焦ったように響く。 『お主! いくらダンジョンだからといって、大技の魔法ばかり使っておったらマナが枯渇して元も子もないぞ!?』 「いや、今の俺のマナの最大量だと、絶対この先足りなくなるからさ。限界まで使い切って、マナの上限を増やそうかな〜って。……それに、いざとなったらこはるが助けてくれるでしょ?」 『……何を言っておるのじゃ? このダンジョンの管理人は手出し無用、お主の力だけで突破するのが契約の条件じゃぞ?』 「え?」 『え?』 『デジャぁぁ〜ヴ。デジャヴですねぇ』 再びナレーションの冷ややかな声が響く中、てぺは冷や汗を流しながら、空中に浮かべたステータス画面を確認した。残りマナのゲージが風前の灯火だ。 「まずいな……本当にすっからかんだ」 『だからあれだけ言っておったじゃろ!!』 「なぁ、倒したらマナが回復する都合のいい魔物とかモンスターっていないの?」 『そんな都合の良いものはおらんが……』 「おらんが……?」 『……マナを回復する効果を持つ剣なら、ドロップするモンスターはおる。それか、地道にレベルを上げるしかないのう』 「うわぁ……。このままだと魔法じゃなくて、体術最強の男になりそう」 『おっと? アニメの名前をここにきて変えるのでしょうか? 【たくさんの神様と契約して異世界で体術最強目指してるものです】――なわけないでしょう!!』 セルフツッコミを入れるナレーションを無視して、てぺはさらに進む。 ーー13階層目。 「で、そのマナを回復する剣を落とすモンスターは、何階にいるの?」 『ちょうど、この階じゃ!』 キィキィキィキィ!!! 天井を埋め尽くすほどの、不気味な赤い目を光らせた「吸血コウモリ」の大群が襲いかかってきた。 『相手のHP、いわゆる体力を奪う吸血攻撃の持ち主じゃ! 囲まれたら一瞬で干からびるぞ!』 「どれだけずる賢い攻撃だろうと――当たらなければ!!」 てぺは襲い来るコウモリの爪を、紙一重のステップで次々と回避していく。 「意味はない!! 『身体強化』! 『スピード増加レベル5』――『雷速(らいそく)』!!」 残像を残しながら、てぺの姿が消えた。 『我の目でも追えぬほどの速さとは……。こやつ、敵に回したら本当に厄介じゃな……』 ドカッ! バキッ! ズババババッ!!! 魔法を使わず、純粋な体術と速度だけでコウモリを叩き落としていくてぺ。 10体討伐…… 20体討伐…… 30体討伐………… そして、気が遠くなるような時間が流れ。 ーー1501体討伐目。 「ハァ、ハァ……やっと……やっと手に入れたぞ!!」 最後のコウモリが消滅した瞬間、地面に一本の禍々しい短剣が突き刺さった。敵の力を吸い取るレアドロップアイテム――【吸血剣】だ。 嬉しさのあまり、てぺが自分のステータス画面を覗き込むと。 「……あれ?」 『お……気づいたか? お主のレベルが『56』まで上がっていることに……』 「気づいてたなら、はーやーくーおーしーえーてーよーーー!!!」 『いや、一生懸命にコウモリを殴り倒しているお主の姿が初々しくて、つい……てへっ☆』 「もういいや!! ……って、あれ? マナが全回復してるじゃん!!」 『実を言うとな、吸血コウモリの『1体目』を倒した瞬間にレベルアップして、マナも全回復しておったぞ?』 ガーーーン。 てぺはショックのあまり、真っ白に燃え尽きてその場にへたり込んだ。 『ま、まぁ、結果的にめちゃくちゃ強くなったことには変わりないじゃろ?』 「そうだけどさぁ!!」 理不尽な精神的疲労を抱えつつも、その後は上がったステータスで順調に進み、ついに最深部である20階層目に到達した。 大きな禍々しい扉が目の前にそびえ立つ。 「ここがボス部屋じゃ! ここからが本番と言っても過言ではないからな!」 その瞬間、てぺの隣に光が走り、こはるが実体化して姿を現した。 「あれ? こはる、姿が見えるようになってる」 「なぜかここからは、我が『実体化して空間に存在すること』が挑戦の必須条件になっておるのじゃ。ただし、我の手出しは緊急時のみじゃがな……」 「へえ、寂しくなくていいや。……って、おい。冗談だろ……龍(ドラゴン)!!?」 扉が開いた先、広い空間の玉座に鎮座していたのは、前回の比ではない威圧感を放つ巨大な化け物だった。 【Sランク:黒龍】 黒龍はてぺの姿を捉えた瞬間、一切の予備動作なく、最強の破壊光線を口から放った。 無詠唱――紅蓮滅波動(ぐれんめつはどう) ズドォォォォォォン!!!!! 「うわっ、急に難易度が爆上がりしすぎだろ!!? マジかよ!」 激しい熱線が部屋を薙ぎ払う。てぺはドロップしたばかりの『吸血剣』を構え、不敵に笑った。 「だけど……試したいことは、全部試す!!」 てぺの身体から、漆黒の炎が噴き出す。 旋空狐(せんくうこ)――抜刀斬(ばっとうざん) その瞬間、手にした短剣の剣先が、黒い炎を纏いながら凄まじい速度で「刀」の形へと延伸した。そのまま放たれる、目にも留まらぬ九連撃の黒炎の斬撃! ギチチチチィィッ!!! 黒龍の強固な漆黒の鱗に深い斬撃が刻まれ、そこから鮮血が噴き出す。 「ぐ、ぎゅっぅぅぅ……!!」 黒龍が苦悶の声を上げるが、まだ倒れない。 「流石はSランク、強いね……。この吸血剣自体の威力が、まだ俺のレベルに追いついてないのかもな。……だが!!」 てぺは再び、刀を深く構え直した。 「達人が扱えば、なまくらも名刀同等の力が出せる! 素人が使えば、名刀もなまくらとなる! ……こはる!! 少し無理するぞ! もしこれが失敗して死にかけたら、こはるの権限で俺をリタイアさせてくれ!」 「わ、わかった……! やってみよ、てぺ!!」 黒龍がさらに膨大な魔力を練り上げ、最大出力の『紅蓮滅波動』を放とうと口を開けた、その瞬間。 神炎葬滅(しんえんそうめつ) ドガァァァァァァァァァァン!!!!! 天空の天井を突き破り、神の怒りの如き巨大な炎の柱が黒龍めがけて振り下ろされた。部屋全体、いや、ダンジョンそのものが真っ赤に染まり、地面を激しく焼き尽くしていく。 「ぬおおおおおおおおおお!!!!」 凄まじい魔力の奔流。その威力の反動は凄まじく、てぺたちの足元の地面までをも完全に破壊し、下の階層へと突き落とすほどの地殻変動を引き起こした。 やがて、巻き上がった炎と土煙がゆっくりと引いていく。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 てぺのステータス画面の表示は、【残りマナ:1 / 残り体力:10】。まさに文字通りの満身創痍。 しかし、その目の前では――Sランクの黒龍も、巻き込まれた下の階層のモンスターたちも、完全に消滅していた。 「勝った……。これで、名刀は……」 緊張の糸が切れたてぺの身体が、グラリと前に傾く。 「うおっと! 大丈夫か!?」 実体化していたこはるが慌てて小さな身体で滑り込み、てぺの頭を自分の膝に乗せて支えた。 「いくらステータス上で数値が回復しても、メンタルや精神面の疲労までは回復できんぞ……。てぺよ、あまり無理はするな……?」 「……ごめんごめん、ありがと……」 てぺは安心したように、こはるの膝の上ですうすうと眠りについた。 静かになったダンジョンの跡地で、こはるは眠る少年の顔を見つめ、やれやれとため息をついた。 「思えば、お主と出会ってから、退屈だった我が日常に色々な変化が起きたのう……」 『こはるさん。……てぺさんとの冒険はどうですか? 楽しいですか?』 背後から突然、ナレーションによく似た、だがどこか透き通った穏やかな声が響いた。 こはるは驚くこともなく、前を向いたまま優しく微笑む。 「あぁ……すごく楽しいぞい! この先、どんな困難が待ち受けておっても、こやつがそれを勝手に無理して、解決してしまうのではないかと……心のどこかで信じておる自分がおる。……我は今度こそ、この使い手(希望)と共に、こやつの人生という名の寿命を、最後まで歩んでいけるのであろうか……」 『きっと、大丈夫ですよ』 「ふっ……。これからもよろしくな、我が希望。……ところで、時空の神・ジェネシスよ。もう行くのか?」 空間の歪みの中に消えかけている人影――ジェネシスは、悪戯っぽく微笑んだ。 「はい……。あの、面白い『新しい物語』が始まりそうなので。……それでは、また! 炎神・こはる! またの名を……ま……」 ジェネシスがその「真の名」を呼びかける前に、その姿は完全に時空の彼方へと消え去った。 「またの名を……、じゃな。ふん、相変わらず騒がしい奴じゃ」 こはるはてぺの髪を優しく撫でながら、静かに次の目覚めの時を待つのだった。

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