たぺっと!! / 第14話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜14話〜恋心2〜

「どこって……君を見てるんだよ?」 てぺが何気なく放ったその言葉は、あまりにも破壊力が大きすぎた。 頬を赤く染めて身をよじるヒナ。その初々しく、いじらしい反応を間近で見たてぺの心臓は、警報レベルで激しく脈打ち始める。 (やばい、この子めっちゃかわいい……! お嫁さんになってほしい……!!) そんな邪念(?)を必死で隠そうと、てぺは照れ隠しにヒナをじっと見つめ返す。 見つめ合う二人。だが、見つめられている側のヒナの頭の中も、別の意味で大パニックに陥っていた。 (待って、この人めちゃくちゃ私のこと見てるんだけど!? ど、どうしよう……!) いたたまれなくなったヒナは、泳ぐ視線をなんとかてぺの顔に戻し、慌てて話題を切り出した。 「あ……その……お! お礼! 冗談抜きで、何がいいかなっ!?」 「ん〜……」 てぺは少し上を見上げて考えるポーズを取ると、いたずらっぽく微笑んだ。 「今日の夜、この街の夜空にオーロラが出るらしくてさ。それを一緒に見たいな〜、なんてね! なんちゃって!」 (今、確信したぞ……。100%私のこと好きじゃん、この人!!) ヒナの胸が高鳴る。けれど、嫌な気はこれっぽっちもしなかった。むしろ、内側からじわじわと嬉しさが込み上げてくる。 「い、いいよ……。でも、夜までどうするの?」 「どうしようかね。あ、実はこの街の図書館に行きたくてここに来たんだけど……一緒に行ってもいいかな?」 「うん、いいよ!」 並んで歩きながら、二人の会話は自然と魔法の話題へと移っていった。 「てぺ君は、本が好きなの?」 「いや〜、本というか……魔法というか、なんというか……あはは」 魔力暴走を起こし、魔法の「器」の限界に悩むてぺにとって、魔法の知識はどうしても必要なものだった。そんな彼を見て、ヒナは心の中で葛藤する。 (私の魔法、教えてあげてもいいかなぁ……。でも、そしたら私が『魔族』だってこと、バレちゃうよね……) かつて濡れ衣を着せられ、人間に裏切られた過去を持つヒナ。けれど、隣を歩くてぺの横顔を見ていると、そんな不安は不思議と消えていく。 「ちなみに私はね……好きだよ!! 大好き!!」 突如として「魔法が大好き」だと主張するヒナに、てぺも笑って返した。 「あはは、じゃあ俺も好きだわ!」 「私ね、出会った瞬間、わー!!ってなったの!」 「そうそう、まさに一目惚れだね」 「だよね!! ……君のことも……」 最後の一言は、街の喧騒にかき消されるほど小さな囁きだった。 「ん? なんか言った〜?」 「なんでもないっ!!」 慌てて手を振るヒナ。だが、てぺの耳は彼女の言葉を確かに捉えていた。 (絶対、今『好き』って言われた……!) てぺの心は、すでにオーロラを見る前から有頂天だった。 やがて二人は、年季の入った静かな図書館へと到着した。 並べられた膨大な魔導書の中から、ヒナが一冊の分厚い本を指さす。 「魔法か〜。これなんてどう?」 「お〜、いいの選ぶね!」 「ほんと!? よかった……」 てぺがその本の表紙をなぞる。「神聖魔法」と書かれていた。 「神聖魔法? 天使の魔法的なやつ?」 「そうそう! すーごーく強いんだよー?」 そう言って微笑むヒナだったが、内心ではヒヤヒヤしていた。 (私が唯一、効果抜群で喰らっちゃう天敵の魔法だなんて、口が裂けても言えないわ〜……!) 「そうなんだ、頼もしいな。他には……」 「あとはね〜、これ……あ、ひゃっ!!」 ヒナが手を伸ばした次の瞬間、てぺの手が重なった。 同じ本を取ろうとして、互いの指先が触れ合う。 「ご、ごめん! 屋台の時といい、よく気が合うね……!」 ヒナは真っ赤になって手を引いた。 てぺもまた、耳まで真っ赤に染め上げながら、ぎこちなく頷く。 「そ、そうだね……!」 「まるで、映画のワンシーンみたい……」 「そうだね……」 甘酸っぱい沈黙が流れる中、ヒナは雰囲気を変えるように、てぺに尋ねた。 「てぺ君は、どんな魔法が知りたいの?」 「ん〜、できれば『神級』かな! 神級ならどの属性でも!」 「神級!? それなら……これとかは? 『雪の神の魔導書』! これなんかも、『悪魔の神の魔導書』! それと……土、水、雷……あと、神級じゃないけど、魔物を使役する魔法もあるよ!」 淀みなく神級魔法の書物を紹介していくヒナに、てぺは素朴な疑問を投げかけた。 「ヒナは、なんでそんなに魔法に詳しいの?」 「ん〜……とても答えづらい質問だね。……いずれ、わかるかも?」 ヒナは少し寂しげに、けれど悪戯っぽくウインクして見せた。 ――そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、夜が訪れた。 人影のない、古い塔の頂上。 夜風が吹き抜ける展望台で、二人は並んで夜空を見上げていた。だが、まだオーロラは現れず、辺りは一寸先も見えない暗闇に包まれている。 「暗くて、よく見えないや……」 ヒナはてぺのすぐ傍まで寄ると、目を細めて彼の顔を「じ〜」っと覗き込んだ。 「君って、めっちゃ目悪い?」 「そうなの。特に夜とか……全然見えなくて……っ」 そう言うと、ヒナはおずおずと、けれど意を決したように、てぺの右手をそっと握りしめた。 「はぐれないように……手、繋いどくね……?」 「う……うん」 冷たい夜風の中、繋ぎ合った手のひらだけが、恐ろしいほど熱を帯びていく。 お互いの顔が真っ赤に染まっているが、幸いにも、暗闇のおかげで相手に悟られることはなかった。 「あ……そういえば、私の名前、ヒナだよ!」 「あはは、そういえば言ってなかったね。俺の名前はてぺ! 冒険――」 てぺが名乗ろうとした、まさにその時。 二人の背後の空間がぐにゃりと歪み、禍々しい闇の魔力が爆発した。 **「――ヒナよ、援軍に加われ。厄介なことが起きた」** 闇の中から、威厳に満ちた冷酷な声が響く。そこに出現したのは、魔王その人だった。 (なっ……!? このおじさん、どこから現れた!? 俺の魔力探知に、一切引っかからなかったぞ……!!) てぺは驚愕し、本能的に腰の刀に手をかける。しかし、それ以上にショックだったのは、魔王が発した言葉だった。 「ヒナ……! 援軍って、何だよ……!」 てぺが震える声で問いかける。 ヒナは、繋いでいたてぺの手をゆっくりと離した。その表情は暗闇に隠れて見えなかったが、彼女の肩は微かに震えていた。 「わかりました……」 ヒナは魔王に向き直り、静かに答える。そして、転移の光に包まれながら、最後に一度だけてぺを振り返った。 「じゃあね……てぺ君」 光が彼女の体を消し去る直前。 ヒナはてぺを見つめ、声に出さず、ただ唇だけを動かした。 それは、てぺを気遣うような、切ない口パクだった。

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