たぺっと!! / 第12話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜12話〜破滅の時間です〜

「ねぇ、てぺ君……。私ね……てぺ君のこと、好きだよ? だから……」 うつむき、頬を朱に染めながら、消え入りそうな声で想いを告げる少女。彼女の名はヒナ。人類の敵である魔王軍の最高戦力、「魔族十血・4位」の座に君臨する恐るべき魔族であった。 あまりに唐突な告白に、てぺは完全に毒気を抜かれ、頬を掻きながら視線を泳がせる。 「ん……俺は……その……」 てぺが戸惑いの声を漏らした、まさにその瞬間だった。 はるか遠く、ハーネスティアの上空が、にわかに漆黒の闇に包まれる。 「――『終焉の黒光(しゅうえんのこっこう)』」 冷酷極まりない魔王の号令とともに、天から降り注いだのは文字通りの「破滅」だった。 「おや、最初から全力で行くのですね」 十血1位のゾシューデが、愉悦に満ちた目でその光景を見下ろす。 次の瞬間、轟音とともに凄まじい衝撃波が街を襲った。美しかった街並みは一瞬にして焼け焦げ、爆風に煽られて次々と崩れ去っていく。逃げ惑う人々の悲鳴と、立ち上る黒煙がハーネスティアを地獄絵図へと変えていく。 「はーっ!! ここで、死ぬわけにはいかないんだ!!」 崩落する建物の中、ボロボロになりながらも必死に戦うBランク冒険者の姿があった。彼は己の限界を超え、傷だらけの体で市民の盾となっていた。 「助けてぇぇ!! いやあぁぁぁ!!」 「ぐあああ!!」 狂暴な魔族のドラゴンが牙を剥き、逃げ遅れた親子に襲いかかる。 「逃げてください!!」 大盾を構えた別のBランク冒険者(シーダー)が、身を挺して親子の前に立ちはだかる。だが、その決死の守りも、突如として背後に現れたゾシューデの凶刃によって無残に引き裂かれた。 「あれー? もう死んじゃったかな〜?」 ゾシューデは、血に濡れた刃を弄びながら、小馬鹿にしたように笑う。 「ば、化け物が……! ぐっはぁっ……」 「口だけは達者なこった、クスクス」 力なく倒れ伏す冒険者。ゾシューデが止めを刺そうと、容赦なくその刃を振り下ろす――その直前だった。 「――『獄炎の咆哮(ごくえんのほうこう)』!!!」 猛烈な炎の渦がゾシューデを襲い、その動きを阻む。炎の神・こはるが、小さな体に怒りを漲らせて立ちはだかった。 「早く逃げろ、愚か者め!」 「し、しかし……!」 なおも戦おうとする冒険者に、こはるは苛立たしげに怒鳴り散らした。 「あーもう!!! お主のうな実力じゃ、こいつには天地がひっくり返っても敵わぬ! 足手まといじゃ、とっとと失せよ!」 ――その頃、街の別の場所でも戦火が広がっていた。 「クソッ、なんで急にこんなにモンスターが……! しかも、上位魔族まで連れて襲撃しに来るなんて!!」 高橋が剣を握りしめ、冷や汗を流しながら叫ぶ。隣に立つ爽楓(さやか)も、絶望に満ちた目で空を見上げた。 「これじゃ……どれだけ冒険者が集まったって、敵うわけがないよ……」 ――さらに、人々の祈りが捧げられる教会。 「あぁ、神よ……どうか、我らに、どうか幸運を……!」 神父が震える手で十字を切るが、その祈りを嘲笑うかのように、教会の重い扉が破壊され、魔族たちが乱入してくる。絶体絶命、人々が死を覚悟したその瞬間――。 「――『深淵のそよ風(アビス・ブリーズ)』」 冷ややかで、しかし絶対的な魔力を含んだ風が教会内を吹き抜けた。風に触れた魔族たちが、断末魔の叫びをあげる暇もなく、塵となって消えていく。現れたのは風神・アルクレスだった。 「……これ以上、好き勝手はさせない。安全なところに転移させる!」 アルクレスがパチンと静かに指を鳴らす。その瞬間、教会にいた人々は、柔らかな光に包まれて安全なシェルターへと一瞬で転移していった。 ――ギルド本部。 ギルドマスターのハーネスは、窓の外の地獄絵図を見つめ、苦渋に満ちた表情で呟いていた。 「これは……やはり、あの古い言い伝えは本物だったというのか。神の契約者が現れた時、魔族による大襲撃が始まり、世界は地獄絵図と化す……」 その時、窓を突き破るようにして、小さな体が転がり込んできた。 「うわぁっ!?」 「炎神さま!?」 ボロボロになりながらも飛んできたこはるに、ハーネスが駆け寄る。 「厄介な敵に出会ってしまった! ハーネス、ここは頼んだぞ! 我はこれより『てぺ』を呼んでくる! それまでなんとか耐えてくれ!」 こはるはそう言い残すと、再び焦燥に駆られた様子で飛び去っていった。 ――場面は変わり、ハーネスティアから少し離れた、まだ平穏が残る隣町。 「……」 てぺは、あの大騒動から少し離れたのどかな商店街にいた。緊迫した本国の状況など露知らず、彼は個人商店の店先で、腕を組んで真剣に悩んでいた。 「ん〜、どうしようかなぁ……」 「お買い得だよ、兄ちゃん! どっちにするんだい?」 店主が愛想よく、二つの商品を差し出す。 同じ頃、ハーネスティアの路地裏では、恐ろしい悲劇が幕を開けようとしていた。 「や、やめろ! 俺の家族に近づくな!!!」 必死に妻と子をかばう父親の前に立ちはだかっているのは、なぜか先ほどまで本国で暴れていたはずの十血1位・ゾシューデだった。彼は不気味な笑みを浮かべ、父親に冷酷な二択を突きつける。 「ん〜、人間が恐怖に怯える顔は、やっぱり最高だねぇ。……さあ、家族の命と、あっちにいる大勢の命、どちらかを選ばせてあげるよ。さあ、どっちを選ぶ?」 ゾシューデが、楽しげに指をさす。 しかし、怯える父親が答えるよりも早く、ゾシューデはくすくすと肩を揺らした。 「ま〜、どっちを選んでも、両方殺すんだけどねぇ!」 そんな外道の極みのような事がハーネスティアで行われているとは、夢にも思っていないてぺ。 彼の頭の中は、今、目の前にあるお買い物でいっぱいだった。 (どうせなら……こっちかな!) てぺが心の中で決断を下した、まさにその瞬間。 いつの間にかてぺの隣に並び、同じように商品を品定めしていた十血4位のヒナが、全く同じタイミングで声を揃えて叫んだ。 「こっちください!!」 「こっちください!!」 「えっ?」と驚いてお互いを見合わせるてぺとヒナ。 世界が滅びかけているというのに、この二人だけ、やけに平和な空気が流れているのだった。

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