たぺっと!! / 第13話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜13話〜恋心1〜

「あ……すみません!!」 隣り合って同じ商品を指さしたてぺとヒナの声が、綺麗に重なった。 お互いに顔を見合わせて、一瞬きょとんとした後、てぺは人懐っこい笑みを浮かべて一歩下がった。 「あ! どうぞどうぞ!! 俺、こっちにしますよ!」 「えっ……いいんですか!?」 ヒナは驚いて目を丸くする。そんな彼女に、てぺはさらに気前よく提案した。 「なんなら、俺が奢りますよ!」 「そんな! 悪いですよ、悪いですよ!!」 「いやいや!! 買います、買います! 店主さん、二つの代金を俺のツケ……いや、今払います!」 てぺが財布を取り出そうとすると、ヒナは申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに俯いた。 「じゃあ……お言葉に甘えて……!」 二人の微笑ましいやり取りを眺めていた店主だったが、ふとヒナの首元に覗く「黒い痣」のようなものに目を留めると、その表情をこわばらせた。店主はてぺをぐっと引き寄せ、声を潜めて警告する。 「おい、兄ちゃん。気ぃつけな……。こいつ、首に『罪人の紋章』持ちだぞ?」 「罪人の紋章」――それは、重大な犯罪を犯した人間に消えない刻印として施される、社会的な死刑宣告とも言える烙印だった。 だが、てぺは少しも怯むことなく、まっすぐに店主を見つめ返した。 「罪人の紋章があるからって、何かダメなんですか? とにかく僕が買うので、売ってください!」 「わ、わかった、わかったよ……。何があっても、俺は知らないからな?」 店主はため息をつきながら、鉄板でじゅうじゅうと音を立てていた「限定ホットドッグ」を二人の手に手渡した。 「わぁ……! すごく美味しそう!!」 焼きたてのパンとジューシーなソーセージの香りに、ヒナは少女のように目を輝かせる。 「良かったです。じゃあ、俺はこれで」 てぺは満足そうにニコニコしながら、そのまま立ち去ろうとした。その背中に、ヒナは慌てて声をかける。 「待ってください!! あの、お礼をしなきゃ……!」 「いいですよ〜。素敵な女性……君の笑顔が、僕にとって最高の恩返しですから!」 ひらひらと手を振りながら歩き出すてぺ。 その屈託のない言葉に、ヒナの胸はドクンと大きく跳ね上がった。 (素敵な、女性……?) その言葉が、彼女の脳裏に眠る、遥か昔の泥塗れの記憶を呼び起こす。 ――それは、ヒナがまだ小さな子供だった頃の記憶。 激しい炎に包まれる村。焼け崩れる家々。 「あ……ぁ……」 幼いヒナが震えながら立ち尽くす中、周囲の大大人たちが血相を変えて悲鳴をあげていた。 「ひゃああああ!!」 「か、家族を……! 自分の家族を、お前が殺したんだな!?」 「違う! これは、私のせいじゃ……!」 「黙れ、化け物!!」 濡れ衣だった。しかし、幼い彼女の言葉に耳を傾ける者は誰もいなかった。 「この街から出ていけ!!」 「私はやってない!! 信じて、お願いだから……!」 すがりつく彼女の手を振り払い、男たちは容赦なく小さな体を蹴り、殴りつけた。 冷たい地面に組み伏せられ、赤く焼けた鉄印が首筋に押し付けられる。ジウ、という皮膚の焦げる嫌な音と、肉が焼ける激痛。 「う、うわあああああ!!」 それが、彼女の首に一生消えない「罪人の紋章」が刻まれた瞬間だった。 激しい雨の中、泥水をすすりながら、一人きりで泣きながら歩く幼いヒナ。 「うぇぇん……! 私は……やってないのに……」 その後、成長した彼女は、なんとか生きるために「冒険者ギルド」の門を叩いた。 「すみません……冒険者登録を、したくて……」 窓口の受付嬢は、ヒナの首元の紋章を一目見るなり、冷ややかに突き放した。 「あ……『罪人の紋章』がある人は、登録できない決まりなんですよ。お引き取りを」 背後からは、他の冒険者たちの心ない野次が飛んでくる。 「おいおい、罪人が何しに来てんだよ!」 「罪人はそこらへんの泥水でも飲んでろ!! ハハハ!」 ――私は子供の時から、やってもいない濡れ衣という名の罪を着せられ、罪人の紋章を刻まれた。 それ以来、一度だって他の名前で呼ばれたことなんてなかった。 誰も私を、一人の人間として、女の子として見てくれなかった。 それなのに……。 ヒナは、手元にある温かいホットドッグと、前を歩くてぺの背中を見つめた。 (この人は……。私が『罪人』だと知っているのに、こんなに優しくしてくれた。私を罪人じゃなく、一人の『女の子』として見てくれた……) 「大丈夫? ぼーっとしてるけど」 不意に、てぺが足を止めて振り返り、心配そうにヒナの顔を覗き込んできた。 「あ、あはは……! ごめんごめん、ちょっと考え事しちゃって!」 「あはは、ならいいんだ。……あ、そういえば君、八重歯なんだね。可愛いな。実は、俺も八重歯なんだよ!」 てぺがニッと笑って見せた口元には、確かに小さな八重歯が覗いていた。 その瞬間、ヒナの顔に一気に血が上り、頬がリンゴのように真っ赤に染まった。 「な……っ! どこ見てるのよ!!」 恥ずかしさを隠すように、ヒナは両手で頬を押さえながらツンとそっぽを向く。 そんな彼女を見て、てぺは少し首を傾げながら、さらりと言ってのけた。 「どこって……君を見てるんだよ?」 「う、ぅぅ……!」 ヒナは完全に言葉を失い、さらに赤くなった顔を両手で覆い隠した。 これまで受けてきたどんな罵詈雑言よりも、目の前の少年のまっすぐな視線の方が、彼女の胸を激しく揺さぶるのだった。

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