遥 / 第152話

106話 ミカエルの最期

 カタストロフの巨体が、扉へ向かって押し込まれていく。  私――ミカエルたちは左右から攻撃を繰り返し、その進行を止めさせない。  ガブリエルの大剣が黒い身体を切り裂き、ウリエルの槍が足を貫く。  ラグエルの斧が腕を叩き落とし、サリエルの矢が翼を射抜いた。  そして、私も炎を纏った剣でカタストロフの身体を切り裂く。  少しずつ。  本当に少しずつ、カタストロフは扉へ近づいていた。 「このまま押し込むぞ!」  ガブリエルの声が響く。  私は剣と盾を構え直した。  もう少し。  この扉の向こうへ押し込めれば、世界は救われる。  そう思った時だった。  カタストロフの身体から、黒い霧が噴き出した。 「……何?」  霧は空へ広がり、周囲の災害を引き寄せていく。  吹き荒れる風。  大地を揺らす力。  空を走る雷。  遠くで発生していた吹雪さえも、黒い霧へ吸い込まれていった。  カタストロフの身体が、さらに膨れ上がる。  人々が抱いた恐怖や不安までもが、その身体へ流れ込んでいるようだった。 「まだ力を取り込めるのかよ……!」  ラグエルが叫ぶ。  次の瞬間、巨大な腕が振り下ろされた。 「みんな、散って!」  私は盾を前へ突き出す。  炎を纏わせた盾に、凄まじい衝撃が叩きつけられた。  ――ドゴォォォン!!  身体が後ろへ押される。  足元の地面が削れていく。 「ミカエル!」 「大丈夫!」  私は踏みとどまった。  ここを退けば、仲間たちまで巻き込まれる。  盾に亀裂が走った。  それでも、手を離さない。 「今だ!」  ガブリエルの声と同時に、三方向から攻撃が集中した。  槍。  斧。  無数の矢。  カタストロフの巨体が大きく揺れる。  私は剣に炎を集め、一気に踏み込んだ。 「この世界から……出ていって!」  炎を纏った剣を振り抜く。  カタストロフの身体が、扉の奥へ沈んでいく。  翼が消える。  肩が消える。  巨大な頭部までもが、扉の向こうへ入り始めた。  あと少し。  あと少しで――。  その時だった。  カタストロフが、残った力を一気に解き放った。  黒い衝撃波が周囲へ広がる。  けれど、狙われているのは私たちではなかった。  扉を支えている神々と天使たち。 「させない!」  私は迷わず前へ出た。  盾に炎を纏わせ、正面から受け止める。  ――ズドォォォン!!  轟音が響いた。  盾に無数の亀裂が走る。  そして――砕けた。 「……っ!」  凄まじい衝撃が身体を貫く。  力が抜けていく。  視界が、白く染まっていく。  ふと、自分の身体を見る。  指先が、光の粒へ変わっていた。 「私……消えるの……?」  恐怖はなかった。  ただ、仲間たちの姿を見つめる。  ガブリエル。  ラファエル。  ウリエル。  ラグエル。  サリエル。  そして――カマエル。  みんなが生きている。  それだけで、十分だった。 「……みんな、お願い」  声が震える。 「この世界を……これからも守って」  身体が、少しずつ光の粒へ変わっていく。  最後に見えたのは、扉へ押し込まれていくカタストロフだった。  私は小さく息を吐く。 「……みんな、さようなら」  身体が完全に光の粒となり、空へ消えていった。 ***  俺は、ミカエルがいなくなった場所を見つめたまま動けなかった。  また、大切な仲間が一人、いなくなった。  胸の奥が、張り裂けそうになる。  それでも――カタストロフは、まだ扉の前にいる。  悲しんでいる時間はない。 「……ミカエル」  俺は大剣を握り直す。 「その思い……無駄にしない!!」  彼女が残したものを、無駄にはできない。 「全員、続け!」  ラファエルたちが一斉に動いた。  カタストロフの身体の大半は扉の向こうへ入っている。  俺たちは残った身体を押し続けた。  黒い腕が扉の縁を掴む。  ウリエルの槍が、それを外す。  ラグエルの斧が身体を叩く。  サリエルの矢が翼を貫く。  俺は大剣を振り下ろした。 「行けぇぇぇっ!」  最後の抵抗を押し切る。  カタストロフの巨体が――完全に扉の中へ消えた。  扉の前から、邪神体の姿が消えた。  静寂が訪れる。 「……終わった」  ラファエルが呟く。  俺は、閉じられていない扉を見つめた。  けれど――まだ終わりではない。 「我々も、行こう」  ゼウスが前へ進み出る。  その言葉に、神々が続いた。  スカディ。  インドラ。  オオクニヌシ。  そして、世界各地から集まった神々。  彼らは一人ずつ、扉の向こうへ入っていく。  カタストロフと共に閉じ込められた世界を、内側から守るために。  最後に残ったのは、プロメテウスだった。  すでに神としての力を失った彼は、静かに扉を見つめる。 「これで……良かったのだろう」  誰に問いかけるでもなく、呟く。  そして、ゆっくりと歩き出した。 「天使たち、さらばだ」  プロメテウスも扉の中へ消えていった。  外に残ったのは、俺たち天使だけ。  カマエルが、手にした鍵を見つめる。 「……では、扉を閉じます」 「ああ」  カマエルが鍵穴へ鍵を差し込む。  ゆっくりと回した。  カチリ――扉が閉じる。  同時に、鍵が灰へと変わった。  風に舞った灰は、空へ溶けるように消えていく。  カマエルは、閉ざされた扉の前に立った。 「私が、これからこの扉を守ります」  俺は何も言わず、彼女の隣に立った。  もう、ミカエルはいない。  けれど――彼女が守ろうとしたものは、ここに残っている。  この扉の向こうには、神々とカタストロフがいる。  そして、その日から――カマエルは、この扉と共に生きることになった。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳