遥 / 第80話

80話 4人の連携

 俺たちが視線を戻したとき、邪神体は液状化した道路の中を泳ぐように、ゆっくりとこちらへ近づいてきていた。 「こっち来るぞ!」 「ああ、分かってる!」  そう言うと、蒼太が右手を前へ突き出す。  次の瞬間、液状化した地面から泥水が勢いよく巻き上がり、無数の水滴が宙へ舞い上がった。  蒼太は一瞬で浮遊させた水滴と泥水を一つに集め、鋭い氷柱へと変えていく。 「行け!」  氷柱が一斉に邪神体へ向かって放たれた。  何本もの氷柱が黒い硬質な鱗へ突き刺さり、激しい音を立てる。  しかし、氷柱が身体を貫くより早く、邪神体は液状化した地面へ滑り込むように潜っていった。 「……地面の中に逃げられた!」  次の瞬間――。  ――ドォン!!  邪神体の巨大な顔が、蒼太の足元から凶暴な牙を剥き出しにして飛び出してきた。 「うおっ!?」  蒼太は反射的に邪神体の頭を蹴り、その反動で身体を後方へ飛ばす。  間一髪で牙をかわした。 「蒼太、大丈夫か!?」 「ああ、牙には触れてないから大丈夫だ」 「それなら良かった……。碧羽、上からいけるか!」 「もちろん、任せて!」  碧羽は足元へ風を集め、その身体をふわりと宙へ浮かせる。  高層ビルの間を滑るように舞い飛び、上空でしなやかに弓を構えた。  邪神体が再び地中から顔を出した瞬間、碧羽は弦を引き絞る。 「……っ!」  放たれた矢が一直線に邪神体の頭部へ突き刺さった。  だが、致命傷には至らない。  邪神体は再び泥水を巻き上げながら、地中へ潜って逃げた。  咲は俺の隣で、緊迫した様子で邪神体を見つめている。 「……あの邪神体の核の位置、どこなんだろ?」  少しでも見えやすい場所を探そうと、咲が一歩前へ出ようとした。  その瞬間――ぐいっ。  俺はとっさに咲の腕を掴み、その場に押しとどめた。 「橙真先輩?」 「これ以上、前に出るな。どこから邪神体が飛び出してくるか分からないからな」 「……はい、分かりました」  咲は素直に頷き、もう一度邪神体へ視線を戻した。  俺たち四人の中で、邪神体の核を見つけられるのは咲だけだ。  だからこそ、無理に前へ出すわけにはいかない。  地中を泳ぐ邪神体が、再び姿を現した。  その瞬間、蒼太へ狙いを定め、一直線に襲い掛かる。 「蒼太、一旦核を見つけたい! 回避に専念してくれ!」 「分かった!」 「ついでに、これを受け取ってくれ!」  俺は右手を前へかざし、小さな火の玉を生み出した。  火の玉は蒼太へ向かって飛んでいき、その身体へ吸い込まれるように消えていく。  次の瞬間、身体能力が一気に引き上げられ、蒼太の踏み込みがさらに鋭くなった。 「……この感じ、久々だな」 「碧羽にも!」  俺はもう一つ火の玉を生み出し、風に乗せて上空の碧羽へ飛ばす。  彼女の身体へ溶け込んだ瞬間、その飛翔速度と旋回の鋭さが一気に跳ね上がった。 「……確かにそうかもね!」  蒼太は蛇の猛攻をかわし続ける。  碧羽は上空を旋回しながら、邪神体の動きを細かく観察する。  そして、その瞬間――邪神体は大きく身体を反らし、太い鎌首を高く持ち上げた。 「ギャアアアアアアッ!!」  空を切り裂くような咆哮が響き渡る。  その瞬間、咲の瞳が大きく見開かれた。 「見えました! 橙真先輩! 首の付け根に核があります!」 「了解! 蒼太、今の状態で凍らせられるか!」 「ああ、任せろ」  蒼太が両手を大きく広げる。  すると、周囲の泥水が一斉に浮き上がり、邪神体の全身へ絡みついていく。 「……凍れ!」  ――バキバキバキバキッ!!  一粒の水滴が凍ったのを皮切りに、氷結が一気に広がっていく。  巨大な黒い蛇は、瞬く間に全身を氷で覆われ、完全に動きを止めた。 「碧羽!」 「任せて!」  上空で弦を極限まで引き絞る碧羽。  周囲を渦巻く風と雷光が一本の矢へと収束していく。  ――シュリィィィンッ! 「……これなら倒せる!」  放たれた一撃は閃光となって飛び出した。  一直線に飛翔した矢は、凍り付いた邪神体の首の付け根――赤い核を正確に射抜く。  ――パリン!!!  甲高い音が響き渡った。  赤い核が粉々に砕け散ると、巨大な黒蛇の身体にも無数の亀裂が走る。  そして次の瞬間、邪神体は黒い粒子へと変わり、静かに消えていった。 ***  周囲に、しばしの静寂が訪れた。 「……終わったか?」  蒼太が小さく呟いた。 「倒せたみたいだな」 「やった……!」  咲が安堵したように息を吐く。  だが――その直後だった。  ――ゴゴゴゴゴ……! 「……え?」  地面の奥から、再び地鳴りが響き渡る。  邪神体が消滅したことで、液状化した道路の崩壊が一気に進み始めた。  道路が大きく波打ち、次々と地面が陥没していく。  アスファルトが轟音を立てながら崩れ落ち、その下にあった地面までもが泥水へと飲み込まれていった。 「これは!」  俺たち四人は息を呑み、崩れゆく街を見つめる。  やはり今回も、邪神体が消滅した直後に異変が起きた。  俺は崩壊する街から目を離し、遠く――三角州が存在する方角の空へ視線を向ける。 (ガブリエルの方は……どうなったんだろう) 「橙真、何か言ったか?」 「ああ……倒せてよかったなって」 「そういうことか」 「たしかに、倒せてよかったよ」 「はい!!」  俺はもう一度、三角州の方角へ視線を向ける。  遥か遠くで、ここより恐ろしい異変が起きていないことを、強く祈りながら――。

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