⛰️終末 金剛山 / 第38話

Echo 06 『 時の振り子 』

サントラ イメージソングはこちらからどうぞ https://open.spotify.com/playlist/6bFZdpvxKZC0kdREsooTmc?si=a1feec7479d64356 対応番号 : 11 / 12
 |黒塗《くろぬ》りの高級車の車内は、エンジンの|微《かす》かな|唸《うな》りだけが低く満ちていた。|尻《しり》を|預《あづけ》けた|革張《かわば》りの座席は、じんわりと体温を吸って|湿度《しつど》を|帯《お》び、高級車特有の、あの重く甘い|芳香《ぼうこう》が|微《かす》かに鼻をくすぐる。  |袖口《そでぐち》のシワを指先でなぞって|整《ととの》え、左胸のポケットからスマートフォンを取り出した。|液晶《えきしょう》から|放《はな》たれる|青白《あおじろ》い光が、|網膜《もうまく》を|刺《さ》し、|薄暗《うすぐら》い車内に彼女の|冷《ひ》ややかな|輪郭《りんかく》を焼き付ける。  運転手は背中でその|気配《けはい》を感じながら、言われるがままに目的地へと|滑《すべ》り出した。  彼女は短く、|肺《はい》の奥まで|酸素《さんそ》を|詰《つ》め|込《こ》むように息を|吸《す》い、画面をタップした。 「もしもし、こちら|八咫烏《やたがらす》|財団《ざいだん》です」 「合言葉は?」  電話口から|流暢《りゅうちょう》に答えが返ってくる。 「ヤタカラスカモタケツノミノミコト」 「動きがあったわ。さっそくあなたたちには動いてもらうわよ。場所は既に転送済みのファイルを送っておいたわ」 「|承知《しょうち》いたしました、お|嬢様《じょうさま》」  少女はサイドボタンを押し、|液晶《えきしょう》画面を閉じた。 「……さて」  彼女は窓の外、|網膜《もうまく》を焼く太陽に|照《て》らされた|明雲《めいうん》神社の方向を見つめた。 「きっとこの運命の|歯車《オートマタ》は、あなたを|狂《くる》わせる……もう少し|踏《ふ》ん|張《ば》ってね」  ———  その頃、|明雲《めいうん》神社  |千切《ちぎ》れた葉と|砕《くだ》けた石の|礫《こいし》が|頬《ほほ》を|鋭《するど》くかすめ、火薬のような|焦《こ》げた|匂《にお》いと|衝撃波《しょうげきは》が、肌の|産毛《うぶげ》を|逆立《さかだ》たせる。 「ふっ、予想通りだったな」  綾華は、風を|裂《さ》くような身のこなしで攻撃をかわし、俺にそう|告《つ》げた。 「どういう意味だ」  彼女の|瞳《ひとみ》には、|冷徹《れいてつ》な|警戒心《けいかいしん》が|刺《さ》すような光となって|宿《やど》っていた。 「|甘奈《あまな》に最後に|会《あ》ったのはいつだ?」  |淀《よど》む視界と、脳を直接|掻《か》き回されるような|眩暈《めまい》の中で、俺は|千切《ちぎ》れかけた理性をつなぎ合わせようとした。 「|甘奈《あまな》……あの……入院から……グアッ……フゥッ……頭が|痛《いた》い……」  耳の奥で、金属をこすり合わせたようなキーンという高音が|鳴《な》り|響《ひび》き、|頭蓋骨《ずがいこつ》を内側からノミで|叩《たた》き割られるような|激痛《げきつう》が走る。 (|甘《あま》…|奈《な》…誰だ…?|甘奈《あまな》って誰なんだ?) 「ちっ、|面倒《めんどう》だな。|制御不能《せいぎょふのう》か...」  |綾華《あやか》の|拳《こぶし》が、みぞおちの奥にある|内臓《ないぞう》を、直接|握《にぎ》りつぶすような重い|衝撃《しょうげき》となってめり|込《こ》む。そのたびに、|肺《はい》の中の空気が強制的に|絞《しぼ》り|出《だ》され、|喉《のど》の奥がヒュッという音を立てる。 「|手加減《てかげん》しろと言われているのでね。ただ、|容赦《ようしゃ》はしないぞ」 「ガハッ…お前に指示を出したのは誰だ?」 「それは|機密事項《きみつじこう》だ。だがすぐ会えるだろうさ」 「お前らの狙いは何だ?」  |綾華《あやか》は一度、冷たい空気を深く|吸《す》い|込《こ》み、|肺《はい》を|硬《かた》くしならせた。 「『 時の振り子 』というやつが、この|世《よ》に存在する」 「は?」 「『 時の振り子 』は、お前のような人間の|憎悪《ぞうお》などの感情や|魂《たましい》を|喰《く》い|荒《あ》らして|栄養《えいよう》を|得《え》ている。君に残っているその|残滓《ざんし》は『 時の振り子 』にとってみれば|天敵《てんてき》になる」 「それがどういう意味だってんだよ!」 「だから私たちは君を|監視《かんし》し管理し、|生《い》き|永《なが》らえさせなければならない。君を|観察《かんさつ》し続けた研究結果を元に、|我々《われわれ》は『 運命の|オートマタ《はぐるま》 』を破壊する」 (理解が追いつかない。|脳細胞《のうさいぼう》が熱を持ち、処理しきれない情報の|濁流《だくりゅう》で思考が|泥濘《ぬかり》に沈んでいく。) 「だからそれが俺にどう関係するって言うんだよ!!!」 「君が知る必要はない。君が大人しくなるまで|叩《たた》くだけだ」 (胃のあたりからせり上がる、焼けるような|理不尽《りふじん》への怒り。俺が一体何をしたって言うんだ。)  風を切る音さえ置き去りにして、|綾華《あやか》の右腕が胸に|突《つ》き|刺《さ》さる。 「グフッッ…息が……できない……」  |肺《はい》の細胞一つ一つに、氷のように|冷《つめ》たく|鋭《するど》い|針《はり》を|千本《せんぼん》同時に|打《う》ち|込《こ》まれたような|激痛《げきつう》。口の中に生ぬるい|鉄錆《てつさび》の味が広がり、せき込むたびに|粘《ねば》り気のある熱い血が、指の間をドロリと|伝《つた》い落ち、|掌《てのひら》を|真《ま》っ|赤《か》に染めていく。 「|気絶《きぜつ》できると思っていたんだがな……しぶといな」  |綾華《あやか》の|右拳《みぎこぶし》から、|陽炎《かげろう》のような熱気が立ち上る。 「すまないが、私も|雇《やと》われている身なのでね。|暴走《ぼうそう》した君を止めなければならない」  彼女の|硬《かた》く|冷《つめ》たい|掌《てのひら》が、俺の頭を|鷲掴《わしづか》みにした。地面から足が|離《はな》れ、重力が消える。|三半規管《さんはんきかん》が|狂《くる》い、自分の身体がどこにあるのかすら|曖昧《あいまい》になる|浮遊感《ふゆうかん》。  |絶体絶命《ぜったいぜつめい》。その時、彼女の|左拳《ひだりこぶし》が|放《はな》たれようとした瞬間——。 「ッ!!!!!!」  |網膜《もうまく》を焼き切るような|閃光《せんこう》が視界を|横切《よこぎ》り、直後、|鼓膜《こまく》を|突《つ》き|破《やぶ》るほどの|爆音《ばくおん》が世界を真っ白に染めた。背中に、巨大な|鉄塊《てっかい》に|叩《たた》きつけられたような|衝撃《しょうげき》が走り、身体がくの字に折れる。 「ガァ"ハァ"!!!」  左耳からすべての音が消失し、世界が|奇妙《きみょう》に|静《しず》まり返る。頭の中をミキサーでかき|混《ま》ぜられたような感覚に意識が|遠《とお》のく中、俺は|綾華《あやか》がその身を|呈《てい》して俺を|庇《かば》っているのを見た。  ———  ——— |綾華《あやか》視点  一瞬のことだった。  |肌《はだ》を|刺《さ》すような|異質《いしつ》な空気のざわめきに、私の本能が|警報《けいほう》を|鳴《な》らした。 (何か来る……!)  その光の矢は、|由記《ゆうき》を殺そうとしていた。 「危ないっ!!」  |咄嗟《とっさ》に彼を地面に|押《お》し|倒《たお》し、|覆《おお》いかぶさる。  |眼前《がんぜん》のコンクリートがドロドロとマグマのように|溶《と》け落ちる|様《さま》が見えた。数十メートル|離《はな》れているはずなのに、|肌《はだ》を|焦《こ》がすような|灼熱《しゃくねつ》が|押《お》し|寄《よ》せ、全身から|不快《ふかい》な汗が|噴《ふ》き|出《だ》す。背中をかすめたその熱量は、私の|脊髄《せきずい》に|戦慄《せんりつ》を|刻《きざ》みつけた。 「あらぁ、外しちゃったぁ」  空中に|浮遊《ふゆう》するその女は、獲物の手足を|毟《むし》る瞬間を楽しみにしているような、|残虐《ざんぎゃく》な|悦《よろこ》びに|濡《ぬ》れた|瞳《ひとみ》でこちらを見下ろしていた。 「久しぶりねぇ、|綾華《あやか》」  その脳を|麻痺《まひ》させるような甘ったるく|気《け》だるい声。全身の|毛穴《けあな》が|収縮《しゅうしゅく》し、|鳥肌《とりはだ》が立つような本能的な|拒絶感《きょぜつかん》が走る。 「私の名前を、気安く呼ぶなっ!!!!」  私は、指先に感じるコンクリートの冷たく|硬《かた》い|感触《かんしょく》を|槍《やり》へと変え、怒りに任せて|投擲《とうてき》した。  だが、|手応《てごた》えはない。 「もう〜久しぶりの|挨拶《あいさつ》なのに、つれないねぇ」  女は|余裕《よゆう》ありげに|湿《しめ》った舌で|唇《くちびる》をなぞり、足を組み直してこちらを|挑発《ちょうはつ》する。  この「バイアス」の|質《しつ》……胃を|掴《つか》まれるような嫌な|予感《よかん》が、|直感《ちょっかん》となって|駆《か》け|巡《めぐ》る。 「|貴様《きさま》が“やつ”の|眼《め》を|醒《さ》まさせたのか?」 「どうかしらねぇ、どっちかというと|目覚《めざ》めるのを手助けした感じぃ?」 「やつは重要人物だ。ここで|我々《われわれ》の|邪魔《じゃま》はしないでもらいたい」 「|私《わたし》だってぇ、こんなめんどっちぃことやりたくないんだけどさぁ。ほらぁ上からの命令は絶対ってやつ? だからあんたに|構《かま》ってる時間も|惜《お》しいってわけ」  女が、|泥《どろ》のように|倒《たお》れている彼を|値踏《ねぶ》みするような視線で|一瞥《いちべつ》し、|小悪魔的《こあくまてき》な|笑《え》みを|浮《う》かべた。 「そこに|倒《たお》れてる男が私たちの目標なんだけど、うちって|無駄《むだ》な|争《あらそ》いが嫌いなんだよねぇ」  |喉《のど》の奥が|乾《かわ》くような|緊張感《きんちょうかん》が走る。 (……時間|稼《かせ》ぎか。戦闘は|避《さ》けられなさそうだ…) 「わざわざ|手負《てお》いの人を攻撃するのも、なんだかいけ|好《す》かないしぃ」 「……それでどうしたいんだ?」 「え〜? 分からない? もう|脳《のう》みそまでカチコチになってしまったのかなぁ?」 「あんたらがこの男を|気安《きやす》く|扱《あつか》っていい理由にはならんぞ」 「あらぁあらぁ? さっきまであんなに一方的な攻撃で|気絶《きぜつ》までさせちゃって〜、|綾華《あやか》ちゃん|矛盾《むじゅん》してない?」 「っ、ふざけるのも|大概《たいがい》にしろ!!」  奥歯を|噛《か》み|締《し》め、怒りで指先が|微《かす》かに|震《ふる》える。 「あ、怒ったぁ? ごめ〜んごめ〜ん。でもそうねぇ。今ここであなたを|見逃《みのが》してあげる|代《か》わりに、その男を|寄《よ》こしてよ」  |躊躇《とまど》いなど、最初から私の辞書にはなかった。 「|断《ことわ》る」  女の|口角《こうかく》が、|獲物《えもの》を|追《お》い|詰《つ》めた|猛獣《もうじゅう》のような|狂気《きょうき》で|釣《つ》り|上《あ》がる。 「え? 聞こえないなぁ? まさかこのまま|逃《に》げ|切《き》れるとでも?」  言い終わるより早く、私は鉄くずを弓矢に変え、|弦《げん》を引き|絞《しぼ》る|筋肉《きんにく》の|緊張《きんちょう》を矢へと|乗《の》せて|解《と》き|放《はな》った。 「人が話してる間は、最後まで聞けって|習《なら》わなかったぁ?! アハハハハハハ!!」  耳を|劈《つんざ》く|狂笑《きょうしょう》。  無差別に|降《ふ》り|注《そそ》ぐ|瓦礫《がれき》が、周囲のビルや|家屋《かおく》を|豆腐《とうふ》のように|容易《たやす》く|粉砕《ふんさい》していく。私は彼の身体を|背負《せお》い、その重みを|背骨《せぼね》で受け止めた。 「『 |パーセキュート《persecute》 |ゴッドレイン《godrain》 !!!!』 」  神の|槍《やり》が|降《ふ》り|注《そそ》ぐような破壊。それだけではない。  |吸《す》い取られた|精気《せいき》が女の力となり、|大気《たいき》が彼女の支配下に置かれていくような|圧迫感《あっぱくかん》が|肌《はだ》にまとわりつく。 「つまんないなぁ、じゃあこうしちゃおうかっ。えいっ」  巨大なビルの|残骸《ざんがい》が、太陽を|遮《さえぎ》る巨大な|影《かげ》となって|頭上《ずじょう》から|降《ふ》りかかる。 「っ!!!!!!!」  全身の神経を|衝突《しょうとつ》の|ベクトル《方向》へと|同調《どうちょう》させ、|衝撃《しょうげき》を|逃《に》がす。だが、彼女の|追撃《ついげき》は|止《と》まらない。 「はっ、まるでメスゴリラじゃないか」  私は|渇《かわ》いた|喉《のど》で|挑発《ちょうはつ》を|投《な》げた。 「なぁに、それで|挑発《ちょうはつ》したつもりなの?」 「あんた、サキュバスのくせに|誘惑《ゆうわく》が|下手《へた》くそだもんな」  |血管《けっかん》が|浮《う》き|出《で》るほどに|激昂《げっこう》した女の顔が|紅潮《こうちょう》し、ワナワナと|震《ふる》える。 「あんまり怒らせると……どうなっても知らないわよっ!!!!!!!」  |瓦礫《がれき》が|流星群《りゅうせいぐん》のように空を|埋《う》め|尽《つ》くす。  私は、|背負《せお》った彼の手のひらの、|頼《たよ》りないほどに|冷《ひ》え|切《き》った|感触《かんしょく》を強く|握《にぎ》りしめた。 「お前の力を借りるぞ」  空を|覆《おお》い|尽《つ》くすほどの|瓦礫《がれき》が|降《ふ》り|注《そそ》ぐ。  私は一歩も引かなかった。私の眼に|狂《くる》いはない。彼こそがこのくそったれな世の中を変える|革命《かくめい》の|鍵《かぎ》。力を借りるということは|代償《だいしょう》を|伴《ともな》う。だが今はこれがベストな選択。  全身に|電撃《でんげき》が走り出す。ありったけの声を|絞《しぼ》り|出《だ》し、私は|叫《さけ》んだ。 『 |ロード《Lord》 |インバーテッド《Inverted》 !!!!』 「へ?」  |瓦礫《がれき》の山が、不自然な|軌道《きどう》を|描《えが》いて反転し、重力の|鎖《くさり》から|解《と》き|放《はな》たれたように女へと|突《つ》き|刺《さ》さる。  彼の能力——それは|暴力《ぼうりょく》を|振《ふ》るわず、世界の|摂理《せつり》そのものを「反転」させる。だが|代償《だいしょう》として、身体的・精神的ダメージが|鏡写《かがみうつ》しのように重くのしかかる。  私は彼を|背負《せお》って帰ろうとしたその時  ガコッッッッッ——— 「...ふぅ、どうやらまだ返してくれないみたいだ」  |瓦礫《がれき》の|間《あいだ》から、ドクドクと|拍動《はくどう》する赤黒い|血潮《ちしお》が|噴《ふ》き|出《だ》し、それがヌルリとした|光沢《こうたく》を持つ|触手《しょくしゅ》へと|変貌《へんぼう》していく。 「ちっ、自己再生か。しぶといやつめ」  私は|瓦礫《がれき》の|影《かげ》を|伝《つた》って移動し、|触手《しょくしゅ》の攻撃から逃げる。  しかし今ここで攻撃しようと|離《はな》れてしまえば、彼女の思う|壺《つぼ》だ。彼女の|狙《ねら》いは彼であり、彼の能力までもが|吸《す》い|取《と》られてしまえばとんでもないことになる。 「せめて|核《かく》を攻撃できれば...」  足元から、|粘《ねば》つくような|不快《ふかい》な音がした。|赤黒《あかぐろ》い|肉塊《にくかい》から、無数の「目」が生え、こちらの毛穴の一つ一つを|監視《かんし》するように|凝視《ぎょうし》している。 「しまっ……!!!!」  |油断《ゆだん》した。足首に|絡《から》みつく、|吸盤《きゅうばん》のように|肌《はだ》に|吸《す》い|付《つ》く|触手《しょくしゅ》の|生温《なまたた》かい|感触《かんしょく》。|四肢《しし》から力が|奪《うば》われ、|髄液《ずいえき》を直接|啜《すす》られるような、|芯《しん》からの|脱力感《だつりょくかん》に|襲《おそ》われる。 「くそっ、こんな時に!!!」 (せめて、彼だけでも……!)  周囲の空気が一気に|緊張《きんちょう》するのを感じた。彼女に違いない。人型の|血潮《ちしお》が、目の前に立っていた。 「ふぅ...なかなかやってくれるじゃない」  かなりまずい。彼女はすぐに再生するとでもいうのか。|底知《そこし》れない|焦《あせ》りで身体が|震《ふる》えた。 「まぁ、まだ|不完全体《ふかんぜんたい》だけど、これでもイける...さて」  彼女は一呼吸おいた。その|吐息《といき》はまるで|野獣《やじゅう》そのものだ。 「わたくしの|出番《でばん》ですわよ!!!」  |心臓《しんぞう》を|冷《つめ》たい手で|直《じか》に|鷲掴《わしづか》みにされたような、|根源的《こんげんてき》な|恐怖《きょうふ》。|触手《しょくしゅ》が|容赦《ようしゃ》なく|肌《はだ》を割り、|粘膜《ねんまく》を|凌辱《りょうじょく》する不快な|刺激《しげき》。私のプライドが、そのヌルついた|愛撫《あいぶ》によってズタズタに|引《ひ》き|裂《さ》かれていく。 「アハッ、いつまで|耐《た》えられるかなぁ?」  |肺《はい》が|圧迫《あっぱく》され、|酸素《さんそ》が|途絶《とだ》える。|脳《のう》が|痺《しび》れる感覚が|幾度《いくど》も波のように押し寄せ、視界が|白濁《はくだく》していく。 「お楽しみはまだまだこれからよっっ!!!」  内臓の|壁《かべ》を直接こすり上げられるような、|吐《は》き|気《け》を|催《もよお》す|刺激《しげき》。視界の|隅《すみ》で赤い星が散り、意識が、深い|闇《やみ》の底へと沈んでいく。 「それじゃあ一気にラストスパートイこっか」  |触手《しょくしゅ》が|脈動《みゃくどう》し、|粘《ねば》り|気《け》のある|赤濁《せきだく》した液体が、|身体《からだ》の奥底まで|容赦《ようしゃ》なく|注《そそ》ぎ|込《こ》まれ、|溢《あふ》れ|出《だ》していく。 「グッ……ウ……ゥ……グ……」 (……見るな……私のこんな姿を……)  私は|力尽《ちからつ》き、ゴミのように放り出された。 「抵抗する人間を|嬲《なぶ》るのもなかなか悪くないわね。…じゃあ、彼を連れていきましょうか」 (ダメだ……そいつに……触れるな……)  指先一つ動かせない絶望。遠ざかっていく意識の|淵《ふち》で、私は消えゆく彼の|影《かげ》に向けて、感覚を失った手を|空《むな》しく伸ばした。

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