⛰️終末 金剛山 / 第63話

Echo 09 『 始原の稲妻 』

サントラ イメージソングはこちらからどうぞ https://open.spotify.com/playlist/6bFZdpvxKZC0kdREsooTmc?si=a1feec7479d64356 対応番号 : 15 / 16
 |降《ふ》り|頻《しき》る雨が、|肌《はだ》に|刺《さ》さるような|冷気《れいき》を|帯《お》びてきた。  |雨粒《あまつぶ》は|容赦《ようしゃ》なく|衣服《いふく》を|透《す》かし、|皮膚《ひふ》の熱をじわじわと|奪《うば》い|去《さ》っていく。|吐息《といき》は白く|混《ま》じり、指先はかじかんで感覚を|失《うしな》い|始《はじ》めていた。 「はぁ、つまんないの」  |触手《しょくしゅ》からは|辻ノ《つじの》|綾華《あやか》の力が、まるで|枯《か》れた|井戸《いど》のように感じ取れない。 「でもぉ、|メインディッシュ《主食》はこれからっ♪」  彼女は彼の|身体《からだ》を|掴《つか》むと、|粘《ねば》りつくような|湿《しめ》り|気《け》を持った|触手《しょくしゅ》を、|吸《す》い|付《つ》くようにねっとりと|絡《から》め|上《あ》げた。 「それじゃあ、あなたの|精気《せいき》をいただきま……」  その|瞬間《しゅんかん》、|鋭《するど》い|閃光《せんこう》が彼女の|網膜《もうまく》を焼いた。|触手《しょくしゅ》が力なくうなだれ、|切《き》り|口《くち》からはドロリとした|熱《あつ》い|血潮《ちしお》が、|生々《なまなま》しい|音《おと》を|立《た》てて|噴《ふ》き|出《だ》す。 (この私が、|後手《ごて》を|取《と》るだなんて……!!!) 「くっぅ、誰っ!?」 「|申《もう》し|遅《おく》れました。|私《わたくし》、|十司《とつか》 |素榛《すばる》と|申《もう》します」  |空《そら》から|舞《ま》い|降《お》りるその姿は、|天使《てんし》か、あるいは|悪魔《あくま》か。|片翼《かたよく》は|漆黒《しっこく》、もう|片方《かたほう》は|純白《じゅんぱく》。 「|面白《おもしろ》いことをやってくれるじゃない……!」  |不敵《ふてき》な|笑《え》みを|浮《う》かべた彼女の|周囲《しゅうい》で、|触手《しょくしゅ》が|大気《たいき》を|震《ふる》わせ、|地面《じめん》を|何度《なんど》も|叩《たた》きつける|重低音《じゅうていおん》が|腹《はら》に|響《ひび》く。 「|油断《ゆだん》してはなりませんよ」 「何ですってぇ?!」  |鋭利《えいり》な|刃《やいば》が|触手《しょくしゅ》を|掠《かす》め、|火花《ひばな》と|共《とも》に|破片《はへん》が|勢《いきお》いよく|宙《ちゅう》に|舞《ま》った。 「誰っ?!」  彼女は|驚愕《きょうがく》に目を|見開《みひら》いた。先ほどから|伏兵《ふくへい》が二人もいたなど、計算外だったからだ。 「……!!! |躾《しつけ》のなってないメイドですわね!!!」  |触手《しょくしゅ》が|地面《じめん》を|抉《えぐ》り、|怒涛《どとう》の|衝撃波《しょうげきは》が|肌《はだ》を|叩《たた》く。|飛散《ひさん》するコンクリートの|破片《はへん》が|頬《ほほ》を|掠《かす》めるが、|誰《だれ》も傷一つ|負《お》っていない。 「……!!! どうして!??」 「|大変《たいへん》|申《もう》し|上《あ》げにくいのですが、今あなたが攻撃したのは——」  |十司《とつか》 |素榛《すばる》は、|冷徹《れいてつ》な|眼差《まなざ》しを|向《む》けて|言《い》い|放《はな》った。 「|残像《ざんぞう》です」 「ア、アハ、アハハハハハハハハハハ!!!!」  |狂《くる》ったような|高笑《たかわら》いが、|瓦礫《がれき》に|反射《はんしゃ》し|不協和音《ふきょうわおん》に|響《ひび》く。 「なかなかいい|前菜《ぜんさい》じゃない!! そいつを|食《た》べるのは、あなたたちを|喰《く》らってからにしてやるわ!!!」  彼女が|素榛《すばる》に|向《む》かって|突進《とっしん》しようとしたその時、|空一面《そらいちめん》を|埋《う》め|尽《つ》くす|銀《ぎん》の|稲妻《いなづま》が、彼女を|標的《ひょうてき》に|飛来《ひらい》する。 「このクリスタル スカルによって、あなたに死をもたらしましょう」 「『 |ディバイド《Divide》 |ゲルク《Dgelugsp》 』」  熱を|帯《お》びた|血《ち》の雨が|降《ふ》り|注《そそ》ぎ、|大地《だいち》は|瞬《またた》く|間《ま》に|赤黒《あかぐろ》く染まっていく。 「い、いやぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」  |絶叫《ぜっきょう》と|共《とも》に、|肉塊《にくかい》は|跡形《あとかた》もなく|消滅《しょうめつ》した。 「|目標《もくひょう》、|殲滅《せんめつ》を確認」 「|姉《ねえ》さま、お|疲《つか》れさまでした」 「ふぅ、|一時《いちじ》はどうなるかと思いましたが……|間《ま》に|合《あ》いましたね」  |素榛《すばる》と|華緋《はるひ》はそう言うと、俺と|綾華《あやか》を|背負《せお》い、一歩を|踏《ふ》み|出《だ》した。  ミシッッッ  その小さな、しかし|乾《かわ》いた|破壊音《はかいおん》が、|静《しず》まり|返《かえ》った戦場に|響《ひび》いた。 「……っ!!! 危ないっっ!!!」  |素榛《すばる》は|華緋《はるひ》を|庇《かば》ったが、|避《さ》けることはできなかった。|鈍《にぶ》い|衝撃《しょうげき》が|腕《うで》を走り、雨に|薄《うす》められた|鮮血《せんけつ》が、足元にどす|黒《ぐろ》い|血溜《ちだ》まりを作っていく。 「……|姉《ねえ》さま!! あぁ、私を|庇《かば》ったばかりに……」 「|気《き》を|付《つ》けろ。まだ|来《く》るぞ」  |飛《と》び|散《ち》った|肉片《にくへん》がうごめき、|塊《かたまり》となって|脈動《みゃくどう》を始める。その|不気味《ぶきみ》な肉の|波打《なみう》つ音が|耳障《みみざわ》りに|轟《とどろ》く。 「|殲滅《せんめつ》失敗、作戦変更だ。目標:SCP-E739を無力化する」  |肉塊《にくかい》から無数の目玉が開き、|粘《ねば》つく視線でこちらをギョッと|睨《にら》みつける。そのおぞましさに|心臓《しんぞう》を直接|握《にぎ》りつぶされたような|恐怖《きょうふ》が走り、|膝《ひざ》がガクガクと|震《ふる》え、|大地《だいち》に|縫《ぬ》い|付《つ》けられたように|華緋《はるひ》は足がすくむ。 「|華緋《はるひ》、やつの弱点を|調《しら》べろ!!」 「えぇ|姉《ねえ》さま……『 |ザ《The》 |ロード《Lord》 |アイズ《Eyes》 !! 』」 「……彼女は『6つの|心臓《しんぞう》』を|宿《やど》している……ということは!」 「ちっ、あと4回倒さないと|消滅《しょうめつ》しないのか。|厄介《やっかい》な相手だな……」 「ミナ……コワス……コワシテヤル……!!!!」  空気を|震《ふる》わせる|衝撃波《しょうげきは》。|直後《ちょくご》、|大地《だいち》が|陥没《かんぼつ》し、|巨大《きょだい》なクレーターが目の前で|口《くち》を|開《あ》けた。 「いくらこの|時空《じくう》が|転移《てんい》してるからといって、このままでは元の|時空《じくう》に|甚大《じんだい》な|影響《えいきょう》が出るぞ…」  |見渡《みわた》す|限《かぎ》りの|残骸《ざんがい》。赤く染まった、|鉄錆《てつさび》の|匂《にお》いが|充満《じゅうまん》する戦場。  その戦闘の|真《ま》っ|只中《ただなか》、|辻ノ《つじの》 |綾華《あやか》が|眼《め》を|醒《さ》ました。 「起きましたか、|綾華《あやか》」 「ぐっ……やつは本当に|倒《たお》せるのか?」 「|本領発揮《ほんりょうはっき》じゃないかもしれないが、|協力《きょうりょく》してくれるか?」  |素榛《すばる》は|綾華《あやか》の顔を|窺《うかが》いながら問いかける。 「はっ、言われるまでもない」  彼女は|鉄骨《てっこつ》を|刀《かたな》へと変え、|凍《い》てつくような集中力で|精神《せいしん》を|研《と》ぎ|澄《す》ませた。彼女が|剣《けん》を|一振《ひとふ》りすると、|刀身《とうしん》から|爆《は》ぜるような|炎《ほのお》が|噴《ふ》き|出《だ》した。 「|我《わ》が|主《あるじ》に|捧《ささ》ぐ、この|一振《ひとふ》りが|虚構《きょこう》を|切《き》り|裂《さ》く|道標《みちしるべ》とならんことを」 「『 |神《かみ》の|名《な》と|共《とも》に、|勝利《しょうり》は|我《われ》にあり 』!!!」  |刀《かたな》は|鳳凰《ほうおう》の形へと|変貌《へんぼう》し、|暴威的《ぼういてき》な|熱風《ねっぷう》が|鼓膜《こまく》を|震《ふる》わせ、|肌《はだ》の表面をジリジリと焼き|焦《こ》がす。 「|尋常《じんじょう》に、|参《まい》るっ!!」  |心臓《しんぞう》の|鼓動《こどう》が一度、|跳《は》ねた。  直後、|綾華《あやか》の姿が視界から|消失《しょうしつ》する。|踏《ふ》み|込《こ》んだ足元のアスファルトが|爆《は》ぜ、|肉塊《にくかい》の|巨躯《きょく》に|一筋《ひとすじ》の|紅《あか》い|閃光《せんこう》が|奔《はし》った。 「ギ、ガァアアア!!」  |肉塊《にくかい》から無数に|生《は》えた目玉が、全方位から彼女を|捉《とら》えようと|蠢《うごめ》く。しかし、遅い。  |鳳凰《ほうおう》の|翼《つばさ》を|纏《まと》った彼女の|軌跡《きせき》は、重力を|無視《むし》した|超高速《ちょうこうそく》の|演舞《えんぶ》となって、|異形《いぎょう》の肉を|縦横無尽《じゅうおうむじん》に|裁断《さいだん》していく。 「ハッ、フゥッ……!」  |短《みじか》く|鋭《するど》い|呼気《こき》。|肺《はい》の|奥《おく》が|灼熱《しゃくねつ》の|空気《くうき》に|焼《や》かれ、|視界《しかい》が|酸素不足《さんそぶそく》で|一瞬《いっしゅん》、|明滅《めいめつ》する。だが、彼女の|集中力《しゅうちゅうりょく》は|極限《きょくげん》を|超《こ》えていた。  |肉塊《にくかい》から|放《はな》たれた|赤黒《あかぐろ》い|触手《しょくしゅ》が、|死角《しかく》から彼女の|心臓《しんぞう》を|狙《ねら》って|殺到《さっとう》する。 「……くっ!」  |背筋《せすじ》を|駆《か》け|抜《ぬ》ける、死の|冷気《れいき》。  彼女は|空中《くうちゅう》で|身体《からだ》を|捻《ひね》り、|紙一重《かみひとえ》でそれを|回避《かいひ》した。|頬《ほほ》をかすめた|触手《しょくしゅ》の|風圧《ふうあつ》で|皮膚《ひふ》が|裂《さ》け、|熱《あつ》い|血《ち》が|滴《したた》る。|滞空《たいくう》するわずか一秒に|満《み》たない|刹那《せつな》。彼女は|残《のこ》る|全精力《ぜんせいりょく》を、|鳳凰《ほうおう》の|輝《かがや》きへと|凝縮《ぎょうしゅく》させた。  静寂。  |周囲《しゅうい》の|雨音《あまおと》さえも|消《き》えたかのような、|奇妙《きみょう》な|無音《むおん》。|指先《ゆびさき》から感覚が|消《き》え、ただ「|斬《き》る」という|意志《いし》だけが|神経《しんけい》を|直走《ひたはし》る。 「これで、|最後《さいご》っっ!!!!」  |絶叫《ぜっきょう》と共に、|鳳凰《ほうおう》の|咆哮《ほうこう》が戦場を|呑《の》み|込《こ》んだ。光の|渦《うず》が|異形《いぎょう》の|核《かく》を|真《ま》っ|二《ぷた》つに|両断《りょうだん》し、|熱《ねっ》せられた|血潮《ちしお》が|沸騰《ふっとう》する|音《おと》を|立《た》てて周囲に|撒《ま》き|散《ち》らされる。  彼女の|刀《かたな》が|肉塊《にくかい》を|切《き》り|裂《さ》いた時、それは|断末魔《だんまつま》を|上《あ》げる|暇《ひま》もなく、|泥《どろ》のように|崩《くず》れ|落《お》ちた。  ドサリ、と|重苦《おもくる》しい|音《おと》が|響《ひび》き、|急激《きゅうげき》に|熱《ねつ》を|失《うしな》った|大気《たいき》が雨に|冷《ひ》やされる。  彼女は|残身《ざんしん》を|崩《くず》さぬまま、|肩《かた》で|激《はげ》しく|呼吸《こきゅう》を|刻《きざ》んだ。指先が、|限界《げんかい》を|超《こ》えた|負荷《ふか》でワナワナと|痙攣《けいれん》し、|握《にぎ》り|締《し》めた|柄《え》を|離《はな》すことさえできない。 「……あ、……はぁ……」  |喉《のど》の|奥《おく》からせり上がる、焼けるような血の|匂《にお》い。命を|削《けず》り、|虚構《きょこう》を|断《た》ち|切《き》ったその|一撃《いちげき》の|代償《だいしょう》が、じわじわと彼女の|身体《からだ》を|蝕《むしば》んでいく。  勝利の|余韻《よいん》に|浸《ひた》る|間《ま》もなく、|肺《はい》を|突《つ》き|刺《さ》すような|苦痛《くつう》と、|極度《きょくど》の|緊張《きんちょう》から|解放《かいほう》された|脱力感《だつりょくかん》が、彼女を|泥濘《ぬかり》の地へと引きずり|込《こ》もうとしていた。 「うっ……」  無理が|祟《たた》り、|綾華《あやか》が|膝《ひざ》をつく。|激《はげ》しい|息遣《いきづ》いが|雨音《あまおと》に|混《ま》じる。 「まだ来るぞ、|自己再生《じこさいせい》が終わらないうちに——」  空気が|一瞬《いっしゅん》で|氷結《ひょうけつ》したかのように|静《しず》まり返った。  |華緋《はるひ》が|振《ふ》り|返《かえ》った|先《さき》には、肉の|触手《しょくしゅ》に|串刺《くしざ》しにされ、|宙《ちゅう》に|浮《う》く|素榛《すばる》の|姿《すがた》があった。 「あ……あ……|姉《ねえ》さま……|姉《ねえ》さま……」 「くそっ、どこに|隠《かく》れていやがる」  戦場を|覆《おお》う|血溜《ちだ》まりが、再び|意思《いし》を持つ|怪物《かいぶつ》へと|変貌《へんぼう》していく。逃げ場のない、絶望の|粘着質《ねんちゃくしつ》な|感触《かんしょく》。  ———  ……どれくらい|経《た》ったのだろうか。  |悲鳴《ひめい》が戦場に|響《ひび》く。|身体《からだ》が|鉛《なまり》のように|重《おも》い。  目を|開《あ》けるとそこには絶望が|佇《たたず》んでいた。 「助けなければ……」  俺は|泥《どろ》を|噛《か》むように|身体《からだ》を持ち上げると、右手をその|忌《い》まわしい|血溜《ちだ》まりに|突《つ》っ込んだ。 「何をしている!?」  右手の|神経《しんけい》を、|何千本《なんぜんぼん》の|針《はり》が|突《つ》き|刺《さ》すような|激痛《げきつう》が走り|抜《ぬ》ける。俺は歯を|食《く》いしばり、|雄《お》たけびを|上《あ》げた。血が|右腕《みぎうで》にまとわりつき、|皮膚《ひふ》の毛穴から|筋肉《きんにく》の奥深くまで|浸透《しんとう》していく。  |右腕《みぎうで》に|電撃《でんげき》が走り出す。 『 |ロード《Lord》 |インバーテッド《Inverted》 !!!!!』  空気中の|血潮《ちしお》が|渦《うず》を|巻《ま》き、俺の|右腕《みぎうで》へと|集束《しゅうそく》する。腕が|捻《ね》じ|曲《ま》がり、骨が|軋《きし》む|痛《いた》みに|耐《た》え、全神経を指先に|集中《しゅうちゅう》させた。  血の|主導権《しゅどうけん》が俺に移り、|素榛《すばる》が|拘束《こうそく》から|解《と》き|放《はな》たれる。  |眩暈《めまい》と|共《とも》に、世界が|鼓動《こどう》するのを感じる。  喜びも|束《つか》の|間《ま》、彼の視線の先には、一人の少女が立っていた。 「うーん、ちょっと|想定外《そうていがい》というかぁ…もうちょっとで勝てそうだったのになぁ」  そこには少女の姿をしたSCP-E739が立っていた。 「あーでもでも、4 vs 1で|互角《ごかく》に持ち込めたから、|実質《じっしつ》私の勝ちって感じ?」  俺は両手を合わせて|笑《わら》っている彼女を|睨《にら》みつけると、彼女は少し|困《こま》ったような顔を見せた。 「えっとさぁ、今回は引き分けってことにしておかなーい? |残機《ざんき》も少なくなってきたことだしさ、ねぇ?」  少女は頼みごとをするかのように|懇願《こんがん》してくる。 「お前の考えはお|見通《みとお》しだ。そうやって|油断《ゆだん》した|隙《すき》を|突《つ》いてくるやつだってことをな」  |綾華《あやか》が彼女の|要求《ようきゅう》に乗らないように、|鋭《するど》い|口調《くちょう》で言い|放《はな》った。 「なーんか|傷付《きずつ》いちゃったなぁ、一応これでも同じ|女子高生《じょしこうせい》なんだよ?」  彼女は俺を|試《ため》すように、|舐《な》めるような視線で上から下までじろじろと見た。 「へぇ……なかなかやるじゃん。」 「あんたになら特別に教えてもやってもいいかな…知りたくない?|甘奈《あまな》の場所」  |心臓《しんぞう》が|跳《は》ねた。なぜ|甘奈《あまな》という名前を知っているんだ。|薄《うす》れる記憶の中で|甘奈《あまな》という言葉だけが、|脳内《のうない》に|反響《はんきょう》していた。 「彼女に何をした!!!」 「まぁそれはぁ、うちのところに|来《く》れば教えてやってもいいけど?」 「よせ、|由記《ゆうき》。あいつは適当な作り話をして|喋《しゃべ》っているだけだぞ」 「へぇ、まぁ確かにあんたのいう通りだ・け・ど」  少女は|邪魔《じゃま》しないでと言わんばかりに、|綾華《あやか》を|睨《にら》みつける。 「あんたを|救世主《きゅうせいしゅ》と|呼《よ》んで|待《ま》ちわびてる子たちが、こっちにもいるってことは、|覚《おぼ》えておいた|方《ほう》がいいかもね」 「…あんたの手には乗らないぞ」  俺は彼女の|要求《ようきゅう》を|冷《つめ》たくあしらった。 「あら残念。それじゃあ彼女の血は|保険《ほけん》として|預《あずか》かっておくね~」  彼女は|素榛《すばる》を左手で|指差《ゆびさ》ししながら、|透明《とうめい》なカプセルに|詰《つ》め|込《こ》まれた血を右手で見せつける。 「|姉《ねえ》さまの…|姉《ねえ》さまの血を|返《かえ》せ!!!」 「あらぁ|怖《こわ》い。そんな顔してると|余計《よけい》に|老《ふ》けた顔になっちゃうわよ?」 「その必要はない」  |綾華《あやか》の|制止《せいし》を|振《ふ》り|切《き》り、俺は彼女の前に出た。 「俺の|右腕《みぎうで》を持っていくがいい」  俺は赤く染まった|右腕《みぎうで》を|差《さ》し出した。  女はきょとんとした後、|腹《はら》を|抱《かか》えて|大笑《おおわら》いした。 「アハハハハ!!!!この男|面白《おもしろ》い!!!自分が何言ってるのか分かってるの?」 「どうかこれで、俺たちを|見逃《みのが》してくれないか?」 「何をバカげたことをっ…!!!」 「ふぅん、なかなか分かってるじゃない」  彼女はそう言って両手を俺の手に置いた。 「俺は|在原《ありわら》 |由記《ゆうき》だ。|由記《ゆうき》と|呼《よ》んでくれ」 「私の名前は |吉原《よしはら》 |甘娜《かんな》。|由記《ゆうき》くんになら下の名前で|呼《よ》ばれてもいいかもねっ」 「早く持っていったらどうだ?」 「ふふ、はいはい。じゃあ|遠慮《えんりょ》なく~」  彼女の手が、俺の|腕《うで》を切り離そうと|冷《つめ》たい|触手《しょくしゅ》を|絡《から》めてきた。その|瞬間《とき》を、俺は待っていた。  グラグラする頭の中で、俺は一部の|記憶《きおく》を取り|戻《もど》したのを|見逃《みのが》さなかった。 「引っかかったな」 「なっ!!!?」  俺は声を|大《だい》にして言った。  |右腕《みぎうで》の|電撃《でんげき》が、バチバチと空気を|震《ふる》わせる。 『 |ブラッド《Blood》 |インバーテッド《Inverted》 !!!! 』  |血管《けっかん》を|逆流《ぎゃくりゅう》するような|衝撃《しょうげき》と|共《とも》に、すべての血が|本来《ほんらい》の|所有者《しょゆうしゃ》の|元《もと》へ引き|戻《もど》されていく。 「うぅ、私は何を……」 「|姉《ねえ》さま!!」 「力が、|戻《もど》っていく……」  三人は|驚《おどろ》いたように、|自身《じしん》の|身体《からだ》を見つめていた。  |甘娜《かんな》の|身体《からだ》が|悔《くや》しさと|怒《いか》りでワナワナと|震《ふる》えだす。 「な、なにをしたって言うの...!?」 「|記憶《きおく》を|取《と》り|戻《もど》したんだ。さぁ、どうする?」  |甘娜《かんな》が俺の|腕《うで》を見ると、先ほどとは|打《う》って|変《か》わって顔が|青《あお》ざめていた。 「こ、|後悔《こうかい》しても知らないんだからね!!!!!」  その時、目の前に|幻想的《げんそうてき》な|紫色《むらさきいろ》の|蝶《ちょう》が|舞《ま》った。 「|甘娜《かんな》、そこまでだ。お前は|賭《か》けに|負《ま》けた。お前を|連《つ》れて帰る」 「……ふ、ふん!!! 次があるって|勘違《かんちが》いしないでよね!!!」  彼女は|蝶《ちょう》と|共《とも》に、|空間《くうかん》が|歪《ゆが》むような|異様《いよう》な|静寂《せいじゃく》の中に消えていった。 「終わったのか…」  俺はそう言うと、みんなから|安堵《あんど》の声が聞こえた。 「あぁ〜! 一時はどうなるかと思いました……」  |華緋《はるひ》は元気を取り戻した|素榛《すばる》を心配し、後ろからぎゅぅっと|抱《だ》きついた。 「……私が力不足なばかりに。済まない」 「|綾華《あやか》様は悪くありません」  |素榛《すばる》は|綾華《あやか》が気落とすのを|気遣《きづか》い、優《やさ》しく声をかける。 「はは……それはそうと……」  俺は、目の前に並ぶ少女たちを見て、|素朴《そぼく》な|疑問《ぎもん》を口にした。 「どうして、こんなにいっぱい|集《あつ》まったのかな……」 「それは|私《わたくし》が説明しましてよ」  後ろから、|清涼《せいりょう》な風のように|凛《りん》とした声が|響《ひび》いた。  |毅然《きぜん》とした、|清楚《せいそ》な|雰囲気《ふんいき》をまとった少女。 「|申《もう》し|遅《おく》れました。私は|八咫烏《やたがらす》|財団《ざいだん》を|束《たば》ねる、|宝生院《ほうしょういん》 |早七《さな》と|申《もう》します」  彼女の|姿《すがた》を見た|瞬間《しゅんかん》、|胸《むね》の|奥《おく》がチリりと|熱《あつ》くなった。どこかで、ずっと|昔《むかし》に|会《あ》ったことがあるような、|懐《なつ》かしくも|切《せつ》ない|直感《ちょっかん》が|全身《ぜんしん》を|駆《か》け|巡《めぐ》る。

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