ひよりの / 第6話

予兆

[[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/c72d30c8-feaf-4374-8190-e5d129541aa4/1791200990631-ab99f1ed-ed0f-4db3-8110-00fbb1892446.webp]]  ――やはり。  ミナギの胸《むね》の奥《おく》で、静《しず》かに何《なに》かが定《さだ》まった。  最初《さいしょ》にアサを見《み》たときから、どこか引《ひ》っかかっていた。  ただ幼《おさな》いだけの娘《むすめ》ではない。  言葉《ことば》にできぬまま、ただ引《ひ》き留《と》められるような感覚《かんかく》だった。  視線《しせん》が、脳裏《のうり》に蘇《よみがえ》る。  強《つよ》い――と思《おも》った。  鋭《するど》いわけではない。  刃《やいば》のように他《ほか》を切《き》り裂《さ》く類《たぐい》のものではない。  だが、あの目《め》は――  幼《おさな》さに似《に》つかわしくないほど、深《ふか》く、底《そこ》に火《ひ》を宿《やど》している。  そして――  紋様《もんよう》の話《はなし》をした瞬間《しゅんかん》、空気《くうき》がわずかに変《か》わった。  誰《だれ》も気《き》づかぬほどの、微細《びさい》な変化《へんか》。  だがミナギの感覚《かんかく》は、それを逃《のが》さなかった。  見《み》えたかと問《と》えば、迷《まよ》いなく頷《うなず》いた。  彼女《かのじょ》は、まだ何《なに》も持《も》たぬに等《ひと》しい。  しかし。  持《も》たぬままに、通《つう》じている。  濁《にご》りのない水《みず》が、わずかな波紋《はもん》さえ映《うつ》し取《と》るように。  胸《むね》の奥《おく》に、静《しず》かな確信《かくしん》が灯《とも》る。  この娘《むすめ》の内《うち》には、何《なに》かが通《とお》る余地《よち》がある。  それは才《さい》と呼《よ》ぶべきか。  あるいは、もっと原初《げんしょ》の―― 『器《うつわ》』と呼《よ》ぶべきものか。  ミナギは、わずかに目《め》を細《ほそ》めた。  胸《むね》の奥《おく》で、警戒《けいかい》と期待《きたい》が静《しず》かに絡《から》み合《あ》う。  それは希望《きぼう》にも似《に》ていたが、同時《どうじ》に、極《きわ》めて危《あや》うい|予《・》|兆《・》でもあった。  突然《とつぜん》、火《ひ》が大《おお》きく爆《は》ぜた。  その音《おと》に、アサはわずかに肩《かた》を震《ふる》わせた。  探《さぐ》るのではない。  試《ため》すのでもない。  ただ、見届《みとど》けたいと思《おも》った。  その内《うち》にあるものが、どこまで澄《す》み、どこまで届《とど》くのかを。  ミナギは静《しず》かに言《い》った。 「|そ《・》|れ《・》は、お前《まえ》のものだよ」  何《なに》が、とは言《い》わなかった。  夜《よる》は深《ふか》く、森《もり》は動《うご》かなかった。  だがその時《とき》、見《み》えぬところで、何《なに》かの流《なが》れがすでに変《か》わりはじめていた。

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