松下一成 / 第26話
2.伝達
「アヤカはツバサを求め、そして向かう場所があります」
ルリハは私にそう言った。
「…羽ばたいて、飛んでいく。みたいな感じですか?」
「そうです。実のところ私自身、そこからやってきました」
となるとルリハは既に私達からツバサを求め、そして向かうべき場所に行っていることになるのだけれど。…であるならば、なぜここに来たのだろうか。
「アヤカに必要なモノ。そのもう1つは私達から渡すモノで作らなければなりません」
「…ってことは、なんて言うか、ルリハさんは迎えに来た。そんな感じなんですか?」
「はい。まあ、でも間接的にですけどね。その、決まっていること。みたいな」
彼は机の上に置いていた白い紙を持ち、私に見せて来た。
「これにミカさんがあるモノを書き込むことで、アヤカにとっての、そして―」
私の方を見つめる。
「別の世界の美花さんにとっての、ツバサとなりえるでしょう」
彼は私に紙を手渡してきた。
「大昔の話です。まだずっと昔の話」
「…昔の話」
「そうです。この世界。私たちとミカさんたちの世界の境界線が、まだ決まり切っていない時。お互いにツバサは必要ありませんでした」
「…ですが、ある時を境にして、境界線が出来上がり、お互いにツバサを持たなければ見るとの出来ない領域が出来上がります。…出来上がったというよりも、そうなってしまった。と言う方がいいのかもしれませんけどね」
私はアヤカが言っていたことを思い出した。
「〝私の王子はやがて彼方の王女を迎えに行くだろう、月の女王が世界を見渡すと、輝きはきっと自分の世界を語るだろう〟…ってやつですか?
「はい。それが2つに分かれて伝わっている。というのもまた1つです。…ですが大切なのは1つを2つに分けた。と言うことです」
「…どういうこと?」
「分けても、前を見た時、1つに。ということですね」
ルリハは立ち上がると、手を組んで本棚の方へ向かって行く。
「私…そうですね。分かりやすく言えばアヤカ達とミカ達の住んでいる世界は分かれていますが、同じ世界に住んでいます。現にこうやって会えているのが事実ですから」
本棚に入っていたいくつかの本の中から、気になったのか一冊を取り出すと開いて読み始めた。
「1つだった時代。その時代はお互いが求め合い、寄り添い。そして飛び立つことが出来るような、そんな自然体で自分の住む世界をお互いに美しくしていく。そんな感じです」
「でも、それが分かたれたと」
「はい。言うなれば〝私の王子が彼方の王女を迎えに行く世界〟と〝月の女王が見渡し、自分を語る世界〟に」
分かれたモノを1つにして、そして本来行くべき場所に、お互いに向かうことになる。とルリハは言った。
「…それで、アヤカにとってのもう1つがこの紙ってことですか」
「そうですね。紙、と言うよりも、もっと大切なのは白い紙と言うことになります」
彼が言うにはそれが白い色をしていること。紙を選んだ理由としてあるのが、私が銀輝師であることと、リンリンが絵でアヤカの姿を描いたこと。そして何より―
別の世界の私に関係が有る。とのことだった。
渡された白い紙。それを見ても特に何も思いつかない。これをどうすればいいのだろうか。
「実の話、それを渡すのが私の役目。それ以上の事はアヤカとやらなければならないことがあります」
「…ということはルリハさんも、何をすればいいのかって言うのは知らないってことですか?」
「その通りです。私はただ、ミカさんに渡しに来ただけ。ですが、それはあなた達が向かう場所からやってきた。ということですね」
彼は読んでいた本を本棚へ戻し、カバンを閉じると、元通りに自分の体に戻すと、纏っていた布を整えた。
「これから何をするのか。ということはアヤカが知っていることです。でも、それをやるのは彼ではなく、ミカさんがやることにはなると思います」
と、それだけ言うとルリハは窓の方へ向かって行く。
「…雨はやんだようですね」
庭先に出て、しばらく立ち止まると、纏っている布が青白く輝きだし、そしてツバサになった。羽ばたくと風が私の頬を撫でる。
「それでは、美花さん。待ってますよ、向こう側で」
ルリハは夜空へ飛んで行った。