松下一成 / 第25話
1.雨音と共に
リンリンの家から帰ってくると、お互いに気を張っていたのかもしれない。アヤカはソファーで、私はいつもの机に座るとそのまま眠ってしまったらしい。
…私は雨が屋根を叩く音で起こされることになった。
机の上から顔をあげてしばらく、じっとそのまま動かずにいると雨の音がしっかりと耳に届いて来た。
「…結構降ってるのかな」
雨の様子を見ようと、窓を開けに行く。
「…ほんと?これ」
窓を開けた先。その目線の先には、アヤカを見つけた時と同じような光景が見える。布を纏った人物が1人、庭先で雨が降る中立っていた。
私は隣の部屋に向かうと、アヤカの寝ているソファーを確認。そこにはアヤカが居た。
「…じゃあ、あれは?」
もう一度私は仕事部屋に戻ると窓を確認。そこには確かに居る。…もうここまで来たら仕方がない。私はそのまま声をかけた。
「えっと…あなたは?」
するとその人物はこちらに足を進めて来た。部屋の照明が人物の顔を映し出す。…美しい顔だった。見た目からはアヤカと年齢は近そうな感じもするのだけれど。
「初めまして。ミカさん」
と挨拶をしてくれた。
「あなたに有る物を渡しに来ました」
「有る物…?」
その人物は私にそう言った。…私の名前を知っている、ということは会ったことが有る人だろうか。
「…私の名前は、そう。最初に出会ったあなた達から貰ったものが有ります」
そう言うと私の方を見る。
「今月は11月。ミカさんにとって〝何かを運んでくる〟のは鳥の役目。であれば私はルリビタキと名乗りましょう」
「それは…鳥の名前ですか?」
「はい、そうですね」
ルリビタキと名乗る人物は私の庭先を見た。
「…ですが、鳥が運び、あなたに何かを見せるのは植物の役目。なので、私の事はルリハと呼んでください」
「…ルリハさん。それは…私達から貰った名前ですか?」
「そうです。あと、気軽にルリハと呼んでください。あなたはそうすると、いつも通りになります」
彼は少しだけ頭を下げる。渡したい物があるとのことで、私の部屋に入ることになった。「少し待ってて」と声をかけると、そのままタオルを取りに行き、彼に渡した。
彼は丁寧に頭や纏っている布を拭くと、部屋に入ってきた。
「すみません、雨が降っていない時に来ればよかったのですけれどね。…どうもそうはさせてくれないみたいで」
「…お茶飲みますか?」
と聞くと「はい、頂きます」と言ったのでキッチンに向かうと、冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで持っていった。
「ありがとうございます」
お茶を受け取りながらルリハは部屋を見渡していく。
「…いつも通りの本の量ですね」
そう言うと彼は身に着けていたカバンを取り出す。使い古されていて、それはいつも家に来る届け屋さんが使っているのと同じような型をしていた。それを机の上に置くと、留め金を外し、中から有る物を取り出す。
それは白く、何も描かれていない紙。まっさらな状態の物だった。
「それは?」
「…これはについて語る前に、アヤカについて聞いておきたいことがありまして」
彼はアヤカの寝ている方を指さした。
「アヤカ…ですか?」
「はい」
私に彼は目を向けた。
「アヤカはツバサを求め、そしてあなた。ミカさんの元へやってきた。…まあ、やってきたというよりも、出会ったという方が正しいのかもしれませんが」
「…そうですね、出会いました」
「そして、必要なモノの2つのうち、1つは出来たことになります」
「はい、描いたのは私ではありませんけど」
ルリハは笑顔になる。
「それは、さして問題の無い事です。大切なのはそれを用意することが出来たこと。現に、その描いて貰った絵にはミカさんのペンが入っているのですから」
「…まあ、それは」
まるでリンリンとのやり取りを見ていたかのように、ルリハは言葉を続けていく。すると、彼は取り出した白い紙を私に見せて来た。
「私がここに来たのは、もちろん、この白い紙を渡しに。そして、この紙がアヤカにとって、ツバサとなりえるための、もう1つのモノになります」
私はその言葉と一緒にルリハを見つめた。