松下一成 / 第27話
3.会話
ルリハが飛び立ったのを見送ると、私は部屋へ戻って彼が渡していった白い紙を眺めていた。…これにあるモノを書く。そう彼は言っていたのを考えていると、部屋のドアが開いた。
「…起きちゃった?」
「はい…寝るつもりはなかったんですけど…」
アヤカは机の上に置かれているコップに気が付く。
「誰か来ていたのですか?」
「うん、知っているかどうかわからないけれど、ルリハって人が」
「…そうですか、あの人が」
やっぱり知り合いなのだろうか。確かに見た目はアヤカと同じくらいだった。…私とリンリンみたいに学校の同級生とか、そんな感じだろうか。
「あの人は師匠です」
「…師匠?なんの?」
「私の見える世界、見えている世界を、…なんというか教えてくれる人と言えばいいのですかね」
どういうことなのだろうか。見える世界を教える?
「見ている感覚が同じ。もしくは同じように見ようとしている似た者同士。ということでもあると思いますけど」
見ている感覚が同じ…それって本人にしか分からないんじゃないのか。同じように見ようとしている、って言うのは何となくわかる気がするけど。
「少し、お話を聞いてくれますか?」
「うん」
アヤカは椅子に座った。私はお茶を持ってきて差し出すと、彼は「ありがとうございます」と言って受け取った。
「そうですね、私達。これはミカさん達が言う所の〝アヤカ達〟には物や人、それと大きく見れば生き物。そういうモノが、どうしたら次の段階へ行けるのか。その為にはどうしたら良いのか。と言うことが、何となく見えるのです」
「それは、実体を持たない物。…フィクションや物語もそうです」
「なるほど、…私とアヤカが同じものを見ても、私たちはお互いに、同じには見ていない。ということ?」
「ええ、そういうことです」
アヤカは机の上に置かれた私の描いている仕事の本を手に取る。
「これは本にしか見えないと思うのですが、私からは本以外の要素の事も見えます」
「どんな風に?」
「それは…上手く説明が出来ないのですが…」
アヤカは言葉を選びながら話していく。
「そうですね、植物ってやがて花が咲いて、実をつける。ってことは知っていると思います。…種類によりますけど」
「まあ、それはそうなるっていうのは、わかるけど」
「はい、それと同じです。ああ、この植物はやがて花を咲かせるだろうなって。そんな感じで本とか人とかが見えるって感じですかね」
机の上に置いてあった煙草の箱を手に取り、私はアヤカの言葉を考えた。
「…となると、未来が見える。と言うことはないんでしょ?」
「はい。未来はわかりません。ですが、これはどうなるのか。ということは何となく見えます。そしてその伝達する手段。つまり会話です。その会話をどうするのかの為に、師匠に学ぶことになります」
会話をする相手は私達。ということになる。
見えないモノ、これからどうすればよいのか。ということは、実体化されているモノで語ることが出来ないからこそ、それは言葉にする必要が有る。
言葉を持った文章は、過去も未来も語るのだけれど、そう言うことができる…何と言うか媒体みたいな役割。
それが彼らの言う所の〝言葉〟の受け取りになる。
「もちろん、全てのモノが言葉に成っているわけではありません。だからリンさんのようにクリスタルを通して、見たモノを絵という形にするというのもあるわけです」
私はアヤカの言葉を聞きながら、あることに気が付く。
アヤカ自身は私に何を渡そうとしているのか。…この場合は別の世界の私にってことになると思うのだけれど。
「…さっき、ルリハにこれを渡された。この白い紙。これに私が何かを書くと、アヤカの…そして別の世界の私のツバサになりえる。って言っていたけど」
白い紙を両手に持ち、アヤカに見せるように机の上に置く。
「…そうです。私が求めるツバサを手にした時、それは今いる場所から飛び立つことを意味します。そして、その向かった先で、別の世界のミカさんの求めるモノを作ることが出来ます」
「つまり、ルリハが居る領域に行くってこと?」
「はい、そうです」
私は白い紙を見つめながら、アヤカの言葉を受け取る。では、何を書けばいいのだろうか。
「…そこに書くことは、ミカさん自身の内側に。既に言葉として実体化しているものです」
そう言ったアヤカの方をみて、また白い紙に目を向ける。…私は知っているのだろうか。この紙に書く、何かの事を。