井氷鹿 / 第51話
23.草狩る山路が笛の音1 Every step you take my eyes follow.
うわぁあっ。やっちまった。
紅緒を部屋に入れてしまったぞ。
やっべぇ~っ。
紅緒の顔がちらついてしまう。しかもあの格好で。
だから、今夜は一人になりたくなかったのに。
崇直に泊まっていけって、言えばよかった。
せめて下まで見送りたかったのに。
あんなにあっさり帰らなくても良いのにさ、なんで帰っちゃうかな。
もうっ!
ん?
エレベーターの⇩ボタンが点灯してる。
崇直、戻って来るのか。
あーーーーっ!
今夜、家で久々に飲もうぜって言ってたんだった。
あぁあぁぁ、すまん。色々とすまん崇直。
エレベーターが上がってきたよ。
出てきた崇直に頭を下げる。
「崇直、スマン」
本当にごめん。すっかり忘れてた。
いきなり目の前に出てきたんだぞ!
「まさか、紅緒がいるなんて思わねーだろ。それに、先輩がまー爺どころか紅緒やおまえとも顔見知りって」
思わずため息が出る。誰が想像するってんだよ。
「僕だけ蚊帳の外だ……」
落ち込んでたら、崇直が肩を軽く叩いてきた。
「おまえ、まー爺の仕事知らなかっただろ」
え、そっち?
そーなんだよ。必殺遊び人が名刺持ってたんだよ。
「驚いたよ。笠神ビルの取締役だって。名刺もらっちゃった」
崇直によるとあのクラブのオーナーで、こっちがメインの仕事らしい。
先輩も言ってたな、人脈のハブのような仕事だって。
「僕が研究してるのがまさにそれで……」
今、学んでるのが、この人脈のハブとその流れのシステム化なんだよね。
意気揚々と説明してたはいいが。
参ったね。
崇直が、腹減ってると思って何かないかと冷蔵庫開けたんだけどさ。
「どうしよう、崇直。ナンにもない」
「コンビニでも行くか?」
お互い顔を見合わせる。
「腹減ってる? もしかして」
だよな。僕のせいで、ゴメンよ。
「そうだ! 冷凍の餃子があるんだ。生餃子、近所の中華屋で冷凍買ってきてたんだ。それからご飯もあるから、それ食べよ、な」
僕は冷凍庫から餃子の入った袋を取り出した。確か二人前はあったはず。
パントリーを開け、買い置きのパックご飯を取り出しシートをはがして電子レンジに突っ込んだ。
餃子は箱入りなんだが、ビニールでコーティングが手じゃ裂けねえや。
歯で噛み切れるか、これ。
よし上手く裂けたぞ。
焼こうとしたら崇直が自分でやるからと、フライパンごと持っていかれた。
それにしても、喉が渇くな。あんな酒の飲み方はやっぱ宜しくないね。
「晩飯は先輩と食べたから、全部食って。あー、喉がカラカラだ」
そうだ、紅緒が作ってくれたレモン水、あれ美味かったな。崇直の分も作ってやろう。
あの麦茶も、今度教えてもらって買っとくか。
「これ美味いな。麦茶もだが、なんか今日は意外なことだらけだったよ」
レモン水を渡すと、崇直は一口呑み美味いねって笑う。
トレイを出してやったら、そこに焼きたての餃子とチンした炊きたてご飯、僕の作ったレモン水を乗せリビングへ持っていった。
美味そうに餃子を食ってる崇直を見てたら、幸せそうで何だか眠くなってきたよ。
欠伸が止められない。
「ふああぁ~っ。食ってる間に先に風呂入ってて良いか。布団出すの面倒だから、一緒でいいよな」
ゴメン崇直。
いつも僕が隣で気持ち悪いだろうが、一人寝は特に今日は辛いんだ。付き合ってくれ。
「ついでにパジャマも出しとくよ」
あーあ、すっごい呆れた顔でこっちを見てるよ。
そんなに嫌がらなくても、いいじゃん。