エナジーコット(@EnergyCotton) / 第191話

第39話 温度調節(7歳)

「お祖父様、お父様。お話したいことがあります」 「そのようだな。話してみろ」  許可が貰えたため部屋に入り、今起こっていることを話す。 「今日町に行き、農家の人から話を聞いてきました。土が固くなって痩せてきていると」 「そのようだな。天候は悪いわけでもないのに収穫量が落ちている。土地が痩せてきているのも聞いている」 「ならば土に栄養を与えればいいかと思いました。そうしたら堆肥はもう作っているけど量が足りないと言われました」 「そうだね。私もそれは聞いているよ。堆肥が出来るまでにも時間がかかると」  エドワードもすでに農家に起こっている問題を把握しているようだった。 「はい。なのでカークやアレンからも話を聞き、一つ思いついたことがあるので試させてほしいのです」 「言ってみろ」 「現状、使い道のない食用でない魔物を堆肥の材料にします。そのために開拓用破砕魔術具を僕にください。代わりに今の使用頻度に合った粉砕魔術具を僕のお金で購入しますので、それを代わりにしてください」  セドリックはまたサミュエルがおかしなことを言い出したと思った。 「まあ、待て。一からそう結論付けた理由を話せ」 「すみません。急ぎすぎました。現状ゴブリンなど食用でない魔物は討伐の証明のための魔石だけ取ってそのまま埋めていると聞いています。そして家畜の食べられない部分も堆肥の材料にしていると聞いています。ならばゴブリンなども堆肥の材料になると考えました」 「うむ……まあ言いたいことはわかる。わかるが……」 「カークも魔物を堆肥の材料にすることには否定的でした。でも神官から特に言われることもない。なんとなくやってきたことがないから嫌な気分になるぐらいの理由かと思います」 「サムが言ってることはわかるよ。でも人の感情も大切だからね」  エドワードが理屈だけではなく、それで生まれる人の感情も無視してはいけないと諭す。 「それは理解しています。ですが今回は、ただ慣れていないだけだと思います。慣れれば問題なくなるはずです。すでに解体した家畜の一部や糞を材料に作ってるわけですから。それにこれで解決できるのなら、仕方のないことだと思います」  現状を打開するために、嫌悪感を優先すべきではない。サミュエルはそう言った。 「ただし解体を誰がやるのか。という問題がありました。アレンが開拓用破砕魔術具のように放り込むだけで細かくしてくれるものがあれば楽なのにと言ったのがきっかけです。この前修理した際、管理している老人から石なら砕けるとも聞いています。そのためあれを改良して、魔物など堆肥にする素材をそのまま入れて粉々にし、堆肥にする魔術具に改良したいです」 「そういうことか。だから代わりにお前の金から新しい粉砕機を購入して与えろというのだな」 「はい。今は年に数回しか使ってないと聞きました。なのであそこまで立派ではなくてもいいので、代わりに買い与えれば問題ないと思います。僕が改良する前にいま廃材や切り株もすべて一度粉砕してしまえばしばらくは問題ないと思います」 「よくわかった。今回はお前が町で領民の話を聞き、カークやアレンとも話してこの結論になったのは褒めてやろう。代わりも用意するという考えも立派だ。もし堆肥を作ることに成功したら、新しい粉砕機はこちらで代金を持とう」 「ありがとうございます!」 「ただし、照明具の改良が最優先だ。あれは辺境伯様の仲介で貴族から注文を受けているものだ。注文が入り次第、かならずそっちを終わらせることだ。いいな」 「はい!」 「カークとアレンも注意してみていてくれ。あと開拓用破砕魔術具を触るのなら安全には今まで以上に注意するように。いいな」 「かしこまりました。必ずや坊っちゃんに怪我をさせるようなことはさせません」 「かしこまりました。お任せください」  そうして開拓用破砕魔術具の改良……堆肥生産用魔術具の作成に取り掛かることにした。  ---------- 「とりあえず管理している老人に話して、これ持ってきたけど部屋には入り切らないね。中の術式が書かれた鉄板さえあればいいから本体は庭に置いておこうか」  工作室に鉄板だけ持ち込んで、術式を書き写し始めた。  今回必要そうな術式を考える。  ・開拓用破砕魔術具を動かすための術式  ・発熱の術式  ・発熱をし続けることができる、魔力貯蓄用の術式  魔力貯蓄用の術式は最も汎用的な術式だからこれは特に問題ない。  動かすための術式はすでに書き込まれているものをほぼそのまま使える。3回に分けて粉砕しているようで、大きいものを砕いて、下に送り、さらに砕いて送る、最後に粉末状にする構造を魔力で動かしているだけのようだ。これの出力も上げる必要がある。  そして最後に粉々になった素材を発熱の術式で高温にする。これは本に記載されている術式だった。  火を使わず安全に水を沸騰させられる術式として開発された。だが完成後に検証した結果、水が沸騰する前までしか熱く出来ず、鉄板などで肉を焼いても灰色になるだけで焼き目がつかなかったという。その後術式を改良してより高温にできるようにはなったが、魔力消費が大きくなりすぎた。パンを焼けるほどの温度まで上げると、魔術師が数分で魔力切れを起こしたという。理論上鉄を溶かすほどの高温にできるが、現実的ではなく、また用途も限定的と判断され、秘匿技術ではなくなってしまった。  これを見る限り、おそらく100℃までは温めることができるのだろうとサミュエルは判断した。この世界に温度を数値で測るということはできていない。だが人々は経験で水が沸騰するより高い温度でないとほとんどの物は焼けないと知っているようだった。技術の有用性は認められるが、対費用効果が低く、薪を使ったほうがマシと思われたのだろう。  まずは試しに堆肥が作れる温度から試していこう。  実験用に用意した箱に発熱用の術式と魔力貯蓄用の術式を書いた鉄板で蓋をする。  これであとは素材を入れて、どれくらいで堆肥ができるか実験をしてみる。  できるまでの間に開拓用破砕魔術具の構造の調査と出力を上げる術式を調べることにした。  ----------  2週間経過したため、様子をみるために箱の中身を開けてみる。  すると中にあるのは黒く焦げた物体だった。しかも乾燥しており、焦げたような匂いだった。 「これってどうみても失敗……だよね」  堆肥に詳しいわけではないが、もっと土っぽいものだったはずである。こんな乾燥した黒い物体ではない。 「温度が高すぎた?しかないよね。よくよく考えたらそうか。沸騰した水は消毒に使えるんだから。そんな中で堆肥に分解する菌が生きていられるわけないよね」  そうなると温度を下げて調整していく必要がある。  幸い、温度を調整できる部分は本に記載されているため容易だった。問題はどこまで下げるか…これは検証を繰り返していくしかなかった。  ----------  2週間後、改めて中を確認してみる。  すると出てきたのは黒く焦げた物体ではなく、焦げ臭くもない。ただし乾燥していた。 「うーん……まだ温度が高いのかな……今度は思い切って下げてみよう」  人肌よりやや高い程度の温度で挑戦してみることにした。  ----------  そして再び2週間後、これは開けた瞬間、失敗したというのがわかった。  完全に腐っている匂いだ。  やはり高温でないといけないが、高温すぎてもいけない。思った以上に温度調整が難しいことに気づいた。 「2回目と3回目のちょうど間ぐらいに調整してみるか……」  今度こそ上手くいってほしい……そう思い2週間後に思いを託した。  ----------  2週間後、箱を空ける。  すると独特な土の匂いがした。  まだ糞の匂いがするが腐った嫌なタイプの匂いではない。  中にあるものを道具でかき分けてみる。すでに糞や生ゴミに元の形はなかった。 「成功……したかな?」  これを農家に持っていき、確認してもらうことにした。  ----------  確認してもらったところ、トムの父親からこれは間違いなく堆肥だと教えてもらった。  そして以前何気なくした話が、まさかここまで大事に受け止められていたとは思っておらず、やけに感動している様子でもあった。 「とりあえずこれで、発熱の適性温度がわかった」  次にやるべきは……魔物素材を使った堆肥の製作だ。

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