エナジーコット(@EnergyCotton) / 第203話

第40話 初めての魔物(7歳)

「魔物の死体を手に入れたいのですが」  セドリックとエドワードがいる執務室に入るなり、サミュエルはそう言い放つ。 「ふむ……2か月ぐらい前に堆肥作りで使うと言っていたな。カークよ、サミュエルの普段の仕事ぶりはどうだ?」 「はい、坊ちゃまは言いつけ通り、受注依頼があった改良照明具を最優先で作っております。依頼が無くなり次第、堆肥作りの方も経過観察をするぐらいでした」 「ならば構わん。そうだな。サミュエル、お前自身の手でゴブリンの素材を取ってこい」 「ええっ!どうしてですか!?」  サミュエルは自分で行かなくても日常的に魔物の駆除をしているのは知っている。ならばそれを埋めずに一部取ってきてもらうだけで十分のはずではと考えた。 「心配するな。戦えというわけではない。森の中に入って駆除をしているのはお前も知っての通りだ。それに同行して、魔物を実際に見てこい。そしてどうやって駆除してるのかもな」 「そんなー……」  祖父の命令に愕然とする。それに何の意味があるというのか。  その疑問にはエドワードが応えることになった。 「10歳にもなってないお前に魔物駆除に行ってこいというのは確かに酷かもしれない。マイケルも十歳式を迎えてから駆除に参加するようになった。本来なら同じでいいと思う」 「ならどうして……」 「お前が魔物の死体を素材に使いたいと言ったからだ。お前が魔術技師を目指しているのはわかっている。貴族の人間なら平民の兵士に素材が欲しいから気軽に取って来いと命令できる立場でもある。だけどそれでは駄目だ。例え弱い魔物でもどうやって戦い、どうやってその死体を手に入れるのか一度その目で見てくるといい」  言っていることはわかる。現代で言えば家畜の肉を食べるために屠畜場を一度は見てこいと言ってるようなものなのだろう。 「それにお前は知識を本ばかりで手に入れる傾向がある。それは悪いとは言わないが、興味のある事にしか知識が得られない。だから実体験として学んでくるといい」  正直嫌だったが、理屈の上では納得できる内容だった。そのため従うことにした。 「明日マイケルも駆除任務に行くんだった。せっかくだ一緒に行ってこい。お前は戦わなくていい。だが、ちゃんと見ていろ。よいな」 「はい……」  予想外な命令を与えられてしまい、明日が憂鬱だった。  ---------  翌日―― 「サム!一緒に駆除任務に行くんだってな!」  やけに嬉しそうな声と共に、マイケルが部屋まで迎えに来た。  そして食事を済ませると、そのまま町の北門まで連れて行かれることになった。    北門前に到着すると、すでに4名の兵士が武装して待っていた。  見た所、40代ぐらいの男性が1名、20代ぐらいの背の高い男性と低い男性が1名ずつ、20代ぐらいの女性が1名である。    「お待たせ、昨日通達があったと思うけど、今日は弟のサミュエルも付いてくるからよろしくな。まだ十歳式を迎えてないから絶対に戦わせるなと祖父様からの命令だ」 「はい、承知しました。サミュエル様、私はグレイと言います!本日はよろしくお願いします」  マイケルからの伝達に、壮年の男性が応え、サミュエルに対して挨拶をする。 「ベンです。よろしくお願いします」 「ニールです」 「エマです。サミュエル様、よろしくお願いします」  それぞれ長身の男性、低身長の男性、女性と順番に挨拶をしてくれた。 「さ、サミュエルといいます。迷惑にならないようします。今日はよろしくお願いします」  決して戦うなと言われた。それは邪魔をするなという意味でもある。元から戦う気はなかったが、それでも足手まといになるので、ここは丁寧に挨拶をしておくことにした。 「マイケル様の弟とは思えないですね」 「よく言われるよ。可愛いだろ?」  ニールがサミュエルの人見知りしている態度を見てそんな事を言う。おそらくマイケルもサミュエルを知ってる人間から散々言われ慣れている応えをする。 「そうですね。10年後に私がまだ結婚していなかったら婿に欲しいぐらいです」 「え?え?」  エマの冗談になんて応えたらいいのかわからずサミュエルが困惑する。そんな反応がおかしいのかグレイ以外が笑い出した。 「では、挨拶も済みましたし、参りましょうか。今日は北門から出て東側の森に入ります。猟師からゴブリンを見たという報告がありました。巣を作ってないかの確認も兼ねて行きます」 「了解。じゃあ頼んだ。先頭はグレイ、左右がニールとエマ、中央に俺とサミュエル、殿はベンでいいか?」 「いつもの陣形にマイケル様の隣にサミュエル様がいる形になりますね。それで問題ありません」 「よし、行くぞ」  そうしてサミュエルは初めて徒歩で町の外壁の外に足を踏み出した。  ----------  森に入りしばらく進むと、グレイが足を止める。 「ゴブリンを3匹発見しました。向こうはまだこちらに気づいていません」 「では気づかれないように近づいて、一気に強襲をかけよう。強襲をかける直前の場所でエマとベンはサミュエルの傍についてやってくれ」 「はい、わかりました。必ずお守りします」  そうして、静かにゴブリンがいる近くの茂みまで移動する。  グレイはエマとベンにここで待機と合図を出し、残りの2人はグレイと共に飛び込む準備をする。  グレイの合図と共に一斉に飛びだした。  すでに誰がどの敵を相手にするか決めていたのだろう、それぞれが1体ずつゴブリンに向かう。  ゴブリンが奇襲に気づき振り向いたときには、すでにマイケルが剣で首を跳ねていた。  近くにいたもう一体のゴブリンもグレイに頭を砕かれている。  最後の一体はニールによって心臓の辺り一突きにされていた。 「後方、異常ありません」  ベンが周囲に敵はいないと報告する。  サミュエルにとって初めて目にした生の戦闘はあっさりしたものだった。自分が手を下したわけでもないからだろうか、生命が目の前で消えたという感覚はあまりなかった。 「では魔石を剥ぎ取るぞ」  だがその感想は魔石回収が始まるまでだった。魔石は魔物の心臓辺りに生成される。つまり胸を切り開かなければならない。初めて目にする人型生物の解体ショーにサミュエルは吐きそうになっていた。 「あー、ごめんサム。初めてだときついよなこれ。俺も慣れたつもりだけどやっぱまだ少しきついからな」 「い、いえ……必要なことなので、大丈夫……です」 「顔を真っ青にしちゃって可哀想……ほらお姉さんのところにおいで」  エマの誘いには丁重に断り、そのまま解体現場を眺めていた。使い道がないとはいえいままで気軽に魔石を買い取っていたが、衛兵たちが頑張ってくれてるからだなと実感が湧いた。 「よし、回収も終わったし埋めるか」  そう言ってベンが掘った穴にゴブリンの死体を入れて埋めていく。 「あ!」 「どうしたサム?」 「いや……その……」 「?」 「魔物の死体の一部が必要だから来たんだった……」  あまりにもスプラッターな光景に目的を忘れてしまっていた。 「そういえばそんな話だったな。一部ってどれくらい必要なんだ?」 「とりあえずはゴブリンぐらいなら腕1本あれば……」 「なら戻る時にも魔物を見つけて回収しよう。いま持っても荷物になるだけだからな」 「はい、お願いします」  そう言って一行は更に森の中を探索することにした。  その後も探索を続けていると、茂みから突然コボルトが飛び出してきた。 「右!」  グレイの警告とほぼ同時だった。  エマが地面を蹴る。サミュエルにはそれが一瞬で姿が消えたように見えた。  次の瞬間には数メートル先にいたコボルトの懐へ潜り込み、振り抜かれた短剣が首筋を切り裂いていた。  コボルトは悲鳴を上げる間もなく倒れる。 (凄い……)  人間が走ったというより、弾かれたような動きだった。しかも鎧や武器を身に着けているとは思えない速度だった。  速度だけなら、先ほど奇襲をかけたマイケルたちよりも速く動いていたようにサミュエルには見えていた。  それからゴブリンを10匹、コボルトを4匹ほど倒したあたりでグレイが提案する。 「ここいらで休憩しましょうか」 「そうだな」  そういって一行は岩や丸太に腰を落とした。 「あ、みなさん手洗い用の水を出しますね」  サミュエルはそう言うと詠唱を始め、クリエイトウォーターを発動させた。 「サミュエル様って魔術が使えたんですね。マイケル様も使えるし、いいなあ」 「手を洗うだけで水を使わせてもらえるなんて贅沢な使い方を……でも土や血で汚れてるからありがたいです」  ニールが魔術に歓心し、ベンが使い方の感想を述べた。 「これくらいしかできませんから……」 「気にするなって。祖父様から戦うなって言われてるわけだし。俺も戦うために魔力は温存しておきたいから助かるよ」  そうして清潔にすると、各々は水と軽い食事を取ることにした。 「ところでサムは魔物を見るのは初めてだろ?魔物と獣の違いって知ってるか?」 「えっと……胸に魔石があるのが魔物で、ないのがただの獣……って習いました」 「そうだ。だがそれだけじゃない。ゴブリンとコボルトしかまだ見てないが、なにか気づいたことはないか?」  前世では見たことがないファンタジーな生物……なんて言えるわけがなかった。 「魔物はな、人間に対して攻撃的なんだ。勿論食事のために獣も襲う。だが腹が膨れていれば無理しては襲わない。だが相手が人間だと関係なしに襲ってくる」 「なんでですか?」  サミュエルの疑問に対して、マイケルではなくグレイが応えた。 「理由は不明です。ただ経験上そうだという事実があるぐらいですね。神官たちが言うには、昔、人類は多くの種族を滅ぼし、数を増やし続けました。天敵もいなかったため、それを見た大神が罰として魔物を生み出したとか。そんな話をしていますね」  神話ではそういう説があるようだ。そういえばこの世界の宗教や神話に対してほとんど知らないなとサミュエルは思い返していた。 「真実はともかく、魔石があって、人間に敵対的な生物が魔物ってわけです。中には知能の高い魔物もいて、そいつらは必ずしも攻撃的ではないとは聞きます。ただそういう魔物は伝説みたいな存在で、とんでもなく強いみたいですけどね」  そんな雑談を交わし、しばらくしたら休憩を終え、探索を再開した。  終わるまでに休憩前と同じぐらいの数の魔物を倒し、サミュエルは穴掘りにも使えるアースムーブを使って代わりに死体の埋葬の仕事をした。やはり穴掘りは重労働のため、大変喜ばれた。気付くのがもっと早ければ前半は楽をさせてあげられたのになと少しだけ後悔した。  帰りがけに遭遇したゴブリンから腕を剥ぎ取り、凍らせて持ち帰ることにも成功し、今回の駆除任務は成功と言える結果だった。

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