曇りの夜空 / 第3話

第三話 出来る限り苦しく死ね

 金属のさび臭さを隠すかのように木材の良いフレグランスがあたしの鼻を撫でまわしてくる。だけどそれ自体がおかしい、外見はろくに手入れもしていない古ぼけた木製倉庫なのに良い木の匂いがするなんて不自然なのよね。何かを隠すためカモフラージュをしているって鼻だけでも察することが出来るわ。  ま、今は取り合えず屠殺されかけている豚ちゃんを助けてあげるとしましょう。  ナイフ代わりにクナイを使って毒刃についている糸を切り、入ってきた窓からポイ捨てした。 「雫、多分毒ついてるから回収しといてちょうだい。あと馴染みの警察に連絡」 「えっ、ちょっ……急に毒とか言わないでちょうだいよ」 「いいからさっさと処理しなさい。連絡する刑事はあんたのお気に入りの眞守でいいから」 「OK!! 私に任せときなさい」 「ただし派手な動きはしないように厳命しといてちょうだい」 「何でよ?」  辺りを見回しながら好奇心のままに観察をしていく。 「お姉ちゃんを待たせてるのよ。法を遵守した警察に付き合ってたらいつ帰れるか分かったもんじゃないわ」  埃をかぶった木箱と比較的最近持ち込まれたであろう段ボールや裸の本が大量に置いてあった。木箱には少しばかり濡れたような形跡も残っている。上を見れば先ほどナイフを引っ張り上げていた糸が渡されていた梁と、その向こう側にある天井がある。 「ん?」  ふとどす黒い針のようなものが身体に突き刺さるのを感じた。この感覚は覚えがある。これまで何度も何度も感じてきたお馴染みのものだ。  その感覚が襲ってきた源泉に向けてクナイを投げてやる。すると中空でクナイが弾かれたではないか。その弾かれた場所を注視すると代り映えしない周辺風景とわずかではあるが合致しない。 「なるほど、防弾ガラスの向こう側にマジックミラーでも張り付けてるのね。で、そのさらに奥には隠しカメラが見張っているってわけね」  伊達や酔狂でこんな場所に隠しカメラを仕掛ける奇人はそうそういないでしょう。最近手が加えられた倉庫に隠しカメラ………そしてあのバカがわざわざあたしをここに連れてきた理由………  弾かれたクナイを拾って隠しカメラが見張っているであろう場所の近くの壁に手を当てながら歩いていく。ある場所で微かに違う感触が伝わってきた。そこに向けてクナイを突き立ててみれば少々妙な感触が手に伝わってくる。そのまま引っこ抜くと木くずに混じって白い粉が舞い落ちてきた。 「あらあら、豚さん達が甘―い砂糖でも隠していたのかしら? 犬のおまわりさんに捕まっても知らないわよ」  葉船町を中心にして最近いけないお薬が若者たちに蔓延し始めているって情報は入っていたけれど…… 「ったく、これは色々豚さんに聞かないといけなさそうね」  クナイを左手装備して未だ気絶している男に近づき、耳栓を取り外す。もったいないと思いながらもイチゴオレを顔面に浴びせかけた。 「んっ!?」 「グッモーニン。良い夢は見れたかしら」 「んっ??んんっ!!!??」  目を覚ましたところで拘束が外れているわけではない。あたしは一方的に、とっても心を痛めながら、本当に嫌々ながら、上から目線で言葉を浴びせかける。 「あはは、まだ喋れないわよ。あんまり頑張って喋ろうとしたら口枷呑み込んで窒息死しちゃうかもしれないわねぇ。身体を張って面白死亡シーンを見せてくれるつもりがないなら黙ってあたしの話を聞いた方が良いわよ」  口角が上がってしまっているような気がするが、まぁ気のせいよね。 「まずあんたはどこぞの誰かに殺されかけているわ。取り合えずあたしが助けてあげたけれどもこのままだと遅かれ早かれあんたは殺されるでしょうね。人の殺意ってのは一旦止めたところで萎えるものじゃないもの。  ドMでもなかなか眠れない睡眠環境から脱したければ犯人を処分するしか手がないわ。そしてその為にはまず、あたしがあんたをその拘束からしっかりと助けてあげる必要がある。それは分かるかしら?」  内容が頭に入っているのかいないのか、こくりこくりと頭を前後に動かしている。 「さて、それを踏まえてあんたを助けてあげるために聞きたいことが色々あるからまずは質問に答えてもらうわよ」  そうして口枷を外そうとしたとき倉庫内にピーーー!!!と甲高い音が響き渡る。 「うっさいわねぇ」  思わず顔をしかめていると、落雷のような素早さであたし達を囲むようにガラスが落ちてきた。あっという間に四方を囲まれてしまう。クナイを投げてみたが傷一つつけることも出来ずにはじき返される。 「これも防弾ガラスか……」  入り口はもちろんあたしが侵入してきた窓にいく道も塞がれているわね。もしかしてこれは…… 「しくったかしら」  あたしの脳内で怪文書の冒頭がリピートする。 『まず死ね。次に死ね。出来得る限り苦しい死に方して、そして生き返って、もう一回死ね。出来れば屈辱的に死ね』 「ふふふ」  阿呆な文章を改めて思い返すと思わず頬が緩んだ。

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