曇りの夜空 / 第13話

第13話 葉船動物園

【花染夢邦】 パシャパシャと光り輝く音があたりに響いていた。 「お姉ちゃん、可愛いわよ!! ああもう、何でお姉ちゃんってこんなに可愛いのかしら? 羊の帽子がその可愛さをさらに引き立ててるわよ!!」 「えへへ、ありがとね。夢邦」  パシャパシャパシャパシャ 「見てください詠史さん、フラミンゴが仲良くしてて、♡の模様を作ってますよ!! 幸先が良いですねぇ。私達の明るい♡色の未来を暗示しているようです」 「♡色の未来って何? ♡に色なんてないだろ」 「太陽よりも明るい、エロティックで幸せに満ちた色です!!!」  あたし達は現在葉船町で最も大きな動物園、葉船動物園へとやってきていた。360度どこを見ても多種多様な動物が闊歩しており、少し遠くを見れば小動物とのふれあいコーナーや肉食獣へのエサやり体験も行うことが出来る。  だが、最も目を引くのは中央にある巨大観覧車であろう。動物園全てを見渡すことが出来る、この動物園の名物である。  あたしがあらゆる角度からお姉ちゃんと、ついでに後ろにいる動物たちを撮っていると雫が襟を引っ張ってきた。 「ちょっと、あんた何ハッスルしてんのよ。ここに何しに来たか分かってるの?」 「何しにって、お姉ちゃんに楽しんでもらう為に来たに決まってるじゃないの。  そりゃついでにグーちゃんの誘いに乗るくらいのことはするけれど、そんなのおまけのおまけよ」 「優先順位がおかしいでしょうが。あんた、自分の命を狙った男と対峙しようとしてるのに何でそんな呑気なのよ」  雫が不満気に目をかっぴらいている。面倒くさいわねぇ。 「あたしの命を狙うくらい大したことじゃないでしょう。あんなのお遊びだし」 「お遊びってあんた……命を何だと思ってんのよ」 「お姉ちゃんに捧げるもの。  そんなもんよりお姉ちゃんに楽しんでもらう方がよっぽど重要だわ。こんなきっかけでもないとなかなか動物園に連れて行ってあげられなかったからグーちゃんには感謝しないといけないかしらね。どうにもあたしには畜生どもを見て楽しむって発想がないからこういうことをしてあげようって思いにくいのよねぇ」  雫がふかぁーく、それはそれはふかぁーーーーく溜息をつく。こんなことしてるから幸せがたっぷり逃げていくのよ。 「まぁいいわ。それで、本当にこの動物園であってるの?」 「あの痛いラブレターの内容が正しければね」 『拝啓 花染夢邦様  まず死ね。次に死ね。どうか死んでくれ。物理が許す限り最も苦しい死に方して、無様を演じそして生き返って、もう一回死ね。出来れば屈辱的な死に方で死ね。  まんまと生き残りやがったな。まぁそれはいい、あの程度のお遊びで死んでもらっても興ざめだ。  俺のことが気になるだろう、気になるよな。そんなお前にチャンスをやろう。俺は次の土曜日、葉船町最大の以下の場所で待つ。  18 19 27 48』  グーちゃんがあたしに送ってきた内容だ。一番下の行にある18、19、27、48という数字の羅列、一見すると意味が分からないものではあるがなんてことは無い、分かりやすい暗号である。 あたしはまず最初に貰ったラブレターとの違いに妙な点を感じた。熱烈な想いが宿っている枕の文が最初にもらった文より少し長くなっているのだ。 『拝啓 花染夢邦様  まず死ね。次に死ね。出来得る限り苦しい死に方して、そして生き返って、もう一回死ね。出来れば屈辱的に死ね』  二つを見比べてみれば、少しばかり単語が増えているのが一目瞭然だ。何故そんなことをしたのか、あたしに対する想いがバーストした可能性はあるが、恐らく最後の数字に対応させる為に長くしたのであろう。  つまり、文章の文字数を数えて最後に書かれた数字の通りに読んでいけば答えは出てくる。  どう物演、つまり、動物園と。 「しっかし、グーちゃんはどうやってあんたに接触するつもりなのかしらね?」 「どうやってって、雫、あんたもしかして気づいてないのかしら?」 「は? 何のこと?」  あたしはお姉ちゃんから目を一切離すことなく背後に向けて軽く手を振ってやった。 「さっきから熱視線があたしにぶち当たってるのよ」 「えっ!?」    「野生のロリコンかもしれないけれど、まぁ十中八九そういうことでしょうね。まったく、直接女の子をナンパできない男って情けないったらありゃしないわ」 「グーちゃんが……すぐ近くに……」  雫の声のトーンが1オクターブ低くなり、額を汗が流れた。 「どうするつもりなの?」 「そうねぇ、もう少しお姉ちゃんと動物園を楽しみたいって気持ちもあるけれど……まぁいいわ。  じゃ、雫。あたしはちょっと迷子になるから後はよろしく~~」 「え? ちょっ、夢邦!!??」  あたしは気配を消し、小さな身体を獣たちの見学をしに来た雑踏の中に紛れ込ませながら熱い視線の元へと向かって行く。スカートの中に仕込んだクナイを右手で触り、左手で取り出したいちごオレのペットボトルの蓋を開けて飲んだ。甘くて酸味のある福音が身体中に響き渡る。  ふふふ♪ どんなデートプランを考えてきてくれたのか楽しみね。

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