Ariasa(ありあーさ) / 第17話

9話

9話  日もだいぶ沈んで辺りが薄暗くなっていたため、この日は川辺で野営をする事になり、昼間の休憩時間に水浴びと一緒に釣りをしていたアルマとアミュレットのお陰で新鮮な焼き魚が食べられた。  そして火の番を決めたあと、各々の自由時間となったのだが、アルマが「少し散歩をしてくるね」と言い出し、夜の森の中に入ったと思ったら、一時間後にシルバーホーンの頭蓋を持って帰って来た。 「……お姉様まで骨収集を……?」 「あぁ、違うよ。あそこに脂肪がいっぱい溜まっていたから、頭蓋骨を鍋にしてちょっと石鹸でも作ろうと思ってさ。もったいないから。でも、食事用の鍋を使う訳にもいかないだろう? だから持ってきた。シルバーホーンの頭蓋骨なら、骨に流れる魔力のお陰で直接火にかけても割れないし」  遠い目をしながら問いかけるアミュレットに、アルマは笑いながら即座に否定し、簡易的な石窯を作ると、そこに火を起こして、小鍋に湯を沸かし始める。 「デトラス、疲れているところ悪いんだけど、ちょっと灰汁を作るための木の器を作ってくれないかな? あと、石鹸の型」 「ちょっとの範疇、超えてないか? ……まあ、いいだろう」  アルマの言葉に苦笑をするデトラスだが、すぐに薪を一つ手に取ると、木を窪ませるように削り始めた。その間にアルマは脂肪が眼窩から溢れない程度に拾うと、ついでに水辺に生息する魔草の一つ、浄化苔[キヨメゴケ]を剥ぎ取る。 「アルマ様、脂肪ってヌルヌルしてるしベトベトしてますよね? なのに、石鹸になるんですか?」 「コラルは初めてかい? 実は、脂肪と灰を湯に浸して出てくる灰汁を混ぜると、石鹸になるんだよ。で、本来なら灰汁を採るために結構時間がかかるんだけど、この浄化苔を一緒に入れることで、灰を吸着しつつ、灰汁の抽出も手助けしてくれるんだ。あと、使い終わった苔は埋めておけば土地の浄化と周囲の植物の栄養にもなるから、本当に優秀な植物だよね」 「へぇ~、不思議ですね」  デトラスがナイフで木を削る音を聞き、アルマとコラルは湯が沸くのを待ち、アミュレットはすでに諦めたように最後の肩の治療として治癒魔法の讃美歌を歌い始めた。その様子を見ていたレーゲンが「うわぁ……」と表情を引きつらせる。 「デトラスさんよ。あんた、それでいいのかよ」 「普段のアルマなら、頼まないからな。全部一人でやる。肩が使えないからこそ、頼ってくれるんだろう。貴重だぞ」  まともな方だと思っていたデトラスまで、この勇者には甘いらしい。いや、薄々気付いてはいたが……。 「うわぁ……」  レーゲンは改めて表情を引きつらせた。  そうこうしている内に、デトラスはさっさと灰汁を作るため木の器を完成させると「アルマ」と声をかけて器を投げ渡し「ありがとう」とアルマがキャッチする。そして、次は石鹸の型を作るべく、再び木を彫り始めた。 「あ、次は石鹸の型ですか? 僕もちょっとやってみたいです! 一つだけやってもいいですか?」 「遠慮するな。やりたい数だけやっていいぞ」  デトラスはそう言って薪をコラルに投げ渡し、コラルは「わっ」と言いながらキャッチして、アルマの隣で石鹸づくりを見学しながら自分も型を彫り始める。  アルマは受け取った木の器に予めアミュレットが作った石竈の方から取っておいた灰を入れて、沸かしていた熱湯を注ぎ入れた。そしてすぐに浄化苔をその中に入れると、次は脂肪を入れていた頭蓋骨を火にかけ始め、焦げないように木の枝でかき混ぜ始めた。  コラルは最初、ひし形を作り、綺麗に彫れて満足すると次にもう少し難しいかたちに挑戦しようと、ナイフでアタリを書いてからまた彫り始める。  回復魔法を終えたアミュレットはコラルの後ろから手元を覗き込み、彫り始めた模様に「あら」と微笑む。 「ハート形を作ってるの? 可愛いわね」 「っ!? あ、アミュレットさん! いきなり後ろから声をかけないでくださいよ!」 「本当だ、可愛いね」  アミュレットに手元を覗き込まれて驚いたが、コラルの隣に座るアルマもコラルの手元を見てフッと目元を緩めれば、コラルは顔を真っ赤にして小さな声で「……はい」とうつむいた。  その様子を少し離れた所から見ていたレーゲンは、分かりやすい態度に噴き出し、デトラスはニコニコと微笑んでいた。 「デトラスさん、俺もやるわ。ちょっとあいつ見てて面白くなってきた」 「助かる」  薪を投げ渡し、レーゲンも受け取ると、ゴリゴリと慣れた手つきで削り始めた。 「えー、皆でやるなら私もやるわ。デトラス、薪ちょうだい」 「ん」  アミュレットには、受け取りやすいような投げ方で薪を放り、薪を受け取ったアミュレットはアルマからナイフを借りて薪に模様のアタリを書き始める。 「ふふ、アミュレットは花型かい?」 「正解!」  ニコニコと薪に細かく花の形を下書きしているアミュレットに、無駄のない手つきで木を彫り、すでに輪郭が見え始めているレーゲンが覗き込む。 「おいおい、そんなに花弁を増やしたら、抜くときに崩れるぞ。無難に五枚くらいにしておけ」 「そういうレーゲンは何作ってるのよ」 「星」 「へぇ、すごいね」  アルマは鍋代わりの頭蓋骨をかき混ぜながら、レーゲンの手元を見て、確かに星の形になっている事に感心する。 「……俺も何か形を彫った方がいいか?」 「いや、その半円が一番使いやすいだろうから、デトラスはそのままでいいよ」 「そうか」  そうしてみんなで石鹸の型を作っている傍ら、アルマはドロドロに溶けた脂肪に、浄化苔が完璧に灰を絡め取って綺麗になった上澄みの灰汁を注ぎ込んで、石鹸の素を仕上げ始める。灰汁を入れた瞬間、ジュワァッ……! と大きな音が鳴り、集中していたコラルやアミュレットがビクッと肩を揺らして「お姉様! 驚かさないでよ!」と抗議の声を上げていたが、アルマは「ごめんごめん」と軽く謝り、かき混ぜる作業を継続していた。 「あ、灰汁を入れたら白くなりましたね」 「不思議だよね。あとはこれがトロトロになるまでかき混ぜるだけ」  コラルも内心音に驚いてドキドキしていたが、透明な油だった脂肪が白くなる反応は面白かったのか、アルマの手元を覗きこんで楽しそうに表情を綻ばせた。  そうして黙々と作業を続けて、夜が更ける頃に取り出しやすいように葉っぱを敷いた石鹸型に石鹸を流し込む作業まで終わらせると、コラルがワクワクと目を輝かせる。 「明日には固まりますか?」 「うん、固まるよ。ふふ、こうして見ると色々な形があって楽しいね」  ずらっと並ぶ様々な形に、アルマもどこかワクワクしていそうな表情でそう言うと、最初の火の番であるアミュレット以外の全員が眠り始めた。

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