Ariasa(ありあーさ) / 第15話

8話前編

8話 前編  翌朝、結局上手く眠れなかったコラルは、目を充血させながら、朝日がまぶしいと言うように目をシパシパとさせ、レーゲンに「本当にお前は都会育ちのお坊ちゃんだな」と呆れられていた。 「原因を作った人が何か言ってるわ。コラル、しんどいなら一時的に心を軽くする加護を歌うけど、必要?」 「いえ、大丈夫です。きっとこれは、ちゃんと乗り越えなきゃいけない事なので」  昨日の残りのスープを温めながら心配をするアミュレットに、コラルは力なく笑いながらも、強がりで言っている訳ではないと、目の光は消えていなかった。 「コラルは、強い子だね。……で、この篭は誰が作ってくれたんだい? 朝起きたら置いてあったけど」 「誰でもいいだろ。さっさと干し肉をそれに入れるぞ」  素っ気なくそう言いながら、完成した干し肉をテキパキと篭の中に入れるレーゲンに、アルマとデトラスは目を合わせて互いに目尻を下げ、アミュレットも口角が少し上がりながらも、何も言わずにスープをかき混ぜた。 「もしかして、レーゲンさんが作ってくれたんですか? やっぱりレーゲンさんはすごいですね」  誰もが黙って彼の気遣いを受け取ろうとしていたが、あくびを噛み殺しながらレーゲンの隣にしゃがむコラルは、素直な感想が口から出ていた。 「うるせぇ。誰でもいいって言ってんだろ」  ギュッと眉間にしわを寄せ、照れ隠しをするように吐き捨てると、ピンッとデコピンをして干し肉を入れた篭を荷物置き場に置きに行った。  朝食を食べ、出発のために荷をまとめ始めると、コラルがシルバーホーンの脚の骨を嬉々として抱え始める。 「コラル。一応言っておくが、その骨はトビーに乗せられねぇぞ」 「えっ……でも、脚の骨って角の次に価値が高くて、高価で売れる物ですよ?」 「知ってる。だが、これ以上詰めばトビーの腰がやられる。毛皮も角も重いからな。持って行けたとしても一本が限界だ」 「一本……うぅ、分かりました」  レーゲンの言葉に、あからさまにがっかりと肩を落としたものの、確かにすでにトビーの背には大量の物資が積まれており、その重さにトビーがちょっと不機嫌そうだった。  コラルは魔力を流して一番魔力の伝達がいい物を選ぶと、残りは内臓と一緒に森の動物たちのために置いていく。それでも、やはり諦めきれないのか、小さな足の先の骨をいくつか手に取ると、自分のポケットに忍び込ませた。その事に全員気付いていたものの、コラル自身が初めて捌いた物である上に、自分で持つ分にはいいだろうと黙って見ないふりをした。  そして野営地を綺麗に片付け終えると、一行は出発する。しかし、昨日よりも重くなった荷物に、トビーの足取りが重くなり、頻繁に歩くのを嫌がる様子を見せた。  ブルルッ……とトビーが鼻を鳴らして足を止めると、引手を握るデトラスが「行くぞ」と引っ張る。しかし、逆にデトラスを引っ張るようにして拒否し、一歩も動かなくなってしまった。 「うーん。トビーの負荷がやっぱり重いんだね。レーゲン、近くに川とかあったかい?」 「ある。さっさとこの毛皮をなめして、軽くしてやらねぇとダメだな。川まで案内する」  アルマが不機嫌なトビーを撫でながら「人参あげるから、少しだけ頑張って欲しいな」と声をかけながら人参で釣り、デトラスが引手を引いて歩かせる。  30分ほど歩くと水の音が聞こえ始め、それからすぐに川辺に出ることが出来た。  川辺に出てすぐ、デトラスが毛皮を肩に担ごうとし、アルマも反射的に手を伸ばそうとした。しかし。 「お姉様、ダメです。今日まで絶対安静です」 「でも、皮をなめす作業は人手が——」 「ダメです」  断固拒否のアミュレットに、アルマは困ったように眉をハの字にし、助けを求めるようにデトラスを見たが、デトラスも「アミュレットに従っておけ」と首を横に振った。 「はっ、勇者様もアミュレットには頭が上がらねぇんだな。そんなアルマさんに朗報だ。この辺に群生している|白銀草《しろがねそう》を取ってきてくれねぇか。シルバーホーンの脳と一緒に煮込んでなめすと、驚くほど耐久性が上がる。そうだな。この鍋一杯に摘んできてくれや」 「へぇ、|白銀草《しろがねそう》にそんな効果があるなんて知らなかったよ。分かった。葉の部分でいいのかな? それとも根っこごと持ってきた方がいいかい?」 「葉でも十分だが、根まであればさらに効果は高くなる。どれくらいやるかはアルマさんに任せるぜ」  レーゲンの言葉にアルマは「了解」と笑うと鍋を片手に森の中へ戻っていき、レーゲンはアルマを見送るコラルをガシッと捕まえる。 「さて、コラル。今日も肉体労働頑張ろうな」 「うへぇ、また……。あ、でも、|白銀草《しろがねそう》って、ただ魔力含有量の多い雑草ってイメージだったんですけど、そんな効果があったんですね! やっぱりレーゲンさんはすごく博識なんですね! 他にも混ぜる魔草によって効果が変わるとかあるんですか!?」  キラキラと目を輝かせてレーゲンを見るコラルに、レーゲンは一瞬、その勢いに圧倒されたが、その純粋さにどこか諦めを滲ませて「……ある。教えてやるから手伝え」と、またナイフを渡した。 「私は火の準備をするから、肉体労働はよろしくね~」  アミュレットは早々にそう言ってレーゲンから距離を置くと、川辺で石窯づくり用の石を選び始めた。 「レーゲン、コラル、やるぞ」  デトラスはすでに毛皮をまとめていた縄を解いて、川に毛皮を浸し始めており、レーゲンとコラルを待っていた。 「さすが。相変わらず手際良すぎだろ」  レーゲンはニッと笑ってすぐに川に入り、コラルも滑らないように慎重になりながらレーゲンに続いて川に入る。  ひんやりとした川の水が彼らのふくらはぎを激しく叩く。デトラスとレーゲンは慣れた手つきでグイッと上流側に向けて川底の岩に広げた毛皮を押し付け、浅瀬の強い流れに沿って、毛皮から汚れや虫の死骸がみるみる流れていく様子に、コラルは思わず顔をひきつらせた。 「うっ、こ、こんなに付いていたんですか……」 「野生動物だからな。ほら、コラルも一緒に岩に擦るぞ。持て」  三人がかりでガシガシと岩に毛皮をこすり付け、しぶとい汚れはブラシや木の枝でこすって丁寧に落としていく。するとくすんだ灰色だった毛皮は徐々にその美しさを取り戻していき、あらかた汚れが落ちる頃には、日に反射して銀色に輝く毛皮になり始めていた。 「わぁ……すごく綺麗ですね」 「見惚れてる暇はねぇぞ。ここから毛皮の裏にへばりついている脂肪や膜を削いでいく作業をするからな。陸に上げる」 「あっ、陸に上げるんですか? じゃあ、僕が浮遊魔法で上げますよ」 「それは助かるな」  コラルの申し出に、デトラスが腰を伸ばしながら表情を緩めると、コラルは荷物の所に置いてある杖を持ってきて、浮遊魔法の詠唱を始める。そのタイミングでアルマも森から鍋に山盛りに|白銀草《しろがねそう》を摘んで帰ってきて、詠唱をしているコラルを見て自分なりに役に立とうと頑張っているんだなと目を細めた。 「レーゲン」 「十分すぎるな。じゃあ、これを細かく刻んで、濃い緑のドロドロになるまで煮込んで分解。水を随時追加して、焦がさないように気を付けろよ。だが、繊維はどうしても残るから、最後は裏ごし。裏ごししたら脳と一緒に煮込んでおいてくれ」 「お姉様、刻むのは私に任せてくださいね!」  ヒョコッとアルマの後ろから顔を出したアミュレットも説明を聞いていたらしく、アルマが無茶をしないうちに鍋を受け取る。 「あぁ、お願いね。三人とも、頑張ってね」  アルマはそう言ってアミュレットと一緒に火の方へ行き、レーゲンは綺麗に川辺の岩に毛皮を置いたコラルの所へ行った。 「コラル。ここからが本番だから気張って行けよ」 「はい!」  レーゲンから借りたナイフをすでに抜いて、意気込むように元気よく返事をするコラルに、「よし」と見本を見せ始める。レーゲンはナイフの背を毛皮に当てて力強く手前に引くと、シャリシャリと小気味のいい音を立てて、ヌルヌルとした脂肪や肉片が面白いように波打って剥がれ落ちていく。そしてその下には驚くほど薄く、引き締まった美しい乳白色の地肌が顔をのぞかせていた。 「わぁ……全然違う」 「この色と質感の場所までは削っていい。やりすぎると破れて価値が落ちるから、気を付けろよ。やってみろ」 「えっと、こんな感じですか?」 「あほっ! 刃を向けてやったら……!」  ガリッ—— 「あっ」  親指ほどの穴が毛皮に開いてしまった。 「はぁ~……端っこでやらせて正解だったな。しばらくそこら辺の皮で練習してから、デトラスさんがやってる中央の方に行くからな」 「すみません……」  レーゲンがコラルの隣で教えている間、デトラスは黙々と手際よく脂肪を削ぎ落しており、さりげなく難しそうな箇所は自分が引き受けていた。  2時間以上かけて丁寧に脂肪を削り取ったあと、アルマとアミュレットが作っていた脳と|白銀草《しろがねそう》を煮詰めたなめし液を丁寧に塗って、休憩となった。 「これで半日置いて、液が浸透したら揉む作業をして、乾かして終わりだな」 「レーゲンさん、今回は|白銀草《しろがねそう》を入れて耐久性を上げるって事だったと思うんですけど、|白銀草《しろがねそう》の他の効果ってあったりするんですか?」 「ある。|白銀草《しろがねそう》のいい所は実は耐久性を上げるだけじゃねぇ。地味に助かるのが浸透を助ける効果もある事だな。こんな大物の皮だと、本来だったら丸一日は置く必要があるからな。あと、臭い消し。脳の臭い、あまり気にならなかっただろう? |白銀草《しろがねそう》がマシにしてくれているからだ」 「へぇ、確かに煮込んでいる間もそんなに臭くなかったね」 「十分臭ってましたよ、お姉様……」  それからもコラルは、レーゲンに他の植物を混ぜるとどんな効果があるのか、魔草ではなく魔力を流して塗ったらどうなるのか、など、色々と聞いていたが、途中からレーゲンが面倒くさそうな顔になっていき、とうとう「……おい」と声が低くなった。 「はい?」 「これ以上の質問は金取るぞ」 「えっ」 「寝る」 「えぇっ!?」  少し距離を取ってゴロンと寝ころんだレーゲンに、コラルは何がダメだったんだろうと慌てていたが、アルマが落ち着かせるようにポンと肩を叩く。 「コラルも休むといいよ。疲れただろう? 授業は、また今度してもらえばいいさ」  アルマの言葉を聞き、ここでようやくコラルも体中に疲労がたまっている事に気付き、心地のいい川のせせらぎと、丁度いい気温にあくびが出てくる。 「……そうですね。少し、寝ます」  コロンとその場に寝転び、そしてものの数秒で眠りに落ちていった。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳