Ariasa(ありあーさ) / 第3話

2話

2話  ——カラーン——カラーン  やや傾き始めた太陽が街を照らす中、勇者一行が王都へ帰還した合図の鐘が街中に響き、民衆は明るい表情で勇者一行を迎えるために大通りに集まる。  ゴゴゴ……と音を立てて城壁の巨大な門がゆっくりと開くと、石造りの門の中で待っていた衛兵達が笑顔で五人を出迎えた。 「勇者様、此度の魔物討伐もお疲れ様でした。民衆が皆さまの勇姿を見るのを楽しみにしております。こちらの馬に乗って、民からの声援を受け取ってください」  そう言って衛兵たちは五人それぞれに装飾された馬を渡し、アルマは馬の手綱を受け取りながら笑顔で馬の鼻面を撫でた。 「君達も、城壁の警備ご苦労様。馬を手配してくれてありがとう。君達の心配りに感謝するよ」  そう言うや白毛の美しい馬にまたがり、少し落ち着かない馬の首をポンポンと撫でて「可愛い子、怖がらないで。今日は少しの間だけ、よろしくね」と落ち着いた声で囁く。 「うっ……! アルマ様のその声、本当に尊い……」 「ちょっとコラル。確かにお姉様の落ち着いた低い声で囁かれる馬が羨ましいけど、その緩み切った顔をどうにかしなさいよ」  大げさに胸を押さえて天を仰ぐコラルに、アミュレットが馬を隣に並べてバシッと肩を叩く。アルマはその様子を視界の端でとらえてクスクスと笑うと、振り返って微笑む。 「じゃあ、行くよ。凱旋だ」  アルマがゆっくりと馬を歩かせ始め、城壁のトンネルを抜けると、大歓声と花吹雪がアルマ達を迎えた。色とりどりの花弁が祝福のようにアルマ達に降り注ぎ、アルマは歓声を上げて出迎えてくれた民衆に笑顔で手を振って応える。 (……モノクロの私には場違いな光景だな)  散らされる色とりどりの花弁に目を細めるが、すぐに思考を破棄して光の勇者の任務に意識を戻した。 「きゃー! アルマ様~!」 「勇者様! 魔物討伐お疲れ様でした!」 「よっ、デトラス様! 勇者の盾!」 「アミュレット様~! 今日も可愛い~!」  アルマが幼少時代から一緒にいる二人は民衆に認知されているため、二人にも一定数のファンがおり、デトラスもアミュレットも歓声に応えて手を振っていた。逆に、コラルとレーゲンはいわば、よく変わるメンツという位置づけであり、彼らへの歓声は皆無と言っても過言ではない。  それを気にすることもなく、レーゲンは馬上でつまらなそうに華やかな景色を眺め、隠すことなくあくびをし、コラルは王都のファンたちと同じような心境で、特等席でアルマを見ることが出来る喜びに浸っていた。  王都の大通りを進むと、たまに歓声を上げることなく黙ってアルマを見つめる者や、アルマと目が合ってもすぐに目を逸らす者がいた。その者たちは例外なく中高年の住民たちだった。  アルマの通る道に死者への手向けの花を投げる老婆がいた。  老婆の前を通る時、周囲は一瞬だけ通夜のような静かな空気が流れ、花を踏む音がやけに響いた。強すぎる彼女へ表立って声を荒げる者はいない。しかしその静かな拒絶の音を聞いたデトラスとアミュレットは視線を落とし、レーゲンは面白い物を見たと言わんばかりに笑った。住民たちの静寂は、すぐに周囲の「アルマ様~!」という大歓声に呑まれた。  アルマはそれらを全て認知していたが、全てを受け入れると言うように微笑みが絶えることはなく、むしろ死者の手向けの白い花を見て、ようやく色の無い物を見ることが出来たと安堵すらしていた。  一行は華やかな歓声と静かな拒絶が混ざる大通りを通り抜け、王城の門をくぐった。  衛兵の案内に従って控室へ行き、謁見準備が整うまで待っていたが、王の身が開いていたのか、すぐに謁見の準備が整い、王の間へ向かう事になった。絢爛豪華な王の間でアルマ達は王の前に跪く。 「アルマ・ノワール、デトラス、アミュレット、コラル、レーゲン。此度の魔物討伐遠征、ご苦労だったな。アルマよ、今回のメンバーでの戦闘はどうだった」 「はい。事前の報告とは違い、1000体の雑兵ではなく100体の精鋭ではありましたが、スムーズな戦闘を行うことが出来ました。おそらく、幻影魔法を使って数を誤認させ、戦闘時は連携を取って戦うといった、高度な技術を持つ個体たちなのでしょう」  アルマの報告に、王と側近たちは一瞬ざわめく。「そんな魔物、今までいなかったぞ」「魔物はバカなモノかと思っていたのに」そんな声が周囲から聞こえる。 「ふむ。魔王軍もいよいよ侮れなくなってきたという事か。魔物め、小賢しい知恵をつけおって。だが、こうして無事に帰って来ている所を見るに、守護兵器であるおぬしの敵ではなかったという事だな?」 「そうですね。私一人の力ではきっと危なかったかもしれませんが、デトラスとアミュレットは変わらず私を献身的に支えてくれますし、コラルの正確で的確な魔法の構築は目を見張るものがあり、魔法合戦を難なくやってのけた上に敵魔導師を撃破していて、実力は申し分ないと思いました。おかげで私も安心して前線で戦えました。レーゲンも遊撃として適宜必要な動きをしてくれて、囲まれている中でも後衛の二人を守り切った実力には頭が下がります。後衛の守護に気を回す必要が無いのも私としてはありがたかったです」  頭を下げたまま、淡々とした声で答えるアルマに、王は「そうか」と自分の采配が間違っていなかったことを確信して頷く。 「新参のコラルとレーゲンが役に立ったようで何よりだ。だが、コラルはアルマと比べれば未熟だろう。おぬしの魔法の威力は知っておるぞ」  謙遜するアルマに笑いかける王だが、アルマは淡々と「恐れ入ります。しかし彼は、私よりも繊細で緻密な魔法を使うのです」と返し、王が次の言葉を発する前にすぐに言葉を続ける。 「陛下。私に、優秀な者達をつけてくださる、寛大な御心に感謝いたします」 「はっはっはっ、よいよい。アルマに投資するのは国として当たり前だ。なにせ、アルマは光の勇者……我が王国の守護兵器だからな。兵器が最大限の力を発揮できるように、一番いい油を注ぎ、不足なく動けるように手入れするのが、王としての私の役目だ。おぬしはただ、我が命に従い、国を守るためにその美貌で民を熱狂させ、戦い続けてくれればよい」  王が満足げに笑いながらアルマを見下ろし、アルマは静かに「王の期待に応え続けられるよう、精進いたします」と答えた。 「あぁ、頼んだぞ。さて、パーティーメンバーに問題が無いようならば本題へいこう。昨今、魔物達の動きが活発になってきている。王都へ幾度となく侵攻してくる魔物の群れをチマチマと討伐していてはいつまで経っても災厄は終わらない。そこで、そなたたちに魔王の討伐を依頼したい。魔物達の旗印たる魔王がいなくなれば、魔物達も侵攻をしなくなるだろう。噂では、魔王は人と同じ姿をしているとか。おぞましいバケモノの分際で、我ら人間に擬態し、その容姿を使って我らを欺こうとしているのかもしれぬ。反吐が出るな。アルマもそう思うだろう?」 (魔王が、人と同じ姿……。どうしてだろう。初めて聞く噂なのに、知っていた気がする)  アルマは「……そうですね」と答えつつも、どうしても魔王に対してそこまで嫌悪感が湧かず、静かに目を伏せる。ざわざわと心にさざ波が立つ。 「魔王を見事討ち取った暁には、五人に富と生涯の安寧を約束する。戦いを終わらせよう」  王の言葉に、アルマは一瞬だけ存在意義の消滅の危機感を持ったが、これは命令だと思考の隅へ押しやると「ははっ」と深く頭を下げて受領し、後ろにいる四人も倣うように深く頭を下げる。  そしてすぐに今後の話に変わり、魔王討伐の任命式と出発パレードを行うため、後日日程を知らせる旨を告げられ、五人は王の間を後にした。  王の間を辞しても、アルマの胸にはまだ、魔王の噂とミノタウロスの最後の言葉が茨のように刺さりながら心を締めつけ、言いようのない苦しみに、僅かに呼吸が浅くなった。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳