りんたろ / 第9話

9 お出かけ

暖かな朝日を浴びながら宿を出る。  今日は1日を街で過ごすことにした。 僕らはEランクの冒険者となった。 キキラはすでにBランクだ。 デュラハン討伐も含めて大分レベルも上がった。 僕のレベルは10。 スキルポイントは相変わらず0だ。 「キョウはレベル10ね。見てみて、わたしなんてもう12よ!」 【Lv.12 現世: 剣術士 前世: サムライ スキルポイント: 120】 悔しいことに僕より大きくレベルが上がっている。 デュラハン戦で一番経験を積んだのはリリスだ。 悔しいがそこは納得する。 ≫ デュラハンは倒せたし、休養も大切だ。 僕らは各々が好きな場所で過ごし、夕方に酒場の前で待ち合わせることにした。 「リリス、無駄遣いしちゃダメだよ?」 「わかってるわよ。 ただ屋台で美味しいものを見つけたら食べて、かわいいアクセサリーがあれば買うだけよ」 「それを無駄遣いって言うんだよ…」 「いいではありませんか。 デュラハン討伐で1番活躍したのはリリスさんですし、少しくらい大目に見ても」 「それもそうだね。でも予算は厳守!キキラは好きに使ってくれて構わないからね」 「ずるい!まったく、キキラには甘いんだから」 「キキラは大人だからね」 リリスがぶつくさ文句を言ってくる。 一旦3人は別れ、それぞれが街を散策する。 》 大通りを歩く。 【パン屋】―前世では行列店でした― 【服のご要望は当店まで】―前世は王族への献上経験あり― どの店も前世の功績を看板にアピールしている。 【アクセサリーならお任せあれ】―前世では悪役令嬢をしておりました― それは宣伝文句になるのか? 人通りを抜けて冒険者ギルドへ赴く。 当面のことも考えてクエストボードをチェックする。 テーブルに座っている男たちの会話が聞こえた。 「前世では竜騎士をやってたんだよ。 ドラゴンの背に乗って高い山を越えたり、大海原を巡ったり。 ああ、また飛びたいな」 「この世界じゃドラゴンなんておとぎ話さ。 乗れてせいぜいワイバーンだよ。暴れて言うこと聞かないだろうけど。 それよりも次のクエストはさ...」 ついつい口を挟みそうになるが抑える。 ドラゴンが出たなんて言ったら街中大騒ぎだ。 特にめぼしいクエストも見つからず、僕はギルドを後にした。 ≫ 武器屋のスミス工房に訪れた。 「これはこれはキョウ様。息災なようで何よりでございます。 して、今日は何用で?」 「銃の手入れをお願いします。 あとは不足したグレネードの買い出しと、何かいい魔道具があれば買おうかと」 「かしこまりました。 少々お時間を頂戴しますので、ごゆるりと店内をご覧くださいませ」 店内は相変わらずホコリ1つなく綺麗に整頓されている。 武器屋ではなく高級なブティックのようだ。 僕は魔道具を片っ端から眺めていく。 何か新しく使えるものはないだろうか。 四つ葉のクローバーの形をしたアクセサリーが目に入る。 「スミスさん、この首飾りは何ですか?」 「これは単なる首飾りではなく、れっきとした魔道具です。範囲内の仲間の声を確認できる機能が付いています」 これは便利そうだ。 いまはダンジョンで固まって行動しているが、離れ離れになることがあるかもしれない。 広範囲のクエストをこなす時にも使えそうだ。 「これを3つ…いや、4つお願いします」 「お買い上げありがとうございます」 リリスとキキラにおみやげができた。 》 リリスは屋台通りを歩く。 色とりどりの屋台が並んでいる。 肉の串焼き、魚の蒸し焼き、野菜や果物。 その中の1店で大きな弁当を買い、リリスはまた歩き出した。 街の郊外に出る。 しばらく歩いて開けているところを見つけた。 ここでよいだろう。 デュラハン戦。 勝ちはしたが、馬が召喚されてからは防戦一方だった。 二人のサポートがなければ、スキルポイントが尽きて危なかったかもしれない。 紅桜の威力は圧倒的だが、武器だけに頼ってはいられない。 リリスは思案する。 居合い斬り、刺突、円陣斬。 これまで習得したスキルは単発技だ。 それぞれ早さ、間合い、範囲の違いがあり、複合して使用することでしのいできた。 けれども剣劇の押し合いになるとそれらのスキルでは物足りない。 「うーん...難しいなあ。キョウに相談しようかな。 いやいや、ここは自分で考えて2人をあっと言わせるんだ!」 とりあえず刀を振る。 前より手になじむ。 鋭い刃先。 湾曲した刀身。 私は前世ではどんな戦い方をしていたんだろう。 目を閉じて考える。 何も浮かばない。 困った。 「とりあえず100本くらい斬ってみようかな」 リリスは考えることをやめ、木に向かっていく。 1本。 5本。 10本。 一つ一つ集中しながら斬っていく。 つまらない。 どうにかして遊べないかと考える。 そうだ、1回じゃなく2回斬ればいい。 それまでは輪切りにしていた木にさらにもう一閃重ねる。 二つの塊になった木が地面に同時に着地した。 リリスは閃いた。 同時だ。 集中する。 鳥の声が遠のき、風のそよめきを感じず、己の精神と向き合う。 刀と五体。 むしろ一心同体。 おぼろげながら木造の道場が頭に浮かんだ。 老人が一振りすると竹刀が3つに斬れる。 2振りじゃない。 同時なんだ。 リリスはより集中する。 そしてカッと目を開いて大木に刀を振るった。 「スキル・剣舞!」 大木が3等分され、同時に倒れる。 1振りで2つの斬撃を繰り出したのだ。 「できた!あとでキョウたちに自慢しなきゃ!」 ≫ キキラは住宅街を歩いていた。 少年と少女の会話が聞こえてくる。 「今日は王宮での作法を勉強しましょう」 「またなの?僕は魔法使いだったんだ。騎士の作法なんて知らないし、これからも必要ないよ」 「私の前世がお姫様なんだから、あなたは私の騎士なの!」 少女の迫力に少年は怖気づき、結局騎士ごっこに付き合わされるようだ。 その光景を見て微笑みながら、目的地に向かう。 それは教会だった。 この世界ではすべての者が前世を経験している。 ゆえに各々が信仰する神も異なる。 唯一神、八百万の神、精霊、星々。 その中で大勢を占めるのがグランレピア神をあがめるものだ。 グランレピア神はこの世界の創造主とされている。 それぞれの世界で生を全うし消えゆく魂を嘆き、この世界を創造したと言われている。 キキラは教会に入り、神の像に祈りを捧げる。 その後教会を出て周りを見渡すと墓地が目に入った。 墓石を見る。 風雨にさらされて文字は所々かすれているが、かろうじて読み取れる。 【ニーニャ 前世は魔力に恵まれ、現世はつつましい妻であった者 ここに安らかに眠る】 キキラは祈りを捧げた。 今、彼の魂はどこにいるんだろうか。 キョウが彼の生まれ変わりだったらいいのに… 「そんなうまい話、あるわけないですよね」 自嘲気味に笑った後に沈黙する。 いまはただ彼の安息な眠りを祈ろう。 空を見つめながらキキラは涙をこぼした。 ≫ 夕暮れ、3人は酒場に集まった。 「二人に渡したいものがあるんだ」 首飾りを差し出す。 「キョウにそんな甲斐性があったなんて...」 「違うよ。これは遠くにいても会話できる魔道具」 「期待したわたしが馬鹿だったわ」 「私は嬉しいですよ。素敵なネックレスですわ」 キキラが早速首飾りを付けている。 チャームを目で追っていくうちに胸元を見てしまい、慌てて顔を背ける。 「キキラはネックレスが似合うね。まるで王女様みたいだ」 「ちょっと、わたしには何か感想ないの?」 リリスがむくれた顔をする。 「まあまあ。これは魔道具だけど、このパーティーの証にしたいんだ。 幸せを願う四葉のクローバー。なんだか幸運を運んできてくれそうじゃない?」 「いいわね、幸せの象徴。わたしたちの旅路が恵まれたものになりますように」 改めてパーティーの結束が固まった気がした。

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