りんたろ / 第8話

8 デュラハン

――ダンジョン30階のボス、デュラハン。 首のない身体に強固な甲冑を身に帯びた強敵。 僕らは作戦会議を開いた。 「あの防御力は厄介だ。 新調した武器の性能で何とかなるかもしれないけれど、作戦を立てておきたい」 「私の紅桜で一閃よ。見たでしょ?あの試し斬り」 分厚い鋼の鎧をいとも簡単に切り裂いた紅桜。 「そこはすごく期待してる。だけど、僕らは余力を残したあいつしか知らない。 いざという時の作戦は必要だと思う」 「デュラハンですか。それなら私も参戦できますわ」 キキラがテーブルに立てかけた槍を撫でる。 「え?キキラも前衛に加わるの?」 ヒーラーは後衛職だ。 敵と交戦するヒーラーは聞いたことがない。 「攻撃する人数が多いほうが戦闘が有利に運ぶでしょう? それに…私は誰かだけが傷つくのは嫌なのです」 キキラは遠い目をしている。 「...わかった。僕ら3人でデュラハンを討伐しよう」 作戦会議は続いた。 》 30階の扉の前に立つ。 「準備はいい?」 「いつでも!」 「ええ、私も大丈夫です」 扉をゆっくりと開く。 広いフィールドの中央に大剣を構えたデュラハンが鎮座している。 今日こそ忌々しい鉄塊を粉々にしてやる。 僕は懐から丸い玉を取り出し放り投げる。 「グレネード!」 デュラハンの足元に転がり爆発する。 デュラハンが吹き飛んで壁に叩きつけられる。 さすがに一撃とはいかないが、甲冑が所々凹んでいてダメージが見て取れる。 「リリス!」 「オッケー、任せて!」 リリスが走り出しデュラハンの足に一太刀食らわせる。 太ももに大きな傷が入り、血しぶきが上がる。 「やっぱりこの刀すごい!あっさり斬れちゃった!」 リリスが飛び跳ねて喜んでいる。 デュラハンが起き上がりざまに大剣を横に振るう。 すかさず僕が間に入り盾でガードする。 「リリス、うれしいのはわかるけど喜ぶのは後。集中!」 「はーい」 リリスに注意を促した後、僕は一旦距離を取って下がる。 「私も参戦しますね」 キキラが槍を構えた。 リリスとデュラハンは剣撃を交わしている。 がら空きの背中にキキラが槍を突き立てる。 甲冑は貫けないが、体勢を崩すには十分な一撃だ。 デュラハンが片膝をつく。 「スキル・居合い斬り」 リリスの一撃でデュラハンの左手が吹き飛ぶ。 予定通りだ。 デュラハンの機動力を奪い、片手を封じる。 僕は左手に銃を構え発砲する。 デュラハンの甲冑の隙間、膝関節のくさりかたびらを弾が貫く。 デュラハンが両膝をついた。 いける。 あとは胴体にダメージを与えておしまいだ。 ≫ 突如デュラハンから黒いオーラが吹き出す。 陣が出現し、そこから何かが召喚される。 ――馬だ。 デュラハンと同じく全身に甲冑を帯びている。 デュラハンは馬に飛び乗り駆け出した。 想定外の事態だ。 機動力の上がったデュラハンはリリスに狙いを定め、走り抜けざまに重い一撃を振るう。 素早さに長けたリリスでもさすがに馬の機動力には敵わない。 銃を撃つが当たらない。 速すぎる。 もっと練習しておくべきだった。 焦りが汗へと変わり頬を伝う。 「スキル・円陣斬!」 リリスは範囲攻撃を行うことでデュラハンをけん制している。 デュラハンはリリスの周囲を旋回しつつ、突撃を繰り返す。 「スキル・居合い斬り!」 後の先を取ろうとリリスが瞬殺の剣を放つが、デュラハンは間合いをとり応戦する。 剣術士にとって圧倒的に不利な状況だ。 このままではリリスのスキルポイントがもたない。 僕とキキラは目配せをして走り出す。 「グレネード!」 馬の前方で爆発が起き、馬がいななきを上げながら立ち止まる。 デュラハンが大ぶりな一撃を振るう。 僕が盾で防ぎ、その間隙からキキラが槍を走らせる。 デュラハンの攻撃を捌きつつ、馬の進路を妨害する。 「今だ、リリス!」 「スキル・刺突!」 リリスが矢のように飛びかかり、デュラハンの腹に大穴を空けた。 デュラハンが騎乗から倒れ地に伏す。 馬が消えていく。 ――デュラハンに勝ったのだ。 ≫ 僕らはダンジョンを出て街に戻り、酒場で祝賀会を開いた。 「キョウ、見たでしょ、わたしの紅桜の一撃!これなら硬い敵でも怖いものなしだわ!」 骨付き肉を豪快に食べながらリリスが言う。 「ものすごい切れ味でしたね。私の槍では到底真似できそうにありませんわ」 キキラはワインを片手にリリスの頭を撫でる。 「リリスの斬撃もすごかったけど、フォローに入ってくれたキキラのおかげでリリスの攻撃が通ったんだよ。 キキラに感謝しないと」 ヒーラーが前衛に出るなど最初は恐ろしかったが、キキラの槍の腕前を見て納得した。 彼女なら主戦力とはいかなくとも、十分に攻撃のサポートができる。 「最下層の50階までこのまま一気に進むわよ!どんな敵だってわたしがぶった斬ってやるわ! そういえば最下層をクリアすると何が起きるの?」 ため息をつきながら返答する。 「リリスはそんなことも知らずにダンジョンに潜ってたの?」 キキラが苦笑する。 「ダンジョンの最下層を攻略すると宝箱が出現するんです。中身は開けた者が望むもの。 富を求めれば財宝が。力を求めれば武器や防具が。 それに...」 キキラがちらりと僕を見る。 「人の幸せを願うなら叶える何かが」 心の中を見通すような視線を僕に向けてくる。 アキの精神汚染を治す方法はまだわからない。 その手掛かりが宝箱の中に入っていないかと僕は期待している。 回復薬か魔石か。 いずれにせよ、僕の願いはただ一つだ。 アキを取り戻す。 ひとまずは勝利の余韻にひたろう。 デュラハンは強敵だった。 僕ら3人が力を合わせたから勝てたのだ。 「キキラ、改めてこれからもよろしくね」 「私こそです。お二人と旅をすることで、私の探し物が見つかるかもしれません」 乾杯をし、料理を楽しみながらその晩は語り明かした。

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