逸漣 / 第15話

第11話 夕焼けに染まる頃

 夕暮れの図書館の読書室は貸切だった。  大きな窓から差し込む赤い光が、二人をそっと染める。透け感のある白いカーテンが、柔らかく日差しを拡散して、床にキラキラと光の粒を映していた。  百合子は机に向かい、手元の本を捲る。けれど、麗奈の存在が近すぎて、文字が頭に入らない様子だ。  隣に座る麗奈は、ほんの少し肩が触れそうな距離に腰掛けていた。 「……百合子さんの選んだ本も面白そうですね。私も一緒に読みたいわ」  麗奈はにこりと微笑みながら、更に椅子を寄せ、夕日に照らされた百合子の顔に触れそうなほど近づいた。  麗奈は冗談めかした顔で、くんくんと首筋に鼻先を近づけるので、百合子は息を止めた。  ──触れていないのに、なんだかくすぐったい──  百合子の頬が熱を帯びても、夕陽が隠してくれる。 「百合子さん、なんだか良い香りがしますわ」  「今日はスズランのコロンを付けてみたのよ、どうかしら」  麗奈は、百合子の耳朶の下に吐息がかかるほど近づき、  「この香り、私……|好《・》|き《・》です」  百合子は|好《・》|き《・》という台詞に、背骨を伝うようにゾクゾクと小さく震え、溜息を漏らした。  いたずらっぽく小首を傾げる麗奈。無邪気なのに、なぜか色っぽく見える。  百合子は視線を逸らしたいのに、どうしても目が離せない。頬は赤く熱くなり、ページを捲る指先が震えた。  同性に対してこんな風に動揺している自分を、百合子はまだ理解出来ていない。  麗奈はくすっと笑い、上目遣いで百合子を見上げた。 「百合子さんって、睫毛が長くて、目が綺麗……」  麗奈の視線が、百合子の理性をほんの少しずつ溶かしていく。 「そ、そういう麗奈の方が、ま、睫毛が夕陽を映して……」  綺麗と言いたいのに、声が掠れてしまって、音にならなかった。   麗奈の指先がページをめくる百合子の手に触れた。さらに息が浅くなる。 「くすぐったい、もう……」  麗奈は気にせず無邪気に身を寄せ、手のひらが百合子の背中に触れ、本を覗き込んだ。 「……あ、あの……」  百合子の舌がもつれ、手がふわふわと空を泳ぐ。未知の感情への動揺が、百合子の思考を奪っていく。  ──鼓動に支配されてしまう──  麗奈はただ楽しそうに笑い、百合子の肩に顔を寄せ、本を読み続けていた。 「ねえ百合子さん、これはなんて読むのですか?」 「そ、それはざくろと読みますのよ」  無邪気なイタズラ心とは裏腹に勝手に滲んでしまう麗奈の色気。  図書室の夕暮れは甘く、少しむず痒い空気に包まれていくのだった――

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳