南江行瀬 / 第7話

女子会

「ねぇねぇ真波さん!」 「なぁに柊さん」  とある日の午前中。カプリスの医務室に暇を持て余した柊が遊びに来ていた。  椅子の背もたれを抱きかかえるようにして座る柊と、書類を進める真波。対象的な二人だが、それなりに仲はいい。 「今度一緒に遊びに行かない?」  こてん、と首をかしげて誘う柊。真波は一瞬だけ、キョトンとした顔を見せたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべる。 「あら、いいわよ。どこに行くの?」 「あのねあのね!この前福引で人気カフェの割引券当たったの!一緒に行こ!」  柊が割引券を見せると、真波の目が輝く。そこは甘党の白峰が美味しいと評価するカフェだった。いつかは行きたいと思っていたが、一人で行く勇気はなかったのだ。 「いいわね。そのお店、私も気になってたの」 「ほんと!?じゃあ行こ!いつ行く?」  パアァと笑顔を咲かせた柊に、真波はつられて笑う。この組織で女性は真波と柊の二人だけ。それにお互い裏方なため、あまり話す機会がない。 「ふふ、私、明日は午後から休みなの。貴女は?」 「……!あたしも休み!じゃあ、明日の午後から行こ!」 「いいわよ」 「絶対ね!約束だから!」  ガタンと立ち上がった柊は、嬉しそうに笑いながら医務室を出ていった。そんな姿を見送った真波は、途中になっていた書類を進めるのであった。 ─── ── ─  次の日の昼下がり。可愛くおめかしをした柊は、集合場所の銅像の前でそわそわしていた。真波と二人で出かけるのは今日が初めてで、待ち合わせの時間より早く着いてしまった。 「(楽しみだなぁ〜。真波さんって普段どんな服きてるんだろ〜)」  何度も腕時計を確認する。自分でも頬が緩んでいることが分かるほどに、柊の表情は楽しそうだ。 「あ、ねえそこのお姉さん!」 「可愛いね。良かったらお茶しない?」 「え?」  柊の元にやって来たのは真波ではなく、若い男の二人組だ。チャラついた格好の二人組は、柊へと近付いて行く。 「あ〜、すみません。今待ち合わせしてて」 「誰と?彼氏?」 「いや、友達……?と……」 「ならその子も一緒にお茶しよーよ」 「はあ?」  ナンパかと適当にあしらおうとしたが、意外にも押しが強く、眉を顰める柊。いっその事逃げようかと思ったが、真波と入れ違いになったら困ると、その考えは早急に脳内から消えた。 「悪いけど、あんた達はお呼びじゃないの」 「は?せっかく俺らが誘ってんのに」 「いいから行こーぜ」  男の手が柊に伸びる。どうするべきかと考える柊だったが、それは杞憂に終わる。 「その子、私の連れなんだけど」  颯爽と現れたのは真波。シンプルなワンピースに、大きめのベルトがアクセントになっており、真波のスタイルの良さが出ている。 「わ、お姉さん美人〜!」 「この子と一緒に俺らとお茶しよーよ」 「お断りするわ」  男たちを無視して、柊の腕にぎゅっと抱きつく。突然の事に柊は思わず頬を赤く染め、あわあわと軽く取り乱す。 「私たち、今からデートなの」  真波は妖しく笑った。男たちは互いに顔を見合せ、訳が分からないとでも言いたげな表情をする。 「なに、そういうノリ的なやつ?」 「女同士がデートとかないでしょ」 「何か問題でも?」  真波は全く動じず、柊と距離を縮める。相変わらずあわあわとしている柊に、真波は小さく笑う。 「邪魔しないでくれるかしら」  穏やかだった真波の笑みがすっと消え、冷たい視線が男たちを刺す。ひゅっと喉が鳴るのを感じた男たちは、逃げるようにこの場を去って行った。 「柊さん、大丈夫だった?」 「あっ!」  正気に戻った柊は、真波の顔を見上げる。いつもと違うメイクをした真波。見慣れた白衣ではなく、綺麗なワンピースを纏った姿に、思わず顔を赤らめる。 「ま、真波さ……、で、デートって……」 「あら?もしかして照れちゃった?ああ言った方が早く片付くのよね」  楽しそうに笑う真波。腕はまだ離さず、柊の反応を楽しんでいるようだ。 「真波さん、もしかしてこういうの慣れてる?」 「私がというか……優がよくナンパされててね」 「えぇ!?白峰くんが!?」 「鉄也も逆ナンされるし……その度に私が断ってるから慣れちゃった」 「はえ〜。そんな事が……」 「二人とも、黙ってれば顔は良いからね」 「まあ確かに……白峰くんは可愛い系だし、テツさんはワイルド系だもんね。……見た目だけは」 「ええ。見た目だけは」  この場に居ない二人を思い浮かべ、妙に納得する柊。そして、未だに真波が腕に抱きついている事に気がついた。 「あの……真波さん?」 「なぁに?」 「まだ腕……」 「あら、ごめんなさい」  絡めていた腕を解き、にこりと微笑む真波。柊は少し顔を赤らめながら、真波の手を取った。 「と、友達だから、手……繋ぐのはあり……かなっ、て……」 「……ふふっ、そうね」  二人は手を繋ぎ、お目当てのカフェへと向かう。その道中の話題は、仕事とは全く関係のない、他愛もないものだ。 ─── ── ─  カフェにやってきた二人は、奥のソファー席へと案内された。向かい合って座り、テーブルにメニューを広げて吟味する。 「どれにする?割引券あるからいつもより頼めるよ!」 「そうねぇ……。とりあえず私はコーヒーとチーズケーキにしようかしら」 「あたしはクリームソーダといちごタルトにしよ!」  店員を呼び、注文を済ませる。おやつ時でもある店内は賑わっており、注文したものが届くまでは少し時間がかかるだろうと、二人はお喋りを始める。 「ねぇねぇ!ぶっちゃけ、うちの男性陣で付き合うなら誰がいい?」 「そうねぇ……優かしら」 「白峰くん?なんで?」  予想外だったのか、柊は不思議そうにそう聞いた。白峰といえば、無口で無表情。それに加えてすぐに手が出るタイプだ。付き合う対象としては、あまり良い印象ではないだろう。 「あの子の作る料理、凄く美味しいのよ」 「そうなの?」 「私は料理が苦手だから、作れる人がいいなぁって思って」 「白峰くん以外って、料理出来ないんだっけ?」 「鉄也は壊滅的でね……。鉄也以外は、それなりに出来るはずよ」  なぜ知っているんだろうか……と思ったが、聞くのは怖いのでスルーする事にした柊。  そして真波と白峰が並んでいる様子を想像する。白峰の方が10cm程低い身長なため、カップルというより、姉弟に見えてしまうだろう。 「柊さんはどうなの?付き合うとしたら誰がいい?」 「あたし?ん〜……」  柊の頭の中に男性陣が浮かび上がる。真っ先に除外されるのは結木。彼はまだ子供だ。次に白峰。表情が変わらないのが少し怖い。その次は成瀬。色んな面から除外される。  残ったのは、一緒に調査へ行ったこともある黒原だ。これといった欠点はサボり癖がある事だが、それは柊自身にも当てはまる事だ。 「黒原さん……かな?」 「理由は?」 「消去法……?」 「ふふっ、なにそれ」  そんな話をしていると、ケーキと飲み物が運ばれてきた。 「なにこれ美味しい!いちごめっちゃ甘い!」 「ほんと、美味しいわね。コーヒーとよく合うわ」 「ね、今度はみんなで来ようよ!」 「時間が合えばね」 二人は雑談に花を咲かせながら、ケーキを楽しむ。ケーキを食べながらも、お喋りは続く。 「楽しいなぁ〜!こうしてお喋りするの久しぶり!」 「そうね。こうして女の子同士で話す機会もないものね」 「あたしたち、仕事では殆ど関わらないよね〜」  柊は情報で、真波は医療。柊も現場へ向かう事はあるが、あまり危険が絡まないので、怪我をして真波の所へ行くこともない。 「そういえば、なんで真波さんは(闇)医者になったの?」 「ん〜、恩返しかな」 「恩返し?」 「この話はまた今度ね」  真波は小さく笑うと、腕時計を確認する。そろそろ日が暮れてくる時間だ。 「そろそろ帰りましょうか」 「えっ、もうそんな時間!?」  柊もスマホを取り出して時間を確認する。時刻は17時に差し掛かっていた。こんな時間まで話していたとは思っておらず、その時間に驚いた。 「話しすぎちゃったね」 「たまにはいんじゃない?こんな日があっても」  真波は鞄と伝票を持って立ち上がり、レジへ向かう。その様子を見た柊も慌てて席を立った。 「あっ、待って!」  慌てて柊が追いかけた頃には、もう会計は終わっていた。 「ちょっ、真波さん!あたしの分は払うよ!」 「気にしないで。誘ってくれたお礼だから」  優しく微笑まれた柊は、これ以上何も言えず、大人しく奢ってもらうことにした。  帰り道もお喋りに花を咲かせる。おすすめのお菓子だったり、使ってる化粧品の事だったり、ガールズトークが盛り上がった。 「じゃ、私はこっちだから」 「あたしはあっち」 「また誘ってね。また明日」 「うん!またね!」  小さく手を振る真波に対し、柊は大きく手を振った。小さくなっていく真波の後ろ姿を見送った柊はふと、カフェでの会話を思い出す。 「(それにしても、恩返しってなんなんだろう……)」  また今度と言われてしまったが、その時には話してくれるのか。そんな事を考えながら、柊は自宅へと向かった。
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