南江行瀬 / 第6話

休日

 依頼がなく、珍しく暇なカプリス事務所。  成瀬は煙草を嗜み、黒原と柊は対戦ゲームで遊び、真波は結木に勉強を教えている。そんな中、白峰は一人黙々と事務作業をしていた。 「お前って本当マジメだよなぁ」 「依頼はなくても雑務はありますからね。それより、禁煙宣言はどうしたんですか」 「あっ」  白峰に横目で見られた成瀬は、まだ長い煙草を灰皿に押し付けた。手持ち無沙汰になった成瀬は、頬杖をついて白峰を眺める。 「なあ」 「なんですか?」 「お前って休みの日とか何してんの?」 「特に何も」 「趣味とかねぇの?」 「走ることですかね」  続かない会話。一つため息をこぼした成瀬は、結木の元へ移動する。白峰と共に暮らす結木なら、何か知っているかもしれないと思ってのことだ。 「奏斗、白峰って休みの日何してんの?」 「え、さあ?気づいたら居なくなってるので分かんないです」 「毎回か?」 「週一くらいのペースですかね。朝は居るんですけど、いつの間にか居なくなってて、夜には帰ってきますよ」 「あの子って不思議なところあるわよね」  結木も真波も知らないようで、余計に気になってきた成瀬。そんな会話を聞いていた黒原と柊も、成瀬の元に集まってきた。 「テツさんたちって、奏斗より前から白峰と一緒にいるんすよね? それでも知らないんすか?」 「昔は今よりも自我がなかったのよ。殆ど鉄也と一緒に行動してたし」 「俺の指示がないと何もしなかったんだぜ」 「へぇ〜、そんな時期があったんだ」  柊がそう言って白峰に視線を向ける。変わらず事務作業をしている白峰は、こちらを全く見ようとしていない。 「でも、休みの日は何してるのか知らないのよ」 「あいつ、休日だけは勝手に居なくなってたんだ」  その言葉に黒原達三人は不思議そうに首を傾げる。自我がなかったのに、何故休日だけ勝手に居なくなっていたのかと、同じ疑問を抱く。 「……次の休日、尾行するか」 「誰がっすか?」 「そりゃあ全員でだろ」 ─── ── ─  休日の朝。白峰と結木が住むマンションの近くに集まった成瀬達。物陰に隠れている四人は、結木からの連絡を待っていた。 「てか、なんで四人で尾行するんすか」 「そうだよ!絶対バレるって!」 「練習みたいなもんだ。依頼で誰かを尾行することだってあるんだからな」 「それはそうっすけど……」 「あ、奏斗くんから連絡来たわよ」  結木からのメッセージ。白峰が出かけた旨が書かれている。  息を潜めて待っていると、マンションの出入口から白峰が出てくるのを確認できた。 「よし、行くぞ」  見失わない距離を保ちつつ、気付かれないように白峰の後をつける。白峰の服装はラフなもので、いつもスーツを着ているところしか見ていない四人にとっては新鮮なものだった。 「なんか新鮮っすね。白峰があんな格好してんの」 「いつもスーツだもんな」 「私服だと余計幼く見えるね」 「それ、優に言ったら怒られるわよ」  白峰は四人に気付いていないのか、そのまま歩いていく。どこへ行くのかと思っていれば、会員制ジムに入っていった。 「これ、しばらく出てこないんじゃないんすか?」 「だな。待つか」  入口近くで待つ訳にもいかず、四人は近くの公園で白峰が出てくるのを待つことにする。まるで張り込みをしている刑事の如く、あんぱんと牛乳を両手にジムの入口を凝視している。 「なにこれ」 「テツさんの悪ノリだろ」 「鉄也ってこういうノリ好きよね〜」 「いいだろ別に」  張り込みを始めて一時間後。心なしかスッキリした顔で白峰がジムから出てきた。そしてその足でまたどこかへ向かうようだ。 「行くぞ」  四人はまた白峰の後をつける。白峰が次に向かったのは駅。見失わないように後をつけていけば、迷う様子もなく改札を通って行った。 「何か用事でもあるのかな?」  白峰は階段を上り、駅のホームまでやってきた。やがて電車が入って来るとそれに乗った。四人も見失わない距離を保ったまま、同じ電車に乗り込んだ。そこそこ混んでいるお陰で、白峰には気付かれていないだろう。 ─── ── ─  電車で五つ目の駅で降りた白峰は、迷う様子もなく足を進める。 「……なんか、急に田舎になったな」  駅を出れば、先ほどまでいた街とはまるで違う景色が広がっていた。人通りも少なく、少し道を外れれば山道へ続いている。 「あれ、ここって……」 「テツさん、来たことあるの?」 「いや、どうだっけか……」  見覚えがあるのか、成瀬は思い出そうと唸るが、そうしている間にも、白峰は先へ進んで行く。向かっているのは山の中。この先に何があるのか誰も分からない。  しばらく山道を進んで行った所で、白峰が立ち止まる。 「あの、いつまで着いてくるつもりですか?」 「「「「!?」」」」  呆れたように白峰が振り返った。驚いた四人は誤魔化そうとするが、さすがにこの状況では言い訳も効かない。 「い、いつから気付いてたんだ?」 「マンションを出たあたりからですね」 「早くない!?」 「奏斗の様子がおかしかったので」 「そこかよ!!」 「あらあら」  気付かれていたということに気落ちする四人。白峰は小さくため息を吐く。 「そんなに気になるなら着いてきてください」  山道をまた歩き出す白峰。その後ろを四人がついて行く。奥へと進んでいくにつれて、草木が生い茂る道へと変わっていく。 「まだ進むのか?」 「もう少しです」  腰ほどまで伸びている草をかき分けながら進んで行くと、少し開けた場所に出た。  そこにはボロボロの家屋が建っていた。 「あ、思い出した。ここ、俺が白峰と初めて会った場所だ」  白峰はその言葉には答えず、その家屋の中へ入っていく。それに続いて中へ入ってみると、中は蜘蛛の巣が張られ、家具も家電も全てが使い物にならない程に壊れている。今はとても人が住めるような環境ではない。 「ここは?」 「子どもの頃住んでた場所です」  一瞬、白峰の表情が曇ったが、すぐに元の表情に戻る。その表情の変化に気づいたのは、誰もいない。 「鉄也と初めて会った場所らしいけど、優は覚えてる?」 「そうですね。話したりはしなかったですけど、覚えてますよ」 「……そうか」  家の中を見て回る四人は、少しだけ家の内装に違和感を覚える。子供が住んでいたというのに、勉強机やランドセル、写真が全く見当たらない。 「なあ、テツさんと初めて会った場所っつってたけど、その時から一緒にいたんじゃねぇの?」 「違いますよ。その後に色々あったんです。それからですね」 「色々?」 「今話すような事じゃないです」  白峰は一通り家の中を見て回ると、そのまま庭へ出ていく。それについて行くと、そこには小さな墓のようなものが建てられていた。 「お墓?」 「形だけですよ。あの人は僕が死んだと思ってるんで」 「え?」 「さ、帰りましょ」 ─── ── ─  その日の夜、成瀬と真波は事務所に残っていた。 「どう思う?優のこと」 「さあな。あいつの事は昔から分からん」  どかりとソファーに腰掛ける成瀬と、その近くで楽しそうに笑う真波。その手にはアルバムが抱えられている。 「鉄也が優を拾ったのって、───だったわよね」 「ああ、なんだか懐かしいな」  成瀬と白峰が、初めて出会ったのは十二年前。そして十年前、───で成瀬は白峰を拾った。  当時、一緒に暮らしていた真波は、突然子供を拾ってきた成瀬にかなり驚いたものだ。 「白峰があんな所に行ってる理由は知らねぇけど、何かあるんだろうな」 「自発するようにはなったけど、自分の事は何も言わないものね」 「ま、それは俺らにも言えることだけどな」 「ふふっ、それもそうね」  真波はタバコを咥えて火をつける。それを横目で見る成瀬は、つまらなそうに口を尖らせる。 「俺、禁煙中なんだけど」 「あら、私は別に禁煙してないわ」 「そうだけどさぁ、少しは配慮ってもんをさぁ〜」 「禁煙宣言したんなら頑張りなさい」  ふぅ、と煙を吐き出す真波はどこか楽しそうだ。  真波は、成瀬と白峰を一番近くで見ていた。二人の関係性、人となり。それらを一番に理解しているつもりだ。 「いつか、話してくれるといいわね」 「……そうだな」

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