人生平坦道 / 第26話

食べるってどっちの意味で?

 誰が見てもその風貌はサキュバスであることが目に見えて分かった。 「お、お前まさか……シスターにも関わらずサキュバスと通じ合っていたのか……」 「いや、通じ合うってまた大袈裟な……」  悪魔の類、それも性的接触によって生命力や精気を奪い取る悪魔、シスターとは存在そのものが相反するものではないのか……。  ショックを隠し切れない、震えが収まらない……だが確認をしなければならない、旧友の仲であるが故に……真実を知ってしまえば始末さえしなければならない……息を飲み震える唇を動かす。 「セラ……お前、私に黙ってサキュバスの夜宴に参加していたのか?」 「………」  セラは何も答えずに俯いていた。  あぁ何という事だ……。こいつは私にいつも淫乱女だのドM騎士だのと罵っていたくせに自分が一番不埒ではないか。ただ自分の欲望を満たす為にサキュバスなんかにお願いしてまでまぐわろうだなんて……。 「失望したぞセラ。何で私に一言言ってくれなかったんだ……、確かに私は自分の意思で参加するシチュは好きではない……、だがやりようによっては受け身に回ることが……はっ⁉」  セラの心理を理解した、理解してしまった。  これはつまりセラを助けに来た私が代わりを務めるというシチュエーションじゃないか? 友人の為に身代わりになる事等当然だと……悔しいが他に助ける方法が無いから仕方のないことだ……のやつじゃないか。セラ、お前そこまでして……自分の体を犠牲にしてまで私の為に……。  痛みに耐えてよく頑張った! 感動した! 全私が涙した! お前という友人、いや親友、いや盟友に会えて本当に良かったと心から感謝をし、気付けば私は抱き締めていた。  セラは鬱陶しいと言わんばかりの表情を浮かべていたがこれはもはやコイツのデフォルト顔と言ってもいいので気にはしない。 「で私はこれからどうすればいい? いや夜宴への手掛かりはやはり自分で探した方がいいかもな……」 「あんたさっきから本当に何言ってるの?」  いいんだ、いいんだよ……そう思いながらぽんぽんと背中を叩き友情を分かち合う。  その様子を隣でニコニコとサキュバスが微笑んでいた。まさかこのサキュバスも私の為に一役買って出てくれたのだろうか……。  そう考えていると片腕で両胸を持ち上げる様に置き前屈みで私の顔を覗き込む。女ながらも胸の谷間に釘付けになる―負けた。  さすがサキュバスというべきか。自身のプロポーションには自信があったのだがそれでもこのサキュバスには勝てない……そう思わせる程のナイスバディ。 「セラちゃん、もしかしてこの子が前に言ってたアネットちゃん?」 「そ、そうね。ちょ、ちょっとあんたもいい加減離れなさいよ」 「あぁすまないな」  そう言って腕を離す、きつく締め過ぎたか? 心なしかセラの顔が赤くなっていた。スマンスマン。 「私はべルヴィア=ナクターナ。サキュバスクイーンよ、セラちゃんとはまぁ仕事仲間って言った方がいいかな。それよりもアネットちゃん、あなた聞いてた以上に面白くて可愛いわね、食べちゃいたい位」  今何と? サキュバスクイーンって言葉そのものの意味だろうか?  この舌なめずりをしてこちらを見つめている女はサキュバスの長、女王なのか? そんなことよりもっと大事なことを言ってなかったか? ぎゅっとベルディアは私の腕を持ち胸を押し当て耳元で囁く。 「私女の子が好きなの。」 「ひぇええええッ! ルナ、ルナ!」  すぐさまずっと後ろで黙っていたルナを呼び出しベルディアの前に出す。 「私にはそういう趣味は無いからッ! それよりこの子、この子見て! 面白い、可愛い、美味しいの三拍子揃ったマルチアーティファクト、今ならなんと有能ハイオークまで付いてくる」 「「ええッ⁉」」  ちょっとどういうことですか⁉ と2人が私に抗議してきたがええいやかましいッ、と往復ビンタで一蹴する。暴力いいえ愛のムチです。 「うぅ……、どうせなら骨まで余すこと無く食べてください」 「いや食べるってそっちじゃなくてね、この子意味を分かって無いじゃない⁉」 「オデ、コトバ、ワカラナイ」 「これに至っては言葉を分かって無いじゃない⁉」  ぎゃーぎゃー騒いでいると一人のか弱い少女がトレイにティーカップとスコーンを乗せてやってきた。 「紅茶とスコーンをお持ち致しました。部屋にいなかったからどこに行ったのかと……、お姉様この騒ぎは一体?」  ノエル=ヴァルティアがひょっこりと顔を覗かせる。  その姿を見つけたベルディアはすぐさま飛び出し包み込むように抱擁し耳を甘噛みしていた。 「ノエルちゃ~ん♡久しぶりね~、相変わらず可愛いわね~、会いたかったわ~」 「ふぇええ~。ベルディアさん離して下さい~」  じたばたと手を振る様子は見ていて微笑ましく助けに入るか躊躇してしまう……、がセラがベルディアを引き離し要件を急かす。 「はいはい、分かったから……とりあえず今日は何要?」  私が言える立場ではないが結局このサキュバスは何をしに来たのだろうか? 足元にある1基の棺桶が何か関係しているのかとは思うが……。  ベルディアが棺桶を指差しセラに答える。 「この人殺したから生き返らせてくれる?」  刹那―その場の空気が凍り付いた。
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