人生平坦道 / 第27話

サキュバスクイーン

「「ひぃいい!」」  とルナとノエルが二人抱き合いながら近くに置かれている棺桶を見て怯えていた。  死んだ者の魂は普通は時間が経てば浄化され離散する、ただその魂の離散を防ぐ役割となっているのが特殊な聖魔法を施された棺や棺桶である。  死者の埋葬時に祈りを捧げることで肉体の内側から、棺などの中に入れることで肉体の外側から魂の穢れを防ぐ、逆に言うとその両方を行わず放置した死体は瘴気に穢され、肉体と共鳴し死してなお動く地を這う餓鬼《グール》へと変貌する。  魂の離散が済んでいるグールは決して元の姿には戻ることは無く生者の血肉を貪ることだけを目的に動き続ける者と化す。死者蘇生の魔法は誰にも使えるものではなく神の加護を受けている聖職者のみであり、それも一握りに限られる。  治療に関する魔法は魔導書に記されており解析と魔力次第で使えるようにはなるが、魂に結びつく魔法は聖職者にしか使用できず、たとえ魔導書に記し解析を行っても不発に終わる。  神の軌跡とも言われる聖魔法は神による魔法、その神の代行者として聖職者にのみ与えられる特権と言っても差し違えない無い物だろう。  それはそうと、こいつは今何といった? このサキュバスは安易にも殺したから生き返らせろと言ったのか? それは魂の冒涜ではないか?  私とて騎士である以上こいつを野放しにする訳にはいかなかった。理由は知らないが命を奪う行為を軽々しく宣う奴は許せない。  鞘から剣を取り出し構える、辺りに緊張が走りその場にいた全員の身体が固まる。 「貴様今の発言はどういうことだ、言葉の意味次第では切り伏せるぞ」 「あら、私はそのまんまの意味で言ったのだけれど?」  ニコニコと妖艶の笑みを浮かべたままのサキュバスの言葉が終えると同時に動き出す。  地を這うように低姿勢になりながら素早く正面に走り腹部を狙い片手一閃。  ―右腕から薙ぎ払うように放たれた剣戟はバックステップによってかすりさえしなかったが、そのままの勢いを落とさず左足を突き刺すように胴体を蹴り上げる。  サキュバスは四~五メートル吹き飛び壁に激突する寸前の所で蝙蝠に似た羽を出し勢いを緩和した。 「あらあら、中々やるわね、けど私も結構強いわよ?」  瞳孔が大きくなり八重歯がチラリと見えた、すぐさま空中をこちら目がけて一直線に飛び込んでくる。  ヒールを突き刺すように伸ばした左足を剣で払い除けると顔面を捉えた右足が顎を蹴り上げようとした、それに反応し瞬時に沈めるようにして顔を逸らす。  その連撃の刹那を見切りしゃがみ込みながら剣を振り上げようとした瞬間、――ドゴッ! 鈍い音と共に横腹に衝撃が走り背中からステンドグラスまで吹き飛んだ。  ――回し蹴り。  払い除けたはずの左足を開くように回旋させ死角を突かれた。だが次は無様を晒さない。  壁を蹴り上げさらに重力の位置エネルギーを利用し一瞬でサキュバスとの間を詰める。 「ぐッ⁉」  かなりのダメージを確信していたのであろう。  虚を突かれた様に目を見開くサキュバスの左腕を切り落とすように剣を振り下ろす、その剣の側面を左足で瞬時にいなし反撃に転じようとするサキュバスの顔面を左拳が捉えた。 「なッ⁉」  剣を振り下ろすと同時に片手に持ち替えて剣を囮に拳を叩き込む、ただそれだけ。  聖堂内の長椅子を巻き込みながら吹き飛んでいくサキュバスだったがすぐさま受け身を取りこちらに向かってくる。  ――足を振り上げ踵落とし。  その速さと先程の体術で剣では受けきれないと判断、瞬時に剣を手放し横転する。轟音が鳴り響く身をよじった先にクレーターが出来ており剣が破壊されていた。  体勢を崩した私に対し追撃を加える、ムチを叩き込むようにしなやかな脚線が空を切り身体に叩き込まれるもダメージはそこまで無い。  サキュバスも手応えがないことに焦ったのか先程見せてきた死角からの回し蹴りを放つ。その回旋に軸を合わせる様に右拳を腹に叩き込む。  ――グシャッと音がするのと同時にサキュバスの右足の甲が私の顎を捉え自分が吹き飛ぶと同時に蹴り上げた。  ガシャーンとお互いが吹き飛びグランドピアノと女神を象った石像を破壊する。  だがすぐさま立ち上がり再度拳を交える。お互いが引かないインファイトでギリギリの間を保ち拳と蹴りをいなしぶつける。 「ちょっとルナ、あれ止めてきてくれる?」 「無理無理無理。全然見えないですし、何が起きているか全く分かりません!」 「チッ、しゃーないわねぇ」  サキュバスの動きが衰え始めたのを感じる、疲労とダメージがようやく出てきたのか顔も険しくなってきている。  ここで一気に叩き込むッ! 振り払われた脚による一閃をしゃがみ避け顔面が露になった。 「しまッ⁉」  その言葉を聞いた瞬間に固く握った拳を叩き込んだ。はずだった、 「がふっ」  拳が届く瞬間に背後から頭を掴まれ地面に叩きつけられる。  ――ドゴッと音が鳴り床が割れる。そして顔を一度浮かせ顔を覗かせた後もう一度――グシャッと顔を地面に叩きつけた。 「ごばっ。」  セラが加勢したのだというのは分かった。分かったが……最後の一撃いる?  ――決着。互いに動きは止まり激しい戦いの後が残った。 「貴様ッ⁉ サキュバスに味方するなんて……こんの裏切者がぁッ!」  思いを叫び吐露する。激情し顔が熱くなり犬歯をむき出しにし吠えるがセラの顔は冷めていた。 「まぁとりあえず話を聞きなさいな、別にそれからでもいいんじゃね?」  そう言いながら回復魔法を私とサキュバスの2人に掛ける。ルナも駆け寄り回復魔法を重ね掛けした。拳は降ろすが目の前のサキュバスを睨みつけるのは止めなかった。 「あら? 魔法が使えるのね。ありがと~」 「いえいえこれくらいは」  サキュバスはホッとした様子でルナの頭を撫でて感謝の意を伝えている。  ノエルは戦闘が始まってすぐにベオウルフが避難させていたらしい。とりあえず回復が終えるまではそこにいた誰もが口を開かなかった。 「なっ、なんじゃこりゃぁあああ⁉」  この大きな音は何か? と様子を見に来た大司教が戦闘後の残骸を目にして発狂していた。  ――訂正。4人は目を逸らし冷汗を流しながら口を閉じ続けていた。 「ルナッ! まさかまたあなたですか? 今度という今度は村に返しますよ?」 「いやッ私じゃないんですぅ! ちょっと皆さん私じゃないって言って?」 「「「………」」」 「いや何で皆黙ってるんですか⁉ ちょっとぉ、私何もしてないじゃないですかぁ」 「「「………」」」 「やはりあなたでしたか、こっちに来なさい。説教と罰を与えますからね、場合によってはエルフの村に強制退去して貰います」 「いや私本当に何もしてないんですぅ。ちょっと聞いてぇええ!」  別室に連行されていったルナの姿が見えなくなるまで3人で見つめる。ルナは尊い犠牲となったのだ。
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