逸漣 / 第3話

3.ルカは魔物を食べる神

 ルカは夜の帷を降ろしている途中、村の近くに魔物がいることに気づいた。  鹿のような三股に分かれた角が二本、頭を飾り、強さを誇示するように月光に照らされている。  細く長い足が地を蹴り、ルカの腰に向かって角を突き刺そうと突進してきた。    ルカが手を伸ばすと、地面に魔法陣が広がり、魔物の動きを止めた。魔法陣は包み込むように魔物に張り付いていく。縄のように金の光が魔物を締め上げて、ミシミシと骨の砕ける音が響いた。  魔物は大きな悲鳴を上げ、金の光の形に切り刻まれ息絶えた。  魔物の悲鳴は三万ヘルツ。村人には聞こえない高音だ。  ルカの姿も魔物の姿も、人間や動物には見えない。その音だけは、森に棲む一部の動物にも聞こえる。  だから、森の動物はルカの気配を音で感じ、神殿には近づくことはない。近づいてくるのは、ルカの姿が見える「黒猫娘のラー」だけ。    切り刻まれた肉を、真っ白なスカートに載せて神殿へ運んでいく。  今日の獲物はなかなか重い。  魔物の血は滴り、スカートの布地に吸い込まれて、赤色はみるみる消えていく。それすらもルカの栄養になる。  魔物の生命を余すことなく、全て頂く。  その姿を、ラーが見ていた。その金色の目は怯え、いつもの満月ではなく、満ちぬ月のように見えた。    ルカは、あぁ……見られてしまった。こんな怖い神には、もう近づいてこなくなるわよね。……さようなら、ラー。  ラーの姿を横目で見送り、神殿へ歩いた。  でも……一応、ポトリ、ポトリと肉の欠片を落としていく。  ラーは……魔物は食べられるのかしら。  魔物の肉の匂いを嗅ぎ、手でツンツンするラー。その爪をひと舐めすると、キラキラと目を輝かせた。  口に合ったみたいね……。ルカはニヤリと口角を上げた。    少し大きめの肉も落としながら、神殿に入る。祭壇に盛るとラーはすぐそこまで来ていた。 「ラー……私が怖くないの?」  ラーの目は怯えている。しかし余程魔物の肉は美味しかったようで、初めて祭壇に手を置いた。 「持っていってもいいわ。子猫は……食べられるのかしら」  ラーも少し考えて、子猫に持っていくのは止め、その場で肉を食べだした。 「ラー、美味しい?」  ラーは返事もせずに、無心に齧りついている。骨を足で押さえて、噛み付いた肉を引っ張る。 「凄い、全身で食べているみたい」  ルカもひとつ手に取り、真っ赤な血の溢れる生肉を齧る。体内にみなぎる魔力と鉄分。 「美味しい……」  お供え物の鶏肉は血抜きがされていて、この生命力はない。お供え物はありがたいけれど、やはり魔物を食べると翌日の髪も肌も艶が違う気がする。  村も魔物に襲われないので、ルカは村の為にひと仕事したという満足感もあり、更に魔物の味を上質に感じさせていた。 「また……一緒に食べて、ラー。私、少食なの」  ラーは肉を咥えたまま、こくんと頷いた。  ラーは満腹になると、祭壇の端で丸くなって眠った。ルカのドレスで血を拭いてやると、ラーの顔や手足の赤が消えていった。一滴の血も無駄にしないルカ。  ラーは、ルカが毛繕いをしたのだと思い、ドレスの裾を持つ手に頭を擦り付けた。 「……………………!あぁ!ちょっと、スリスリなの!え?」  ルカは気のせいではないか、袖でラーを撫でてみた。ラーはコロンと腹を撫でろとばかりに寝転がった。 「ちょっ……!か、可愛い!……わぁぁぁ」  ルカはどうしたらラーが喜ぶのか、髪を撫で、耳の後ろを撫で、顎の下を撫で…… 「お腹、ぽっこりお腹……触っていいのぉ?キャー!」  そっと、腹を撫でてみると、ラーはルカの手を掴み、足で蹴りまくってくる。 「痛い痛い痛い!……気持ちよさそうだったのに、何ー?」  初めてラーに触れたルカ。  なんで触らせてくれたのか、攻撃されたのかはわからない。しかし逃げなかった。  傷ついた手もみるみる治っていく。  魔物の肉は良く効くわ……ラーも元気になっちゃったのかな?  ラーは……面白いわ。またなでなでしたいな。ルカのことをラーは満ちぬ月のような怯えた目で見るけれど、少しは認められたのかしら?  ルカは台座にもたれながら、ラーを遠目に見つめ、微笑んでいた。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳