Zeφyr(ゼファー) / 第6話

5、視線

【【5、視線】】  ——その夜。  シャワーを終え、濡れたプラチナブロンドの髪をタオルで拭いながら、蒼はアパートのベッドの端にゆっくりと腰掛けた。  机の上に置かれたスマートフォンが、静まり返った部屋の静寂を破る。  バイブレーションの重い振動。また一つ、通知音。  昼間の大騒動から引きも切らず続いていたDMの勢いは、夜になっても完全に収まる気配を見せていなかった。 『今日の話ほんと?』 『高橋くんと付き合ってるの?』 『一ノ瀬くん、よかったら一度話してみたい!』 「……まだ、来てる……」  蒼は細いフレームの眼鏡の奥でアイスブルーの瞳を曇らせ、深く溜め息をついた。  ——『知らない奴全員に気を遣うな。なんなら無視しろ』  遥陽が言ってくれた力強い言葉が脳裏をよぎる。蒼は既読をつけないよう注意しながら、アプリを閉じようとした。  その瞬間。  新しいDMの通知がポップする。  デフォルトの初期アイコン。投稿ゼロ。フォロワーもごくわずか。 『蒼くん』 「…………?」  見知らぬ相手からの、突然の呼びかけ。ざわりと、胸の奥で嫌な予感がした。  そして、一枚の画像が送られてきた。 「…………え」  画像をタップした瞬間、蒼の指先がピタリと止まった。  スマホに映し出されていたのは——今日の自分だ。 大学の正門を出て、駅へと続く夕暮れの道。 隣には遥陽。二人は指先を絡ませ合い、手を取り合って歩いている。  離れた場所から二人を盗撮したような写真だった。 「…………っ」  背筋を氷で撫で上げられたような寒気が走る。 いつ? どこから? 自分も遥陽も、誰かに見られている気配など一切気づかなかった。  間髪入れずに、新たなメッセージが届く。 『高橋くんを選んだんだね』 「……っ!」 『でも、あの人は蒼くんに似合わないと思う』  そして——。 『ずっと見てたからわかるよ』  蒼の顔から、血の気が引いていった。  ——ずっと……?  昼間の噂を聞きつけて、面白半分で突撃してきた野次馬の学生たちとは明らかに違う。もっと執拗で、まとわりつくような悪意の感覚があった。  その時、手の中でスマホが激しく震えた。今度はLINE——遥陽からだ。 『ちゃんと帰ったか?』  いつもの気遣いに満ちたメッセージ。蒼は一瞬、返信をためらった。 せっかく告白されて、互いの気持ちを確かめ始めたばかりなのだ。余計な心配をかけたくない。せっかく動き始めた二人の関係に、不安を持ち込みたくなかった。  ——けれど。 『なんなら無視していい』 『お前自身が本当はどうしたいのかを後回しにするのは違うと思うぞ』  遥陽の言葉が、蒼の背中をそっと押した。 これは一人で抱え込まない方がいい。遥陽に甘えてもいいはずだ。  蒼は震える指でDM画面のスクリーンショットを撮影すると、それをそのまま遥陽のトーク画面へと送信した。 『これ、さっき来た』  画面の『既読』の文字。  一秒。  二秒。  三秒。  ——着信音。 「…………っ」  画面には『遥陽』の文字。蒼はすぐさま通話ボタンをタップした。 「もしもし……っ」 『蒼』  スピーカーから聞こえてきたのは、いつもの明るい遥陽の声ではなかった。低く重く、緊迫した声。 『今、どこだ?』 「家……自分の部屋」 『一人か?』 「うん、一人」 『玄関と窓の鍵、ちゃんとかかってるか?』 「……たぶん、かかってると思う」 『今すぐ確認して』 「遥陽——」 『頼むから、確認してくれ』  一切の冗談を許さないかのような遥陽の低い声に、蒼は立ち上がり、ワンルームの狭い玄関へ向かい二重ロックを確認した。さらにベランダの窓の鍵もしっかりと施錠されていることを確かめる。 「……鍵、全部かかってる。大丈夫」 『……よし』  電話の向こうで、遥陽が小さく安堵の息を吐く気配がした。 『そのDM、絶対返信するなよ』 「うん……絶対しない」 『ブロックもまだするな。スクリーンショット、アカウント名も全部残しておいてくれ』 「……わかった」  重苦しい沈黙が、スマホ越しに流れた。 『……蒼』 「なに……?」 『これ、今日の大学の噂に便乗した奴の嫌がらせとは、次元が違うと思う』  遥陽も、同じ異様さに気づいていた。 『「ずっと見てた」ってのが本当なら……今日明日で始まった話じゃねえぞ』 「…………」 『写真もそうだ』  遥陽の声が、さらに一段と低く沈み込む。 『俺たちが手を繋いだのは、大学の敷地を出て、裏道の商店街を抜けたあたりからだろ』 「うん……」 『ってことは、少なくとも大学の講義棟を出た瞬間からあそこまで……誰かがずっと俺たちの後ろをつけてたってことだ』  蒼は無意識に、自分の華奢な身体を強く抱きしめた。  ほんの数時間前までは、『好き』とは何なのか、自分が誰を選ぶのか、遥陽か、悠真か、それとも桜井か——そんな恋愛の悩みの中にいた。  けれど、これは違う。恋愛などとはまるで別の次元にある、明確な恐怖だった。 『……怖いか?』  スマホの向こうから、気遣うような遥陽の声。 「…………ちょっと、怖い……」  素直に漏らした本音に、遥陽が深く息を吐き出す。 『わかった』  ゴソゴソと服が擦れる音と、アパートの鍵を掴むような金属音が響く。 「遥陽……?」 『今から、蒼んち行く』 「え!? でも、もう夜遅いし……!」 『蒼』  蒼の言葉を遮るように名前を呼ばれた。強引だが、そこには包み込むような温かさと優しさが宿っていた。 『こんな時まで俺に気遣ったりすんな。俺が行きたいから行くんだ』 「…………」  その真っ直ぐな言葉に、蒼はそれ以上なにも言えなくなった。 『あと、この件は明日大学の学生課にも相談する。状況によっては警察にも連絡するからな。絶対俺たちだけで相手を探そうとするなよ』 「……うん。わかった」 『着くまでずっと電話繋いでおくから。スピーカーにして置いておけ』 「遥陽」 『ん?』 「……ありがと……」  スマホの向こうで一瞬、息を呑む気配がした。そして——。 『当たり前だろ』  少しだけ、いつもの遥陽らしい呆れたような、けれど愛おしさに満ちた声が戻ってきた。 『大好きな奴が怯えてんのに、放っておけるわけねえだろ』 「…………」  恐怖で強張っていた身体から、少しだけ力が抜けていく。遥陽がいてくれる。それだけで、張り詰めていた恐怖が少しだけ遠のく気がした。  ——だが、その安堵を塗り潰すように。  ピコン。  蒼の手の中で、再びスマホが重く跳ね上がった。  例のアカウントから、新たな画像が立て続けに送られてきた。 「…………え」 『蒼? どうした!?』  遥陽の鋭い声が飛ぶ。蒼は震える手で、送られてきた画像を次々と開いていった。  今度の画像は——今日のものではなかった。  一枚目。大学の図書館前を一人で歩いている蒼。  二枚目。駅のホームで電車を待っている蒼。  そして——三枚目。 「…………っ」  画面に映っていたのは、高校の制服を着て、桜並木の下を歩く自分の姿だった。 「……遥陽……っ」  喉が固まり、掠れた声しか出ない。 『どうした、何が送られてきた!?』 「また……写真が……」 『何の写真だ!?』 「昔の……僕の写真……」 『……どれくらい昔のだ』  蒼は、最後の一枚——まだ少し幼さの残る、高校時代の自分の写真を凝視したまま呟いた。 「…………高校の……制服……着てる……」  電話の向こうで、遥陽が言葉を失った。  数秒の、恐ろしいほどの静寂。そして——。 『……全部、スクショして保存しろ』  受話器から聞こえてきたのは、これまで一度も聞いたことがないほど鋭く緊迫した遥陽の声だった。 『蒼。これ、マジで俺たちだけで解決できるような生ぬるい話じゃねえ』  ——約七分後。  スマートフォン越しに、遥陽の少し荒い息遣いが響いた。 『今、アパートの前に着いた』  その言葉とほとんど同時に、玄関のインターホンがピンポンと電子音を鳴らした。  蒼は素早く立ち上がり、モニターの液晶画面を凝視する。画面に映っていたのは、前髪を少し乱し、肩を上下させながら息を整えている遥陽の姿だった。 「……今、開ける」  通話を切り、蒼は静かに玄関へと向かった。 ドアノブに手をかけつつも、先ほど遥陽に言われた注意を守り、ドアチェーンをかけたまま慎重に扉を数センチだけ開く。 「蒼」  隙間から覗く、いつもの見慣れたはずの顔。だが、その瞳には焦燥と蒼を案じる深い熱が宿っていた。その顔を確かめて、蒼はすっと息を吐き出すとチェーンを外した。  扉を押し開け、遥陽が滑り込むように室内へ入ってくる。 「鍵」 「え?」 「先に鍵、閉めろ」 「あ……うん!」  蒼は慌てて鍵を回し、サムターンを固くロックした。  カチャリ、と無機質な金属音が静かな玄関に響く。その瞬間、さっきまでスマホ越しにしか感じられなかった遥陽が、本当に目の前にいるのだと蒼は強く実感した。 「…………」  無意識だった。遥陽を見て感じた安心感と、溢れ出してきた恐怖で、蒼の細い指先が遥陽の服の裾をぎゅっと掴んだ。 「……蒼?」  遥陽が低く問いかけ、蒼はハッと正気に戻る。自分でも気づかないうちに遥陽を頼っていたことに気づき、慌てて手を離そうとした。 「ごめ——っ」  だが、離れかけた蒼の手の上に、遥陽の大きくて温かい手が重なった。 「いい」 「…………」 「そのままでいい。離すな」  遥陽がゆっくりと視線を落とし、蒼の顔をじっと覗き込む。 電話口ではいつも通り冷静に喋っていた蒼。けれど、こうして直接対峙すれば遥陽には簡単にわかった。 細い肩は微かに震え、アイスブルーの瞳は不安に揺れている。本当は恐くてたまらなかったのだ。 「……蒼」 「ん……?」  遥陽の瞳が一瞬だけ葛藤に揺れた。 本当なら、今すぐにでもこの華奢な身体を抱きしめて安心させてやりたい。 だが、二人は昨日までただの『親友』だったのだ。いくら想いを伝えたからといって、蒼の意思を無視して勝手に触れていいわけがない。 「……抱きしめても、いいか?」  蒼は一瞬、アイスブルーの瞳を大きく瞬かせた。遥陽は急かすことなく、ただ静かに蒼の答えを待つ。 「…………うん」  小さいけれど、確かな返事だった。 それを受け取った瞬間、遥陽の腕がゆっくりと蒼の華奢な背中へと回された。 「…………」  力を入れすぎない、壊れ物を扱うような抱擁。蒼が少しでも嫌がれば、すぐに身を引ける——そんな遥陽の優しさが伝わる抱き方だった。蒼は抵抗することなく、遥陽の熱い胸元にそっと額を預けた。 「……怖かったな」  耳元に降ってくる低く優しい声。その言葉が胸に染み渡った瞬間、蒼の両手がぎゅっと遥陽の服を握りしめた。 「…………うん……っ」 「ごめん。もっと早く走って来れたらよかった」 「……謝らないで……遥陽、早かったよ……」 「うん」  遥陽は愛おしそうに、蒼のプラチナブロンドの髪と背中を一度だけ優しく撫で上げた。 「でも……飛んできてよかった」  蒼はそれ以上何も言わなかった。 ただ、自分から離れようともしなかった。遥陽もまた、蒼が落ち着くまでそのままずっと抱きしめ続けた。  しばらくして、胸元から掠れた声が零れる。 「……遥陽」 「ん?」 「もう少し……このままでいさせて……」 「…………」  遥陽はそっと目を閉じた。 もしこんな異常な状況でなければ、六年間片思いしてきた相手からそんなふうに甘えられたら、遥陽はまともではいられなかっただろう。けれど、今は違う。今の遥陽にとって、蒼を安心させることが何よりも優先だった。 「ああ」  身体を抱く腕に、ほんの少しだけ力を込める。 「蒼が良いって言うまで、ずっとこうしてる」  数分後。蒼が落ち着くのを待って、二人はリビングのソファへ移動した。 ローテーブルに置かれたスマホを、遥陽が示す。 「……写真、見せてくれ」  蒼はアプリのDM画面を開いた。  一枚目の画像。今日の夕方、二人が指を絡ませて歩いている後ろ姿。  二枚目。 大学の構内を一人で歩く蒼。  三枚目。 駅のホームで電車を待つ蒼。  そして——最後の一枚。高校時代の写真。  スクロールするたび、遥陽の表情から笑みが消え、鋭い警戒心だけが残っていく。 「…………これ」 「なに……?」  遥陽がスマホを蒼の手から受け取り、画面を拡大した。 「この写真……」  高校の校門近く、桜の木陰から撮られた制服の蒼。 「これ……高二の春じゃねえか?」 「え? そこまで見てわかるの……?」 「ネクタイ」 「そんなので……?」 「わかるさ。俺が蒼のこと何年見てると思ってんだ」  遥陽は迷いなく断言した。 「二年の最初の頃だけ、一年の時と同じ結び方してただろ」  六年間、誰よりも近くで蒼を見てきた遥陽だからこその、驚くほど正確な記憶だった。  遥陽の眉間に、深い皺が刻まれる。記憶の糸を手繰り寄せるように、固く目をつむった。 「遥陽……?」 「いや……待てよ……」  高校二年。蒼と一緒に過ごした日々。記憶の断片が噛み合っていく。 「……いた」 「え?」  遥陽がパッと目を開けた。 「一人、心当たりがいる」 「誰……!?」 「名前……何だっけな……」  遥陽は唸りながら記憶の底を掘り返す。 「確か、同じ学年の奴だ」 「同じクラス?」 「いや、違う。クラスは別だった」  遥陽はスマホの写真をもう一度睨みつけた。 「でも、よく見かけたんだ。……蒼の近くで」 「僕の……近く?」 「ああ」  遥陽の声が、氷のように冷たく低くなる。 「当時は全然気にしてなかった。蒼は目立つし、ハーフで綺麗だから他のクラスの奴が見に来るなんて日常茶飯事だったからな」  だが、ストーカーという可能性を念頭に置いて記憶を反芻すると、違和感だらけだった。 「昼休み、俺たちが購買に行く時」 「うん……」 「移動教室で廊下を渡る時」 「……うん」 「放課後、昇降口で靴を履き替える時」  点と点が、一つの不気味な線になって繋がっていく。 「……あと」 「なに……?」 「俺、一回そいつと直接話したことがある」 「え……っ!?」 「高二の文化祭の時だ」  遥陽の顔から、完全に余裕や笑みが消え去っていた。 「そいつに、急に話しかけられたんだ」  ——『一ノ瀬って、付き合ってる相手いんの?』  当時は、よくある『蒼に興味を持った男子生徒の世間話』だとタカをくくっていた。 「俺は『知らねえけど、多分いねえんじゃね?』って答えた」 「…………」 「そしたら、そいつ……次にこう聞いてきたんだ」  遥陽が蒼のアイスブルーの瞳をまっすぐに見つめ返す。  ——『高橋ってさ、一ノ瀬と付き合ってんの?』 「…………っ!」 「俺は笑って否定した。『まさか、ただの親友だよ』って」  そして、遥陽の脳裏に、その時の相手の表情が鮮明に蘇ってきた。 「……その時」 「うん……」 「俺が否定した瞬間……そいつ、妙に満足そうに笑ったんだよ」  親友だと聞いて、どこか安心したような、ねっとりとした笑み。 「…………」  蒼の顔から血の気が引き、唇が震える。遥陽は蒼の不安を察し、すぐに強い声で遮った。 「でも!」 「?」 「まだ決めつけるのは早い」  毅然とした口調で言い聞かせる。 「写真を見て昔の記憶を思い出しただけだ。そいつがこのDMを送ってきたっていう証拠は何もない」 「……うん」 「明日、大学の学生課と警察に相談する。写真が高校時代から続いてる可能性があることも全部伝える」  遥陽はスマホを蒼の手元へとそっと戻した。 「俺たちだけで直接犯人を探したりするのは絶対ナシだ」 「わかった……」 「名前がわかっても、連絡も絶対にしない」 「うん……」  それでも、言い知れぬ不安に苛まれた蒼は、思い切って尋ねた。 「……遥陽」 「ん?」 「その人の名前……本当に覚えてないの?」 「…………」  遥陽は口を閉ざし、一瞬だけ重い沈黙が流れた。やがて、苦々しそうに息を吐き出す。 「……名字だけなら」 「なんて言うの……?」  遥陽が記憶の底から、名前を引きずり出した。 「……《《東| あずま》》」  ——その瞬間。  ピコン。  静まり返った部屋の中に、通知音が響いた。  二人の動きがピタリと止まる。  蒼の手の中で、スマートフォンの画面が光っていた。 例の初期アイコンのアカウントからの、新しいメッセージ。  画面に表示された文字を見た瞬間、二人の身体が震えた。 【【『遥陽くん、来たんだ』】】 「…………っ!?」  遥陽の顔から、一瞬で血の気が引いた。  これまでの写真やメッセージとは、意味がまるで違う。蒼のアパートに遥陽がやって来た事を——相手はリアルタイムで把握している。  遥陽は反射的に立ち上がった。 「蒼!」  窓の方へ不用意に近付くのを防ぐように、蒼の華奢な肩を掴んで奥の壁側へと引き寄せる。 「カーテンは絶対開けるな。外を覗こうともするなよ!」  遥陽自身も窓から見えにくい位置へ身体を移した。 「今のメッセージもすぐスクショだ……!」  もはや『昔の知り合いかもしれない』という過去の思い出話では済まされない。 正体不明の『誰か』は——今この瞬間も、夜の闇のどこかから、二人の様子をじっと見つめているのだ。 『遥陽くん、来たんだ』 余りにも不気味なそのメッセージを前に、遥陽が口を開く。 「……東の名前、ちゃんと思い出したい」 「調べるの……?」 「本人に突撃したり連絡したりは絶対しねえ。高校の時のグループLINE、遡って調べるだけだ」  蒼が静かに頷くのを確認し、遥陽は高校時代のクラスグループLINEのメンバー一覧を開く。 「あ……」  遥陽の指がピタリと止まった。 「いた……」 「誰……?」  遥陽はスマホの画面を蒼の方へと向けた。 そこに表示されていた名前は——『《《東| あずま》》《《恭| きょう》》《《介| すけ》》』。 「多分、こいつだ」 「……僕、全然覚えてない……」 「だろうな。俺だってほとんど喋ったことねえよ」  遥陽はそのまま東のプロフィール画面を開く。 アイコン画像は高校時代のままで更新された形跡もなく、タイムラインにも何も投稿されていない。 「あ……確かこいつ、東と仲が良かった奴だ……」  遥陽はすぐに別の同級生のページから、メッセージを打ち込んだ。 『急に悪い。東恭介って今どこで何してるか知ってるか?』  数分後、スマートフォンの通知が鳴る。 『東? 懐かしw』  続けてメッセージが届いた。 『確かあいつ、高校卒業してすぐ海外行ったぞ』  遥陽の眉間に、深い皺が寄る。 『海外?』 『うん。親の仕事の都合だか何だかで。大学も向こうの大学行ったって聞いた』 「…………」  蒼も遥陽の隣で画面を覗き込み、眉をひそめた。 「海外……」 「これが本当なら……」  遥陽は腕を組み、深く考え込む。 「今、蒼を盗撮してDM送ってきてる奴が東だという線は薄くなる」 「でも、高校の時の写真は……?」 「東本人が昔撮った写真が、何らかの経緯で別の誰かの手に渡った可能性もある。……そもそも、俺の記憶違いって可能性もゼロじゃねえ」  遥陽は自分自身に言い聞かせるように、言葉を続けた。 「だから、まだ決めつけない」 「……うん」 「明日、大学の相談窓口にこの写真と状況を全部見せよう」  そう言った直後——ピコン、とまたスマホから音がした。  二人とも反射的に身体を強張らせ、スマホを見つめる。しかし、遥陽が素早く蒼のスマホを取り上げた。 「……もう見なくていい」 「でも、証拠を残さないと——」 「通知が来た時刻だけ残れば十分だ。今夜はこれ以上、画面を開かねえ」  遥陽は真剣な眼差しで蒼を見つめ返した。 「今のお前が、こんな不気味なメッセージをいちいち確認し続ける必要なんてねえよ」 「…………」  蒼は小さく息を吐き出し、遥陽はスマホをテーブルの上に伏せた。  深夜零時を過ぎた頃、二人は届いたメッセージのスクリーンショット、添付された写真、受信時刻などを整理した。 高校時代から現在に至るまで、わかる範囲の出来事を時系列順にまとめる。  明日、大学へ相談すること。必要であれば警察へも届け出ること。自分たちだけで犯人を探そうとしないこと。東にも絶対に連絡を取らないこと。  そこまで徹底して方針を決めると、遥陽は大きく息を吐き出した。 「……よし、今日はもう終わり!」  遥陽がスマホをローテーブルの端へ置く。 「これ以上、考えるの禁止」 「でも……」 「蒼」 「…………」 「明日の朝、また二人で考えよう」  遥陽はソファの背もたれにどさっと背中を預けた。 「今日は俺、ここに残るから」 「……泊まっていくの?」 「お前が帰れって言っても絶対帰らねえよ」 「強引だなあ……」 「こういう異常な事件の日は強引でいいの」  遥陽は少し意地悪く、けれど安心させるように笑ってみせた。 「俺はこのソファで寝るからさ。蒼はちゃんとベッドで——」 「……嫌だ」 「え?」  遥陽が驚いたように蒼を見る。蒼自身も、遥陽の言葉を遮って飛び出した言葉に少し驚いたように目を丸くしていた。 「…………」 「蒼……?」 「……一人で寝るの……今日は、嫌だ……」  消え入りそうな声だった。その言葉を聞いて、遥陽の表情から冗談めかした笑みが消えた。 「……そっか」 「だから……」  蒼は目の前のソファへと視線を落とす。 「僕も、ここにいる」 「ソファで寝たら身体痛くなるぞ?」 「遥陽だってそうでしょ」 「俺はタフだからいいんだよ」 「僕だっていいよ」 「…………」  遥陽はしばらくの間、まっすぐ自分を見つめてくる蒼のアイスブルーの瞳を見つめ返していたが、やがて降参したように柔らかく微笑んだ。 「わかったよ」  部屋の照明を落とし、テレビの電源を切る。カーテンは隙間なく閉め切ったままだ。  静まり返った暗闇の中、ソファに二人並んで腰かける。最初は少しだけ互いの間に距離を空けて座っていた。 「…………」 「…………」  暗闇の中で静寂が広がると、どうしても先ほどの不気味な出来事が頭をよぎってしまう。蒼はテーブルに伏せられたスマホに目をやった。 「……遥陽」 「ん?」 「もう少し……そっち行ってもいい……?」 「…………」  遥陽が小さく息を呑む気配がした。 「……もちろん」  蒼はそっと身体を寄せた。互いの肩が触れ合う。 「これくらい……?」 「……もう少し寄っても大丈夫だぞ」 「…………うん」  遥陽の声が微妙に裏返っているのを聞き逃さず、蒼はさらに身体を寄せた。 肩だけでなく、腕や太ももまでぴったりと触れ合う。蒼は安堵から全身の力を抜くように、少しずつ遥陽の身体へもたれかかった。遥陽が蒼を軽く抱き寄せているような距離。 「…………」  遥陽は暗い天井を見上げ、心の中で(落ち着け俺……!)と必死に唱えていた。 昨日告白したばかりの、六年間ずっと片思いしてきた大好きな相手。 その相手から、こんなにも無防備に体温を寄せられているのだ。 普通なら心臓が破裂しそうなくらい動揺するところだったが——今日はそれ以上に、蒼が自分を信頼し、安心できる相手として頼ってくれていることが、たまらなく嬉しく、愛おしかった。 「……蒼」 「ん……?」 「寒くないか?」 「大丈夫……」 「毛布、もっとかけるか?」 「このままでいい……遥陽、暖かい」 「…………そっか」  しばらくして、蒼のプラチナブロンドの頭がすっと遥陽の肩へと乗せられた。遥陽は息を潜めて固まる。 「遥陽」 「……ん?」 「……今日の帰り、遥陽を選んで本当によかった」 「…………」 「もし……一緒に帰ってなかったら……今頃僕、一人で……」  そこまで言って蒼は言葉を詰まらせた。  遥陽は何も言わず、ただ自分の大きな手を蒼の前にそっと差し出した。 「……手」 「え……?」 「繋ぐか?」  蒼はその手を迷わず繋いだ。 指と指が静かに絡み合い、固く結ばれる。 昨日のデートで繋いだ時のような甘い高揚とは違う。『自分は今、一人ではない』と確かめるための、切実な触れ合いだった。 「…………」  蒼の指先にキュッと力が入る。遥陽もまた、壊れ物を包み込むような優しさで強く握り返した。 「俺はここにいるから」 「うん……」 「今日はずっと、お前の隣にいる」 「……うん」  時間の経過とともに、蒼の身体からじんわりと力が抜けていく。やがて遥陽もソファの背もたれへ深く沈み込み、二人で大きめの毛布を被った。  二人で寝るには少し狭いソファ。自然に身体と身体が触れ合い、互いの体温が伝わってくる。けれど今夜は、その狭さと距離が何よりも心地よかった。 「……遥陽」 「ん?」 「もう寝た……?」 「まだ起きてる」 「僕も……」 「知ってるよ」 「なんで……?」 「こうやって喋ってるからだろ」 「……あ、そっか」 「ふっ……なんだそれ」  遥陽の喉から小さな笑い声が漏れた。  しばらくの静寂ののち。 「蒼」 「なに……?」 「明日起きたら」 「うん」 「ちゃんと大学と警察に相談しに行こうな」 「……うん」 「二人で」  蒼は遥陽の肩に頭を寄せたまま、深く頷いた。 「わかった……」  やがて会話は途切れ、静かな息遣いだけが部屋に満ちていく。絡めた指先は、解かれることはなかった。  高校の入学式から六年。遥陽が壊さないよう大切に守り続けてきた、『親友』としての距離。今夜——恐怖の中で遥陽を求めた蒼の方から、その距離を静かに踏み越えていた。二人は互いの体温を感じ合いながら、深い眠りへと落ちていった。  翌朝。  眩しい朝光がカーテンの隙間から差し込む中、先に目を覚ましたのは遥陽だった。 「…………」  目を開けた瞬間、視界に飛び込んできた光景に遥陽は息を呑んだ。  目の前には、自分の胸元へすっかり身体を預け、スースーと規則正しい寝息を立てている蒼の姿。さらりとしたプラチナブロンドの髪が遥陽の首元に触れ、キメの細かい白い肌が目と鼻の先にある。そして何より——昨夜繋いだ手が、今も固く結ばれたままだった。 「…………マジかよ」  遥陽はゆっくりと天井を見上げた。  ストーカーの恐怖とはまったく別の意味で、心臓が激しく鳴り始め、遥陽は指一本すら動かせなくなっていた。  ——そして。  まぶたの裏に広がる柔らかい光に促され、蒼はゆっくりと意識を浮上させた。 「…………ん……」  小さく吐息を漏らしながら目を開ける。だが、視界に飛び込んできたのは見慣れた自分の部屋の天井ではなかった。  見上げればリビングの天井。体にかけられた薄手のお気に入りの毛布。硬いソファの感触。さらに——すぐ目の前に広がる、自分よりも一回り大きくしっかりした遥陽の胸元。 「おはよ」  頭上から、少し低めの柔らかい声が降ってきた。  蒼の身体が僅かに飛び跳ね、恐る恐る視線だけを上へと向けた。 「…………遥陽……?」 「うん」  寝起き特有の少し掠れた声を聞いた瞬間、蒼の脳裏に昨夜の記憶が一気に蘇った。  SNSに届いた気味の悪いDM。 自分を盗撮し続けていたかのような写真。 一人になるのが怖くてこのソファに残ったこと。 遥陽の体温に縋り、無防備に身体を寄せて、強く手を繋ぎ合ったこと——。  蒼がゆっくりと視線を下へと落とす。まだ二人の指は解けることなく固く絡み合ったままだった。 「…………っ!」  心臓が跳ね上がり、蒼の白い頬が一気に赤く染まっていく。 蒼のわかりやすすぎる反応に、遥陽はおかしそうに目を細めて笑った。 「今さら?」 「……い、いつから起きてたの」 「十五分くらい前かな」 「っ……起こしてよ!」 「無理」 「なんで!?」 「お前、めちゃくちゃ気持ちよさそうに寝てたし」 「…………」  反論できずに蒼が口を噤むと、遥陽は恥ずかしそうに少しだけ視線を逸らし、ぽつりと呟いた。 「あと……俺も、もうちょいこのままでいたかった」 「…………っ!」  追い打ちをかけるような言葉に、蒼の顔は更に真っ赤になり、耳まで赤く染まった。 「……離す?」  遥陽が重なったままの手元に視線を落とし、意地悪く、けれど優しく問いかける。蒼はアイスブルーの瞳を泳がせ、数秒間の葛藤の末に、そっと指の力を抜いて手をほどいた。 「……あ、朝ご飯、作る」  耐えきれなくなった蒼は、体温の残るソファから滑り出るようにしてキッチンへ逃げ出した。 「あ、蒼!」  後ろから追いかけてくる遥陽の声を聞き流しながら、蒼は必死に胸の鼓動を鎮めようとしていた。  静かなカチャカチャという調理器具の音がキッチンに響く。 「遥陽、卵食べる?」 「食べる」 「目玉焼きでいい?」 「蒼が作ってくれるなら何でも」 「……そういう答えが一番困るんだけど」  カウンター越しに、エプロン姿でフライパンを握る蒼の華奢な背中を眺めながら、遥陽は口元を緩めた。 「じゃあ目玉焼きで」 「最初からそう言って」  昨夜の怯えていた様子とは違い、いつもの調子を取り戻している蒼。細いフレームの眼鏡の奥にある瞳が落ち着いているのを見て、遥陽は胸の奥の重荷が少しだけ軽くなるのを感じた。 「……なあ」 「なに?」 「昨日、ちゃんと眠れた?」 「うん」 「怖い夢とか見なかった?」 「見てないよ」 「そっか」  フライパンの中の卵の焼き加減に集中していた蒼は、視線を卵に向けたまま、ポツリと小さく付け加えた。 「……遥陽が、いてくれたから」 「……っ!」  蒼の無自覚の不意打ちに、遥陽が目を見開く。 「どうしたの?」  不思議そうに振り向いた蒼に、遥陽は顔を片手で覆いながら深く息を吐き出す。 「……朝からそれは、マジで効く」 「なにが?」 「何でもない」 「またそれ。すぐ誤魔化すんだから」  まもなくして、食卓にはシンプルな朝食が並んだ。 香ばしく焼けたトースト、半熟の目玉焼き、淹れたてのコーヒー。  蒼は自分のマグカップに牛乳を足す。そして一口飲む前に慎重にふーふーと息を吹きかけ、口をつける。その様子を見ていた遥陽が思わず吹き出した。 「相変わらずの猫舌」 「……うるさいな」  むっと頬を膨らませる蒼。それだけは、いつもの穏やかな朝の風景だった。  だが、朝食を終えて食器を洗い終えると、部屋の空気は自然と張り詰めたものへと変わっていった。  テーブルの上に静かに置かれたスマホ。 「……行くか」  遥陽が低い声で切り出す。 「うん」  短く頷く蒼。今日は大学へ向かい、昨夜二人で整理した不審なDMや写真などの証拠を携えて、学生相談窓口へ向かう予定になっている。  身支度を整え、二人は一緒に玄関を出た。 「蒼」 「ん?」  靴を履き終えた遥陽が、真っ直ぐに蒼の目を見つめる。 「今日はなるべく一人になんなよ」 「わかってる」 「講義が別の時間はどうする?」 「普通に受けるよ。大教室だし大丈夫」 「終わったらすぐ連絡すること」 「……遥陽、過保護すぎ」 「今日は過保護でいいの」 「昨日も全く同じこと言ってた」 「問題が解決するまで、ずっと言い続ける」  呆れつつも、遥陽の過保護さに蒼が救われているのは事実だった。二人は肩を並べて駅へと続く道を歩き出す。  その途中——遥陽のポケットの中でスマホが短く震えた。 「ん……?」  画面を開くと、LINEの通知が届いていた。送り主は高校時代の同級生だった。 昨夜、怪しい人物として浮上した『東』と仲が良かった人物だ。 『高橋、昨日の東の話なんだけど、ちょっと気になること思い出した』  文字を目にした瞬間、遥陽は息を詰めた。 「……蒼」 「なに?」 「昨日の奴からメッセージ」  蒼に画面を見せながら、遥陽は速やかに追記された文章を目で追う。 『これ関係あるかわかんないけど、高二のとき、一ノ瀬の物なくなったことなかった?』 「…………」  画面を覗き込んだ蒼が、薄い眉をひそめた。 「僕の……物?」  遥陽はすぐに文字をフリックして返信する。 『詳しく教えてくれ』  すぐに既読がつき、返答がきた。 『文化祭の前くらいだったと思う。東が一ノ瀬のことめちゃくちゃ気にしてた時期、一ノ瀬の机の周りうろついてるの、何回か見かけた』 「…………」  蒼は遠い記憶を掘り起こすように視線を彷徨わせた。 「文化祭……」 「あの頃、何か紛失したものとかなかったか?」  遥陽の問いかけに、蒼は記憶を思い起こす。 「…………」  そして、数秒してから。 「あ……」 「何かあったか?」  遥陽の表情が険しくなる。 「……体育のジャージ」 「…………」 「上だけ、なくなったことがあった」  当時は、どこかの教室や体育館に置き忘れて誰かに持って行かれたのだろうと思い込んでいた。結局出てくることはなく、新しく買い直した。 「他には? 何か覚えてないか?」 「……わからない。服以外は特に気にしてなかったから……」 「そっか。無理に思い出そうとしなくていい、ゆっくり考えれば」  ぽつりぽつりと話す二人の元へ、再び通知音が響く。 『あとさ、これ昨日は忘れてたんだけど。東、一ノ瀬のことで先生に注意されてた気がする』  遥陽は鋭く画面を見つめ、素早く返答する。 『何をした?』 『女子が騒いでたから何となく覚えてるんだけど、確か一ノ瀬の写真、勝手に撮ってた』 「…………」  沈黙が二人の間に落ちる。 『廊下とか体育祭のときとか。本人に許可取ってやってたかまでは知らないけど。それで先生にスマホ見せろって怒られてた気がする』 「……蒼」 「うん……」 「これ……」  昨夜送られてきた、高校時代の蒼の写真。 あの写真の出どころと、目の前の事実が一本の線で繋がったように思えた。  だが、遥陽はぐっと奥歯を噛み締め、スマホをポケットへと流し込んだ。 「まだ、東だって決めつけるのは早い」 「…………うん」 「ただ……大学側には、この話も全部伝える」  冷静さを保とうと自分に言い聞かせるように呟き、遥陽は再び歩きかけた。しかし、二、三歩進んだところで、後ろを歩いていた蒼が立ち止まり、震える声で呟いた。 「……遥陽」 「ん?」 「もう一個……あった」  遥陽が振り返る。 「何が?」 「高二の……冬」  蒼自身、気味の悪さから意識の奥へ押し込めていた記憶だった。 「僕の机の中に……何回か、入ってたんだ」 「何が?」 「手紙」 「…………」  遥陽の表情が一段と硬くなる。 「……どんな手紙だ? 内容は?」 「最初は……あまり気にしないようにしてた」 「最初は……?」 「薄気味悪かったから」  蒼は当時の記憶を鮮明に思い出し、背筋に冷たいものが走った。 差出人の名前は一切書かれていなかった。 ただ、そこに綴られていた文面が異常だったのだ。 「『今日も遥陽くんと帰るの?』とか……」 「…………」 「『あの人より、僕の方が蒼くんのことを見つめているのに』とか……」  遥陽の拳が、ぎゅっと固く握りしめられた。 「……待て」 「僕、その頃は単なるたちが悪い悪戯だと思って、すぐ捨てちゃって……」 「蒼」  遥陽はゆっくりと蒼に向き直り、真剣な眼差しでその肩をしっかりと掴んだ。 「その手紙、もう手元にはないんだな?」 「……うん、多分残ってない」 「そっか」  一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたものの、遥陽は蒼を責めなかった。 「いい。覚えてる範囲でいいから、大学の窓口で全部話そう」  そして、強く言葉を続ける。 「高校側にも連絡して確認してもらえるように、相談してみる」  昨夜までは、ただ不気味に散らばっていた出来事が、今、一本の線へと繋がり始めていた。  高校二年生のあの頃。 なくなったジャージ。 盗撮されていたこと。 匿名の異常な手紙。  そして——そこに書かれていた『遥陽くんと帰るの?』という言葉。  昨夜、蒼のスマホに届いた『遥陽くん、来たんだ』というメッセージ。  時間を隔てた二つのメッセージに潜むものは、あまりにも似ていた。同じ人間が発したのではないかと思わせるほど、不気味な執着が滲んでいた——

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