朝海 / 第4話

Code4

  カイルは暗闇の中で、荒い呼吸をする。胸が痛かった。胸元にあるバラの紋章が怪しく光っている。それは、長袖を着ていて他人には分からない。服を脱げば忌々しいバラのツタが、全身を覆っている。命を奪わんと言わんばかりに、ギリギリと締め上げていた。  コールエン家代々に伝わる暗殺者としての呪いであると、残された文献に記載されていた。呪いのせいで短命でもある。  その血も薄まっているはずだった。  アンとジルには呪いは出ていない。カイルの紋章は先祖返りだろう。呪いを解くためには「愛」が必要と言われている。愛のあった家は取り壊されて、跡形もなくなっていた。  愛をなくしてしまった故に、呪いの紋章が浮かび上がった。カイルには愛なんて不必要だった。愛にのぼせるぐらいなら、一人で死んでいった方がマシだ。一市民が死んだぐらいで、誰も忍んではくれない。  ピロン、と電子音がする。  スマートフォンにメッセージが入った。送信者には『リーダー』と表示されている。所属している暗殺部隊チームの長(おさ)でもある。    決して、表には出てこない。  顔すら見せない。    ずるい男だ。 『仕事だ。キサラギ、情報を送っておいた。見ておいてくれ』  依頼書  カイル・コールエン  集団女子高生レイプ事件の犯人を殺害せよ。  期限はアイズリ―歴三二六年、八月九日、午前二時まで。  すぐに、情報は消えていく。  やり取りの記録を残さないための仕組みだった。武器庫の鍵を開けると、銃にサイレンサーをつけた。犯人たちには女子高生が、受けた倍の痛みを与えてやりたい。  金髪のウイッグに瞳に赤色のコンタクトを入れた。ズボンをめくって銃を太ももに装着する。指定場所に到着すると、派手な若者たちがたむろしていた。   「何だ? お前は? 何を見ている? 殺(や)られたいのか」 「耳障りだ。喋らないでもらいましょうか」 「はぁ?」  カイルに向かって男たちはナイフで向けてくる。華麗なステップでそれを避けていく。  ――勝ち目なんてないのにバカな奴ら。  一発目、二発目と銃を撃ち込んでいく。間髪入れずに三発目、四発目と引き金を引いた。銃に込めたのは人数分の銃弾だけだった。勝てると認識したからである。 『任務が終わりました』  リーダーにはたった一言だけを、スマートフォンで送る。処理班が送られてくるはずである。すると、倒れている少年のポケットから、ひらり、と紙が落ちてきた。  それを、拾い上げる。 『レイン・ユーズベルト』  ――レイン・ユーズベルト?  ――聞き覚えのある名前だな。  名前を入力して人工知能で検索をする。  名前:レイン・ユーズベルト  性別:男  年齢:四十五歳  家族構成:母親は病死  職業:人工知能開発の第一人者  日本を牽引する若きリーダー  今は人工知能で検索すれば、名前も職業も出てくる。便利な世の中になったものである。でも、周囲みたいに人工知能に溺れる気はなかった。テレビ出演しているレインに違和感があった。  この男は危険すぎる。  暗殺者としての本能でもあった。  ――ふぅん。  ――最近、会ったのは娘で間違いないな。  ――利用させてもらおうか。    ウイッグとカラーコンタクトを投げ捨てた。残らないぐらいに燃やす。ゆらゆら燃える火を見つめる。ブラウンの瞳に炎が映り込んで、神秘的な雰囲気さえあった。    燃え尽きるまで待つ。  ――そろそろ、面白そうな話は録音できたかな?  耳にイヤホンをした。  ユーズベルト家に盗聴器を仕掛けてきた。ピー、ザーと音がして声がクリアになっていく。 『社長。なかなかやりますね。あのキサラギを手の中で転がすなんて』  リーダーの声はどこかで聞いた気がした。  まだ、若い男の声だ。 <コールエンの両親が、最初から鬱陶しくて仕方がなかった。人工知能がアイズリーを支配する日が来たら、あんな正義の味方なんていらないからな。リーダーもそう思うだろう?> 『あなたもなかなか人が悪い。それに、娘を差し出したと聞いた』 <あの子も私の駒でしかない。お前だって両親を自殺するまで追い詰めたじゃないか> 『俺たちは会社と世間では、こんなに善人なのに』 <私はアイズリーの未来を思っているからこそ> 『ただ、一つ気がかりがあります。二人が手を組んだらどうするつもりですか?』 <必要にならなくなったものは消す。それが、私のポリシーだ>  途中で切った。  ――リーダーの声はどこかで。  ――そうだ。  カイルにとって身近な存在だった。小さい頃から知っていてくだらない遊びにも、付き合ってくれた相手でもある。話す時に少しだけトーンが上がる声にハッとした。なぜ、この話し方の癖に、気が付かなかったのだろう。  従兄弟のロット・ウィーズリーだ。  ――身内に裏切られるなんて。  ――おじさんとおばさんまで。  コールエン家が台頭してきてから、同じ家業だったウィーズリー家は衰退していった。  カイルを恨んでいるに違いない。  歯を食いしばった。  紋章がそれに呼応するみたいに点滅する。  ――見ておけよ。  ――奴らは絶対にこの手で地獄に突き落としてやる。  カイルはグッと手を握りしめた。

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